18 / 51
神話の中に残る
18 宿場町にて
しおりを挟む
食休みも終えて歩き出すけれど、なんでか付いて来る奴がいる。振り向けばまじまじと互いを見合う形に。なんだこいつ。
「玖玲はどっか行けば」
「都に戻るんだから既に行く途中。頭沸いてるのちびすけ」
「じゃあお空飛んだら良いんじゃないですかねぇ! いつもみたいに!」
「霊力が戻ってない」
かったるそうに言い、玖玲は御弥真の嘴を指で撫でる。こいつが霊力切れになるって相当だけど……
「あ……さては逃がした責任感じて、不眠不休で探し回ってたな!」
「煩いな、ちびすけは黙ってろ」
「なーんだ、それなら仕方ない。そんなに腹減ってたんなら盗み食いも許してやろう。都まで付いて来ても良いよ」
「何その上から目線、死になよ」
ニヤニヤ出来ますな、恩に着せるって凄く気分が良い。ただし屑に限る。善良な人はただの厚意を甘受して良い。
「夕方前には次の宿場町だと思う。癒々は病み上がりだし、今日はそこで泊まろう」
「ならそこで少し働けるわね。うん、頑張るわ」
「はあ? 普通寝るだろ……」
癒々の飽くなき労働意欲に、玖玲がドン引きしてる。けどお前は自分の性根を反省してどうぞ。
それから癒々は道行く先で、これは解熱に使える薬草だとか瀉下作用があるとか、野草を摘んで歩いていた。長閑な光景だね。
「あれは……精力増強効果が増す、少し珍しい茸だわ!」
物凄い勢いで茸を取りまくってる。そんなに珍しいの? でも癒々は一体何を作ろうとしてるんだろう……その取り合わせで本当に大丈夫?
***
「この宿にしようか。三人だし寝るだけの大部屋で良いよね」
「あら安い。そうしましょう」
「見張りは精霊に任せる、別に良いよ」
素っ気ない外観、いかにも必要最低限しか提供しませんとばかりの宿屋。敢えて選んだら、案の定素泊まりが安い。
今夜は他のお客さんと一緒に雑魚寝で決定だ。玖玲は無駄に顔が良いから不安もあるけど、帯剣してるし腕は立つ。いざとなれば見捨てて良し。
「俺は休む」
まだ日の高い内に早々と横になる玖玲。隣で布を広げた癒々が、茸の傘と軸をもぎ、手で裂いて並べ、天日干しし始めた。
「薬草は市場かお店で買い取って貰えると思う。後で行くわ」
「なら僕は、飲食店の手伝いで小銭稼ぎだーっ」
あんまり動き回るなら止めようと思ったけど、癒々は無理のない範囲でやれることをしてる。任せても平気そう。
多忙な夕飯時を過ぎ、手伝いを終えた。店の人に手間賃と賄いを貰う。麺類だ、好き。
宿に戻ると二人はお茶を飲んでいて、玖玲が何か口に運んでた。干し杏っぽい。
「圜、食事は済んだ?」
「大丈夫、お風呂行こう。玖玲は?」
「行く」
公衆浴場で温まって疲れを癒す。普段はあっという間に上がる玖玲が、珍しく僕と並んで湯船に浸かってる。相当疲労溜まってるなこれ。
手櫛で髪の水気を雑に流し、覇気のない声で玖玲が口を開いた。
「……普通あり得る? 精霊の加護がないって。精霊は精霊である時点で、人間より上位の存在だろ」
「何事にも例外はあるって、先生は言ってたし」
「個人が人間の例外になったら、それはもう化物と呼ぶ」
だから生来加護を得られない人間は、理論上存在しないと玖玲は言っている。そこは玖玲に限らず、常識の範疇なので否定しない。
当人の過失なく加護を失う事態は起きるけど。
その精霊が消える時と、精霊が箚士を見出して全てを箚士一人への加護に振り切った時だ。
「癒々なら見たままだよ。本人が悪いんじゃないからな、嫌な言い方するなよ」
「してない。不気味なまでに猫被ってるな」
「玖玲無神経だから、先に言わないとなって」
自覚がないとは言わせない、生まれからして恵まれたボンボンめ。何しても許されるのは乳幼児までだからな!
因みに猫も被ってない。癒々には年相応に接してるんだと、強めに自己主張してく。嘘つけ、とばかりにめちゃめちゃ睨まれたが、無視。
「癒々は善良だよ」
「……加護なしが悪だとは言ってない。何が原因か知らないけど、もっと強い精霊なら加護を与えられる可能性は?」
「うーん、一度は試したいけどね……」
精霊の存在にも格がある。精霊、大精霊、神霊、天津神の順に格が上がるもの。
膨大な時をかければ弱い精霊も霊力を増して、いずれは育つ。天津神なんて創世神話級に出会うことはまずないが。
そして格の高い精霊は、複数の人間に加護を与えることが多い。家系や血族の守り神として崇められ、その子孫に加護を与えたりだ。
箚士の精霊のように、ただ一人を選んで全てを注ぐ場合もある。多分、安全性と得られる経験は反比例する。
箚士なら一人に絞っても、精霊は早く成長出来るんだと思う。力の使い方を知る頻度と密度は、圧倒的に高くなるし。
成長速度以外の違いだと人間には分からない。戦いの場に赴くなら、精霊だって箚士諸共死ぬ可能性もある。一概に利点ばかりではないね。
「大精霊に運良く会えたりしないかな」
「いっそ、そういう家系に嫁がせた方が早い。年頃だし、出来なくはないだろ」
「え? 自分のこと言ってる? やだよ、もし癒々が玖玲と結婚するなら、僕全力で癒々を逃がすよ。癒々が可哀想過ぎりゅぶッ!」
「言ってない」
頭をお湯に沈められた。体格差め……!
「玖玲はどっか行けば」
「都に戻るんだから既に行く途中。頭沸いてるのちびすけ」
「じゃあお空飛んだら良いんじゃないですかねぇ! いつもみたいに!」
「霊力が戻ってない」
かったるそうに言い、玖玲は御弥真の嘴を指で撫でる。こいつが霊力切れになるって相当だけど……
「あ……さては逃がした責任感じて、不眠不休で探し回ってたな!」
「煩いな、ちびすけは黙ってろ」
「なーんだ、それなら仕方ない。そんなに腹減ってたんなら盗み食いも許してやろう。都まで付いて来ても良いよ」
「何その上から目線、死になよ」
ニヤニヤ出来ますな、恩に着せるって凄く気分が良い。ただし屑に限る。善良な人はただの厚意を甘受して良い。
「夕方前には次の宿場町だと思う。癒々は病み上がりだし、今日はそこで泊まろう」
「ならそこで少し働けるわね。うん、頑張るわ」
「はあ? 普通寝るだろ……」
癒々の飽くなき労働意欲に、玖玲がドン引きしてる。けどお前は自分の性根を反省してどうぞ。
それから癒々は道行く先で、これは解熱に使える薬草だとか瀉下作用があるとか、野草を摘んで歩いていた。長閑な光景だね。
「あれは……精力増強効果が増す、少し珍しい茸だわ!」
物凄い勢いで茸を取りまくってる。そんなに珍しいの? でも癒々は一体何を作ろうとしてるんだろう……その取り合わせで本当に大丈夫?
***
「この宿にしようか。三人だし寝るだけの大部屋で良いよね」
「あら安い。そうしましょう」
「見張りは精霊に任せる、別に良いよ」
素っ気ない外観、いかにも必要最低限しか提供しませんとばかりの宿屋。敢えて選んだら、案の定素泊まりが安い。
今夜は他のお客さんと一緒に雑魚寝で決定だ。玖玲は無駄に顔が良いから不安もあるけど、帯剣してるし腕は立つ。いざとなれば見捨てて良し。
「俺は休む」
まだ日の高い内に早々と横になる玖玲。隣で布を広げた癒々が、茸の傘と軸をもぎ、手で裂いて並べ、天日干しし始めた。
「薬草は市場かお店で買い取って貰えると思う。後で行くわ」
「なら僕は、飲食店の手伝いで小銭稼ぎだーっ」
あんまり動き回るなら止めようと思ったけど、癒々は無理のない範囲でやれることをしてる。任せても平気そう。
多忙な夕飯時を過ぎ、手伝いを終えた。店の人に手間賃と賄いを貰う。麺類だ、好き。
宿に戻ると二人はお茶を飲んでいて、玖玲が何か口に運んでた。干し杏っぽい。
「圜、食事は済んだ?」
「大丈夫、お風呂行こう。玖玲は?」
「行く」
公衆浴場で温まって疲れを癒す。普段はあっという間に上がる玖玲が、珍しく僕と並んで湯船に浸かってる。相当疲労溜まってるなこれ。
手櫛で髪の水気を雑に流し、覇気のない声で玖玲が口を開いた。
「……普通あり得る? 精霊の加護がないって。精霊は精霊である時点で、人間より上位の存在だろ」
「何事にも例外はあるって、先生は言ってたし」
「個人が人間の例外になったら、それはもう化物と呼ぶ」
だから生来加護を得られない人間は、理論上存在しないと玖玲は言っている。そこは玖玲に限らず、常識の範疇なので否定しない。
当人の過失なく加護を失う事態は起きるけど。
その精霊が消える時と、精霊が箚士を見出して全てを箚士一人への加護に振り切った時だ。
「癒々なら見たままだよ。本人が悪いんじゃないからな、嫌な言い方するなよ」
「してない。不気味なまでに猫被ってるな」
「玖玲無神経だから、先に言わないとなって」
自覚がないとは言わせない、生まれからして恵まれたボンボンめ。何しても許されるのは乳幼児までだからな!
因みに猫も被ってない。癒々には年相応に接してるんだと、強めに自己主張してく。嘘つけ、とばかりにめちゃめちゃ睨まれたが、無視。
「癒々は善良だよ」
「……加護なしが悪だとは言ってない。何が原因か知らないけど、もっと強い精霊なら加護を与えられる可能性は?」
「うーん、一度は試したいけどね……」
精霊の存在にも格がある。精霊、大精霊、神霊、天津神の順に格が上がるもの。
膨大な時をかければ弱い精霊も霊力を増して、いずれは育つ。天津神なんて創世神話級に出会うことはまずないが。
そして格の高い精霊は、複数の人間に加護を与えることが多い。家系や血族の守り神として崇められ、その子孫に加護を与えたりだ。
箚士の精霊のように、ただ一人を選んで全てを注ぐ場合もある。多分、安全性と得られる経験は反比例する。
箚士なら一人に絞っても、精霊は早く成長出来るんだと思う。力の使い方を知る頻度と密度は、圧倒的に高くなるし。
成長速度以外の違いだと人間には分からない。戦いの場に赴くなら、精霊だって箚士諸共死ぬ可能性もある。一概に利点ばかりではないね。
「大精霊に運良く会えたりしないかな」
「いっそ、そういう家系に嫁がせた方が早い。年頃だし、出来なくはないだろ」
「え? 自分のこと言ってる? やだよ、もし癒々が玖玲と結婚するなら、僕全力で癒々を逃がすよ。癒々が可哀想過ぎりゅぶッ!」
「言ってない」
頭をお湯に沈められた。体格差め……!
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる