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第5節 女子高生(おっさん)の日常と、いとも愛しい夏休み
おまけ.女子高生(おっさん)の残夏~『アオクと世界線』
しおりを挟む【アオアクア】(愛称【アオク】)
・vo(ボーカル)【ido(イド)】
現代に現れたエルフの呼び声高きバンドの顔。芸術のような作詞センス、CGのようなルックス、女性並みのハイトーンボイス……と、天が二物も三物も与えたような神に等しき存在。
・ba(ベース)【letsuya(レツヤ)】
バンドリーダーの天才ベーシスト。唸(うな)るようで自由奔放なベーステクニックは世界的ベーシストtop30に選ばれるほど。明るく人懐っこい性格でアオクを一般層に広めたのはレツヤの功績とされている。
・gt(ギター)【sen(セン)】
キセルを加え、和服でメロディックな音を奏でる個性的なギタリストであり天才作曲家。センの芸術的な作曲センスなしで今の【アオク】は存在し得なかっただろうと評されるほど。
・dr(ドラムス)【yukky(ユッキィ)】
正確無比でクールなドラマー。多くを語らず寡黙だが時折見せる笑顔はファンを悩殺する。冷静と情熱の二面性を併せ持つLIVE(ライブ)でのドラムプレイは圧巻の一言に尽きる。
「──更には四人ともが作曲できるという最強の強みを持ってて……そこもおっさんのいた未来で30周年を迎えたにも関わらず飽きられずに第一線で輝き続ける魅力でもあるんだよね~」
──『わかります! けど、そんな未来まで活動してらっしゃったなんて……感無量です!』
夏休みも終わりに近づく最中、部屋のベランダで夜空を見上げてノスタルジーに浸ったおっさんは【アオク】の曲を聴きながら、その音楽が如何に素晴らしいかを阿修凪ちゃん相手にオタクのように饒舌(じょうぜつ)に語る。まぁオタクですけれど。
どこかで『本物のオタクは敢えて多く語らない』とか見た気がするけど……やっぱり、本当に好きなものの話題は滅茶苦茶語りたいし、話題が尽きない。
布教活動の甲斐あってか……今や阿修凪ちゃんも【アオク】の魅力にどっぷりと浸かっていた。やはり、世界や性別や年齢は違えど……同じ自分だから感性は似通っているのだろうか。
色々な人に推してきたが……自分と同じくらいに嵌(は)まったのは阿修凪ちゃんだけなので長い時間、トークに華が咲く。
思いきり語り合ったのち──ふと、何気なく阿修凪ちゃんは疑問を呈した。
──『でも……不思議ですね』
「なにが?」
──『いえ、【アオク】の魅力は充分わかるんですけど……ほら、どちらかというとおじさんは女の子好きだからアイドルグループとかが好きなんじゃないかと思って……むしろ、男の人のグループとか毛嫌いしてそうな感じがしたので……』
「勿論、歌が上手かったり金持ちだったりイケメンだったりするバンドマンとかミュージシャンの男はもれなく嫌いだけど……【アオク】は別だよ。荒れてたおっさんを救ってくれた音楽だしね」
──『それって……おじさんの学生の時のお話ですか?聞きたいです!』
「いや……そんな大した話じゃないけど。俺はそれよりもおっさんが憑依する以前の阿修凪ちゃんの話を聞きたい」
──『聞いてもつまらないですよ……というか黒歴史なんで恥ずかしいです……』
おっさんと阿修凪ちゃんは、お互いの感覚や心の声は共有できるのに……記憶の共有はできていなかった。
なので阿修凪ちゃんはおっさんのいた未来の事を知らないし、おっさんも阿修凪ちゃんの中二病時代の事は寡聞(かぶん)にして知らないのだ。
そんな時──計ったかのようなタイミングで、両名の耳に同時に声がかかった。
──{ほっほっ、御両人。仲睦まじくしておるようじゃの}
──『神様(キヨちゃん)?!』
──{ワシも段々と全盛期の力を取り戻してきておっての、二人同時に声を届けられるようになったんじゃ}
阿修凪ちゃんの声とはまた違うところから届いた声の主はキヨちゃんだった。
おっさん──自分の中に別精神体がいるし……神様とも精神世界で繋がってるしでもう訳が分からなくなりそうだ。例えるなら身体に寄生獣を宿したまま異世界転生して神様と話しているようなものだ。
──『私、寄生獣扱いなんですかっ!?』
「それよりどうかしたのキヨちゃん?」
──{ほほ、なぁに……二人にもう一つギフトを授けてやろうと思うてな}
「……もう終わろうとしてるこのタイミングで? まぁ以前のは地味だけどありがたい能力だったし……できればこれから阿修凪ちゃんが生きやすくなるようなチートにしてあげて」
──『……おじさん……』
──{ほっほっ、今から授けるのはそれはそれは規格外のギフトじゃから安心せい。ちょうどタイムリーな話もしておったからの──名付けて【VR(夢気分旅)】じゃ! これは『別世界線の自分に憑依してその生活を覗く事ができる』のじゃ!}
別世界の自分に憑依する?
いまいちピンと来なかったので詳しく聞いてみる。
──{世界線もとい多世界の事は以前に話したじゃろう? この能力は『あの時別の選択をしていた自分』や『違う世界で生きている自分』をその眼で確かめる事ができるんじゃよ}
「!?」
なんかキヨちゃんはさらっととんでもない事を言っている気がする。
それはつまり……簡単に別の世界、別の次元を目にできるという事なのだろうが──そんなん、男の子の夢じゃん!
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現代のどんな方法を用いてもその存在を検知できないことから……その反動により──それらをテーマとした作品は絶大な人気を博すほどだ。
そんな人類の悲願を、いとも簡単に見れるとあっては……ネット掲示板でパラレルワールドスレに張り付いて興奮していたおっさんはワクワクせざるを得ない。
──{しかし、見れるのはお主らが寝ている時のみじゃぞ}
「えっ」
──{じゃから『夢気分旅』なのじゃ}
それ……単なる夢と何が違うのかな?
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