17 / 23
なんとなく、クリエイティブ
しおりを挟む
「アン! ドゥ! トロワ!」
『ダーーーーーッ!』
沙妃先輩のコールに、他三名が拳を突き上げ熱いレスポンスを返す。
「えぇーーー……」
燃える闘魂化する部員たちを前に、啓示は呆然と立ち尽くした。
一体この人たちは何をしているのだろう。珍奇な行動にもだいぶ慣れたつもりでいたが、どうやらその認識はまだまだ甘かったらしい。
「ぬ? なんだよけーじっち、その顔は」
コールリーダーが不満げに絡んでくる。
「あたしらのクリエイティ部に文句でもあんのか? あぁん?」
「……ああ、なるほど」
本日の活動趣旨、理解しました。
「今日はク……そういう部なわけですか」
口に出すのはちょっと恥ずかしい部名ですね。指摘はしませんが。
「お? 何だ? 何かご不満な点でも?」
沙妃先輩は肩をいからせてオラついた。仕草が妙にさまになっている。
「どーせ『いやーんクリエイティ部とかちょーはずかしー。もーどぴゅどぴゅー』とか思ってんだろ、あんた」
「う……」
謎の擬音を除けばほぼ図星だった。勘の鋭い人だ。
「あー、そうかいそうかい。そういうこと言うんならさ、見せてみなよ。あんたのクリエイティブってやつを」
恥じらわない乙女が、野性的な目でぎろりと見据えてくる。
「お、俺のクリエイティブ!?」
啓示は目をむいた。なにそのつかみどころのないやつ。
「そうねえ」
まのか部長がおっとり同意した。
「けーじくんってえ、いつも人のすることにぶつぶつ文句言ってばかりだからあ、たまにはクリエイティブなところを見せてもらいたいわあ」
「ぶつぶつ文句って……ツッコミなんですけど」
簡単そうに見えて結構技量がいるんですよ、あれ。
「ふむ、俺のツッコミはクリエイティブだからそれで十分、とでも言いたげだな。神野けーじ」
匡先輩が割り込んでくる。
「しかし今のご時世、より高次元のクリエイティブを求めるならツッコミと同時にボケもこなして当たり前だぞ。両者の境界線をなくすというのが最近の流れだし、お笑い市場の傾向からしても――」
「はい! 分かりました! はい!」
強引に話を打ち切った。普段はともかく、喋りに火がついた時のこの人はどうも苦手だ。
「とにかくさー、見せろよ、さらけ出せよ、あんたのクリエイティブ」
「そおそおお」
「うむ。レッツビギン」
先輩トリオが圧をかけてくる。
「う、うう……」
変な汗が脇の下を伝った。何だこれ。何で俺はこんな目に遭っているんだ。あ、あれか。今日は厄日か。
「じゃあそういうことでクリエイティブ一丁、よろしくね。けーじ」
ラーメンでも頼むみたいな調子で、瀬奈にとどめを刺された。つくづく、余計なことしか言ってくれない女だ。
「そ、そんなこと急に言われても……俺、そういうのよく分からないし……」
「さあ」
「さあさああ」
「さあ、さあ、さあ」
「サーッ!」
興味のない男子に告白された女子みたいにもじもじする啓示に、縦一列に並んだ四人がぐるぐると、なんとかトレインよろしく迫る。
「くっ……!」
これはもう覚悟を決めるしかなかった。やるっきゃない。死語、注意。
「ふううーーー……」
大きく深く、息を吐く。
「むん」
足を揃えて、両手を耳の横に掲げた。
(……勝負!)
生きとし生ける全ての者よ、どうぞご照覧あれ。
「那覇で、ナハナハ!」
啓示は、高らかに叫んだ。
手首をくくいっと小刻みに上下させながら、あらゆる人を幸せにする晴れやかな笑顔で。
「……ふ」
思わず、声が漏れる。
決まった。これは決まった。見ましたか、この渾身にして魅惑の一撃。これこそクリエイティブ。ザッツ・クリエイティブ。最高だ、最高だよ、俺。
『……』
脳内麻薬ドバドバの啓示をよそに、トレインはぴたっと急停車していた。
「あらあ……これはあ……」
まのか部長が困ったように眉をひそめる。
「うーむ」
匡先輩は腕組みをしてうなった。
「あのねえ、けーじ……」
瀬奈がため息混じりに肩をすくめると、
「あーあ……」
沙妃先輩は嘆くように天を仰いだ。
(……あ、あれ?)
啓示は周囲を見回した。何だろう、この嫌な感じの温度差。
「ったく」
トレインの一号車、沙妃先輩が近づいてくる。
「こら、粗チンっち」
「え、えぇえええっ!?」
男の子にとってとてつもなくデリケートなパーツを、何の脈絡もなくけなされてしまった。
「な、何ですかいきなり!?」
というか、俺の見たことないでしょ、ああた。
「たとえば、今すぐ世界が終わるとして……」
無神経痴女は、急にスケールのでかい話を始める。
「今のクリエイティブで、悔いはないか?」
「……はい?」
ひょっとこみたいな顔で聞き返した。
「あんたのクリエイティブは、あれで全てか? 本当に隅々まで、全部さらしたと言い切れるか? たとえこれが人類最後のクリエイティブになったとしても、俺は本望ですと、そう胸を張れるか?」
昭和の劇画風に力の入った目で、くわっと見つめられる。
「……」
啓示は、何も言えない。
「クリエイティブってのはなあ、そういうもんなんだよ」
おっさんじみた口調で言うと、沙妃先輩は遠い目で窓の外を見つめた。
「っ……」
意味不明のはずなのに、その言葉はなぜかずっしりと重たかった。
『ダーーーーーッ!』
沙妃先輩のコールに、他三名が拳を突き上げ熱いレスポンスを返す。
「えぇーーー……」
燃える闘魂化する部員たちを前に、啓示は呆然と立ち尽くした。
一体この人たちは何をしているのだろう。珍奇な行動にもだいぶ慣れたつもりでいたが、どうやらその認識はまだまだ甘かったらしい。
「ぬ? なんだよけーじっち、その顔は」
コールリーダーが不満げに絡んでくる。
「あたしらのクリエイティ部に文句でもあんのか? あぁん?」
「……ああ、なるほど」
本日の活動趣旨、理解しました。
「今日はク……そういう部なわけですか」
口に出すのはちょっと恥ずかしい部名ですね。指摘はしませんが。
「お? 何だ? 何かご不満な点でも?」
沙妃先輩は肩をいからせてオラついた。仕草が妙にさまになっている。
「どーせ『いやーんクリエイティ部とかちょーはずかしー。もーどぴゅどぴゅー』とか思ってんだろ、あんた」
「う……」
謎の擬音を除けばほぼ図星だった。勘の鋭い人だ。
「あー、そうかいそうかい。そういうこと言うんならさ、見せてみなよ。あんたのクリエイティブってやつを」
恥じらわない乙女が、野性的な目でぎろりと見据えてくる。
「お、俺のクリエイティブ!?」
啓示は目をむいた。なにそのつかみどころのないやつ。
「そうねえ」
まのか部長がおっとり同意した。
「けーじくんってえ、いつも人のすることにぶつぶつ文句言ってばかりだからあ、たまにはクリエイティブなところを見せてもらいたいわあ」
「ぶつぶつ文句って……ツッコミなんですけど」
簡単そうに見えて結構技量がいるんですよ、あれ。
「ふむ、俺のツッコミはクリエイティブだからそれで十分、とでも言いたげだな。神野けーじ」
匡先輩が割り込んでくる。
「しかし今のご時世、より高次元のクリエイティブを求めるならツッコミと同時にボケもこなして当たり前だぞ。両者の境界線をなくすというのが最近の流れだし、お笑い市場の傾向からしても――」
「はい! 分かりました! はい!」
強引に話を打ち切った。普段はともかく、喋りに火がついた時のこの人はどうも苦手だ。
「とにかくさー、見せろよ、さらけ出せよ、あんたのクリエイティブ」
「そおそおお」
「うむ。レッツビギン」
先輩トリオが圧をかけてくる。
「う、うう……」
変な汗が脇の下を伝った。何だこれ。何で俺はこんな目に遭っているんだ。あ、あれか。今日は厄日か。
「じゃあそういうことでクリエイティブ一丁、よろしくね。けーじ」
ラーメンでも頼むみたいな調子で、瀬奈にとどめを刺された。つくづく、余計なことしか言ってくれない女だ。
「そ、そんなこと急に言われても……俺、そういうのよく分からないし……」
「さあ」
「さあさああ」
「さあ、さあ、さあ」
「サーッ!」
興味のない男子に告白された女子みたいにもじもじする啓示に、縦一列に並んだ四人がぐるぐると、なんとかトレインよろしく迫る。
「くっ……!」
これはもう覚悟を決めるしかなかった。やるっきゃない。死語、注意。
「ふううーーー……」
大きく深く、息を吐く。
「むん」
足を揃えて、両手を耳の横に掲げた。
(……勝負!)
生きとし生ける全ての者よ、どうぞご照覧あれ。
「那覇で、ナハナハ!」
啓示は、高らかに叫んだ。
手首をくくいっと小刻みに上下させながら、あらゆる人を幸せにする晴れやかな笑顔で。
「……ふ」
思わず、声が漏れる。
決まった。これは決まった。見ましたか、この渾身にして魅惑の一撃。これこそクリエイティブ。ザッツ・クリエイティブ。最高だ、最高だよ、俺。
『……』
脳内麻薬ドバドバの啓示をよそに、トレインはぴたっと急停車していた。
「あらあ……これはあ……」
まのか部長が困ったように眉をひそめる。
「うーむ」
匡先輩は腕組みをしてうなった。
「あのねえ、けーじ……」
瀬奈がため息混じりに肩をすくめると、
「あーあ……」
沙妃先輩は嘆くように天を仰いだ。
(……あ、あれ?)
啓示は周囲を見回した。何だろう、この嫌な感じの温度差。
「ったく」
トレインの一号車、沙妃先輩が近づいてくる。
「こら、粗チンっち」
「え、えぇえええっ!?」
男の子にとってとてつもなくデリケートなパーツを、何の脈絡もなくけなされてしまった。
「な、何ですかいきなり!?」
というか、俺の見たことないでしょ、ああた。
「たとえば、今すぐ世界が終わるとして……」
無神経痴女は、急にスケールのでかい話を始める。
「今のクリエイティブで、悔いはないか?」
「……はい?」
ひょっとこみたいな顔で聞き返した。
「あんたのクリエイティブは、あれで全てか? 本当に隅々まで、全部さらしたと言い切れるか? たとえこれが人類最後のクリエイティブになったとしても、俺は本望ですと、そう胸を張れるか?」
昭和の劇画風に力の入った目で、くわっと見つめられる。
「……」
啓示は、何も言えない。
「クリエイティブってのはなあ、そういうもんなんだよ」
おっさんじみた口調で言うと、沙妃先輩は遠い目で窓の外を見つめた。
「っ……」
意味不明のはずなのに、その言葉はなぜかずっしりと重たかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます
ジャン・幸田
キャラ文芸
アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!
そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。

高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる