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第4節 巻き起こる様々な試練と それをいともたやすく乗り越える女子高生(おっさん)の日常
120.女子高生(おっさん)の修学旅行~②日目『ヒメゴト』
しおりを挟む〈AM11:35 シャワールーム〉
「──べ……別に何も隠してないよ?」
「嘘ね、あたしは小さい頃から芸能界の人間を見てきたからわかるの……あんたの目はまるっきり嘘つきの『それ』よ」
狭い個室──ヤソラちゃんは引き下がる気はないようで……退路を塞ぐかの様におっさんに壁ドンした。男バレするかもしれない危機よりも、抜群のスタイルを誇るヤソラちゃんと超接近している事実により、股関が熱くなる。
「に……人間なら誰しも隠し事の一つや二つあるものだよ? あはは……」
「………確かにあたしなりに調べあげたあんたのプロフィールに怪しい点はなかったわ。普通の一般家庭の長女として産まれ、その美しさにより順風満帆な人生を送っている……けど実際に相対して感じたの。なにか重大な秘密を隠してる……芸能界で生き残るために身につけたあたしのカンは今まで外れたことないの──あんた、同性愛者なんかじゃなくて………心は男なんじゃないの?」
ヤソラちゃんは、ずばり真実を見透かしていた。
出会って数日しか経ってないというのに……芸能界を生き抜くために培った慧眼(けいがん)はとんでもなかった。
アシュナになって初めて向けられた疑いの眼に……おっさんはもろに動揺する。
「あ……あはははっ……冗談はよしこちゃんだよ……そんなわけっ……」
「……あくまで話す気はないってわけね……だったら………」
そこまで言って、ヤソラちゃんは言葉を絶ち……代わりに頬を染めながら──水着を脱ぎ始めた。
「なにしてんの!? 嬉しいけど!」
「ほらっ! すぐに前屈みになる! 母親の胎内に置き忘れてきたおチン●ンが反応するんでしょ!? それは『幻肢痛』っていうのよ!!」
興奮のあまり、滅茶苦茶な論理を披露している事に彼女は気づいているのだろうか。『おチン●ンの幻肢痛』なんて聞いた事ないし嫌すぎる。
確かに【TS+タイムリープ】してきたなんてデスノートを暴いたLくらいの知能でなければたどり着きようがないだろうが……ヤソラちゃんも暴論すぎる。
「認めなさい! 認めるまであたしは納得しないし暴くまで諦めないから!」
「……うん、実はそうなんだ」
「だから言い訳したって無駄っ────えっ!?」
ベタな感じに、彼女は俺の言葉に二度見ならぬ二度聞きした。
「な……なによ急に……なんでいきなり白状したの?!」
「ごめん……誰にも言い出せなくて……」
「…………やっぱり」
「……」
そこまで疑われているのなら隠してもしょうがないし、このままだと彼女の立場を悪化させると思い、おっさんは全てを話す事にした。
「どうしてみんなに隠してるの?」
「どうしてって……気持ち悪がられると思って……信じてもらえないだろうし……」
「気持ち悪くなんてないわ、確かに一般的にはまだ認知されてないし許容されてるとは言い難いけど……それは多様性を受け入れられない人間の弱さ故よ。あんたが恥じる事なんて一つもないわ」
(いや、流石に中年が宿った女の子は俺でも受け入れられないよ……)
「だから男に触らせても平気だったり、女好きだったりするのね……けど、あんたの外側は超美少女なんだから無謀な真似はしちゃダメよ?」
「じゃ……じゃあヤソラちゃんは受け入れてくれるってこと?」
「当然でしょ。芸能界にはいっぱいいるわよ、あんたの仲間が。だから自分は独りだなんて思わないで」
(え!? タイムリープしてTSった人がそんなに芸能界にいるの!? それを知ってるヤソラちゃんはなんなの教祖様なの!?)という怒涛の突っ込みを入れる前に、話の食い違いが起きていることを彼女の次の言葉で理解する。
「辛かったわよね……でも、あたしはあんたの味方よ。あたしはそういった人達も全て笑顔にしてあげたくてトップアイドルを目指してるんだ。そしていつか、性的なマイノリティだって受け入れられる社会を必ず創ってあげるの!」
どうやら、彼女は俺の事を【LGBT】の一つだと思っているようだった。
確かに、違うんだけど確かに──そうであるともいえるから説明しようがない。
『いや、おっさんはニュータイプなんだ。前世は男でしかも中年なんだけど、違う世界線の過去の自分に乗り移ってきただけなんだ』──というのを説明して理解してもらえることができないと踏んだ結果……誤魔化す様に、おっさんは良い笑顔で微笑んだ。
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