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第5節 女子高生(おっさん)の日常と、いとも愛しい夏休み
169.女子高生(おっさん)と陽キャ達と肝だめし②
しおりを挟む雨水だろうか──水滴の落ちるような音が何処からか聞こえ、反響しては暗闇へ呑まれていく。風が通り抜け産み出される亡者の唸りは、果たしてそれが自然なのか不自然であるのかを錯覚させている。
──『ぅぅぅぅぅっ………』──
女性のすすり泣く声が微かに聞こえる。
そこに遺された怨念の類であろうか……だとすると、いつ目の前に可哀想な女性の怨霊が現れてもおかしくはなかった。
──『いやぁぁっ!! 私ですよ私っ! 私の泣き声っ! わかってて言ってますよねおじさんっ!?』
「ごめんごめん、場を盛り上げようと思って」
──『私相手に盛り上げてどうするんですか……というか何で入っちゃうんですかぁ~……帰りましょうよぉ……』
「だってせっかく来たのに勿体ないし……大丈夫。幽霊はこの世にいるかもしれないけど、人に害をなすような悪霊なんてメディアが創り上げた嘘だから」
令和の時代──テレビで心霊番組はめっきり減った。
視聴者の声が製作側に届きやすくなったのも一因ではあるが、最大の原因は技術の発達により一般人が動画製作に通じてしまったことによるものだろう。
つまり、みんなが嘘を見抜きやすくなったのだ。全ては作り物だと公に知れ渡ったからだ。
そして人々が幽霊を怖がる理由は二つ──『幽霊の呪いなどへの恐怖』と単に『びっくりさせられる恐怖』である。
優しくてなんの害もないおばあちゃんの幽霊が予告カウントダウンで『ここに現れますよー』と告げてくれるなら、心霊番組に刺激は無くなるし誰も恐れることはなかっただろう。
要するに幽霊=怖いものなんてのはメディアによる印象操作の賜物(たまもの)でしかないのだ。
──【………確かにそうですけど……でも幽霊はいるかもっていまおじさん言ったじゃないですか……】
「守護霊とか、ご先祖様の霊とかそういった霊はいると思ってるよ。優しく見守ってくれてるようなやつ──それだったら怖くはないでしょ?」
──【………そうですね。……なんて言うか……おじさんって達観してますね】
「そうやって心を殺したり諦めたりしないと現実が生きていけない難易度だったんだよ」
──【どれだけ厳しい現実を生きてたんですか……私は夢や希望でいっぱいの女子高生だったんでそんな現実知りたくなかったです……】
「歳を重ねると嫌でもこうなる。幽霊なんかよりもっと怖い……『年一の住民税』とか『貰えない年金』とか『週一の休日は寝るだけ』とかが襲ってくるから……」
──【具体的すぎますよ!? ……生きてくのも楽じゃないんですね……ありがとうございます、やっと未練を断ち切れそうです】
「……? なんの話?」
そこでふと、違和感に気付いた。
先ほどの阿修凪ちゃんの台詞……『夢や希望でいっぱいの女子高生だった』?
つい先日、阿修凪ちゃんは『全然自由じゃない毎日だった』とネガティブに自虐していたばかりだ──とても夢や希望を抱いていたとは考えづらい。
では何故、彼女はそんな事を言ったのか。
と、いうか……俺が話していたのは本当に彼女だったのだろうか
──『…………じ……さんっ………おじさんっ! さっきから誰と話してるんですかっ!?』
突然、意識が覚醒する感覚が身体中に迸(はし)る。
その時には、いつの間にか……トンネルの出口にたどり着いていた。
「……え、何言って……阿修凪ちゃんと話してたに決まってるじゃない……」
──『私は怖くて途中からずっと耳を塞いでましたよ……なのに一人で喋ってるから……』
「………」
──【安心して下さい。身体を乗っ取ろうかと思いましたけど……やっぱり現実は面倒そうなので成仏する事にしました──ありがとうございます、女子高生のおじさん……………】
「………」
その後、やっぱりちょっと恐くなって動けなくなったおっさんを心配してくれた陽キャとその彼女達が迎えに来てくれた。
『やっぱ幽霊なんていないじゃんね~』と大いに盛り上がる面々は──まさかおっさんが、生き辛い現実を幽霊に突きつけて徐霊させた事など知る由もないだろう。
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