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第四章 ウチのダンジョンから聖都へ出張した!

第六話 再会

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「聖下! 緊急事態です! 入室の許可をっ」

 扉の向こうで荒々しくノックをし、呼びかける声がする。

 黒髪の聖職者に小声で「アーサーの知り合いですか?」と聞かれたので黙って頷いた。

 すると、オレに窓のカーテンの陰に隠れるように、と手振りで指した。


「――お入りなさい」

 男が許可すると、バタン! と扉が大きく開かれ、聖騎士達がドカドカと部屋に入って来た。

 彼らはあわただしく略式の騎士の礼を取ると、部屋の中を見回した。

「聖下。こちらに不審な者は、来ませんでしたか?」

「いいえ。いったい何があったのです?」

「今は一刻を争います。警備上の任務を優先させていただきたく。後ほどご報告いたしますので。では、失礼!」

 聖騎士達は入室したのと同様に、あわただしく出て行った。


「――もう大丈夫ですよ」

 穏やかに声を掛けられ、オレはカーテンの陰から出た。

「あなたはコンスタンス教皇だったのですね。どうしてオレを、助けてくれたんですか?」

 うん。聖騎士たちが聖下と呼ぶのは、教皇だけ。この人はアーサーのお父さんで、フレイア教団の教皇だ。

「フフ、まだ助けると決めたわけでもないですが」

 教皇は少し悪そうな顔で笑ってから「アーサーは息災ですか」と訊ねた。

「元気です」

 やっぱり父親だから、自分の子供を心配しているのかと思うと、ぐっと胸に来るものが……。

「落ち着いたら、顔を見せに来るように伝えて下さい」

「それは、難しいんじゃないかな。今のアーサーの立場じゃ」

 この国では、聖剣泥棒のお尋ね者になっているんだもんな。

「君なら、密かにお膳立て出来るんじゃないか?」

 聖都に縦横に伸びている下水道ダンジョン……をうまく使えば、アーサーとこの人とこっそり会わせることも出来るかもしれない。

 でもフレイア教団の親玉なんだよな、教皇は。父親でも、味方だとは限らないし。


「ここは君に、恩を売っておきましょう。こちらへ」

 案内された先の、壁に掛けられた神話が描かれたタペストリーを教皇が捲ると、隠し通路が現われた!

「ここから建物の外に出られます」

「ありがとう」

 通路の階段を駆け下りようとすると「名前は?」と聞かれた。

 オレは振り返って「ディーンです」と答えた。

「ディーン。アーサーをよろしく頼みます」

「もちろん」

 最後に見た教皇は、微笑を浮かべていた。


 通路は真っ暗だったけど、オレは夜目が利くから平気。

 狭い階段を降り続けて、やがて下水道に出た。ランスロット達に、城から連れ出された通路と繋がっているようだ。

 鞄からロキ神が授けられたタブレットを取り出し、下水道ダンジョンを探る。

 カムラン・ダンジョンから王都に来る際、土中蟲アースワーム達をこちらに向けて放っていたんだ。クムランと王都を地下トンネルで繋ぐために。そろそろ蟲達が到達する頃合いだろう。
 
「よし! 連結したっ」

 DPを使って、土中蟲アースワームが掘ったトンネルを、ダンジョンの石造りの通路に整備する。

 この王都の縦横無尽に繋がっている石造りの下水道は、千年前の古代王国時代から使われているものだった。

 そしてこの街に住む人族の生命エネルギーを取り込み、DPに換算することが出来る! 

「DPが使いたい放題だな」

 まずはオレの魔力を完全回復させるために、超高級霊薬エリクサーを十万DPと交換だ。

「ゴクゴク。グビッ。うまいっ」

 飲み干すと身体に力が漲り、全能感に満たされた。

 爽やかな甘みと酸味のある微炭酸飲料で、この霊薬を飲むと個人差があるものの酩酊したり、精神が高揚してハイになったりすると言われている。依存性や中毒性についても注意喚起されているが、希少な高価な薬なので王侯貴族ですらめったなことでは使用することは叶わない。

 急にアーサーに会いたくてたまらなくなった。アーサーの面影のある教皇に会ったせいかも。もう8日も会っていない。毎晩タブレットで通信はしてたけど。

「アーサー」

「ディーン?」

 タブレットの画面にアーサーが映る。

「会いたい」

「えっ、ディーン?! 何を言って……」

 カムラン・ダンジョンと連結したし、魔力も回復したから、今ならダンジョン内転移でアーサーに会いに行ける!

 こんなに飛距離のある転移は試したことなかったけど、えいやっとやってしまった。


 懐かしの1LDK、そしてアーサー。


 ソファから立ち上がり、驚くアーサーにダイブした。アーサーの髪から、お気に入りのすずらんの石鹸の香りがして、深く息を吸い込む。そのままソファにボフッと二人で沈み込んだ。

「会いたかったよ――! アーサーのご飯が食べたい!」

「待ってよ、作戦はどうなっている? 赤狼人族の家族の救出は?」

「……ううっ」

「何があったのか、ちゃんと説明して!」

「めちゃくちゃ、色々大変だったんだよ! 地下牢で拷問されたり! うわぁぁぁぁんっ」


 もうやだ。金輪際、絶対ひとりでダンジョンの外には出ないぞっ。アーサーの顔を見たら、張りつめていた緊張が切れてしまった。

 アーサーの膝に縋りついていたら、頭を撫でられた。

「よしよし。そうか、じゃあ何が食べたい?」

「カレー。アーサーのカレーが食べたい」

 彼女の作るオリジナルカレーは、大量の玉ねぎをみじん切りにして飴色になるまで油でじっくり炒め、様々なスパイスに、すりおろした人参、カットトマト、肉を入れてじっくり赤ワインを入れて煮込む。
 仕上げに、すりおろしリンゴ、プレーンヨーグルトを入れ、隠し味にチョコレート。これに夏野菜のナスを入れたり、エビなどの魚介類を入れてシーフードカレーにしたリするバージョンもあるんだ。

 ソファでうたた寝していると、キッチンから包丁の野菜を刻むリズミカルな音、おいしそうな匂いが漂ってくる。

「出来たよ」

 カレー皿に大盛りのアーサーカレー。デザートにフルーツヨーグルト、飲み物はアイスティー。

「いただきます」

 はふはふ。熱いけど美味しい。肉はポッポ鳥の骨付き肉だった。

 オレはアーサーに胃袋を掴まれてしまったんだなぁ、なんてしみじみ思った。

 二回お代わりをして、ようやく人心地ついた。


「――で、何があったの?」

「うん」

 美味しいカレーに癒されて、元気を取り戻したオレは、王都で起きたことを、全部アーサーに話したのだった。
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