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14'哀香処女喪失

70.夢の中の出来事

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(夢の中の哀香視点)

 ──ああ、これ夢だなぁ……。

 そう私は思った。

 たぶん私は、夢を見ているのだろう。

 ごくたまに自分が夢の中にいることを認識することがある。

 自分が夢を見ていることを自覚している夢を明晰夢ルシッド・ドリームというらしい。

 そういう時は、夢を思い通りにコントロールできることもあって、ちょっとワクワクする。空を飛んでみたり、猫ちゃんと戯れたり、なんでもできる。自分が夢の国の支配者になれた気がして、現実ではやっちゃダメな事をしても誰にも咎められない。この国の法律は私だから。私は王様。

 ……でも、今回はどうやら様子がいつもと違うみたい。

 ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン……。

 私は汽車の中にいた。1人用の席に座っている。窓の外は真っ暗。
 
 揺られてどこかへ向かっているのはわかるけど、何のために汽車に乗っているのかわからない。

 ガタン!

『……っん♡』

 電車の揺れが激しい。夢だって気づいているのに私は動けなくて、ただ席に固定されている。動きたかったけど、動いちゃいけない気もする。

 ガタン! ゴトン!

『……あっ♡……あん♡」

 揺れはどんどん激しくなるけど、汽車の中って光景は変わらなくて、窓の外を見ようにもずっと真っ暗で、見える景色は暗闇しかない。トンネルの中だろうか?

 自由な夢のはずなのに面白くなかった。

 なぜ私はこの汽車に乗っているのだろう? この汽車はどこに向かっているのだろうか?

 ゴトン! ゴトン!

『……んあ♡ んあ♡ ああ!!』

 一層激しく汽車が揺れた。

 相変わらず私は動けない。ただ揺さぶられるだけ。

 そういえば──

『ああん♡ あ、あ、あ、ああ♡』

 ──?

『ん♡、ん、ん、ん、んん!!』

 さっきから女の声が聞こえる気がする。なんかとても苦しそうで何かに耐えているみたい。

 怖い夢はやだな。ホラーは嫌い。

 見るならファンタジー系の夢がいい。

 そう思っていると、オオカミさんとブタさんとキツネさんが乗り込んできた。

 3匹は動けない私と遊んでくれた。

 彼らとの遊びを私はやったことがなかったけど、手取り足取り親切に教えてくれたから、だんだんとルールを理解してきた。でも、勝敗条件だけはまだよくわからなくて、どうすればいいのか様子を見ているうちに、第1セットが終わった。

 どうやら私は負けたらしい。

 初心者なのにひどい。初心者狩りだ。

 罰ゲームとして3匹はそれぞれ、私から初めてのものを奪っていった。今まで大切にしてきたような気がするから、私は困惑したのだけど、「遊びだから」って彼らは言った。「それもそうか」って思った私は、深く考えずにそれをプレゼントした。もう戻ってこない気がしたけど「まあいいや」って感じだった。

 3匹はプレゼントをすごく大袈裟に、まるで特別なことのように喜んでくれたから、なんだか私まで嬉しくなってきた。

 3匹はお礼にアイスキャンディーをくれた。ビターなチョコレート味。

 ガタンゴトン! ガッ!

『あっ! あぅ!! あああん!!』

 3匹と遊んでいると、電車はもう脱線するんじゃないかってくらい揺れていた。どこかから聞こえてくる女の声もやかましく思えてきた。もしかしたら、私が見ているのはパニック映画のような事故の夢なのかもしれない。

 でも大丈夫、夢だから。

 危なくなったら目を覚ましてしまえばいい。そうすれば私は現実の世界に戻れるのだ。

 ガッキィ! ガガ!!

『ああっ! あああっ! ああ♡ ああ♡』

 金属が軋んだ音。女の声は相変わらずうるさい。

『ん♡、あっ♡……んん!……んんっ♡』

 それにしてもこの声の主は誰だろう? どこかで聞いたことがある気がする。

 汽車のスピードはどんどん速くなっていってやがてカーブに差しかかった。

 汽車はすごい勢いでカーブを曲がった。

 ガタン!! と大きく揺れた。その拍子に私の腰は宙に浮いた。でもシートベルトをしてたから、無理やり座席に戻され「べちん!」とお尻を打ちつけて、コミカルに☆が飛んだ。いたーい! って思ったけど夢だから痛くない。

『ああ!? ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛あ♡』

 ──ああ、そろそろ目を覚さなきゃ。死んじゃう。

 って思ったとき、これが何の夢なのか、理解した。

 これは『暴走機関車の夢』だ。

 次の停車駅は『破滅』。

『あん♡ あん♡ ああん!あっ! あぅ!!』

 やかましい女の声は、私の口から出ていた。

 たぶん、これは悪夢なのだろう。

 ブレーキが壊れた汽車を止める手段はもうない。破滅へとまっしぐらに進む先は、線路の途切れた崖っぷち。谷底が口を開けて待っている。

 脱出するべきだ。

 注意喚起のポスターにもそう書いてあるし、学校でもそう習った。

 ── ♡

 でも、私はニヤけていた。この夢の続きを見ていたい。

 これは私の夢なのだ。誰にも指図されるつもりはない。

 私こそが、この『暴走機関車の運転手』だったのだ。

 その事実に気づいた時、私はアクセルレバーを目一杯引いた。

『あ♡♡ あ♡♡ ああん!! あ、あっ! イクっ!!』

 私に快感が押し寄せてくる。もう止まらない。

 私はスピード狂の変態。チキンレースはビビった方が負けらしい。

 だから死んじゃえばいいんだっ!

 その時、ガギィン! と今までで1番大きい音が鳴った。

 汽車が脱線した。

 崖下に真っ逆さまに落ちていく。谷底は真っ暗闇でどこまでもどこまでも深い。

 このままじゃ破滅してしまう。

 でも、大丈夫。

 これは夢だから……♡
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