10 / 37
第一部 妖精姫と忠犬従者
姉姫たちとのお茶会
しおりを挟むシャンシャン、シャララ。
シャン、シャララララ。
風そよぐ王宮の庭の一画、手入れの良いアップルミントの香りのする芝生の上で妖精の王族の姫たちが、手足に銀の鈴をつけて舞を踊っている。
猫妖精の楽団が笛やリュートを奏で、息の合った演奏をみせるなか、姫たちも音に合わせて軽やかに古風な衣装をひらひらとたなびかせて舞う。
今日は、月に一度の祭事のための神楽舞の練習をするために、ユーリアとその姉姫、従妹や再従妹たちが集っていた。
ユーリアは昨日、愛する従者との初めての閨を経験したばかりだった。
普段使わない筋肉の部位を閨で酷使したため、身体のあちこちが痛み腰もだるくて仕方ない。
(舞の練習が、今日じゃなければ良かったのに……)
姫たちが輪になって踊る神々への感謝の踊りは、流れるような動きで激しいものではないけれど。みんなより動きがぎこちなかったり、ついテンポが遅れたりしてしまう。
ようやく練習が終わると、恒例のお茶会が始まった。
四阿に用意された軽食やお菓子、お茶を楽しみながら、姫たちは他愛のないお喋りに花を咲かすのだった。
「子供たちが煩くてごめんなさいね」
従妹の一人がユーリアに微笑みかけた。
神楽舞の踊り手に選ばれている姫たちの中で、一番年若いのはユーリアだ。他の姫たちはすでに夫が居て、子供たちもいる。
母達の舞の練習中は猫妖精の乳母たちにあやされて大人しくしていた子供たちが、今はお菓子を手に芝生の上をはしゃぎ回っていた。
「いいえ、お従姉さま。わたくし、子供は好きですから」
「貴女もすぐに出来るわ。そういえば、結婚が決まったのですってね」
「まあ、私たちの小さな妹だった末姫がついに結婚するの!? お相手はどなた?」
従妹たちががやがやとユーリアの周りに集まって来た。
「ブレーデフェルト辺境伯です、お従妹さま方」
「辺境伯ですって! 遠距離結婚なのね」
「辺境の領主は 庶民の後宮を持っていると聞いたわ。ユーリアとの通婚、ちゃんとできるのかしら?」
興味津々の従妹たちに囲まれてユーリアが困っていると、隣にいた姉姫が見かねて代わりに答えた。
「辺境では庶民の血を絶やさないように後宮が必要だと聞いたわ。でも辺境伯も後継にはハイエルフの嫡男が必要なの。ちゃんと通婚するわよ」
「私たちは、一妻多夫なのにね」
「王族は若い女性が少ないもの」
「私も、次の子は女の子が欲しいわ」
「うちは三人続けて男の子で――」
従妹たちはユーリアの結婚相手に興味を失い、子供たちの話題に移って行った。
姉姫はユーリアに「気にしちゃだめよ」とささやいた。
「ねえ、ユーリア。もしかして、閨教育が始まったのではなくて?」
「えっ?」
どうして知っているのかと、驚いて姉姫を見つめた。ユーリアと同じ緑柱石の瞳が可笑しそうにいたずらっぽく輝いている。
「だって、舞の練習の時、ぎこちなかったし。それに貴女、いつもよりガニ股になっているもの」
くすくすと姉姫に笑われて、ユーリアは真っ赤になった。脚の間の違和感が続いていて、ついガニ股になっていたようだ。
「まあ、ほどほどに、ね」
姉姫に指摘されて、ユーリアはとても恥ずかしかったのだけれど、きっと彼女も同じようにいつか通った道、閨教育を受けて来たのだろうと思った。
(お姉さま方も、みんな閨教育を受けて結婚されたんだわ。私も頑張らないと!)
0
お気に入りに追加
806
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる