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第一部 妖精姫と忠犬従者

姉姫たちとのお茶会

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 シャンシャン、シャララ。
 シャン、シャララララ。

 風そよぐ王宮の庭の一画、手入れの良いアップルミントの香りのする芝生の上で妖精の王族ハイエルフの姫たちが、手足に銀の鈴をつけて舞を踊っている。
 猫妖精ケット・シーの楽団が笛やリュートを奏で、息の合った演奏をみせるなか、姫たちも音に合わせて軽やかに古風な衣装をひらひらとたなびかせて舞う。

 今日は、月に一度の祭事のための神楽舞の練習をするために、ユーリアとその姉姫、従妹や再従妹はとこたちが集っていた。

 ユーリアは昨日、愛する従者との初めての閨を経験したばかりだった。
 普段使わない筋肉の部位を閨で酷使したため、身体のあちこちが痛み腰もだるくて仕方ない。

(舞の練習が、今日じゃなければ良かったのに……)

 姫たちが輪になって踊る神々への感謝の踊りは、流れるような動きで激しいものではないけれど。みんなより動きがぎこちなかったり、ついテンポが遅れたりしてしまう。

 ようやく練習が終わると、恒例のお茶会が始まった。
 四阿あずまやに用意された軽食やお菓子、お茶を楽しみながら、姫たちは他愛のないお喋りに花を咲かすのだった。

「子供たちが煩くてごめんなさいね」

 従妹の一人がユーリアに微笑みかけた。
 神楽舞の踊り手に選ばれている姫たちの中で、一番年若いのはユーリアだ。他の姫たちはすでに夫が居て、子供たちもいる。
 母達の舞の練習中は猫妖精ケット・シーの乳母たちにあやされて大人しくしていた子供たちが、今はお菓子を手に芝生の上をはしゃぎ回っていた。

「いいえ、お従姉ねえさま。わたくし、子供は好きですから」

「貴女もすぐに出来るわ。そういえば、結婚が決まったのですってね」

「まあ、私たちの小さな妹だった末姫がついに結婚するの!? お相手はどなた?」

 従妹たちががやがやとユーリアの周りに集まって来た。

「ブレーデフェルト辺境伯です、お従妹さま方」

「辺境伯ですって! 遠距離結婚なのね」

「辺境の領主は 庶民エルフの後宮を持っていると聞いたわ。ユーリアとの通婚、ちゃんとできるのかしら?」

 興味津々の従妹たちに囲まれてユーリアが困っていると、隣にいた姉姫が見かねて代わりに答えた。

「辺境では庶民エルフの血を絶やさないように後宮が必要だと聞いたわ。でも辺境伯も後継にはハイエルフの嫡男が必要なの。ちゃんと通婚するわよ」

私たちハイエルフは、一妻多夫なのにね」

王族ハイエルフは若い女性が少ないもの」

「私も、次の子は女の子が欲しいわ」

「うちは三人続けて男の子で――」

 従妹たちはユーリアの結婚相手に興味を失い、子供たちの話題に移って行った。



 姉姫はユーリアに「気にしちゃだめよ」とささやいた。

「ねえ、ユーリア。もしかして、閨教育が始まったのではなくて?」

「えっ?」

 どうして知っているのかと、驚いて姉姫を見つめた。ユーリアと同じ緑柱石エメラルドの瞳が可笑しそうにいたずらっぽく輝いている。

「だって、舞の練習の時、ぎこちなかったし。それに貴女、いつもよりガニ股になっているもの」

 くすくすと姉姫に笑われて、ユーリアは真っ赤になった。脚の間の違和感が続いていて、ついガニ股になっていたようだ。

「まあ、ほどほどに、ね」

 姉姫に指摘されて、ユーリアはとても恥ずかしかったのだけれど、きっと彼女も同じようにいつか通った道、閨教育を受けて来たのだろうと思った。

(お姉さま方も、みんな閨教育を受けて結婚されたんだわ。私も頑張らないと!)
 
 
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