【R18】真紅の薔薇城―不死者の支配する世界で聖女と呼ばれ―

雪月華

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儀式の結末

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 リゼットは素早く自分の手首を咬み切ると、マルクの口に押し当てた。
 マルクはリゼットの血を流しこまれて咳き込み、口から血が溢れた。
 それでも少しは飲み込んだのか、やがて身体が痙攣を始めた。

 次に一度手を離すと、マルクを抱き起して首筋を咬んだ。長い牙の口づけファング・キス
 マルクの身体に流れるすべての血を飲み干してしまうかのよう。
 ……本当に飲み干してしまったのかも知れない。包帯から覗くマルクの肌が干からびているように見えた。

 リゼットの手首の傷はすでに再生されて跡形もなかったが、再び咬み裂いてマルクに血を飲ませた。
 今度は零すことなく飲み下している。


 私たちは、ただ震えながらそれを見ていた。
 両側にいたアンヌとヨハンが、私の手をぎゅっと握りしめた。
 ふたりは私の決断を、どう思ったのだろう。

「これからこの者は数日間眠り続け、再び目覚めた時は――私の眷属になっている」

 私は頷いた。喉がカラカラに乾いて、すぐには声が出ない。

「しばらくは、私が面倒を見ることになる。として生きていく術を、の私が教えなければならないからな」

 は、自分が眷属にしたものとの関係性を親子に例えている。
 彼らの言い回しだと、リゼットは親、マルクは子になる。

「どうか、マルクをよろしくお願いします」

 私はなんとか声を絞り出し、深々と頭を下げた。

 聖堂の地下を調べに行った騎士たちが戻って来たので、リゼットは彼らと話をしに行った。


「ソフィさま、顔色が真っ青です。もう城に帰った方が」

「ええ、アンヌ。あの人たちにジョスのことを頼んだら帰りましょう」 

 僧侶や警備隊が、静かになった聖堂の様子を確かめるために、扉の向こうからこちらを恐る恐る覗いているのが見えていた。

 私は彼らのところまで行ってマルクについて簡単な説明をし、壇上で眠っているジョスの保護をお願いした。
 警備隊たちは、マルクがリゼットによってに変えられたと知ると、ひどく驚いていた。
 僧侶はマルクが死なずに済んでほっとしている様子で、胸の前で女神ヘルの印を結んだ。


 ヨハンが聖堂前の道に馬車を寄せ、私とアンヌが乗り込むと、後ろからリゼットがマルクを肩に担いで入って来た。

 城に着くと、リゼットは再び大柄なマルクを軽々と馬車から降ろした。

「マルクが目覚めるまで、太陽の光に当たらない安全な場所を確保して寝かす。伯爵にも今夜のことを報告しなければならない。私はこれで」

 私たちは不安な気持ちで、騎士館に向かうリゼットを見送った。


 今夜も、騎士たちによって討伐された魔獣が、庭の一画に積み上げられていた。
 騎士たちは主に、町や村、街道周辺で狩りをする。夜の間に危険な魔物や魔獣たちを駆除し、商人や旅人の物流が滞らない程度に街道の治安を保たせている。

 今日の獲物は殺人蜂キラー・ビー土蟲ワームのようだ。

 その解体作業をしているのは、冒険者ギルドから派遣された人々だ。
 魔石や必要な部位を素材や食肉として取り、残りは 真紅の薔薇ブラッディローズの肥料になる。

 魔物や魔獣の養分をたっぷり吸った 真紅の薔薇ブラッディローズは、一年中花を咲かせる。
 そして 真紅の薔薇ブラッディローズは、魔物や魔獣たちから人々を守ると信じられている。

 たちは、この真紅の薔薇ブラッディローズを好んでいた。アロイスも。
 王都でも、この薔薇がいたるところに植えられているという。
 

「そこの、金髪のお嬢さん」

 暗がりから突然姿を現した、見知らぬに息が止まるほど驚く。

「このノワール地方は、金髪美女が多くていいね!」

 次の瞬間には、目の前に移動していて、私を見降ろす。
 漆黒の長い髪を後ろでひとつに束ね、一重の切れ長の紅い目、褐色の肌をした青年は、胸の前で襟を重ね、腰で帯を留め、その下に脚衣ズボンを穿く、東地方風の服を着ている。


「ねえ、君。知ってる? 金髪の人間の血は美味しいんだ」 

 ニタリ、と笑った口元に鋭くとがった牙が覗いた。

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