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魍魎の影に潜む
48 焔を宿し
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「グルアアァ!」
それは己を奮起させる為の、仲間を鼓舞する為の一声。腹の底から吠え、大聖翁が動き出す。
不動心、精神干渉系の効力を弱める特性がなければ、あの一発で終わっていた可能性すらある。防ぐ術も思い当たらないし。ただ耐えるのみとか……
畜生やってやるよ! 格上の相手と戦うのなんて慣れっこなんだよ! 今まで誰に鍛えられて来たと思ってる! 先生も玖玲も大概鬼だぞ!
「小癪な! 蜂の巣にしてくれる!」
負けじと威嚇で返し棍を振り回す、心折れぬ姿に舌打つ悪鬼。棍を弾くと悪鬼は自ら武器を手放した。黒剣は宙でばらけ、無数の針になる。
その手段に、癒々と出会った村で交戦した、人型の魍魎を思い出す。だから迷いはない、すべきことを速やかに実行するだけ──
「カッ!」
分身と一斉に高い土壁を築き、悪鬼を包囲。間を置かずドカドカ壁に黒針の突き立つ音がした。硬度と厚さ、どちらをケチっても恐らく貫通されたろう。冷や汗が出る。
この隙に一旦距離を置き、呼吸を整える。癒々を解放したい、悪鬼を追い出すのが最優先だ。僕も大成もそこは同じだけど、取り憑く悪鬼をどう分離すべきか……
想像通りやれるかな。不安はあれど、賭ける他ない。僕らならやれる、そうだよね?
「キッ」
ニヤリと笑ったのが分かる。大成は頼もしいね!
「くく、意外とやる奴だ。欠片の身でなくば楽しめなかったろうが……」
土壁の向こうから、楽しげな響きを伴う言葉。はてと首を傾げてしまう。欠片とは一体。
ただのハッタリだろうか。重要なことか否かも判断材料がない、保留で。どの道やるしかないから、真偽の程はもう関係ないね。
土壁をバラバラに切り刻み、姿を見せた悪鬼へと全力で踏み込んだ。風すら蹴るような身のこなしで迫り、棍を振り下ろす。
その瞬間、敵の姿が忽然と失せた。
「!」
神出鬼没な動き。影を移動してるな、どこだ。
棍を地に突き立て足場にし、観察に徹する。
「キッ!?」
分身の一体が悲鳴を上げ、半身を斜めに切り捨てられる。しかし分身だからこそ素手で刃を握り締め、敵の逃走を阻んだ。
身体を張って作り出された好機を活かすべく、他の分身も連係し、次々攻撃を叩き込む。僕らも追撃だ。刃をへし折り、弾き飛ばし、手足を棍で挟み自由を奪う。
再度迸る浄化の炎。揺らぎを生んで、悪鬼にその熱量を食らわせた。肌の奥を焦がす浄炎、黒剣の切っ先も狙いが定まらない様子。
「煩わしい……散れ!」
「──ッ!」
怒号と放たれる威圧感、だが今度はさっきより耐えられるぞ。怖じ気付く心はあれど、それをも糧に燃やして進める一歩が、悪鬼を追い詰める。
「何……っ」
人間だって恐怖と戦える。ただでは屈しない、お前には負けない!
「ガアアアアアアアアッ!」
吶喊。大聖翁と分身は共に悪鬼へ立ち向かう。怯まぬ姿に、逆に相手が唖然と口を開けた。
「動きが良くなった……まさかこの戦いの間に、磨かれているとでも!?」
強いだけなら、怖いだけなら、幾らでも乗り越えて来た敵だ! 癒々をくれてやる理由になんかなるか!
「ならば何度でも切り刻んでやるわ! 天よ、我らの憎悪の深さを知るが良い!」
黒剣が更に増えた。分身を増やして対抗する。数を数で殴る戦いは、霊力の目減りと共に成立しなくなると分かり切ってる。今が勝負時だ。
僕と大成は同じことを思い描く。顕現したのは黒い棍、そこにありったけの浄化の炎を込める。黒が赤熱化して光を放つまで。
「何をする気か知らんが! 好きにさせるものか!」
これには悪鬼も不安を覚えたか、刃を振るって棍を断ち切ろうとする。先程の繰り返しにはならない、刃をいなして滑らせる。手元で回した棍を逆手に握り、薄い刃を叩き折ろうと打ち込んだ。
「グルアァ!」
分身が捨て身で飛びかかる。手足を掴み、或いは後背の剣を奪うべく腕を伸ばす。勿論相手も黙ってやられてはくれない。同心円状の配置から浮遊し、黒剣が独立した動きで襲って来た。
分身を切り捨てようと踊る刃。吹き飛ばすべく地面から砂煙が渦巻くも、僅かに軌道を逸らすのみ。分身三体が切り伏せられた。
取り上げられないなら、武器にさせない!
「キキッ」
残る分身が死力を尽くし、悪鬼にしがみつく。もし分身を刺せば、そのままお前も──
「ギャンッ!?」
黒剣は分身諸共、癒々の肩を貫いた。
「ちびすけ!」
思考の空白、致命的な隙を玖玲の一喝で持ち直す。まさか器にした身体を一切顧みないとは……思わなかった……!
「どうした? よもや悪鬼が痛みを恐れ、自傷を躊躇うとでも思っていたのか? ははは、舐められたものよな!」
悪意を醸し浮かぶ笑み。確かに一瞬の躊躇いさえなかった。痛みを感じないのか、本当に苦痛に慣れているのか。
畜生、悪鬼はこちらの動揺を見て取ってる。癒々を人質にするのは有効だと、確信させてしまった。
「では証明してやろう、我らは苦痛を恐れない。常に傍らに居座る、友のようなものだ……」
黒い刃がピタリと宙で静止する。見せしめに宛がわれているのは……癒々の耳。
「やめろ!」
玖玲が制止の声を上げるも虚しく。花を手折るように、ぼとりと左耳が削ぎ落とされた。
それは己を奮起させる為の、仲間を鼓舞する為の一声。腹の底から吠え、大聖翁が動き出す。
不動心、精神干渉系の効力を弱める特性がなければ、あの一発で終わっていた可能性すらある。防ぐ術も思い当たらないし。ただ耐えるのみとか……
畜生やってやるよ! 格上の相手と戦うのなんて慣れっこなんだよ! 今まで誰に鍛えられて来たと思ってる! 先生も玖玲も大概鬼だぞ!
「小癪な! 蜂の巣にしてくれる!」
負けじと威嚇で返し棍を振り回す、心折れぬ姿に舌打つ悪鬼。棍を弾くと悪鬼は自ら武器を手放した。黒剣は宙でばらけ、無数の針になる。
その手段に、癒々と出会った村で交戦した、人型の魍魎を思い出す。だから迷いはない、すべきことを速やかに実行するだけ──
「カッ!」
分身と一斉に高い土壁を築き、悪鬼を包囲。間を置かずドカドカ壁に黒針の突き立つ音がした。硬度と厚さ、どちらをケチっても恐らく貫通されたろう。冷や汗が出る。
この隙に一旦距離を置き、呼吸を整える。癒々を解放したい、悪鬼を追い出すのが最優先だ。僕も大成もそこは同じだけど、取り憑く悪鬼をどう分離すべきか……
想像通りやれるかな。不安はあれど、賭ける他ない。僕らならやれる、そうだよね?
「キッ」
ニヤリと笑ったのが分かる。大成は頼もしいね!
「くく、意外とやる奴だ。欠片の身でなくば楽しめなかったろうが……」
土壁の向こうから、楽しげな響きを伴う言葉。はてと首を傾げてしまう。欠片とは一体。
ただのハッタリだろうか。重要なことか否かも判断材料がない、保留で。どの道やるしかないから、真偽の程はもう関係ないね。
土壁をバラバラに切り刻み、姿を見せた悪鬼へと全力で踏み込んだ。風すら蹴るような身のこなしで迫り、棍を振り下ろす。
その瞬間、敵の姿が忽然と失せた。
「!」
神出鬼没な動き。影を移動してるな、どこだ。
棍を地に突き立て足場にし、観察に徹する。
「キッ!?」
分身の一体が悲鳴を上げ、半身を斜めに切り捨てられる。しかし分身だからこそ素手で刃を握り締め、敵の逃走を阻んだ。
身体を張って作り出された好機を活かすべく、他の分身も連係し、次々攻撃を叩き込む。僕らも追撃だ。刃をへし折り、弾き飛ばし、手足を棍で挟み自由を奪う。
再度迸る浄化の炎。揺らぎを生んで、悪鬼にその熱量を食らわせた。肌の奥を焦がす浄炎、黒剣の切っ先も狙いが定まらない様子。
「煩わしい……散れ!」
「──ッ!」
怒号と放たれる威圧感、だが今度はさっきより耐えられるぞ。怖じ気付く心はあれど、それをも糧に燃やして進める一歩が、悪鬼を追い詰める。
「何……っ」
人間だって恐怖と戦える。ただでは屈しない、お前には負けない!
「ガアアアアアアアアッ!」
吶喊。大聖翁と分身は共に悪鬼へ立ち向かう。怯まぬ姿に、逆に相手が唖然と口を開けた。
「動きが良くなった……まさかこの戦いの間に、磨かれているとでも!?」
強いだけなら、怖いだけなら、幾らでも乗り越えて来た敵だ! 癒々をくれてやる理由になんかなるか!
「ならば何度でも切り刻んでやるわ! 天よ、我らの憎悪の深さを知るが良い!」
黒剣が更に増えた。分身を増やして対抗する。数を数で殴る戦いは、霊力の目減りと共に成立しなくなると分かり切ってる。今が勝負時だ。
僕と大成は同じことを思い描く。顕現したのは黒い棍、そこにありったけの浄化の炎を込める。黒が赤熱化して光を放つまで。
「何をする気か知らんが! 好きにさせるものか!」
これには悪鬼も不安を覚えたか、刃を振るって棍を断ち切ろうとする。先程の繰り返しにはならない、刃をいなして滑らせる。手元で回した棍を逆手に握り、薄い刃を叩き折ろうと打ち込んだ。
「グルアァ!」
分身が捨て身で飛びかかる。手足を掴み、或いは後背の剣を奪うべく腕を伸ばす。勿論相手も黙ってやられてはくれない。同心円状の配置から浮遊し、黒剣が独立した動きで襲って来た。
分身を切り捨てようと踊る刃。吹き飛ばすべく地面から砂煙が渦巻くも、僅かに軌道を逸らすのみ。分身三体が切り伏せられた。
取り上げられないなら、武器にさせない!
「キキッ」
残る分身が死力を尽くし、悪鬼にしがみつく。もし分身を刺せば、そのままお前も──
「ギャンッ!?」
黒剣は分身諸共、癒々の肩を貫いた。
「ちびすけ!」
思考の空白、致命的な隙を玖玲の一喝で持ち直す。まさか器にした身体を一切顧みないとは……思わなかった……!
「どうした? よもや悪鬼が痛みを恐れ、自傷を躊躇うとでも思っていたのか? ははは、舐められたものよな!」
悪意を醸し浮かぶ笑み。確かに一瞬の躊躇いさえなかった。痛みを感じないのか、本当に苦痛に慣れているのか。
畜生、悪鬼はこちらの動揺を見て取ってる。癒々を人質にするのは有効だと、確信させてしまった。
「では証明してやろう、我らは苦痛を恐れない。常に傍らに居座る、友のようなものだ……」
黒い刃がピタリと宙で静止する。見せしめに宛がわれているのは……癒々の耳。
「やめろ!」
玖玲が制止の声を上げるも虚しく。花を手折るように、ぼとりと左耳が削ぎ落とされた。
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