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15’悠莉処女喪失
72.同じになりたい
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(悠莉視点)
あの映像を見た1週間後。
大学で午前中の講義を受けたあと、一緒にお昼を食べるため、学食で待っている哀香の元へ向かっていた。
先に到着していた哀香を発見すると、仏頂面で本を読んでいた。彼女は私の存在に気づくと、場所取りしてくれていたテーブル席の片方から荷物をどかす。
「……ん」
「ん」
私は自分の荷物をそこにどさっと置いて、無言で券売機に向かう。適当にエビフライ定食を注文し、席に持ってきた。
「……」
「……」
無言で衣ばかりのエビフライを口に放り込み、もぐもぐと咀嚼する。先に食べ終わっていた哀香は、無表情で文庫本に目線を落としていた。
長い黒髪をかきあげた哀香のうなじが見えてドキッとした。ミステリアスという言葉がぴったりな正統派美少女。少なくとも外見の上では。その内面にどんな怪物が潜んでいるのかは、私でさえわからない。
わかりたかったけど、わからないらしい。
じつは私と哀香は喧嘩中だった。
喧嘩中なのに一緒にいる理由は、私たちにもわかっていない。ただ、いつも一緒にお昼を食べていたから、一緒にお昼を食べている。それだけ。
ちなみに喧嘩の原因は哀香のせい。私は悪くない。
哀香は私に向かって『絶対に言ってはいけないこと』を言った。
だから、その言葉を聞いた時、思わず彼女の頬を平手打ちしてしまった。爪で引っ掻いて首すじから血が出た。貼ってある絆創膏を見るとちょっとだけ胸が痛むけれど、私は悪くないからこっちから謝るのは絶対に嫌。
チラチラと哀香が私を見ていることに気づく。でも無視している。
「……ねえ。……ごめんね。あんなこと言って」
「……」
数日に及ぶ不機嫌オーラ全開で接したことで、私はついに彼女を謝らせることに成功した。
なのに気分は晴れない。
「……別に。……私も、叩いちゃってごめんね」
やっとあのことを謝れた。素直に目を見れなかった。
「ねえ、哀香は……私のこと……好き?」
こんな質問、したくなかった。でも、私は哀香の気持ちをまだ知らない。
「好き」
「……そっか」
「愛してる」
「私も」
言葉が薄っぺらく聞こえる理由はなんだろう?
見え透いた疑問だった。
その理由を私はとっくに知っている。それは、私が私だから。私は彼女とは違う。私はまだ経験していなくて、彼女は経験したことがあるから。私が処女で、哀香は非処女だから。
世界は動き出してしまった。
「……ねえ哀香。鍵を貸してくれない?」
「鍵? どこの?」
「哀香の部屋の」
「なんで?」
「……あとで教えてあげる。私の家で待ってて」
「?」
「後で送るね」
私は哀香と仲直りしてしまった。終わってみればあっさりとした出来事。
彼女と仲直りしたらしようと決めていたことがある。この数日、渦巻いていたある考えに私は支配されていた。もう自分ではコントロール出来ない。
──どうしてこんなことになってしまったんだろう?
そもそもの原因は一週間前のあの事件なのは明らか。
そして『絶対に言ってはいけない言葉』のせい。
そのせいで私は決めた。
***
1週間前。
その映像を見て私は震えた。
それは『哀香が犯されて処女を奪われる映像』だった。
でもそれは当然の結果。自業自得の理由。
私の最愛の人である哀香は露出狂の変態。美少女なのに。
全く理解できないけど、自分の裸が他人(特に男)に見られるのが快感で、どうしようもなく興奮するらしい。私も彼女に付き合って何度か露出行為をすることになったのだけど、正直言って、屈辱でしかない。マジで最悪。
たまに一人で部屋にいると私の裸を見た男たちの顔がフラッシュバックして、屈辱感と羞恥心とかで感情がごちゃ混ぜになって、頭が変になりそうになる。
全裸を晒した。乳首もお尻も、お尻の穴まで……もっと恥ずかしい所も。
なんで私までこんなことを?
もし私たちのことを客観的に見ている人がいたら、私まで露出狂の変態だって勘違いされていたんじゃないかって……本当に嫌になる。私は露出狂ではない。
でも、好きな人のことは理解してあげなきゃいけない。できるなら理解してあげたい。共感したい。同じになってあげたかった。
だって、私は哀香のことが好きだから。愛しているから。
だから……嫌だけど脱いでいた。今も、嫌だけど脱いでいる。
哀香の裸が男たちに見られているのを、近くで見ていると興奮する。どうしようもなくゾクゾクする。
途中で気づいた。
──私は哀香にめちゃめちゃになって欲しかった。
綺麗なものが汚れるとき、私は抉られるような満足感を得られるらしい。
私も変態だったのだ。彼女とは別種の。
だから、望みは叶ってしまった。
「あはっ……あははっ……あっははははははっ!」
頭の悪そうなチャラ男3人組に哀香は犯された。頭が良くて美人の哀香があんなやつらに処女を奪われた。何度も中出しされ、好き勝手にもてあそばれた。
しかも、その一部始終は全て録画されている。
その光景を見て私は震えた。
最高の気分だった。
「あはっ……」
最高だった。最高に面白かったし楽しかったし嬉しかったし気持ちよかったし興奮した。
そして、涙が流れた。
気づいた時には股間をまさぐっていた。ゾクっとした刺激が内側から湧き上がる。
「ゆ、ゆうり……? 大丈夫?」
泣き笑いしながらオナニーする私を見て、ドン引きした哀香が心配して声をかけてくれた。
そんな哀香の口元も歪んでいた。
自分が寝ている間に裸にされて、身体を自由にしゃぶられ、ねぶられ、おもちゃにされて、処女まで奪われた映像を見たのに嬉しそうだった。
どうしようもない変態が目の前にいる。
ドン引きした。
でも私も同じ顔をしているのだろう。
「あむぅ♡」
気づいた時には私たちは抱き合って唇を重ねていた。
ビリビリと服が破れることを気にすることなくもなく、脱がしあってベッドに飛び込んだ。なんでこんな邪魔なものを着てしまったんだろう? 早く素肌を合わせたい。
「んちゅ♡……じゅる♡」
くちゃっくちゃっと舌を絡めながら唾液をすすりあう。生温かい舌が絡み合う度に脳に甘い痺れが走る。その刺激が心地よくて、もっと欲しくて私は唇を貪るように激しく舌を吸った。すると彼女も負けじと私の口を吸い始める。お互いの口の中で舌が激しく暴れまわって、まるで軟体生物のようににゅろにゅろと絡み合い唾液を交換する。
「ぷはっ……」
息が続かなくなって口を離すと透明な橋がかかった。それさえ逃したくなくてぺろりと舐めとった。
私たちは脱ぎかけだった服を全て脱いで裸になった。
あらわになった哀香の豊満な膨らみを見て、しゃぶりついた。
「あうっ♡」
突然の刺激に哀香は甲高い嬌声を上げる。もっとその声を聞きたくて、硬くなった先端部分を舌で転がした。舌先でチロチロと転がすとピクっと身体が跳ね上がる。彼女も私の両乳首をくりくりして反撃してきた。
「んああっ♡」
爪でカリッと引っ掻かれて思わず声を上げると、ぎゅうっと引っ張られた。
「くぅぅぅ♡」
今度は私が甲高い嬌声を上げてしまう。その隙に彼女は口を近づけて、ちゅうっと乳首を吸い上げた。
「んあっ♡」
思わず腰が浮く。哀香は逃がさないとばかりに腰に手を回して固定すると、さらに強く吸い付いてくる。カリカリと歯を立てて甘噛みされる。
「ああんっ♡……それっ……だめぇぇ♡♡ ぁん♡」
いままで彼女にさんざん開発されてきた私の弱点。乳首のいじり合いで勝ち目はなかった。ゾクっとして軽くイってしまう。
「あはっ……ちょっとイっちゃったね♡ 悠莉」
絶頂の余韻に浸る私の耳元で彼女がささやく。吐息がくすぐったくて、ゾクゾクする。悔しかったから飛びかかって哀香をベッドに押し倒し、その豊満な胸に平手打ちを喰らわせた。
「あんっ……痛っ♡」
ぶるんっと大きく乱暴に揺れる胸。私も女なのになぜこうも違うのだろうと思うと、ムカッとしたから何度か往復ビンタをしてやった。
「あうっ♡……あんっ♡」
そのたびに彼女は甘い声を上げる。
「ねえ悠莉、お尻も叩いて?」
「……変態」
そう言いつつも私は、彼女を四つん這いにさせ平手打ちを喰らわせてやった。パンッという乾いた音ともにメスの嬌声が上がる。
「あうううう♡……いいっ……気持ちいいよお♡」
叩かれる度に彼女は身体をくねらせ、秘部から蜜をこぼす。哀香にはMっ気があった。
「……んぁ♡」
「ちょっとイったでしょ? 哀香」
「えへへ……うん♡」
お互いの望むことをしてあげて、それがまたお互いを興奮させる。
「ん……ちゅ♡……じゅる♡」
私たちは唇を重ねながら、お互いの大事な部分に手を伸ばす。熱を帯びてぐしょ濡れだった。私も彼女も。
今度は体制を入れ替えてお互いの股間をぺろぺろする。
69(シックスナイン)って数字にエロい意味があることを知ったのは最近。
「んああっ♡……それっ……♡♡」
私が哀香の陰唇をしゃぶると、彼女は大きな嬌声を上げてよがった。そのままジュルルルと音を立てて吸い上げる。
「あああんっ♡……私もぉ♡」
彼女も私の敏感な部分を執拗に責めてくる。べちゃべちゃっとわざと音を立てて舐めたり、舌先でくりくりと刺激してきたりする。
「ふぁああああんんっ♡♡」
思わず腰が浮く。彼女は私の弱い部分を知り尽くしていた。でもそれは私も同じだから負けじと反撃する。
「ひゃうんっ♡……ああっ……そこぉ♡」
恥部を舐め合い、互いを貪っていると気分は最高潮に高まる。そのタイミングで示し合わせたように股間から口を離して、再び、唇で合流する。
「んっ♡……んんっ♡♡」
口の中に哀香の舌が侵入してくる。私も舌を絡ませて歓迎する。
股間が手で愛撫されている。ぐしょ濡れのそこを私の指が哀香が指で刺激してくれる。私も。
「ああんっ♡……ゆうりぃ♡♡」
「あああっ♡……あいかぁぁ♡♡♡」
私たちの境界線が曖昧になる。上も下もない。ひたすらお互いを愛撫しあう。唇を吸い、舌を絡める。相手にしゃぶりつき、舐め回す。
「んむう♡……ちゅぱっ♡」
「あうっ♡……じゅるるるるっ♡」
私たちは一心不乱に相手を求めあった。もう何も考えられない。
そして、私たちは合体した。
ふたりの性器を合わせてこすり合わせる。ぐちゅぐちゅっといういやらしい音がする。もう限界だった。快楽に脳が蕩けそうになる。
「あうっ♡……ゆうりぃ♡♡ねぇ見たぁ? 私ぃ男の人とセックスしちゃったぁ♡ パンパンされてジュポジュポされちゃった♡」
「ん……知ってるよ、私も見たもん……あんな奴らに哀香がぁ♡」
絶頂が近づいている。それは哀香もそうみたいで快感を高めるために言葉で感情を高め始めた。私も自分の性癖に従ってあの光景を反芻する。
「あの人たちのおち◯ちんが私のおま◯こに出たり入ったりしてた♡ それを悠莉に見られちゃった♡ 恥ずかしい姿をあなたに見られちゃった♡」
「見てた♡ 見てた♡ ……ああっ私も見ちゃった♡ あんなやつのち◯ぽが哀香のおま◯こに出たり入ったりしてた♡」
「初めてだったのにぃ……生で入れられてぇ♡……中出しまでされちゃった♡」
「あいつら! ゴムしろって言ったのに! 哀香の初めてがぁ……♡♡ 何度も何度もしつこく猿みたいに♡」
私の大好きな哀香があの3人なんかに……。その背徳感が私の興奮をさらに高める。思わず股間をこすりつけるスピードが上がる。腰が激しく動く。哀香もその動きに合わせてくる。
「お◯んこの奥まで突かれて♡……子宮に精子注がれて♡」
私と哀香が知り合ってもう直ぐ1年になる。お互いの感じる場所を教え合って、腰を打ちつけるタイミングとかも何度も練習して全部知ってる。遠慮のいらない信頼関係を築いてきたのだ。
今まで重ねてきた快楽の記憶が、私たちの興奮を最高潮まで引き上げる。
そんな子が私以外の人間に(しかも男)に処女を奪われてセックスしていた。強烈な嫉妬心が私を狂わせる。快感だった。同時に湧き上がる優越感。
──でも、本当の哀香を知っているのは私だけ。
たとえどれだけ汚されようと消えることのない美しさがある。純白の雪のような。
「寝てたからわかんないけどぉ。きっと気持ちいいのぉ♡……おち◯ぽが何回も出し入れされてぇ♡ 中に出してもらったらぁ♡」
「ああっ♡……ダメっ♡……私……♡♡!!」
腰の動きが加速する。もう止められない。止まらない。止めたくない。絶頂しそうになるギリギリまでスピードを上げる。哀香もそれに合わせてくれるから私は嬉しくなる。好きって気持ちがどんどん強くなる。
あ゛。イくって思った。
しかし、哀香はそのタイミングで『絶対に言ってはいけないこと』を言った。
「ねえ♡ 突いて! 悠莉じゃ絶対に届かないところ突いて♡ 孕ませてぇ♡ おち◯ちん気持ちいいのぉ♡ 奥まで突いて♡ 子宮まで突いて♡ 悠莉じゃ無理なのぉ♡ 悠莉は女の子だからぁ♡」
恍惚に満ちた表情で哀香は言った。
「……は?」
──は?
高まっていた感情が一瞬で空気の抜けた風船みたいに萎んだ。
「え……どうしたの──!っ痛……」
目の前が一瞬真っ暗になったかと思ったら、気づいた時には哀香の頬を平手打ちしていた。
「誰とでもいいの? 私とするより気持ちいいの?」
「……え。そういう意味じゃ……」
ドMの彼女をプレイとして叩くのではなく。単純な暴力だった。空気感の違いに哀香も気づいたようで困惑している。
「ねえ、答えて」
「……」
私は哀香の両肩を掴んで揺さぶった。彼女は目を泳がせて言い淀む。それが私の怒りを増幅させた。煮え切らない態度にイライラが募る。
──なんでそんなこと言ったの?
絶対に言ってはいけない言葉だと思った。
だって私たちは女同士だから。
自分たちが薄い氷床の上に立っていると気付かされた。性別という超えられない壁。同じ形をしているからこそ縛られる生物としての呪縛。それを超えるのは、信頼関係とか愛っていう無形の言葉だけ。
凹と凹。凸と凹。凸と凸。
ガッチリとハマるのは一つだけ。あとの二つの隙間を埋めるのは心だけ。
「……ごめん……悠莉……」
「なんで謝るの? そう思ってるってこと?」
私は立ち上がっていた。何を言われても彼女の言葉にイラついてしまう気がした。
「帰って」
「え……」
「送るから。外で待ってるから」
そそくさと服を着て私は家から出て行った。バイクにまたがって彼女が出てくるのを待つ。
──なんでこんなに怒っているんだろう?
自分でもよくわからなかった。
だって、哀香の性癖を一番知っているのは私だから。それにあれを望んだのは私自身のはず。
でも、原因はわかっている。
ずっと一緒に歩んで来たと思っていた。しかし、私たちの歩幅は変わってしまったのだ。長い時間をかけて積み上げたものがたった一夜で崩れ落ちたような嫌な気分。
哀香は自分が処女じゃないことを自覚してしまった。なのに私はまだ男との経験がない。
私たちの歩幅は変わってしまったのだ。
──私たちは変態でしょ?
私の中の変態性が落ち着けと訴えている。私の中の常識人としての気持ちが嫉妬で狂わせる。役割が逆。お笑い草。
そして、哀香を半ば無理やり送り届けて、一人になった。
「はぁー」
大きなため息が出た。
私は全てに気づいていた。なぜ自分が怒っているのかもわかっている。
──もし私が処女じゃなくなったら、哀香は私に嫉妬してくれるのだろうか?
間違いなく嫉妬してくれるに違いない。って思えない自分が嫌だった。もし? って思ったら怖かった。私が思っている感情を、彼女は私に向けてくれるのだろうか。ただ彼女は変態で、快楽のために私を利用しているだけなんじゃないか? って思ってはいけない不安に犯される。
この気持ちをどうすればいいのだろう?
でも、それを確かめる方法も私はすでに知っている。
哀香の反応を見ればいい。
私が彼女と同じになればいい。同じになった時、彼女は嫉妬してくれるだろうか? 同じになりたい。共感したい。同じがいい。
あの時と似た感情に支配された。
「……確かめないと」
私は決意を固めた。
もしかしたら答えは初めから決まっていたのかもしれない。しかし考える時間が必要だったのだ。重要な決断のような気がしたから。
でも決めた。
──私も処女を捨てる。
**米
決意してから1週間後。現在。
哀香と仲直りしてしまった私は、彼女から鍵を受け取った。今日は講義が午前中だけだったからまだ日が高い。哀香を私の自宅に送り届け、入れ替わりで私はワンルームの部屋に入った。
そそくさと準備を始める。まず三脚を用意してカメラをベッドに向けて固定する。これからする行為を記録に残すために。その映像を哀香に見せつけるために。
今度は私に嫉妬させてやるつもり。
そのためだったらハメ撮りだってやってやる!
だから私はあの男を呼び出した。もうすぐ来やがる。くんな。死ね。
そして、私は服を脱ぐ。
決意が揺らがないように全裸で待機するつもりだった。
もうすぐあの男が来てしまう。
ぎゅっと手を握った。
──私は今から男を誘ってセックスをする。
あの映像を見た1週間後。
大学で午前中の講義を受けたあと、一緒にお昼を食べるため、学食で待っている哀香の元へ向かっていた。
先に到着していた哀香を発見すると、仏頂面で本を読んでいた。彼女は私の存在に気づくと、場所取りしてくれていたテーブル席の片方から荷物をどかす。
「……ん」
「ん」
私は自分の荷物をそこにどさっと置いて、無言で券売機に向かう。適当にエビフライ定食を注文し、席に持ってきた。
「……」
「……」
無言で衣ばかりのエビフライを口に放り込み、もぐもぐと咀嚼する。先に食べ終わっていた哀香は、無表情で文庫本に目線を落としていた。
長い黒髪をかきあげた哀香のうなじが見えてドキッとした。ミステリアスという言葉がぴったりな正統派美少女。少なくとも外見の上では。その内面にどんな怪物が潜んでいるのかは、私でさえわからない。
わかりたかったけど、わからないらしい。
じつは私と哀香は喧嘩中だった。
喧嘩中なのに一緒にいる理由は、私たちにもわかっていない。ただ、いつも一緒にお昼を食べていたから、一緒にお昼を食べている。それだけ。
ちなみに喧嘩の原因は哀香のせい。私は悪くない。
哀香は私に向かって『絶対に言ってはいけないこと』を言った。
だから、その言葉を聞いた時、思わず彼女の頬を平手打ちしてしまった。爪で引っ掻いて首すじから血が出た。貼ってある絆創膏を見るとちょっとだけ胸が痛むけれど、私は悪くないからこっちから謝るのは絶対に嫌。
チラチラと哀香が私を見ていることに気づく。でも無視している。
「……ねえ。……ごめんね。あんなこと言って」
「……」
数日に及ぶ不機嫌オーラ全開で接したことで、私はついに彼女を謝らせることに成功した。
なのに気分は晴れない。
「……別に。……私も、叩いちゃってごめんね」
やっとあのことを謝れた。素直に目を見れなかった。
「ねえ、哀香は……私のこと……好き?」
こんな質問、したくなかった。でも、私は哀香の気持ちをまだ知らない。
「好き」
「……そっか」
「愛してる」
「私も」
言葉が薄っぺらく聞こえる理由はなんだろう?
見え透いた疑問だった。
その理由を私はとっくに知っている。それは、私が私だから。私は彼女とは違う。私はまだ経験していなくて、彼女は経験したことがあるから。私が処女で、哀香は非処女だから。
世界は動き出してしまった。
「……ねえ哀香。鍵を貸してくれない?」
「鍵? どこの?」
「哀香の部屋の」
「なんで?」
「……あとで教えてあげる。私の家で待ってて」
「?」
「後で送るね」
私は哀香と仲直りしてしまった。終わってみればあっさりとした出来事。
彼女と仲直りしたらしようと決めていたことがある。この数日、渦巻いていたある考えに私は支配されていた。もう自分ではコントロール出来ない。
──どうしてこんなことになってしまったんだろう?
そもそもの原因は一週間前のあの事件なのは明らか。
そして『絶対に言ってはいけない言葉』のせい。
そのせいで私は決めた。
***
1週間前。
その映像を見て私は震えた。
それは『哀香が犯されて処女を奪われる映像』だった。
でもそれは当然の結果。自業自得の理由。
私の最愛の人である哀香は露出狂の変態。美少女なのに。
全く理解できないけど、自分の裸が他人(特に男)に見られるのが快感で、どうしようもなく興奮するらしい。私も彼女に付き合って何度か露出行為をすることになったのだけど、正直言って、屈辱でしかない。マジで最悪。
たまに一人で部屋にいると私の裸を見た男たちの顔がフラッシュバックして、屈辱感と羞恥心とかで感情がごちゃ混ぜになって、頭が変になりそうになる。
全裸を晒した。乳首もお尻も、お尻の穴まで……もっと恥ずかしい所も。
なんで私までこんなことを?
もし私たちのことを客観的に見ている人がいたら、私まで露出狂の変態だって勘違いされていたんじゃないかって……本当に嫌になる。私は露出狂ではない。
でも、好きな人のことは理解してあげなきゃいけない。できるなら理解してあげたい。共感したい。同じになってあげたかった。
だって、私は哀香のことが好きだから。愛しているから。
だから……嫌だけど脱いでいた。今も、嫌だけど脱いでいる。
哀香の裸が男たちに見られているのを、近くで見ていると興奮する。どうしようもなくゾクゾクする。
途中で気づいた。
──私は哀香にめちゃめちゃになって欲しかった。
綺麗なものが汚れるとき、私は抉られるような満足感を得られるらしい。
私も変態だったのだ。彼女とは別種の。
だから、望みは叶ってしまった。
「あはっ……あははっ……あっははははははっ!」
頭の悪そうなチャラ男3人組に哀香は犯された。頭が良くて美人の哀香があんなやつらに処女を奪われた。何度も中出しされ、好き勝手にもてあそばれた。
しかも、その一部始終は全て録画されている。
その光景を見て私は震えた。
最高の気分だった。
「あはっ……」
最高だった。最高に面白かったし楽しかったし嬉しかったし気持ちよかったし興奮した。
そして、涙が流れた。
気づいた時には股間をまさぐっていた。ゾクっとした刺激が内側から湧き上がる。
「ゆ、ゆうり……? 大丈夫?」
泣き笑いしながらオナニーする私を見て、ドン引きした哀香が心配して声をかけてくれた。
そんな哀香の口元も歪んでいた。
自分が寝ている間に裸にされて、身体を自由にしゃぶられ、ねぶられ、おもちゃにされて、処女まで奪われた映像を見たのに嬉しそうだった。
どうしようもない変態が目の前にいる。
ドン引きした。
でも私も同じ顔をしているのだろう。
「あむぅ♡」
気づいた時には私たちは抱き合って唇を重ねていた。
ビリビリと服が破れることを気にすることなくもなく、脱がしあってベッドに飛び込んだ。なんでこんな邪魔なものを着てしまったんだろう? 早く素肌を合わせたい。
「んちゅ♡……じゅる♡」
くちゃっくちゃっと舌を絡めながら唾液をすすりあう。生温かい舌が絡み合う度に脳に甘い痺れが走る。その刺激が心地よくて、もっと欲しくて私は唇を貪るように激しく舌を吸った。すると彼女も負けじと私の口を吸い始める。お互いの口の中で舌が激しく暴れまわって、まるで軟体生物のようににゅろにゅろと絡み合い唾液を交換する。
「ぷはっ……」
息が続かなくなって口を離すと透明な橋がかかった。それさえ逃したくなくてぺろりと舐めとった。
私たちは脱ぎかけだった服を全て脱いで裸になった。
あらわになった哀香の豊満な膨らみを見て、しゃぶりついた。
「あうっ♡」
突然の刺激に哀香は甲高い嬌声を上げる。もっとその声を聞きたくて、硬くなった先端部分を舌で転がした。舌先でチロチロと転がすとピクっと身体が跳ね上がる。彼女も私の両乳首をくりくりして反撃してきた。
「んああっ♡」
爪でカリッと引っ掻かれて思わず声を上げると、ぎゅうっと引っ張られた。
「くぅぅぅ♡」
今度は私が甲高い嬌声を上げてしまう。その隙に彼女は口を近づけて、ちゅうっと乳首を吸い上げた。
「んあっ♡」
思わず腰が浮く。哀香は逃がさないとばかりに腰に手を回して固定すると、さらに強く吸い付いてくる。カリカリと歯を立てて甘噛みされる。
「ああんっ♡……それっ……だめぇぇ♡♡ ぁん♡」
いままで彼女にさんざん開発されてきた私の弱点。乳首のいじり合いで勝ち目はなかった。ゾクっとして軽くイってしまう。
「あはっ……ちょっとイっちゃったね♡ 悠莉」
絶頂の余韻に浸る私の耳元で彼女がささやく。吐息がくすぐったくて、ゾクゾクする。悔しかったから飛びかかって哀香をベッドに押し倒し、その豊満な胸に平手打ちを喰らわせた。
「あんっ……痛っ♡」
ぶるんっと大きく乱暴に揺れる胸。私も女なのになぜこうも違うのだろうと思うと、ムカッとしたから何度か往復ビンタをしてやった。
「あうっ♡……あんっ♡」
そのたびに彼女は甘い声を上げる。
「ねえ悠莉、お尻も叩いて?」
「……変態」
そう言いつつも私は、彼女を四つん這いにさせ平手打ちを喰らわせてやった。パンッという乾いた音ともにメスの嬌声が上がる。
「あうううう♡……いいっ……気持ちいいよお♡」
叩かれる度に彼女は身体をくねらせ、秘部から蜜をこぼす。哀香にはMっ気があった。
「……んぁ♡」
「ちょっとイったでしょ? 哀香」
「えへへ……うん♡」
お互いの望むことをしてあげて、それがまたお互いを興奮させる。
「ん……ちゅ♡……じゅる♡」
私たちは唇を重ねながら、お互いの大事な部分に手を伸ばす。熱を帯びてぐしょ濡れだった。私も彼女も。
今度は体制を入れ替えてお互いの股間をぺろぺろする。
69(シックスナイン)って数字にエロい意味があることを知ったのは最近。
「んああっ♡……それっ……♡♡」
私が哀香の陰唇をしゃぶると、彼女は大きな嬌声を上げてよがった。そのままジュルルルと音を立てて吸い上げる。
「あああんっ♡……私もぉ♡」
彼女も私の敏感な部分を執拗に責めてくる。べちゃべちゃっとわざと音を立てて舐めたり、舌先でくりくりと刺激してきたりする。
「ふぁああああんんっ♡♡」
思わず腰が浮く。彼女は私の弱い部分を知り尽くしていた。でもそれは私も同じだから負けじと反撃する。
「ひゃうんっ♡……ああっ……そこぉ♡」
恥部を舐め合い、互いを貪っていると気分は最高潮に高まる。そのタイミングで示し合わせたように股間から口を離して、再び、唇で合流する。
「んっ♡……んんっ♡♡」
口の中に哀香の舌が侵入してくる。私も舌を絡ませて歓迎する。
股間が手で愛撫されている。ぐしょ濡れのそこを私の指が哀香が指で刺激してくれる。私も。
「ああんっ♡……ゆうりぃ♡♡」
「あああっ♡……あいかぁぁ♡♡♡」
私たちの境界線が曖昧になる。上も下もない。ひたすらお互いを愛撫しあう。唇を吸い、舌を絡める。相手にしゃぶりつき、舐め回す。
「んむう♡……ちゅぱっ♡」
「あうっ♡……じゅるるるるっ♡」
私たちは一心不乱に相手を求めあった。もう何も考えられない。
そして、私たちは合体した。
ふたりの性器を合わせてこすり合わせる。ぐちゅぐちゅっといういやらしい音がする。もう限界だった。快楽に脳が蕩けそうになる。
「あうっ♡……ゆうりぃ♡♡ねぇ見たぁ? 私ぃ男の人とセックスしちゃったぁ♡ パンパンされてジュポジュポされちゃった♡」
「ん……知ってるよ、私も見たもん……あんな奴らに哀香がぁ♡」
絶頂が近づいている。それは哀香もそうみたいで快感を高めるために言葉で感情を高め始めた。私も自分の性癖に従ってあの光景を反芻する。
「あの人たちのおち◯ちんが私のおま◯こに出たり入ったりしてた♡ それを悠莉に見られちゃった♡ 恥ずかしい姿をあなたに見られちゃった♡」
「見てた♡ 見てた♡ ……ああっ私も見ちゃった♡ あんなやつのち◯ぽが哀香のおま◯こに出たり入ったりしてた♡」
「初めてだったのにぃ……生で入れられてぇ♡……中出しまでされちゃった♡」
「あいつら! ゴムしろって言ったのに! 哀香の初めてがぁ……♡♡ 何度も何度もしつこく猿みたいに♡」
私の大好きな哀香があの3人なんかに……。その背徳感が私の興奮をさらに高める。思わず股間をこすりつけるスピードが上がる。腰が激しく動く。哀香もその動きに合わせてくる。
「お◯んこの奥まで突かれて♡……子宮に精子注がれて♡」
私と哀香が知り合ってもう直ぐ1年になる。お互いの感じる場所を教え合って、腰を打ちつけるタイミングとかも何度も練習して全部知ってる。遠慮のいらない信頼関係を築いてきたのだ。
今まで重ねてきた快楽の記憶が、私たちの興奮を最高潮まで引き上げる。
そんな子が私以外の人間に(しかも男)に処女を奪われてセックスしていた。強烈な嫉妬心が私を狂わせる。快感だった。同時に湧き上がる優越感。
──でも、本当の哀香を知っているのは私だけ。
たとえどれだけ汚されようと消えることのない美しさがある。純白の雪のような。
「寝てたからわかんないけどぉ。きっと気持ちいいのぉ♡……おち◯ぽが何回も出し入れされてぇ♡ 中に出してもらったらぁ♡」
「ああっ♡……ダメっ♡……私……♡♡!!」
腰の動きが加速する。もう止められない。止まらない。止めたくない。絶頂しそうになるギリギリまでスピードを上げる。哀香もそれに合わせてくれるから私は嬉しくなる。好きって気持ちがどんどん強くなる。
あ゛。イくって思った。
しかし、哀香はそのタイミングで『絶対に言ってはいけないこと』を言った。
「ねえ♡ 突いて! 悠莉じゃ絶対に届かないところ突いて♡ 孕ませてぇ♡ おち◯ちん気持ちいいのぉ♡ 奥まで突いて♡ 子宮まで突いて♡ 悠莉じゃ無理なのぉ♡ 悠莉は女の子だからぁ♡」
恍惚に満ちた表情で哀香は言った。
「……は?」
──は?
高まっていた感情が一瞬で空気の抜けた風船みたいに萎んだ。
「え……どうしたの──!っ痛……」
目の前が一瞬真っ暗になったかと思ったら、気づいた時には哀香の頬を平手打ちしていた。
「誰とでもいいの? 私とするより気持ちいいの?」
「……え。そういう意味じゃ……」
ドMの彼女をプレイとして叩くのではなく。単純な暴力だった。空気感の違いに哀香も気づいたようで困惑している。
「ねえ、答えて」
「……」
私は哀香の両肩を掴んで揺さぶった。彼女は目を泳がせて言い淀む。それが私の怒りを増幅させた。煮え切らない態度にイライラが募る。
──なんでそんなこと言ったの?
絶対に言ってはいけない言葉だと思った。
だって私たちは女同士だから。
自分たちが薄い氷床の上に立っていると気付かされた。性別という超えられない壁。同じ形をしているからこそ縛られる生物としての呪縛。それを超えるのは、信頼関係とか愛っていう無形の言葉だけ。
凹と凹。凸と凹。凸と凸。
ガッチリとハマるのは一つだけ。あとの二つの隙間を埋めるのは心だけ。
「……ごめん……悠莉……」
「なんで謝るの? そう思ってるってこと?」
私は立ち上がっていた。何を言われても彼女の言葉にイラついてしまう気がした。
「帰って」
「え……」
「送るから。外で待ってるから」
そそくさと服を着て私は家から出て行った。バイクにまたがって彼女が出てくるのを待つ。
──なんでこんなに怒っているんだろう?
自分でもよくわからなかった。
だって、哀香の性癖を一番知っているのは私だから。それにあれを望んだのは私自身のはず。
でも、原因はわかっている。
ずっと一緒に歩んで来たと思っていた。しかし、私たちの歩幅は変わってしまったのだ。長い時間をかけて積み上げたものがたった一夜で崩れ落ちたような嫌な気分。
哀香は自分が処女じゃないことを自覚してしまった。なのに私はまだ男との経験がない。
私たちの歩幅は変わってしまったのだ。
──私たちは変態でしょ?
私の中の変態性が落ち着けと訴えている。私の中の常識人としての気持ちが嫉妬で狂わせる。役割が逆。お笑い草。
そして、哀香を半ば無理やり送り届けて、一人になった。
「はぁー」
大きなため息が出た。
私は全てに気づいていた。なぜ自分が怒っているのかもわかっている。
──もし私が処女じゃなくなったら、哀香は私に嫉妬してくれるのだろうか?
間違いなく嫉妬してくれるに違いない。って思えない自分が嫌だった。もし? って思ったら怖かった。私が思っている感情を、彼女は私に向けてくれるのだろうか。ただ彼女は変態で、快楽のために私を利用しているだけなんじゃないか? って思ってはいけない不安に犯される。
この気持ちをどうすればいいのだろう?
でも、それを確かめる方法も私はすでに知っている。
哀香の反応を見ればいい。
私が彼女と同じになればいい。同じになった時、彼女は嫉妬してくれるだろうか? 同じになりたい。共感したい。同じがいい。
あの時と似た感情に支配された。
「……確かめないと」
私は決意を固めた。
もしかしたら答えは初めから決まっていたのかもしれない。しかし考える時間が必要だったのだ。重要な決断のような気がしたから。
でも決めた。
──私も処女を捨てる。
**米
決意してから1週間後。現在。
哀香と仲直りしてしまった私は、彼女から鍵を受け取った。今日は講義が午前中だけだったからまだ日が高い。哀香を私の自宅に送り届け、入れ替わりで私はワンルームの部屋に入った。
そそくさと準備を始める。まず三脚を用意してカメラをベッドに向けて固定する。これからする行為を記録に残すために。その映像を哀香に見せつけるために。
今度は私に嫉妬させてやるつもり。
そのためだったらハメ撮りだってやってやる!
だから私はあの男を呼び出した。もうすぐ来やがる。くんな。死ね。
そして、私は服を脱ぐ。
決意が揺らがないように全裸で待機するつもりだった。
もうすぐあの男が来てしまう。
ぎゅっと手を握った。
──私は今から男を誘ってセックスをする。
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