【R18】真紅の薔薇城―不死者の支配する世界で聖女と呼ばれ―

雪月華

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目覚め2

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 ルニエ商会の屋敷に着くと、すぐに使用人が私たちを応接室に案内した。
 私は、護衛を一時も離すつもりはなかったし、ルイーズと話す時は侍女のカサンドラも同席させると決めていた。
 万が一のことを考え、虚偽の証言をされないように、そして決して二人きりにはならない。
 用心するに越したことはないのだから。

「ソフィさま、ようこそ我が家にお越しくださいました」

 ルイーズは真紅の薔薇ブラッディ・ローズ城に居た時とは違って、大人しやかな首元まできっちりと肌を覆うドレスを着ていた。
 続いて女中が応接室に入り、白磁器の高価な茶器が運ばれた。流れるような動作で、香り高いお茶がカップに注がれた。

「どうぞ」

「ありがとう」

 私は飲む真似だけして、お茶に口を付けなかった。

「これまで真紅の薔薇ブラッディ・ローズ城で、わたくしがソフィさまに対して、失礼な態度を取ったことをお詫びいたします」

 前置きもなく、ルイーズは深々と頭を下げた。ここには彼女のルニエ商会の父親も同席していないことから、ごく個人的な謝罪をしたいのだと受け取った。

「許します。もう過去のことですから」

 ルイーズは大きく呼吸をしてから、笑みを浮かべた。

「ありがとうございます」

「それで、あまり時間もないので、マルクに会わせて頂きたいんですけれど」

 私の態度は自分でも素っ気ないと思ったけれど、西の砦に居るアロイスや、まだ帰らないベックたちのことを考えると、あまり長く城を留守には出来ない。

「ええ、もちろん。ご案内いたします」

 ルイーズは気を悪くした風もなく応じて、私たちをマルクのいる地下に案内してくれた。廊下の壁龕へきがんには魔道ランプが置かれている。

「太陽の光が入らないように、地下室にお部屋を用意しています。マルクさまは、もう起きていらっしゃるはずです」

 彼女は一つの部屋の前で足を止め、扉を叩いた。

「マルクさま、ソフィさまがお越しになりました」

 それから、扉を開いて「どうぞ、中へ」とルイーズも自らも部屋の中に入って、魔道ランプの明かりを次々に灯して行った。
 部屋は手前が居間に、奥が寝室になっているようだった。
 私は護衛二人とカサンドラと共に、中に入った。

「マルク?」

 私は奥の部屋の扉をノックした。ノブを回すと、鍵はかかっておらずそのまま開いた。
 中は暗かったが、目を凝らせばベッドが置かれているのが分かった。
 そのベッドの脇には、何か大きな横長の木の入れ物が置かれているのが見えた。

 バタン!

 ふいに、後ろで扉が閉まる音がした。廊下からこの居間に入った扉が閉められたのだ。
 衛兵二人が、扉まで行って開けようとノブをガチャガチャと回した。

「外から、鍵をかけられています!」

「何ですって?」
 
 扉に二人が体当たりしても、開かなかった。
 廊下から、ルイーズの高らかな笑い声が聞こえて来る。

「無駄よ! この扉は目覚めたばかりの飢えたが暴れても、開かないように頑丈に作られているの! あんたなんか、飢えたに一滴残らず血を吸われて、ミイラになってしまえばいいわ!」

「ルイーズ! 何てことを! 開けなさいっ。取り返しのつかなくなる前に!」

 私たちは激しく扉を叩き、ルイーズに呼びかける。

「キャアアァァァッ」

 絹を裂くような悲鳴を上げて、へなへなと床に座り込んだカサンドラが、奥の部屋を指さして震えている。

 ギ、ギギギィ……。

 奥の部屋に置かれた、横長の入れ物の蓋がずれていく……あれは、柩だ!
 
 ゴトン――柩の蓋が床に落ちて。
 柩から起き上がった 不死者アンデットの、暗闇の中で光る真っ赤な目が二つ、見えた。

 
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