【R18】真紅の薔薇城―不死者の支配する世界で聖女と呼ばれ―

雪月華

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闇の貴公子2

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 魔獣暴走スタンピートの直前に、丘の中腹の地下壕に避難した子供たちは助かっていた。
 サシャ王の命によって災厄を生き延びた者たちは、兵士たちによって荷馬車に乗せられて旅をし、少し前にこの城に到着したところだった。

 アロイスは不死者となった自分の姿を、私や弟たちに目視されることを怖れた。

 この時まで彼は、記憶から私たちのことがすっぽり抜け落ちていたのだ。
 故郷が焼け落ち、家族や私……身近にいたすべての人々が失われたかもしれない、という現実を直面するにはあまりにも辛過ぎたから。
 そんな自分を心の中で叱咤し、ぎゅっと爪が食い込むほど手を握りしめる。

 サシャ王の視線を感じながら瞬きする間に、彼と私たちにとっての最善は何か、と思考を巡らせた。
 まだ不死者としての自分自身のことも、サシャ王の意図についてもよくわからないまま、どのように行動したらよいのか雲をつかむような気持だった。

「アロイスさまっ!」

 私たちの中で最年長のパトリスは、衛兵の制止を振り切って転がるように走り、魔物討伐から帰城した王の一行の前に飛び出した。

「無礼者!」

 その場にいた騎士たちが、すぐにパトリスを取り押さえた。

「この者は?」

 王がアロイスに問いかけると、地面に肩を押さえつけられていたパトリスが顔を上げて、大声で叫んだ。

「私は! アロイスさまの右腕として、ずっと仕えてきた従者です。今まで通り、お側に置いてくださいっ」

 アロイスはパトリスの側に歩み寄り、片膝をついた。

「――パトリス。僕を見ろ、もう以前の僕ではない。それでもお前は、まだ僕に仕えたいと言うのか」

 月の光とかがり火に照らされた城の庭で、間近に彼の妖しく光る真紅に瞳に見つめられ、パトリスはひゅっと息を飲んだ。
 若者らしく向こう見ずなパトリスの顔に、初めて畏怖の表情が浮かび、やがてそれは羨望に取って変わった。

「あなたは、……になられたのですか? 私たちをここに連れて来た兵士たちが話していました、が持つ力とその特権について――」

 パトリスは熱に浮かされたように「私にも、その力を分け与えて下さい!」とアロイスに訴えた。

「何を……ばかな。そんなことをしたら死後、妖精の国アルフヘルムに行けなくなってしまうんだぞ」

 戸惑い、不安を覚えたアロイスは、首を横に振る。
 すると王は、騎士たちにパトリスの拘束を解き、連れて来るようにと指示した。
  真紅の薔薇ブラッディ・ローズ城の玄関エントランスホールを抜けて城主の間に着くと、サシャ王は王都から連れて来た近衛騎士と司教を残し他の騎士たちを下がらせた。
 
「アロイス。この地を治めて行くにあたって、血の絆によって結ばれた臣下も必要だろう。
その者は自分から志願している。気心の知れた者なら、これから長い時を生きる其方の孤独も癒されるだろう」

「ですが――」

 苦悩するアロイスに、その場にいた司教も口を挟んだ。 

女神ヘルの賜物を分け与え、自分のを増やすには陛下の許可がいるのだ。
陛下からの特別なご配慮を、有難く受けなさい、アロイス殿」

 期待を込めてやり取りを聞いていたパトリスは、アロイスがなおも渋るのを見て詰め寄った。

「私はアロイスさまと共に魔獣暴走スタンピートを、生き延びることが出来ました。私にあなたが得たものを分けてください。そうするべきなんです! あなたに従った私に、どうか報いて下さい」

 この場にいる不死者たちは全員、アロイスが新たな不死者の創り手となることを望んでいる。
 王の後ろに控えている近衛騎士は、剣柄に手を置いてパトリスをじっと見ていた。

 やがてこれは何かの通過儀式なのだ、とアロイスは悟った。

 そうして、パトリスはアロイスによって不死者に変えられることになった。
 

 

 
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