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神話の中に残る
17 現状把握
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「花飾りは返すよ」
「ううん、お焚き上げ出来るならそうして欲しい。これはあの子にあげた物と思ってるから……ちゃんと天に届くかもしれないわ」
「癒々がそれで良いなら」
「でも魍魎に無視される訳じゃなかったのね。別の魍魎には取り込まれてしまったもの」
「うん、そこは残念。安全じゃないってことだから。でも恒常的に加護のない状態は稀だし……」
あの光景を思い出す。
「癒々は覚えてないみたいだけど、気になるんだよ。怪我が治ったこと、魍魎を精霊なしに浄化したこと」
「私にそんなこと出来る筈ないわ。圜……」
でも目の前で起きたしな。もし癒々に傷を治す力があるか、それを与えられているのなら、保護を求めるべきだと思う。
帰る家も頼る家族もない癒々は、その力が知れたらとても危ういから。本人が思う以上に。
「……まずあの人に見て貰えば?」
ぽつりと玖玲が言った。見る、の表現に掌を打つ。居場所が明らかだし、僕らが都で頼れる伝手だ。
「五十鈴ちゃんなら確かに。随一の見鬼だからね。癒々に何が起きてるか見通してくれるかも」
そうだそうだ、昔聞いたな。五十鈴ちゃんなら人間に化けた魍魎すら看破出来ると。特例的に地方駐在を生涯免除されてるんだ。
常に城で貴人の近くにいて、相手が人間か確認している。他にも、見れば色々分かるらしい。
「え、話がとんでもない相手に及んでいない!?」
「別に取って食われたりしない、珍獣扱いはされるだろうけど」
玖玲の追い討ちに、癒々はスンッと顔色を失くした。息はしようね、はい深呼吸ー!
「ぷあ……っ」
鼻を摘まんで呼吸を促した僕に、若干恨みがましい目を向ける癒々。でも心臓止まったら困るし。
「五十鈴ちゃんは扱いが特殊だけど箚士だから、僕らでも会えるよ。それに癒々の問題は、癒々自身でどうこうするのが難しい」
「う」
「だから調べたいなーって。もし記憶のない間を補完出来れば上々。ひょっとしたら癒々も五十鈴ちゃんみたいな、特殊枠の箚士になれるかも」
「私が箚士様に……?」
目を白黒させ、癒々は言葉に窮してる。いきなり言われても困るのはそうだね。けど今の内に色々想定する方が良いと思うんだ。
「あくまで可能性だよ癒々。小さなことを広げて考えるのも気晴らしになる」
「そう、ね……ありがとう圜」
癒々には辛いことが多かったからね。気持ちのやり場があれば、楽な時もあるんじゃないかな。空想みたいな話であれ──
「!」
癒々の手が僕の手を取る。驚いて心臓が跳ねた。凄く丁寧と言うか、丁重な触れ方だから何事かと。
「……圜は優しい。箚士様だから? 私に精霊の加護がないから?」
「そんなことは」
「分からないけど、私に色々しようとしなくて良いの。そんな責任あなたにないわ」
癒々どうしたんだろう、僕嫌なこと言ったろうか。余計なお世話だって言われてる……?
「あなたは本当に立派だけど、全てをどうにかして欲しいとは思わない。私の問題を肩代わりして欲しくない。ええと……そう、自分から損な役をするのは、どうかと思うの」
損。損とは一体……癒々を手伝うこと? 一緒にいること?
「私は十分良くして貰ったわ。もう返せるかも分からない程に。だから心配しないで。私にかかずらうより、圜にはもっと価値ある時間の使い方をして欲しいの」
成程ね。癒々はあの村の連中に毒され過ぎて、自分に価値がないと思い込まされてるんだ。あーはいはい察した。胸糞案件だなぁ、ははは……
「ちびすけ、顔が薄気味悪い」
「外野は黙ってろ」
癒々に必要なのは休息と生活環境、正当な評価だ。これまでが不当評価にも程があるんだよ。
あんな小さな田舎の村で、医療従事者が軽んじられてるっておかしいだろ。文字通り生命線だぞ、あり得ねぇ。
それだけ癒々は隷属させられてた。小さな村だ、生活の為には理不尽を強いる集団にも、従う他なかったんだろう。社会性も時に枷だね。
どれだけ繰り返されたら心は追い詰められる? その上で真っ当な人間性を保持していられる?
村の女性の言葉から察するに、相当不名誉な事態に巻き込まれてそうだし。未遂だとしてもだ。
ちょっと癒々の精神力に吃驚する。普通の人ならとうに折れてるか、心を守る為に思考を捨ててる。
「癒々、これは何も特別なことじゃないんだよ。希少な能力の可能性がある者を、調査保護しようって条令に則ってるだけだから大丈夫」
「条令……なんだ、決まりに従う必要があったのね。やだ私ったら、物知らずだから……」
この手の言い方なら聞いてくれるな、学習した。これからは活用しよう。権威と正当性を全面に押し出して、遠慮させない方向で。
「気持ち悪い顔になった」
「カアッ」
あいつら後で殴ろう。
癒々は恥ずかしさを隠すように頬を押さえている。精霊の加護がないだけで、性根は善良な人なのに。なんで虐げられなくちゃならない、腹立たしい。
まだ体温の残る手で拳を握った。血の巡りを感じる。この高揚は怒りかな、それだけでもなさそう……謎だ。
「……癒々は何も心配しなくて良いよ。これからは嬉しいことも起きるからね!」
「キキキッ」
「えっと、圜が言うなら……大成もね」
「そろそろ行こうか、都へはまだかかる」
「ううん、お焚き上げ出来るならそうして欲しい。これはあの子にあげた物と思ってるから……ちゃんと天に届くかもしれないわ」
「癒々がそれで良いなら」
「でも魍魎に無視される訳じゃなかったのね。別の魍魎には取り込まれてしまったもの」
「うん、そこは残念。安全じゃないってことだから。でも恒常的に加護のない状態は稀だし……」
あの光景を思い出す。
「癒々は覚えてないみたいだけど、気になるんだよ。怪我が治ったこと、魍魎を精霊なしに浄化したこと」
「私にそんなこと出来る筈ないわ。圜……」
でも目の前で起きたしな。もし癒々に傷を治す力があるか、それを与えられているのなら、保護を求めるべきだと思う。
帰る家も頼る家族もない癒々は、その力が知れたらとても危ういから。本人が思う以上に。
「……まずあの人に見て貰えば?」
ぽつりと玖玲が言った。見る、の表現に掌を打つ。居場所が明らかだし、僕らが都で頼れる伝手だ。
「五十鈴ちゃんなら確かに。随一の見鬼だからね。癒々に何が起きてるか見通してくれるかも」
そうだそうだ、昔聞いたな。五十鈴ちゃんなら人間に化けた魍魎すら看破出来ると。特例的に地方駐在を生涯免除されてるんだ。
常に城で貴人の近くにいて、相手が人間か確認している。他にも、見れば色々分かるらしい。
「え、話がとんでもない相手に及んでいない!?」
「別に取って食われたりしない、珍獣扱いはされるだろうけど」
玖玲の追い討ちに、癒々はスンッと顔色を失くした。息はしようね、はい深呼吸ー!
「ぷあ……っ」
鼻を摘まんで呼吸を促した僕に、若干恨みがましい目を向ける癒々。でも心臓止まったら困るし。
「五十鈴ちゃんは扱いが特殊だけど箚士だから、僕らでも会えるよ。それに癒々の問題は、癒々自身でどうこうするのが難しい」
「う」
「だから調べたいなーって。もし記憶のない間を補完出来れば上々。ひょっとしたら癒々も五十鈴ちゃんみたいな、特殊枠の箚士になれるかも」
「私が箚士様に……?」
目を白黒させ、癒々は言葉に窮してる。いきなり言われても困るのはそうだね。けど今の内に色々想定する方が良いと思うんだ。
「あくまで可能性だよ癒々。小さなことを広げて考えるのも気晴らしになる」
「そう、ね……ありがとう圜」
癒々には辛いことが多かったからね。気持ちのやり場があれば、楽な時もあるんじゃないかな。空想みたいな話であれ──
「!」
癒々の手が僕の手を取る。驚いて心臓が跳ねた。凄く丁寧と言うか、丁重な触れ方だから何事かと。
「……圜は優しい。箚士様だから? 私に精霊の加護がないから?」
「そんなことは」
「分からないけど、私に色々しようとしなくて良いの。そんな責任あなたにないわ」
癒々どうしたんだろう、僕嫌なこと言ったろうか。余計なお世話だって言われてる……?
「あなたは本当に立派だけど、全てをどうにかして欲しいとは思わない。私の問題を肩代わりして欲しくない。ええと……そう、自分から損な役をするのは、どうかと思うの」
損。損とは一体……癒々を手伝うこと? 一緒にいること?
「私は十分良くして貰ったわ。もう返せるかも分からない程に。だから心配しないで。私にかかずらうより、圜にはもっと価値ある時間の使い方をして欲しいの」
成程ね。癒々はあの村の連中に毒され過ぎて、自分に価値がないと思い込まされてるんだ。あーはいはい察した。胸糞案件だなぁ、ははは……
「ちびすけ、顔が薄気味悪い」
「外野は黙ってろ」
癒々に必要なのは休息と生活環境、正当な評価だ。これまでが不当評価にも程があるんだよ。
あんな小さな田舎の村で、医療従事者が軽んじられてるっておかしいだろ。文字通り生命線だぞ、あり得ねぇ。
それだけ癒々は隷属させられてた。小さな村だ、生活の為には理不尽を強いる集団にも、従う他なかったんだろう。社会性も時に枷だね。
どれだけ繰り返されたら心は追い詰められる? その上で真っ当な人間性を保持していられる?
村の女性の言葉から察するに、相当不名誉な事態に巻き込まれてそうだし。未遂だとしてもだ。
ちょっと癒々の精神力に吃驚する。普通の人ならとうに折れてるか、心を守る為に思考を捨ててる。
「癒々、これは何も特別なことじゃないんだよ。希少な能力の可能性がある者を、調査保護しようって条令に則ってるだけだから大丈夫」
「条令……なんだ、決まりに従う必要があったのね。やだ私ったら、物知らずだから……」
この手の言い方なら聞いてくれるな、学習した。これからは活用しよう。権威と正当性を全面に押し出して、遠慮させない方向で。
「気持ち悪い顔になった」
「カアッ」
あいつら後で殴ろう。
癒々は恥ずかしさを隠すように頬を押さえている。精霊の加護がないだけで、性根は善良な人なのに。なんで虐げられなくちゃならない、腹立たしい。
まだ体温の残る手で拳を握った。血の巡りを感じる。この高揚は怒りかな、それだけでもなさそう……謎だ。
「……癒々は何も心配しなくて良いよ。これからは嬉しいことも起きるからね!」
「キキキッ」
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