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「しりとり部は、どうでしょう」
瀬奈がいきなり提案した。
「しりとり?」
啓示は訝しげな目を向ける。
「ええ、そうよ。昔から伝わる遊びにはそれ相応の意義と面白さがあるでしょ? 今日はしりとりでそれを学ぼうという趣旨ね」
人差し指をぴんと立てて滔々と語った。
「ということで先輩たち、どうですか?」
「あらあ、いいわねえ」
「おお、やんべやんべ」
「うむ、よかろう」
あっという間に賛成の声が三つ重なる。
「……」
啓示は黙った。なんかみんな瀬奈に甘くないですか。何となく。
「では、本日はしりとり部に決定でーす」
「「「わー」」」
新入生ドラフト一位の言葉に、三人が拍手と歓声で応えた。
「む、むむむ……」
同二百七十六位の出番は当然のごとくない。この待遇の差、ヒジョーによくない気がします。そう、ヒジョーに。
「じゃあ始めましょう」
流れ上、瀬奈が進行役となる。
「まのか部長から、しりとりのり」
「リンチい」
いきなり酷い先制攻撃だった。
「沙妃先輩、ち」
「ま、ここは無難に痴女だな」
どこが無難なのかよく分からない。
「村雲先輩」
「妖精王。三田村くん、う、だ」
「う、う……」
思案が始まる。
(むむっ……)
次に控える啓示は、身を固めて瀬奈の言葉を待った。
「ウーパールーパー!」
「て、何歳だよ!」
ついツッコんでしまう。つくづく、不可解な思考回路だ。
「ほら、けーじ、あ」
不可解少女に促される。
「あ、あ?」
マヌケな声で悩んだ。意外と難しいよね、しりとりって。
「あ、あ、あ……愛」
とりあえず思いついたことを、ぽろり。
「「「「ぶっっっ!」」」」
四人が一斉に吹き出した。
「ひゃはははは! あ、愛! けーじっちが、愛! に、似合わねー!」
「いや、これはある意味我々の意表を突いてきたといえる。あるいは今後に向けて何かの伏線を張ったのかもしれんし、見ようによってはなかなか革新的とも――」
腹を抱えて笑いまくる沙妃先輩の傍らで、匡先輩はすっかり評論家モード。
「うふふう、愛なんてありもしない幻想にすがるなんてえ、いかにも愚かな庶民のけーじくんらしいわあ。ちゃんちゃらおかしくってもお最高よお」
「愛ってどの愛かしら……これも愛、あれも愛、たぶん愛……」
猛毒を吐き散らすまのか部長に対し、瀬奈は何やらぶつぶつと呟くばかりだ。
(え、えー、と……)
おおむねよろしくない反応ばかりだが、とにかくこれでファーストミッションはクリア。そういうことにしておく。
脳内会議の結果、啓示はそんな結論を出した。
「イジメえ」
「メスブタ!」
「太陽の船ソル○アンカ」
「嘉○達夫」
時間が経っても、日替部のしりとり温故知新熱は一向におさまらなかった。正直疲れてきたが、ここで退いたら後がまた大変そうだ。
「お、お……」
脳内検索で言葉を探る。
「ほれ、けーじっち。漢ならそこで四文字の放送禁止用語をビシッと」
「言いませんよ! じゃあおしんこ!」
「ちぇ。だったらせめてし、じゃなくて、ち、にしろってんだ」
「ふむ。ちはチキンのち、だな」
舌打ちする沙妃先輩に、匡先輩が続いた。
「あらあらあ、思った以上に肝が小さいのねえ」
「けーじ、かっこわるい」
まのか部長には憐れみの目で見られ、瀬奈にはかつての名CMを思わせる口調でぼそりと吐き捨てられる。
「はあい。じゃああ……小者お」
「の……野糞野郎!」
「膿」
「ミジンコ」
「だああーーーっ! 何なんですかもおおおーーーっ!」
華麗かつ残酷な集中砲火に、啓示の理性はあえなく崩壊したのだった。
――さらに、時が過ぎて。
(うう……)
啓示は自分の体力が限界に近いことを悟った。
(今、何時だ……?)
時計に目をやるが、目がかすんで針の位置を確かめるのもおぼつかない。
「家庭内暴力う」
「くつわ!」
「ワーズワース」
「鈴木善幸」
しりとりはまだ続いている。最初の趣旨など、とうの昔に消え失せていた。
「う、う……」
啓示の口から、思考なのかうめきなのか分からない声がこぼれる。
休憩なしに頭をフル回転させることがこんなにも大変だとは。へたすれば命すら脅かしかねない荒行ではないか。
(で、でも……)
次は俺だ。しりとりの順番は破ることの許されない鉄の掟。言わなきゃ。何か、言わなきゃ。
(う、う……)
目をぎゅっとつぶって、脳みそを極限まで絞る。何も、出てこない。
「う、うらなり、ですかね。ぼくみたいだ。はは……」
不意に、知らない誰かが混ざった。男のようだが、声質は青白くか細い。
(……!?)
啓示は最後の力でまぶたを持ち上げた。何だ、一体何が起きているんだ。
「っ……あ……」
開いた目には、誰も映らなかった。引き潮のように、意識がすっと遠のく。
「あ、神野くん? 大丈夫ですか? 神野くん?」
(…………誰?)
世界が、闇へと変わった。
瀬奈がいきなり提案した。
「しりとり?」
啓示は訝しげな目を向ける。
「ええ、そうよ。昔から伝わる遊びにはそれ相応の意義と面白さがあるでしょ? 今日はしりとりでそれを学ぼうという趣旨ね」
人差し指をぴんと立てて滔々と語った。
「ということで先輩たち、どうですか?」
「あらあ、いいわねえ」
「おお、やんべやんべ」
「うむ、よかろう」
あっという間に賛成の声が三つ重なる。
「……」
啓示は黙った。なんかみんな瀬奈に甘くないですか。何となく。
「では、本日はしりとり部に決定でーす」
「「「わー」」」
新入生ドラフト一位の言葉に、三人が拍手と歓声で応えた。
「む、むむむ……」
同二百七十六位の出番は当然のごとくない。この待遇の差、ヒジョーによくない気がします。そう、ヒジョーに。
「じゃあ始めましょう」
流れ上、瀬奈が進行役となる。
「まのか部長から、しりとりのり」
「リンチい」
いきなり酷い先制攻撃だった。
「沙妃先輩、ち」
「ま、ここは無難に痴女だな」
どこが無難なのかよく分からない。
「村雲先輩」
「妖精王。三田村くん、う、だ」
「う、う……」
思案が始まる。
(むむっ……)
次に控える啓示は、身を固めて瀬奈の言葉を待った。
「ウーパールーパー!」
「て、何歳だよ!」
ついツッコんでしまう。つくづく、不可解な思考回路だ。
「ほら、けーじ、あ」
不可解少女に促される。
「あ、あ?」
マヌケな声で悩んだ。意外と難しいよね、しりとりって。
「あ、あ、あ……愛」
とりあえず思いついたことを、ぽろり。
「「「「ぶっっっ!」」」」
四人が一斉に吹き出した。
「ひゃはははは! あ、愛! けーじっちが、愛! に、似合わねー!」
「いや、これはある意味我々の意表を突いてきたといえる。あるいは今後に向けて何かの伏線を張ったのかもしれんし、見ようによってはなかなか革新的とも――」
腹を抱えて笑いまくる沙妃先輩の傍らで、匡先輩はすっかり評論家モード。
「うふふう、愛なんてありもしない幻想にすがるなんてえ、いかにも愚かな庶民のけーじくんらしいわあ。ちゃんちゃらおかしくってもお最高よお」
「愛ってどの愛かしら……これも愛、あれも愛、たぶん愛……」
猛毒を吐き散らすまのか部長に対し、瀬奈は何やらぶつぶつと呟くばかりだ。
(え、えー、と……)
おおむねよろしくない反応ばかりだが、とにかくこれでファーストミッションはクリア。そういうことにしておく。
脳内会議の結果、啓示はそんな結論を出した。
「イジメえ」
「メスブタ!」
「太陽の船ソル○アンカ」
「嘉○達夫」
時間が経っても、日替部のしりとり温故知新熱は一向におさまらなかった。正直疲れてきたが、ここで退いたら後がまた大変そうだ。
「お、お……」
脳内検索で言葉を探る。
「ほれ、けーじっち。漢ならそこで四文字の放送禁止用語をビシッと」
「言いませんよ! じゃあおしんこ!」
「ちぇ。だったらせめてし、じゃなくて、ち、にしろってんだ」
「ふむ。ちはチキンのち、だな」
舌打ちする沙妃先輩に、匡先輩が続いた。
「あらあらあ、思った以上に肝が小さいのねえ」
「けーじ、かっこわるい」
まのか部長には憐れみの目で見られ、瀬奈にはかつての名CMを思わせる口調でぼそりと吐き捨てられる。
「はあい。じゃああ……小者お」
「の……野糞野郎!」
「膿」
「ミジンコ」
「だああーーーっ! 何なんですかもおおおーーーっ!」
華麗かつ残酷な集中砲火に、啓示の理性はあえなく崩壊したのだった。
――さらに、時が過ぎて。
(うう……)
啓示は自分の体力が限界に近いことを悟った。
(今、何時だ……?)
時計に目をやるが、目がかすんで針の位置を確かめるのもおぼつかない。
「家庭内暴力う」
「くつわ!」
「ワーズワース」
「鈴木善幸」
しりとりはまだ続いている。最初の趣旨など、とうの昔に消え失せていた。
「う、う……」
啓示の口から、思考なのかうめきなのか分からない声がこぼれる。
休憩なしに頭をフル回転させることがこんなにも大変だとは。へたすれば命すら脅かしかねない荒行ではないか。
(で、でも……)
次は俺だ。しりとりの順番は破ることの許されない鉄の掟。言わなきゃ。何か、言わなきゃ。
(う、う……)
目をぎゅっとつぶって、脳みそを極限まで絞る。何も、出てこない。
「う、うらなり、ですかね。ぼくみたいだ。はは……」
不意に、知らない誰かが混ざった。男のようだが、声質は青白くか細い。
(……!?)
啓示は最後の力でまぶたを持ち上げた。何だ、一体何が起きているんだ。
「っ……あ……」
開いた目には、誰も映らなかった。引き潮のように、意識がすっと遠のく。
「あ、神野くん? 大丈夫ですか? 神野くん?」
(…………誰?)
世界が、闇へと変わった。
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