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間話 1"

32.ある男の記録

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(ある男の視点)

 俺は47歳独身サラリーマン。

 我ながら冴えない男だ。

 ほぼ毎日、決まった時間に起きてシャワーを浴びる。

 昨日飲んだ酒がまだ抜けていない気だるさと、これから仕事に行かなければいけないという鬱陶しさ。毎朝、目覚まし時計に叩き起こされるたびに思う。

「……仕事辞めてえ」

 勤める会社は、いわゆるブラック企業。毎週のように土曜日出勤があり、日曜日はかろうじて休み。そんな会社で働いているせいで彼女なんていないし、そもそも出会いすらない。ムカつく年下上司にペコペコするだけの奴隷のような日々。

 当然、こんな生活をしていればストレスだって溜まるわけで。いつからか毎晩酒を飲むのが癖になっていた。頭は重いしいくら寝ても疲れは取れない。髪も薄くなってきた気がするしビール腹。

「ああ、マジで死にてえ……」

 最近増えた独り言。仕事辞めたいか、死にたいか、あいつ死なねえかな、が主なバリエーション。ワンパターンな言葉だけが口からこぼれる。一体何年この生活を続けたら楽になれるのだろうか? 教えて欲しい。

 シャワーを浴びるとかろうじて目が覚め、しぶしぶ会社に行ってやる気持ちになってくる。スーツに着替えるとき鏡に映る、死んだ目の男。

 今日も俺はいつものように仕事に行く。

 エレベーターを降りマンションのエントランスから出ると雲ひとつない青空が広がっていた。春先の香りが残る暑くも寒くもない陽気。

「気持ち悪い。なんで晴れてんだよ」

 晴れていようが雨が降ってようが適温だろうが関係ない。会社に行かなければいけないって時点で俺の気分は最悪。世界を呪って滅びを願う。

「はああ……めんどくさ」

 ため息か、文句しか出ない。

「──お、おはよう……ございます」

 意識の外から俺に声がかけられてハッとした。

 俯いていた顔を上げると、目の前には若い女の子が立っていた。黒髪で、可愛らしい顔立ち。少女のあどけなさと大人の色っぽさどちらも残した美人。少しオドオドとしていて目は合わせてくれない。

「お、おはよう……」

 俺もおっかなびっくり挨拶を返すと、女の子はペコっと軽く頭を下げて小走りで駅の方に向かっていった。

 その後ろ姿をぼうっと眺める。

 初めて彼女に挨拶された。

 名前は知らないが1ヶ月ほど前に向かいのマンションに引っ越してきた子だ。引っ越してきた時期と雰囲気から考えて、おそらくは大学生だろう。

 実はこのところ毎朝、彼女の姿を見かけていた。俺は必ず判を押したように8時ちょうどに部屋を出ると決めている。そんな俺と彼女の生活リズムが噛み合っていた。

 可愛い子だな、とは思いつつも今まで挨拶なんてしたことはなかった。

 お互い存在には気づいているけれど、互いに無視しあう。そんな通行人AとBの関係。隣人でしかない。

 でも今日は違った。

 ほぼ毎日出くわすから気まずいとでも思って、俺に挨拶してくれたのだろうか。それともただの気まぐれだったのかもしれない。

 彼女の気持ちは分からなかったが素直に嬉しかった。

 おとなしそうな子だから勇気を出してくれたのかと考えると、自分にはない若いエネルギーを分けてもらった気分がした。

「よし!」

 俺は気合を入れて会社に向かった。いつもよりも足取りが軽く感じたのはきっと気のせいじゃない。こんなうだつの上がらない中年に話しかけてくれるなんて、女神に会えた気分だった。

 例えるなら『ある日、空から美少女が降ってくる』そんな古典的ボーイミーツガール。失われた灰色の青春が今になって俺の前に現れてくれような晴れやかさ。

 このチャンスを逃してはいけない。今度は俺の方から挨拶をしようと心に決めた。


***


 次の日。

 いつもの時間に家を出て、いつものように会社に向かう。いつもだったら、いつもとかわからないクソみたいな朝だった。

 でも今日は違う。

「おはよう!」

「あ……おはようございます……」

 今度は俺からあの子に声をかけた。

 彼女は一瞬驚いた顔をした。ちょっと馴れ馴れしかったかなと不安になったが、すぐに挨拶を返してくれてホッとした。

 口角を俺のためにピクッと控えめに動かして、会釈してくれた。

 ひかえめな彼女の一連の動作が嬉しくて堪らなかった。

 その日から俺の変わり映えのしないルーティンに変化が添えられた。灰色の死んだような日々に鮮やかな色合いが足されていくような感覚。

 俺はそれから毎朝彼女に声をかけた。最初はぎこちなかったが徐々に打ち解けている気がする。

 毎朝の挨拶がこんなに楽しいものだとは知らなかった。名前も知らない女の子との関係は、確実に俺を明るい方へと変えてくれていたのだ。

 挨拶を交わすだけで、こんなにも心が弾むとは……。俺は人生で初めて、恋愛をしているような感覚だった。

 今までの人生で彼女なんていたことがないし、こんなふうに自分から女の子に声をかけるのも慣れていない。

 親子ほど歳の離れている女の子にこんな気持ちを抱くなんて気持ち悪いと感じる人もいるかもしれないが、これが本当の恋ってやつなのかもしれない。邪な性欲とかじゃない純粋な気持ちなのだ。

 彼女の笑顔が見たい、もっと仲良くなりたい。俺は素直にそう思っていた。

 でも、だからこそ俺はこの関係を大切にしたかったからあまりズケズケと前のめりで話しかけるのは自制していた。気持ち悪いおじさんだと誤解されてはいけない。そんなこと彼女は思わないだろうけど。

 でも、少しずつではあるが距離が縮まっているように感じるし、まだ会話はできていないが、それなりに心が通じ合っているような気がする。

 彼女との挨拶は俺の生活の一部になっていた。


***


 挨拶をするようになって少しの時が経った頃。

 今日で32回目の挨拶をした。

 そのころにはだいぶ俺の方から挨拶することの方が増えていて、彼女から挨拶してくれるのは少なくなっていたけれど、たまに向こうからしてくれる時があると無性に嬉しい。

 最近、偶然彼女の名前を知った。

 どうやら、綾瀬哀香という名前らしい。

 たまたま彼女が捨てた郵便物をゴミ捨て場から拾った時に、運良く大学名が書かれているものを発見した。最近は個人情報とか危険で危ないし、女の子の一人暮らしだから俺が護ってあげなきゃという使命感に駆られた俺は、親切心からそれを処分してあげようと思って持ち帰った。確認のために破られた紙をつなぎ合わせると、偶然にも彼女の名前を知ってしまった。学生だとは思っていたが、まさかあの有名な大学だったなんて思いもしなかった。俺は親のせいで学歴にコンプレックスを持っていたから、素直にすごいと感心した。もちろん彼女や彼女の両親が急に訪ねて来たらすぐに返せるようにではあるがその紙は厳重に保管してある。些細な報酬として、使用済みのティッシュとストローも偶然手に入れた。俺は運がいい。

 哀香ちゃん。

 名前を知ったその日から、俺は心の中で彼女のことをそう呼ぶようになった。

「おはよう!」

「……おはようございます」

 今日も俺は彼女に声をかける。

 彼女は控えめな声で返事をしてくれる。こんなつまらない男だけど仲良くしてくれて嬉しい。もっと仲良くなりたいし、名前で呼びたい気持ちもあるけれど、まだ早い気がするから我慢している。

 でも、いつかは彼女の名前を堂々と呼べるようになりたいなと思う。

 少しずつ好感度を上げていって……もしかしたら、ワンチャン?

 おとっと……妄想が行きすぎてしまった。

 焦らずじっくり。

 でも、そんな日が来るように頑張って努力しようと思う。彼女のために。

 ……あと、些細な問題がある。

 哀香ちゃんは、おっぱいが大きい。些細なことだが。

 真面目そうな顔をして抑えきれない内側から服を押し上げる膨らみ……。

 もしかしたら、俺のことを誘っているのかもしれない。もしかしたら。

 俺は未来に胸を膨らませて今日も生きていく。


***


 ある日の日曜日。

 信じられないことが起きた。

 週に一度しかない休みの日。午後までダラダラして、ベランダでタバコをぼけっと吸っていた。何気なく向かいのマンションを見ているとベランダに誰かが出てきた。その人物を見て俺は驚愕することになった。

「え……」

 それは、哀香ちゃんだった。

 俺はなぜだかバレちゃいけない気がして、慌ててタバコを消して部屋の中に戻った。

「いやいやいやいや、え?えええ?」

 見間違えかもしれないから、カーテンの隙間からもう一度確認する。間違いない。哀香ちゃんだった。

 ──部屋番号は知っていたけど、まさか向かいに住んでいたなんて!

 混乱した俺はスマホを手に取っていた。カメラのズーム機能を使って隙間からその姿を収めようとしたけれど、夕暮れ時で光量の低下した環境と俺の格安スマホの性能ではうまく撮ることができなかった。

 しかし、歯痒さを抱えながらも俺は確かに見た。間違いなく彼女だ。

 哀香ちゃんはベランダで洗濯物を干しているようだった。

「はあ……はあ……」

 俺はなぜか呼吸が荒くなっていた。全力疾走した時のように心臓が激しく脈打っている。息が苦しくて、何度も深呼吸をした。それでもドキドキは治まらなかった。自分の感情がコントロールできなくて怖いのに、ワクワクが止まらなかったのだ。

 多分これは天啓だ。神様から俺に与えられた義務なのだ。これはきっと運命。

 女の子の一人暮らしで不安だろうから俺が手助けしてあげなければ。俺が彼女の力になってあげるべきなのでは……? いや、そうするべきだ!

 俺は決意した。

 カーテンを閉めて、まずは落ち着くために水を一杯飲んだ。飲み終わってもなお息は荒く心臓の鼓動は速いままだが、なんとか呼吸を整えることに成功した。

 その日から俺の本格的見守りが始まった。


***


 俺は定時で帰るようになった。

 文句を言われたら即行でやめてやろうと思っているから怖いもんなしだ。これで夜まで勉強して帰ってくる哀香ちゃんの帰路を守ることができる。

 それと、一眼レフカメラを買った。

 望遠レンズとか三脚とか色々悩んだけど、そこそこいいのを買ってみた。数十万にはなったが今まで金の使い道なんてなかったから、貯金はそこそこある。仮に仕事を辞めることになっても哀香ちゃんが大学を卒業するまで見守ることはできるだろう。

 彼女の部屋に向けたカメラの設置場所も完璧だ。インテリアとしてカメラが置かれているというのも案外悪くない。

 俺はカメラ越しに哀香ちゃんを覗く。

「ああ……今日も可愛いな」

 俺はいつの間にか彼女を覗くことにのめり込んでいた。


***


 2ヶ月近く経った頃。

 今日は特に彼女の帰りが遅い。時刻は既に午後8時17分を回っていた。いつもであれば、とっくに帰宅している時間だ。何かあったんじゃないかと心配になってくる。

「大丈夫……だよな?」

 俺は不安な気持ちを抑えられず、探しに行ってあげようかとそわそわしてくる。すると、ちょうど彼女がマンションのエントランスに入っていくところだった。その姿を見てホッとする。

 隣には彼女と仲のいい女友達が一緒に歩いていた。2人は何やら楽しそうに会話しながら、マンションの中に消えていった。

「なんだ……あの子と一緒か……」

 俺は安堵の息を吐く。まあ彼女のことだから大丈夫だとは思っていたけど、それでも心配だったから良かった。隣にいた子のことはちょくちょく見たことがある。初めて見た時はスレンダーで革ジャンを着ていたから男かと思って激昂しそうになったが、よく見ると意外と美人な子で溜飲が下がった。

 あの子も可愛いな……。

 俺は真っ暗の部屋の中から、哀香ちゃんの部屋に明かりがつくのを待っていた。


***


 またしばらく経ったある日。

 何気ない日から変化は始まった。

 それは、俺がいつものようにカメラ越しにカーテンが開かないか見守っていた時のことだ。

 カーテンが開けられて、哀香ちゃんがベランダに出てきた。待ってましたとばかりに俺はカメラをズームした。週に数回、彼女がこうやって洗濯物を干しているのを見守るのが楽しみだった。

「ああ……可愛いよ。哀香ちゃん……」

 俺は思わず独り言を呟く。

 俺に見られているなんて気づかずに、日常の一コマを過ごしている彼女。何気ない瞬間を切り取って保存するのはなんだかいけないことのような気がして(もちろん見守っているだけだから仕方のないことなのだが)、それが俺をさらに興奮させた。

 俺も彼女の日常の一部になれているような気がして嬉しかったのだ。

 やがて哀香ちゃんはベランダに出てきた。彼女はいつも晴れた日は、この時間に洗濯物を干しにくることを俺は把握していた。

 ──家事もできてえらいねぇ。

「ん? ……え!?」

 俺は異変に気づいた。

 いつもとは違う彼女の変化。

 彼女が手に持つ布。

 それは、パンティーだった。

「え! え!? ええ!?」

 そして、ブラジャー。

 哀香ちゃんは下着を干し始めたのだ。

 俺は困惑しながら何度もカメラをズームする。俺は興奮を抑えきれず鼻息が荒くなった。

 いままでこんなことはなかった。女の子の一人暮らしだし、今まで下着は部屋干しかコインランドリーで済ませていると思っていた。それがまさかのベランダ干しである。

 引っ越して数ヶ月で生活にも慣れて、気が緩んできたのだろうか?

 彼女らしい慎ましいシンプルな純白。それと可愛らしい淡いピンク色。小さく入ったワンポイント。数種類のパンティーが丁寧に干されていく。それから、おそらく下着とセットであろう同じデザインのブラジャー。

「う、お……」

 俺は生唾を飲み込んだ。

 まさかこんなチャンスに巡り合うことができるなんて思っていなかった。この機会を逃してはいけないと直感的に感じた俺は、カメラのシャッターを切った。

 風になびくブラとパンティー。

 きっとあれは風鈴。

 俺の心に響く初夏の訪れ……。


***


 あくる日の朝。

「おはよう!」

「……おはようございます」

 今日も俺は彼女に挨拶をする。ジメジメとした鬱陶しい梅雨は終わって快晴の日が続いており、俺は気分がいい。

 哀香ちゃんが下着を干す頻度も上がってきた。計測できるデータが増えてきて最近気づいたことがある。

 おそらく、哀香ちゃんは曜日によって着る下着を変えている。俺はそう推論を立てた。今まで見た7種類のブラとパンティーがローテーションされる頻度から推察して、おそらく間違いない。

 聡明そうで几帳面そうな哀香ちゃんらしい。

 今日も駅まで行く彼女の後ろ姿を見守る。

 最近は、大学にも慣れてきたのだろうか? それに暖かくなってきたからなのか、短めのスカートを履く頻度が増えた。今まではどちらかというと清楚な雰囲気の服で露出が少ないものが多かったから、ギャップがあってすごく可愛い。

 このまま見守りを続けたらもしかして、彼女の生パン姿が見れる日がくるかもしれない。そう思うと心が弾んだ。

 今日は水曜日。おそらくはピンクのフリル……。


***


 ある日曜の昼下がり。

 待ちに待った瞬間は訪れた。

 梅雨が終わって、太陽がまぶしい季節。都心は今年初めての夏日を記録した。

 俺が朝、哀香ちゃんが干した下着を見守っているとベランダの窓が開いた。彼女が姿を現したのだ。

 しかもその姿は、薄手のTシャツというラフな格好。下は……パンツ一枚!

「お……おお!」

 俺は興奮のあまり声が出た。

 哀香ちゃんが、下着姿で現れたのだ。ついにいつも干されていたあの下着を彼女が身につけている姿を確認することができた。

 白のレース。清楚でいてセクシーさもある。デザイン自体は可愛らしいものだが、ワンポイントとして付いている小さなリボンがすごく似合っていた。

 彼女はベランダに出ると、しゃがみこんで洗濯カゴを漁り始めた。俺はそれを固唾を呑んで見守る。

 一眼レフのシャッターをかき鳴らしてその姿を記録した。今日が晴れていてよかった。人を脱がすには北風よりも太陽。仕事を辞めずに頑張っている神様から俺へのご褒美。見守り続けたことへの彼女からの報酬。彼女は女神だった。

 そして、洗濯物の乾きを確認した哀香ちゃんはすぐに部屋に戻っていく。

 ほんの数十秒のことだったから彼女は大丈夫だと思ったのだろう。俺だったからよかったものの、致命的な油断だった。

 親元を離れて一人暮らしの女の子。しかも、大学生活に慣れてきたから気が緩むのは仕方ないことだと思うが、無防備すぎると思う。世間には頭のおかしい奴がいっぱいいるっていうのに。彼女は純真すぎる。

 やっぱり、俺が守ってあげなきゃいけない。彼女には俺が必要だ。痛いくらいもりあがった股間のソレも俺に訴えかけている。

 彼女がカーテンを閉めたら、この気持ちを鎮めなきゃいけない。

 はやる気持ちを抑えて、哀香ちゃんが見えなくなるまで待っていた。早く発散したい欲望と、まだ見ていたい欲望に挟まれて悶々とした情動でイライラした。

「哀香ちゃんのパンツ姿ぁぁ!!」

 俺はヌいた。


***


「……え?」

 ある日、想像を超える事態が起きてしまった。

 カーテンが閉められたと思ったら中途半端に開いていて、隙間からワンルームの部屋の中が丸見えになっているのだ。

 窓際の黒い机とベッド。それと本が詰まった本棚。フローリングにはほとんど物が置かれておらず整然と整理されている。

 女の子の部屋は洋服とかバッグとかで散らかっているっていう勝手な偏見があった俺はそれを見て、ああ……哀香ちゃんはやっぱり真面目な子なんだなあと感心した。

 哀香ちゃんの部屋の中をこんな見れる機会なんて初めてだったから、狂ったようにシャッターを押した。

 嬉しくてたまらなかったのに現実はそれだけでは終わらなかった。

「う、嘘だろ……ま、まさか……ついに?」

 俺は衝撃のあまり立ちくらみがした。

 なぜならば、彼女は部屋で着替え始めたからだ。

 パンツ丸出しの姿から部屋着とかスカートを身につけるとかそんなチャチなもんじゃ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗だった。

 哀香ちゃんは、さっきまで着ていた薄手のTシャツを捲り上げた。脱いだのだ。そして、彼女はブラジャーを露わにしてしまった。

「え……え?」

 あまりにも驚きすぎて頭が真っ白になった。彼女の下着も真っ白だった。

 その豊満なバストに窮屈そうなブラは、特に刺激的なデザインというわけでもない。しかし、俺はそのブラに釘付けになった。今にも張り裂けそうな膨らみ。哀香ちゃんは着痩せするタイプだった。

「あおぅ……」

 俺は変な声が出てしまった。唾を飲み込む音でさえ聞こえてしまうような気がして、息を止めてしまう。

 あの布一枚の下には哀香ちゃんの巨乳おっぱいが隠されている。

 生のおっぱいには出っ張りがついているはず。つまり乳首。哀香ちゃんの乳首が見たい……。

 ごくり。生唾を飲み込んだ。

「!!!!!」

 くるりと哀香ちゃんは背中を向けた。

 お尻に食い込んだパンティも魅力的だったが、事態はそれどころではなかった。

 哀香ちゃんは両手を背中に回してブラのホックをいじり始めた。

 ──ま、まさか脱ぐのか!?

 そのまさかだった。

 ホックが外れてブラジャーが肢体を滑り落ちる。

 哀香ちゃんはパンツ一枚の姿になってしまった。

 シミひとつない美しい背中がレンズを通して俺の網膜に焼きつく。

「こっちを向け!!」

 俺は叫んでいた。

 ちょっと振り返るだけで哀香ちゃんの生おっぱいがそこにはある。

 チラッとでも見えたら激写する準備は整っている。

 横乳でもいいからさっさと乳首を見せろ! って怒鳴りそうになる。

 なのにその日は背中までしか見えなかった。

 哀香ちゃんが後ろ手でカーテンを閉めたのだ。

「くっそおおおおおおお!!」

 俺は焦らされて絶叫した。


***


 3週間後。

 まだ俺は哀香ちゃんの生おっぱいの全体像を見ていない。

 何度もおしいシーンはあったけれど、哀香ちゃんは俺に下着姿まで見せてくれなかった。

 ギリギリのところでお預けにあう出来事が何度もあり、俺は神様の悪戯と、哀香ちゃんの絶対領域に歯痒い日々を送っていた。

 まるで俺を焦らすような日々。もしかして、わざとやっているのかと疑いそうになる。

 少年漫画のお色気シーンとかでパンツやブラまでなら見えるけれど、乳首だけは絶対に見えない。そんな全年齢向けへの規制に似た、ご都合主義を感じて神様を恨んだ。

 でも同時に、他人に簡単には体を許さない純白の美しさを哀香ちゃんに抱き始めていた。

 ──偉いね。

 俺は暖かな気持ちになっていた。

 性に乱れた最近の若者と違って哀香ちゃんは、慎ましくて、身持ちが堅い。

 たぶん、年頃からして彼女のお父さんと俺は同年代だろう。親元を離れた彼女を俺が代わりに見守ってやっている。これが無償の愛なのかもしれない。

 実質、俺は哀香ちゃんのお父さんだった(?)

 ──微エロも悪くない。


***


 しかし、その日は違った。

 その日は訪れてしまった。

 せっかく俺が彼女の純真さと清純さに思いを馳せていたのに、現実がそれを許してくれなかった。

 突然カーテンが全開になって、下着姿の哀香ちゃんが俺の前に現れたかと思ったら、カメラの正面で背中に手を回した。

 ブラジャーを脱ぐつもりのようだ。

 ──まさかそんなことがあるわけない!

 俺は椅子から転がり落ちた。

 俺は今までの人生で何も上手く行ったことはない。学生時代は女にバカにされた記憶しかないし、まともに女に相手にされたことなんてない。金を払わずに俺の前で服を脱いでくれる女なんていなかった。

 だから、そんなはずはないのだ。しかし、俺の目の前には現実がある。

「や、やめろ……」

 なぜか俺の口から否定の呻きが漏れた。

 それを望んでいるはずなのに、叶ってほしくないという気持ちが同時に存在してせめぎ合う。真面目で頭のいい彼女のアレを俺なんかが見ていいのか……? っていう自己嫌悪なのか罪悪感なのか感情がわからない。もしかしたら、畏怖の感情かもしれない。大いなる存在に対する畏敬の念。

 いまならばまだ間に合う。

 ──いいの? 哀香ちゃん? 俺なんかに見られちゃうよ?

 自分を卑下して心の中で問いかけた。

 でも哀香ちゃんはそんな俺には気づくことなく、手を背中に回した。

 パチンとホックが外れた幻聴が聞こえた。

 ──嘘だ!

 嘘ではなかった。

 ぷるんと弾けるようにブラが外れて、彼女の大きな胸があらわになった。

 俺は思わず、カメラのズーム機能で彼女の胸をアップで凝視した。

「は、はあ……」

 息が荒くなる。

 慌ててズームした一眼レフの被写体には、白く大きな乳房とピンク色の突起が映っていた。張りがありつつも柔らかそうで弾力がありそうな質感をしているのに、乳首は重力に逆らって上を向いているから不思議。美しいその形に魅了されそうになった。

 ──これじゃだめだっ! バカが!

 俺は冷静さを失って思わずズームしすぎていた自分を叱責する。

 おっぱいだけじゃダメだ。哀香ちゃんの顔と一緒に撮らなければ意味がない。ピンぼけなどあってはいけない。冷静に冷静に。

 俺は自分を律して拡大率をいじる。やがて片方しか写っていなかった膨らみは、両方の膨らみになり、やがて彼女の顔と同時に網膜に飛び込んできた。



 ──うっっっぉおおおおおおおおおおお!!

 俺は心の中で雄叫びを上げた。

 哀香ちゃんのおっぱい!! 哀香ちゃんの乳輪!! 哀香ちゃんの乳首!!

 俺は狂ったようにシャッターを連打した。この奇跡の光景を網膜とSDカードに焼き付けなければならない。彼女の動きがコマ送りになったかのように目の前がチカチカする。

 これはもう芸術品と言ってもいいのではなかろうか? 哀香ちゃんの生のおっぱいが揺れている。俺の人生でこんなに幸せなことがあるなんて信じられない! もう死んでしまっても悔いはない! いや、まだ死ねない! 俺が彼女を見守らなければならないのだから!

 幸せの絶頂。なのに俺の幸せはまだ終わらなかった。

 ブラを床に落としてパンツ一枚の彼女。

 そしておっぱい丸出しの哀香ちゃんはそのパンツすら脱ぎ始めた。

「あっ、あっ」

 俺は慌てた。哀香ちゃんの生おっぱいを見るのに数ヶ月掛かったから、生お◯んこを見る機会はまだまだ先のことだと思っていた。何年でも待つつもりだったのに……。

 焦って三脚を倒さないように、俺はカメラをしっかり固定した。

 もっと勿体ぶってゆっくりと脱いでくれてもよかったのに、俺に見られてるなんて思っていない哀香ちゃんは、ためらいなんてない。ストンと布が落ち、クシャッとなって足から引き抜かれた。

 あまりにもあっけない脱衣。

 哀香ちゃんは全裸になった。

 ──うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 俺はまた心の中で絶叫して、シャッターをかき鳴らした。

 何もかもが丸見え。

 ──哀香ちゃんのお◯んこ! おま◯こ! おまん◯!

 真面目な彼女らしくない意外にも茂った陰毛がエロかった。でもそんなところも男慣れしてない感じで可愛くて、余計に興奮させられた。

 くるりと哀香ちゃんは後ろを向いた。

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!!

 ──ケツケツケツケツケツケツケツケツケツ!!

 哀香ちゃんの後ろ姿。細い腰と生の割れ目も記録した。

 やった! やった! やってやった! 成し遂げた! 俺は何度もガッツポーズした。

 こんな可愛い子のおっぱいも乳首もアソコも尻も撮ることができたのだ。嬉しくないわけがない。

 いや……違う。

 あの『哀香ちゃんの全裸』が撮れたのだ。

 俺だっていい歳だから、アダルトビデオで女の裸を見たことくらいある。だが、顔見知りの子の裸を無修正で見れる機会なんてそうそうない。

 哀香ちゃんの一糸まとわぬ裸体が今、俺の手の中にある。真面目で純情そうな子だったし多分……いや絶対に処女に決まっている。もしかして、俺が初めて哀香ちゃんの裸を見た男かもしれない。

 哀香ちゃんの裸は俺だけのものだ。そう思うと優越感で胸が満たされた。

「むふぅー……」

 俺はあまりの嬉しさに、思わず鼻の下がのびる。

 その時、哀香ちゃんが振り返った。

「え!?」

 俺は突然のことにビクッとしてしまって瞼をカメラにぶつけてしまった。

 まさか気づかれた!? 一瞬、そう頭をよぎったが、すぐにその心配はないと気づいた。

 哀香ちゃんはただ窓越しに外の景色を見ているだけだった。

 おっぱいも陰部も一切隠そうともせず何処かを見つめている。誰かに全裸を見られているのに気づいたのに、そんな態度をとるわけがない。

 それは、何もない空間を見つめる猫のようだった。

 やがて彼女はそのまま窓に近づいてきた。ガラッと窓を開けてベランダを覗き込む。


 そして、『気のせいか』って顔をして窓を閉めカーテンをサッと閉じた。

 哀香ちゃんの全裸が見えなくなってしまった。

「はぁー……」

 俺は全身の力が抜けた。やはりバレたわけではなかったようだ。

 緊張感と達成感と安堵感。その全てが一気に押し寄せてくる。それと別な感情も湧き上がってきた。

「うっ! ふぅ……。やばい……ちょっと出た……」

 股間を見ると、俺の息子がはち切れんばかりにパンツを押し上げてテントを張っていた。

 もうちょっと我慢しろ俺。

 俺はパソコンを立ち上げて、写真の処理と印刷を開始した。

 ──いつでも大きい画面で確認できるようにタブレットが欲しい……。

 その日、俺は6回ヌいた。


***


 次の日、俺はi◯adを買った。

 その足で俺は天気がいいから公園に散歩にきた。

 新しい電子機器はわくわくする。

 家族連れでやかましい公園のベンチで俺は哀香ちゃんの全裸を鑑賞した。


***


 後日。

 あの事件から一週間ほどが経っていた。あれから機会に恵まれることはなかったが、哀香ちゃんは相変わらずの様子で特に変わったところはない。いつも可愛い。

「あ! ……こんにちは!」

「あ、どうも……」

 その日は珍しく夕方に話しかけた。俺は平静を装ったが、内心は心臓がバクバクしていた。彼女の帰宅時間は把握しているから偶然を装うのは簡単だったけれど勇気が出なかった。

「……」
「……」

 それから会話が続かなくて気まずくなった。いつもなら挨拶程度で俺はすぐその場を後にしてしまうのだが今日は違った。彼女となにか話したくなってしまったのだ。とはいっても、話すことが思いつかず俺は口篭ってしまった。

「お仕事終わりですか……?」

 するとなんと哀香ちゃんの方から俺に話しかけてきてくれたのだ。まさか彼女の方から会話をしてくれるなんてうれしくて心拍数が跳ね上がる。

「うん!! そうなんだ! あい……君も! 今帰り?」

 テンションの上がった俺は思わずまだ聞いたことのない名前を呼びそうになったけれど何とか踏みとどまった。

「……あ、はい。」

「そうなんだ! 奇遇だね! いやー今日も疲れたよ。上司がうざくてさぁ。えっと、政治とかもいろいろあるよねぇ。ニュースとか見てる?」

 俺は出来るだけ面白い話して哀香ちゃんとの会話を続けようとした。

「……お仕事お疲れ様です」

「ありがとう!嬉しいよ労ってもらって!」

「……」
「……」

 ここで会話が終わってしまった。気まずい沈黙が流れる。

「……それじゃあ失礼します」

 先に口を開いたのは哀香ちゃんだった。俺は別れが惜しかったが、引き留める理由がない。俺は彼女の背中を見送った。

 もちろん哀香ちゃんの後ろ姿がなくなるまで目を離しはしない。

 俺は知っている。スカートの中身。パンツの向こうにあるプリっとした生のケツ。俺は見たことがる。秘密の茂みの奥のお◯んこまで……。

 思い出すと心臓がドキドキしてきた。

 急いで自分の部屋に戻ろう。

「はあ……」

 俺は我慢できずにため息をついた。もっと話したかったなぁ……。もっと彼女のことが知りたいなぁ……。でも、焦りは禁物だ。俺はじっくりと時間をかけて彼女を見守っていくと決めたのだから。

 部屋に戻って電気をつけた。

「ただいま。哀香ちゃん」

 俺は壁一面の彼女に話しかけた。

 あの時撮った写真は引き伸ばしてラミネート加工して壁に貼ってある。

 俺のために全裸になってくれた哀香ちゃん。

「今日も可愛いね」

 ちゅ♡ っと哀香ちゃんの股間にキスをした。両方の乳首も舐めてあげて、お尻に頬擦りをする。そして、唇に俺のモノを擦り付けた。

「好きだよ。哀香……」

 俺は俺だけの哀香ちゃんと一緒に住んでいる。


***


 あれから俺の生活は上手くいき始めた。

 上司に怒られることは無くなったしミスも無くなった。それだけじゃなく仕事を頼まれたり、同僚から相談を受けるようになった。身だしなみにも気を付けるようになったし、最近は酒も飲んでいない。

 なにもかも哀香ちゃんのおかげだ。やっぱり守るべき物があると人はやる気が出るんだな、と思う。

 部屋一面の哀香ちゃんの裸……。あれは今も俺のマンションの部屋に飾られている。もちろん誰も部屋に入れるつもりはないが、何日も放置しておくことはできないだろう。

 もしバレたら俺が仕事をクビになるだけじゃなくて哀香ちゃんにも迷惑がかかる。もし俺が捕まったりしたら、彼女の裸の写真が俺以外のやつに見られてしまうかもしれない。そんなことは許せない。

 絶対に早めに帰らなければいけないという緊張感が、俺にスリルとプレッシャーを与えてくれる。生活にハリを与えてくれる気がした。

 だから、今日も俺は哀香ちゃんのために定時で帰る。

 ──今から帰るよ哀香ちゃん♡


***


 あれからコレクションはどんどん増えていった。

 夏に近づく季節は人を開放的にする。

 エアコンの節約なのか窓を開けっぱなしにすることも増えた。吹き込む風でカーテンは意味をなさない。

 俺は心配だったから見守りの目を強めていた。

 ヨガマットを買った哀香ちゃん。ストレッチをして汗だくになった哀香ちゃん。服を脱いで裸になってくれた哀香ちゃん。風呂上がりにパンツ一枚でアイスを食べる哀香ちゃん。アイスが溶けておっぱいに垂れて慌てる哀香ちゃん。

 全てが可愛かった。

 ちなみに最近のお気に入りのショットは風呂上がりに全裸ストレッチする哀香ちゃん。

 うれしいおまけもあった。

 彼女と仲のいい女友達の悠莉ちゃん(最近名前を知った)はよくあの部屋に泊まりに来る。女の子2人の秘密の花園を覗き見ているようで、背徳感はひとしおだった。

 それにこの前、見てしまった。悠莉ちゃんの全裸も。

 お泊まり会でテンションの上がった2人はお風呂に入ったあと、あろうことか裸でじゃれつき始めたのだ。ベッドの上で無邪気にお互いをくすぐりあう姿は微笑ましくてほっこりした。

 あろうことか哀香ちゃんはベランダの方を向けて、悠莉ちゃんの乳首をこねくり回した。

 身を捩って股を全開にする悠莉ちゃん。どうやら彼女は乳首が弱点のようだ。

 その時、俺は偶然その光景をカメラで記録してしまった。もちろん俺は哀香ちゃん一筋だから、彼女の裸を部屋に飾ることはしないが、念のためにパソコンの中に保存してある。


***


 ある日、変化が訪れた。

 いつものように風呂上がりの哀香ちゃんを撮影している時、俺は異変に気づいた。

「あ、あれ? ツルツル?」

 いつもはそこにあったモノがなかった。

 哀香ちゃんのお◯んこは無毛になっていた。驚いて自分の部屋を見渡しても先週撮った写真にはしっかり陰毛が確認できる。

 剃ったのだろうか? それとも脱毛?

 俺に許可を取らずに勝手に……? 俺は知的な彼女に似合わない伸ばしっぱなしの毛も好きだったから怒りが湧き上がったけれど、哀香ちゃんの決めたことだし寛大な心で許してあげることにした。

 ツルツルになったお◯んこはきゅっと入口を閉じていて、割れ目がよく見えるようになっていたから。

 俺に見せるために脱毛してくれたのかもしれない。

 もちろん新しい哀香ちゃんの写真もちゃんと撮ってあげた。

 哀香ちゃんのお股の写真は、比べられるよう隣に飾ってあげた。

 拡大して引き伸ばした彼女の股間。

 毛ありバージョンと毛なしバージョン。

 顔を近づけてぺろぺろと舐め比べた。

「本物の味も知りたいなぁ」

 後日、尾行して彼女が脱毛サロンに通い始めたことを知った。


***


 ふいに運命の日は訪れた。

 部屋中の哀香ちゃんはもはや壁を埋め尽くして、厳選が必要な量になってきていた。

 何度、彼女のおっぱいを見てもアソコを見てもお尻を見ても俺は飽きることがなかった。

 たくさん撮った。もう数え切れないくらい。

「へへへ……今日も撮ってあげるからね……」

 俺はカメラを構えて、彼女の裸体を撮影する準備をする。今日は日曜だから一日中、見守ってあげることができる。

 午前中の4時間。哀香ちゃんはずっと机に向かって勉強していた。流石は有名大学の特待生。大学生は遊び歩いているってイメージがあったが、俺の哀香ちゃんは勉強も手を抜かずに頑張っているのだ。

「偉いね……哀香ちゃんは……」

 俺はそんな真面目なところも好きだった。

 哀香ちゃんのお昼は自炊したご飯。美味しそうなオムライス。哀香ちゃんの手作りオムライスを食べたいって気持ちはあるが、仕方ないから俺は宅配のオムライスで我慢する。哀香ちゃんと一緒に食べるお昼ご飯は幸せだった。

「美味しかったね。哀香ちゃん……」

 午後になっても哀香ちゃんは机から離れようとしない。

 夕方までの4時間。再び彼女は机に向かい続けた。

「……」

 俺は彼女の勉強の邪魔にならないように静かに見守る。

 午後6時ごろ。哀香ちゃんはようやく机から離れた。流石に疲れたらしく険しい表情をしていた。勉強の時つけるメガネを外して伸びをする。

「おつかれさま。哀香ちゃん……」

 俺が労うと彼女は服を脱ぎ始めた。

 もう夕方だしリフレッシュも兼ねてお風呂に入るつもりなのだろう。哀香ちゃんはお気に入りの部屋着をを脱ぎ始める。張り付いた服で、彼女の汗の匂いを想像して興奮した。

 そして、ブラもパンツも脱いで全裸になった。

「ダメだよ哀香ちゃん……脱衣所で脱がなきゃ」

 しょうがない彼女のために俺はその姿を撮影してあげた。俺が記録しておかなければいけないのだ。

 彼女がお風呂に入っている間に写真の整理をしようかなぁ、と俺がぼんやりと思っているのにシャッターは鳴り止まない。いまだに全裸の哀香ちゃんが目の前にいる。

「……え?」

 そして、そのままベッドの上で仰向けになった。

 俺に向かって股を開きメチャメチャに淫部を愛撫し始めた。クリクリと摘んでは引っ張って刺激を加えている。

 哀香ちゃんは俺に見られているなんて知らずにオナニーを始めてしまったのだ。

 せつなげな表情でお◯んこをいじる哀香ちゃん。

 初めて見た彼女の自慰行為。

 俺はもう半狂乱になりながらシャッターを連写していた。

 こんなことが見れるなんて思いもしなかった。清楚で大人しくて頭のいい哀香ちゃんが、こんな過激なことをするなんて……。女の子も1人でこんなことするんだ……。

「うっ」

 俺のモノはすでにビンビンに勃起していて張り裂けそうだった。今日は初めからパンツを脱いでいたから、すぐに棒を掴んでシコり始める。

 哀香ちゃんの動きに合わせて俺も手を動かす。

 俺は哀香ちゃんと一緒にオナニーをする。

 大好きな哀香ちゃんと一緒にこんなことができるなんて思わなかった。

「うっ……哀香ぁ! 哀香ぁ! 哀香ぁ!」

 俺は彼女の名前を何度も呼びながら、彼女の裸体をオカズにシコり続けた。

 やがて哀香ちゃんも指の動きも激しくなってきて、刹那気な表情になる。ああ、彼女も限界なんだと俺は悟った。

 そして、哀香ちゃんの体がそり返って震えた。それと、同時に。

「出すぞ! 哀香! うっ……うっ……!!」

 俺の股間から液体が飛び散った。飛び散った白濁液はプリントアウトした哀香ちゃんの写真にぶちまけられる。

 絶頂で飛びそうになる意識を必死に留めてカメラを覗く。

 哀香ちゃんもピクピク震えて、余韻を味わっていた。

「気持ちよかったね……哀香ちゃん……」

 俺たちは一緒に果てた。

 俺はシャッターを切り続けることを忘れない。

 哀香ちゃんはベッドで息を整えていた。俺もその様子を見守り続ける。

 このままずっとこんな幸せな時間が続けばいいのに……。俺は優しく彼女に微笑んだ。

 ……だが、彼女の行為はまだ終わっていなかった。

 しばらく天井を眺めていた哀香ちゃんはベッドの小脇に手を伸ばした。そして取り出したモノを見て俺は驚愕することになった。

 哀香ちゃんはディルドを取り出したのだ。

 M字開脚の姿勢になったかと思ったら、躊躇いなく自分のアソコに挿入した。それからスイッチを押すとバイブレーションが始まった。ビクビクと腰と尻を振る哀香ちゃん。

 俺はもう言葉を失っていた。

 あの真面目な哀香ちゃんがあんな大人のおもちゃを持っていたなんて気づかなかった。

 この数ヶ月で何百枚も裸の写真を撮ってきたのに知らなかった。ちょっと悔しい。別の顔。俺はショックを受けながらも目が離せなかった。こんなレアな光景を逃す俺ではない。半狂乱を通り越した賢者の境地でシャッターを押す。

 下品に股を開いて喘ぐ哀香ちゃん。

 彼女のイメージとはかけ離れていたけれど、ここは彼女のパーソナルスペース。誰かに見られているなんて思っていないのだ。

 やがて哀香ちゃんは2度目の絶頂を迎えた。

 俺も一緒にそれを味わおうとしたけれど、若い女の子のペースについていけず、少し遅れてからようやくだった。年長者としての威厳を奪われたような情けなさを感じて地面に膝をついていると、彼女はお風呂に行ってしまった。

「へへ……」

 だが俺は哀香ちゃんの痴態を写真に収めることができた。俺のコレクションの中でも1番のお気に入りになった。

 30分後。

 お風呂から上がった哀香ちゃんは夕飯をすませた。

 そしてまた机に向かう。

 再び眼鏡をかける彼女の顔は無表情。勉強に集中している。まるでさっきのことが全て幻だったとでも言わんばかりの冷めた瞳。時々、湿度を帯びた髪をかきあげる仕草が色っぽい。

 俺みたいなスラム街で生まれた庶民は顔を見ることすら不敬で処罰される高貴なお姫様。

 だがお姫様もオナニーをする。

「……哀香様」

 俺は哀香ちゃんを見守り続ける。

 身分違いの恋に身を焦がして……。

 そして、午後11時。彼女はようやく机から離れた。

 その日、彼女は12時間以上勉強していた。

 俺のチ◯ポは擦り切れるんじゃないかってくらいジンジンとしていた。哀香ちゃんの勉強を応援しながら5発抜いた。瞬発力に自信はなかったが、持続力だったらまだ若い子にも対抗できる。

 きっと哀香ちゃんを満足させてあげることができるはずだ……。

 俺が王子様になってやってもいい。


***


 我慢は限界に来ていた。

 哀香ちゃんを見守って数ヶ月が経った。何千枚もの写真を撮りSDカードを何枚も消費した。

 家具は邪魔だから全て処分した。壁面全てを哀香ちゃんで埋め尽くしてもまだ足りなかった。

 そして俺は決めた。

 哀香ちゃんを迎え入れよう……と。

「一緒に暮らそう、哀香ちゃん……」

 俺が一生哀香ちゃんを守ってあげなければいけない。そのための決意と覚悟は決まっていた。

 哀香ちゃんにプロポーズをしよう。

 突然のことで彼女は驚くかもしれないが、この部屋を見せれば俺の愛の深さを分かってくれるに決まっている。

 それに俺は哀香ちゃんのことならなんでも知っている。乳首からケツ穴まで、オナニーを始めてからイクまでの平均タイムでさえ知り尽くしているのだ。そんなの運命の男じゃん? 万が一……いや、ありえないことだが、俺の思いが何かの誤解とかで受け入れられなかった時は、間違いを正すために強硬手段に出なければいけない。俺は哀香ちゃんとこれから一生一緒に暮らしていくのだから、ある程度は躾が必要だと思う。今まで撮った写真でまずは脅……説得して分からせてあげよう。あはは、今時の子は亭主関白な男だと引いちゃうかな? でも、一度体を重ねて愛し合えば哀香ちゃんは分かってくれると思う。何度も一緒にオナニーして予行練習はバッチリだし、体の相性もいいに決まっている。夫婦になるのだからゴムもいらない。俺の熱いミルクを一滴残らず哀香ちゃんに注いで分からせてあげよっかナ……なんちゃって笑。最低でも朝昼晩1回づつ子作りセックスしようね♡ 大学は辞めてもらうことになるだろうけど愛のためだから仕方ない。子供は4人ぐらい欲しい。もちろん全員女の子。どの子も哀香ちゃんに似て可愛いはず……。

 給料の3ヶ月分で結婚指輪も買ったし縄と手錠も買った。

「待っててね、哀香ちゃん……」

 俺は希望に胸を膨らませて玄関に駆け出した。


***


(悠莉視点)

「おはよう、哀香」

 私は友人のマンションに遊びに来ていた。今日は日曜日で、前々から一緒に勉強しようって約束していたから楽しみにしていたのだ。

「あ! 悠莉!」

 彼女は私のことを笑顔で出迎えてくれた。この数ヶ月で何度も遊びに来たからすっかりお馴染みになった部屋。私はその慣れた風景に安心しながら靴を脱いで部屋に上がる。

「ごめん。ちょっと遅れちゃった」

「ううん。それはいいけど……大丈夫だった!? 何度も連絡したんだよ!」

「え?」

 なぜか哀香は心配そうに駆けてきて、私の胸に顔を埋めてきた。彼女を抱き止めてスマホをつけると何件も不在着信が入っていることに気づく。

「ごめん。音消してたから気づかなかった……」

「そっか……なら、いいんだけど。なにもなくてよかったよぉ」

 安堵に染まった声で哀香は言った。

「……」

 私はなにも言わなかった。彼女がなにを言いたいのかいまいち確証がなかったのだ。

「なんかね、この辺で事件があったらしいよ。朝から近くに何台もパトカー停まったりして中継ヘリとかも飛んでたんだから!」

「事件? どんなの?」

「わかんない。でも、なんか誰かがナイフを振り回してたらしいって……通り魔事件?」

「そう……哀香は大丈夫だった?」

「……うん! 私は大丈夫! 悠莉が無事でよかったよ!」

 彼女はそう言ってまた私に抱きついてきた。彼女の体は震えていたから、きっと怖かったのだろう。

 私はなにか腑に落ちないものを感じた。でも、なにも言わずに哀香を抱きしめた。

「ねえ、今日は勉強するような気分じゃなくなちゃった……2人で映画でも見て過ごさない?」

「いいね……」

 そうして私たちはベッドに寝転んでタブレットで映画を見ることにした。

「あ、エアコンつけるね」

 哀香が私に気を遣ってエアコンのリモコンに手を伸ばす。彼女は節約だと言って1人だと冷房を我慢してしまうタイプだった。

「え?」

 ふいに哀香が驚きの声をあげた。開けていた窓を閉めようとして何かに気づいたようだ。

「……どうしたの?」

「あれって……」

 事件が起こっていた。

 目の前のマンションに仰々しい非常線が貼られ、黒と黄色の立ち入り禁止テープが道を塞いでいる。警官も何人も立っている。

 道路を挟んだ反対側にあるマンションで事件があったのだと一目でわかった。この部屋の真っ正面の部屋で何かが起こったのだ。向かいのベランダには何人もの鑑識と思しき人物が作業をしていた。

 やがてそれさえもブルーシートに覆われて見えなくなってしまった。

「……」

「哀香……?」

 彼女の顔は何かのショックを受けたように目を見開いている。

「事件ってあの部屋の人だったんだ……」

 自分の住んでいる目と鼻の先で事件が起こっていることに流石にショックを受けたみたいだった。無理もない。なんて自分の身に降りかかるなんて普通考えないし、しかも住んでる近くで事件が起きるなんて想像しただけでも恐ろしいだろう。

「……大丈夫だよ。犯人のは捕まったみたいだし」

「……男?」

「ストーカー男なんてキモいよね……」

「……ストーカー?」

「……? 大丈夫? ……今日は泊まっていこうか私?」

 私は窓の外を眺める哀香が遠い目をしているような気がして不思議に思った。

「哀香……?」

「ありがとう悠莉。大丈夫だよ。私は大丈夫……」

 哀香は自分に言い聞かせるように呟いた。

 私はなにも気づかないフリをした。彼女の変化に気づいていたけれど、だから、きっと気のせいだと自分に言い聞かせるしかなかった。

 ベランダから吹き込む風が哀香の黒髪を怪しく靡かせていた。

 ポツリと哀香は口を開いた。

「それにしても……誰が通報したんだろうね?」

「え?」

 彼女の横顔を見て、私は震え上がった。衝撃で瞳孔が開く。

 悪寒がした。そして、私の言いようのない不安は彼女の呟きで現実になる。

「……私じゃないのに」

 風があたる彼女は、遠い目で残念そうに向かいの部屋を見ていた。

 全てを知っていたみたいに……。



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