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第3節 女子高生(おっさん)の日常といともたやすく行われるアオハル

79.女子高生(おっさん)を巡る戦い②〈お嬢様vs御曹司〉

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〈職員室前 廊下〉

「勘違いも甚(はなは)だしいですわ! アシュナの事は私が誰よりも理解していますっ! アシュナっ、無理して付き合う事はありませんわ、私と一緒に帰りましょうアシュナっ!!」
「ふっ、アシュナが一度決めた約束を反故にすると思っているのか。貴様こそアシュナに無理強いして困らせるな」

 二人の言い争いは激化し、廊下一帯どころか職員室内にまで響くくらいの大声になっている。それが証拠に先生方がちらほらドア窓から覗きに来ている、覗いているだけだけど。
 教師なんだから止めてよ、と思うところだが……尻込みするのも無理からぬ事ではある。 
 喧嘩しているのは警視庁総監の娘【皇めらぎ】と日本を裏から牛耳っているとまで噂されている財閥の跡取り【鳳凰天馬】だからだ。
 そして何故かその原因となり挟まれているのは──精神年齢は37歳、身体は16歳のおじさん娘でありながら高校どころか世界でも通用すると噂されている美の持ち主【波澄阿修凪】。

(この二人……俺(アシュナ)がいなければ政略婚するはずだったんだよな……全く合いそうにないけど……そ、それよりも止めなきゃ)

 俺に迫るめらぎとテンマ。
 今日どっちと帰るのかという事だが……とりあえず心は決まっているので当たり障りなく答えた。

「えーと、めらぎ……ごめん。先に約束してたのはテンマだから、また今度で良い?」
「アッ……アシュナ……」
「無理してないから大丈夫、ありがとう。でもいくら私のためでもよく知りもしない相手を悪く言っちゃダメだよ? テンマは無理強いとかしてないし、ちゃんと私の事も慮(おもんばか)ってくれる奴だから」
「……アシュナは……私よりもその男の方がいいと言うんですの……?」

 めらぎは哀しげな瞳で訴えるかのように俺を見つめた。とりあえず誤解のないように説明する。

「そうじゃないよ。私はどっちの事も大切に思ってるし、友達に優劣なんかつけたくない……だからこそ、ただ単に先に約束した方を優先したいだけ」
「……アシュナ……………ごめんなさい。私が悪かったですわ、貴女の友人関係に口を挟むなど出過ぎた真似をしてしまいました」
「ふっ、その通りだ。やはりキミの事を真に理解できるのは俺のようだ、俺こそが生涯の伴侶に相応し……」
「調子に乗るなよテンマ? 結婚するとしたら私はめらぎを選ぶからね?」
「………」
「アッ……アシュナ……そ……そんな……嬉しいですけれど人前で比翼連理の誓いなど……こっ……興奮してしまいますわっ……」

 前世ではあり得なかった、こんなにも俺の事を大切に考えてくれる人達。故に──友人同士が俺が原因で悪態をついたり喧嘩したりする事なんてこれまでなかった。
 (嗚呼、自分は今……こんなにも恵まれているんだな)としみじみ感じた。
 途端に何故か自然と涙が出てくる。おっさんになると、涙腺がガバガバになってあらゆる事で泣いてしまうのだ。

「「「!!??」」」

 すると、感慨に浸っていた間に辺りは静寂に包まれていた。不思議に思い、涙を拭(ぬぐ)うと周囲にいる全員が何か戦慄したような表情になり、皆でこちらをガン見していた。

「アッ……アシュナっごめんなさいっ! な……泣かせるつもりはっ……!!」
「す……すまないアシュナ……」
「こ、こらっ!! 生徒会長たる者と財閥の長子が廊下で言い争いとは何事かっ! 挙げ句にアシュナ君を泣かせるとはっ……!! アシュナ君を傷つける者は誰であろうと許さんぞ!!」

 今度はめらぎとテンマが『あわわわわ……』って感じになった。そして、事態に手をこまねいていた先生方も今更飛び出してきてめっちゃ二人を叱っていた。
 権力に弱い先生方が、おっさんが泣いただけで権力に立ち向かう事態に戸惑った一日だった。

 〈お嬢様vs御曹司〉 【勝者 波澄アシュナ】

 
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