25 / 73
不公平な世界
しおりを挟む「アロイスさまの人間の妻の地位に、大きな意味はないわ。
他の格上の貴族から、お気に入りの人間を横取りされないようにするだけの価値しかないもの。
教会は、貴族が人間の妻を複数持つことを許しているし。
専属の提供者から妻になったからと言って、アロイスさまを独占できるなんて思わないことね」
ルイーズは私を引っ張って、テラスが見える位置に移動する。
貴族と人間の結婚について、教義も含め……あまり考えないようにして来たつけを、ここで払わされることになるなんて。
ヴィーザル村では一夫一婦制で、貞節が重んじられていた。
だからきっと、アロイスも同じ価値観のはずだと思っていた。
「その証拠に、アロイスさまの騎士たちは、ソフィに忠誠を誓ったりはしなかったでしょう?
つまりそういうこと。アロイスさまは貴族で、あなたは私と同じ人間なの」
忠誠どころか、この宴で貴族から話しかけられることすらなかった。
「ほら、見て。あそこで何が行われているか」
植木の物陰で、騎士が提供者の少女を抱きしめ、肩に顔を埋めていた。
「私は何度もアロイスさまに、テラスや庭に誘われたわ。私の血は美味しいって言って下さった。
これからだって同じよ。アロイスさまは、ソフィの血だけでは足りないんだから」
――わかっている。わかっているけど、胸が痛い……。
「ソフィ、どうした? 顔色が悪い」
いつの間にかアロイスが、隣に立っていた。
「僕は君の気持ちが伝わる。血を交換したから。……この女が、ソフィに何か言ったのか?」
アロイスは私の手を取ると、ぞっとするような冷たい眼差しで、ルイーズを見た。
「何でもないのよ。少し、疲れたみたい」
私は首を横に振った。アロイスに手を握られると、直接、思考が届くようになる。
余計な事は何も考えないようにと、聞こえて来る音楽に耳を傾けた。
「……失せろ」
ルイ―ズはアロイスの逆鱗に触れたことを知り、ガタガタと震えながらその場を去った。
「もう僕たちは、部屋に行こう」
「いいの?」
「当たり前だよ。新婚初夜だって分かってる?」
耳元で言われると、カッと頬が熱くなった。
アロイスは私をエスコートして、大広間から退出した。
「あの女、始末するか?」
廊下を歩きながら、アロイスが恐ろしいことを言い出す。
「だって……私を嫌いな人を、全員殺すわけにはいかないでしょう?」
冗談めかして引きつった笑みを浮かべると、アロイスは眉をしかめ、数秒間を置いてから答えた。
「そうしてもいいよ。長く生きている貴族を殺るのは難しいけど」
「……それは、公平じゃないわね」
「ああ。世界は不公平だ」
アロイスの居室に入ると、女官長たちが待っていた。
「ソフィさまは、こちらへ」
女官長の有無を言わせぬ様子に、アロイスはやれやれ、と肩を竦めた。
彼女たちに連れられて控えの間に行くとドレスを脱がされ、準備されていた湯で身体中を洗われた。
そして手足の爪を短く切りながら、アロイスと夜を共にすることについての様々な注意や心得を聞かされた。
私はそれを、他人ごとのように聞き流す。
不死者が、人間の男女のような行為をするとは思えなかったから。
――だって、生物学的に考えて……必要ないでしょう?
アロイスとの間に子供を成せないということを考えると、やはり寂しかった。
すべすべの肌、ミルクの匂い、温かな小さい身体の私の赤ちゃんをこの腕に抱く日は永遠に来ない。
0
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
【R18】竜王宮での禁忌の秘閨 -双子の王子と竜姫と寵姫-
猫まんじゅう
恋愛
双子の兄(竜王子)の妹(竜姫)に対する狂愛。
竜姫と彼女の寵姫クレハの歪んでいく愛情と性癖。
四人の愛が交差する時、境界線すらも消し去りぐちゃぐちゃに混ざり合う。四人の愛は、”異常”。
獣人の住む竜王の統べる国、ドラファルト。ここは竜王の統べる弱肉強食、男尊女卑の顕著な国。
雄や高位の者の言う事が絶対であり、独自の淫習を持ち男性(雄)が優位に立つそんな国だ。
その国の第一王女として生を受けた竜姫リューイには寵愛を捧げる相手がいた。
自身の専属メイドのクレハである。
ある日、リューイは自身も知らなかった秘密を知ってしまう。
それは夜、彼女が眠りにつくと行われる、閨での禁断の秘め事。
兄である双子の王子からの常軌を逸したものだった。
─── この獣欲の渦に呑み込まれた四人の辿り着く先に、光はあるのか?
これは竜姫リューイが、最愛の恋人クレハとの未来を夢見て希望を持ち続ける儚い恋物語。
***注意書き***
・主人公の女性二人は恋人です。GL描写があります。
・双子は異母兄弟ですが、禁断の愛です。本小説は近親相姦を勧めるものではありません。
・獣人族の話です。雄、雌表現があります。独自の単語があります。
・無理矢理・レイプ描写があります。スライム姦あり。
・結末のないダークエンドですが、女性主人公はいずれ別で投稿中の本編にてハッピーエンドを迎えます。ご安心下さい。
【R18】純情聖女と護衛騎士〜聖なるおっぱいで太くて硬いものを挟むお仕事です〜
河津ミネ
恋愛
フウリ(23)は『眠り姫』と呼ばれる、もうすぐ引退の決まっている聖女だ。
身体に現れた聖紋から聖水晶に癒しの力を与え続けて13年、そろそろ聖女としての力も衰えてきたので引退後は悠々自適の生活をする予定だ。
フウリ付きの聖騎士キース(18)とはもう8年の付き合いでお別れするのが少しさみしいな……と思いつつ日課のお昼寝をしていると、なんだか胸のあたりに違和感が。
目を開けるとキースがフウリの白く豊満なおっぱいを見つめながらあやしい動きをしていて――!?
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
【R18】侯爵令嬢、断罪からオークの家畜へ―白薔薇と呼ばれた美しき姫の末路―
雪月華
恋愛
アルモリカ王国の白薔薇と呼ばれた美しき侯爵令嬢リュシエンヌは、法廷で断罪され、王太子より婚約破棄される。王太子は幼馴染の姫を殺害された復讐のため、リュシエンヌをオークの繁殖用家畜として魔族の国へ出荷させた。
一国の王妃となるべく育てられたリュシエンヌは、オーク族に共有される家畜に堕とされ、飼育される。
オークの飼育員ゼラによって、繁殖用家畜に身も心も墜ちて行くリュシエンヌ。
いつしかオークのゼラと姫の間に生まれた絆、その先にあるものは。
……悪役令嬢ものってバッドエンド回避がほとんどで、バッドエンドへ行くルートのお話は見たことないなぁと思い、そういう物語を読んでみたくなって自分で書き始めました。
2019.7.6.完結済 番外編「復讐を遂げた王太子のその後」「俺の嫁はすごく可愛い(sideゼラ)」「竜神伝説」掲載
R18表現はサブタイトルに※
ノクターンノベルズでも掲載
タグ注意
騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。
待鳥園子
恋愛
自分にとって、とても美味しい仕事である騎士団専属医になった騎士好きの女医が、皆の憧れ騎士の中の騎士といっても過言ではない美形騎士団長の身体を好き放題したいと嘘をついたら逆襲されて食べられちゃった話。
※他サイトにも掲載あります。
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる