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12"マッサージへ行こう!

54.評判の悪い店

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(哀香視点)

 繁華街のビルの一室にあるマッサージ店。

 ここではアロマオイルを使ったリンパマッサージが行われているらしい。

『女性限定』と、お店の前に看板が掲げられており料金は手ごろで学生の私でも気軽に払える金額だった。

 私は綾瀬哀香、大学一年生。

 今日は講義が早く終わったから、以前から気になっていたマッサージ店に思い切って入ってみることにした。本当は友人の悠莉を誘うつもりだったのだけれど、今日もバイトだという彼女とは早々に別れてしまったから、この場所には一人で来ている。

 実のところ、我慢できなくなった私は彼女に内緒でこの場所に足を運んでいた。

 このマッサージ店の存在を知ってから、ここに来たくて仕方なかったのだ。

 なぜなら、この店の評判が『悪かった』から。

 ネットで検索しても悪い噂しか出てこないし、マップのレビューでも低評価ばかりが並んでいる。

 主な悪評の理由は『男性スタッフしかいない』とか『女の子を見る目がいやらしかった』といったもので『女性限定』という看板は『女性スタッフのみで安心』とかではなく、女性客のみしか受け入れないという意味らしい。

 表向きは普通の店構えで、いやらしい意味でのマッサージ店というわけではないようだけど、それでも中を覗くには勇気がいる佇まいをしていた。

 そんな場所に女一人で行く。それは、罠だと分かっている場所に裸で飛び込むような行為だった。

 だからこそ、私はどうしてもこのマッサージ店に来たくて仕方なかった。

 だって私は……。

 どんな罠が待っているんだろう? どんなことをされるんだろう? 考えただけでゾクゾクする。

 そんな期待を胸に抱きながら、私はマッサージ店の扉を開けた。


***


 店内は思ったより広くて清潔感があり、BGMも静かで落ち着いた雰囲気。店内に入るとすぐに受付があった。そこで一人の男性スタッフが出迎えてくれた。

「いらっしゃいまセ」と笑顔で挨拶してくれたのは、二十代後半くらいの色黒の男性だった。落ち着いた雰囲気で優しそうな人だったけれど、どこかカタコトのような喋り方で違和感がある。

 初めての空間をキョロキョロと見回すと「ご予約はされてますカ?」と彼が聞いてくれた。

「あの……初めてなんですけど」

「そうでスカ。では、こちらの用紙に記入をお願いしマス」

 私が正直に答えると、彼は一枚の紙を差し出してきた。そこには名前や電話番号などを記入する欄がある。受付用紙だった。

 私は緊張しながら、一つ一つの項目を埋めていく。

「希望するコースはありますカ?」

「えっと……」

 用紙への記入が終わるころ男性が私に希望を聞いてきた。何も決めていなかったから、少し戸惑った。

「全身オイルマッサージが人気ですヨ」

「あ、じゃあそれでお願いします」

 オススメされたコースを深く考えずに選ぶと、受付の男性がニッコリと微笑んだ。

 それから促されるまま料金を前払いで支払って「ではこちらでお着替えくだサイ」と施術室へと案内された。

 そこはカーテンで仕切られた小さな個室になっていてベッドが一つとタオルケットのようなものが敷かれている。

 その上に使い捨ての紙パンツが無造作に置かれていた。

(これに着替えて待ってればいいのかな? 上も脱いでいいんだよね?)

 疑問に思いながらも素直に服を脱ぎ捨ててブラを外し、ショーツを足から引き抜いて全裸になった。

 用意された紙パンツを履き台の上でうつ伏せになった。



(マッサージってこれが普通なんだろうか?)

 私にはこの界隈の常識なんて分からなかった。初めてこういうお店に来るから勝手が分からなくて不安になる。

 暫く待っていると、カーテン越しに「入ります」という男性の声が聞こえたかと思うと、すぐにシャッと音を立ててカーテンが開かれた。

 そこには小柄な男性が立っていた。

 てっきり先ほどの受付してくれた男性がマッサージしてくれるのかと思っていたけど、どうやら違うらしい。

 背丈は私よりも低いかもしれない。

 顔立ちは丸く童顔で、年齢は分かりずらかったけれど、心もとなくなった頭頂部の毛髪量とその細さから四十代後半くらいの男性だと推測した。

「はじめまして、施術を担当する佐藤です」

 そう言ってお辞儀をした彼に、私も慌てて挨拶を返す。

「よ、よろしくお願いします。え? あの……男の人なんですか……?」

「はい、そうです。何か問題でも?」

「いえ……別に」

 私は演技をした。

 マッサージをしてくれる人が男性だと分かって驚いたけど気にしていない素振り、お金はもう前払いで払ってしまったから、今さら断ることもできない。だから仕方ない……。とでも思ったように。

 でも普通……男の人にこんな格好でマッサージされるのって、女からしたら恥ずかしいに決まってる。そのぐらいの常識的価値観はある。でも、私は変態だから受け入れてしまった。

「それでは、全身オイルマッサージ90分コースを始めさせて頂きます」

 男性がそう言うと、オイルの入ったボトルを手に取り蓋を開けて手のひらに垂らした。それを両手に馴染ませながら私の背中へと塗りたくり始めた。

 ふとももが撫でられる。

「ひゃい!」

 突然、身体を触られたこと、ひんやりとしたオイルの食感に驚いて変な声をあげてしまった。

「大丈夫ですよ。すぐ慣れますから」

「す、すみません」

 私の戸惑いなんてお構いなしに背中にオイルが塗り広げられていく。

 彼の言った通り最初は冷たく感じていたけれどだんだんと温かくなっていき、それと同時にじんわりとした心地よさが広がっていくのを感じた。

(あ、ちょっと気持ちよくなってきたかも……)

「綾瀬さんは学生ですか?」

「そうです。今年、大学生になりました」

「やっぱり若い子は肌にハリがあって羨ましいです」

「いえ……そんな……」

「大学は近いんですか?」

「はい。すぐ近くにある◯◯大学です……」

「え、有名大学じゃないですか。頭いいんですねぇ」

「勉強しかしてこなかったので……」

 他愛もない会話をしながら、彼の手がオイルを身体に塗りたくられる。

 最初は背中や肩などの上半身を中心にマッサージしていたけれど、徐々に下半身へと移動していき足の裏なども丁寧に揉みほぐされた。

 足を抱えられてふくらはぎから太ももへ、お尻の近くにも丹念にオイルを塗り込まれていく。

(あぁ……なんかこれいいかも)

「あ、ふぅ」

 私は思わず吐息を漏らした。今まで経験したことのない不思議な感覚だった。

「気持ちいいですか? 綾瀬さん」

「はい……すごく……」

 私は素直に感想をこぼした。

 炊かれたアロマの匂いとヌルヌルするオイルの感触が心地よくて頭がボーっとしていて、いつのまにか私は完全に彼に身体を任せていた。

(あれ……? 私なんでここに来たんだっけ?)

 評判が悪かったから期待してなかったのにマッサージの技術には確かなものがあったのだ。 

 背中を撫でられて指圧される。その力強さは絶妙で、凝り固まった筋肉がほぐされていくのが分かる。

「あぁん♡」

 男性にしかできない圧力で押しつぶされて、私は思わず声を漏らした。

「あっ、いや、あの……すみません」

 はっとして思わず口を押さえたけれど、もう遅かった。愉悦に染まった声を聞かれてしまった。

「いえ、大丈夫ですよ。リラックスしてくださいね」

 彼は手を止めず、そのままマッサージを続けてくれた。

「あぁ……」

「ここが気持ちいいんですね?」

「はい……」

「もっと強い方がいいですか?」

「はい……」

 いつのまにか私は自分の気持ちいい部分と力加減を男性に把握されていた。

 カクンと頭が落ちる。瞼が重くなって、意識が遠のきそうだった。他人に身体を触られているのに眠くなるなんて生物としての欠陥ではないだろうか? 寝るのは失礼かと思い少し抵抗していると彼の声がした。

「眠っても大丈夫ですよ。時間になったら起こしますから」

 ああ、そうなんだ……。ぽやぽやした頭で考える。じゃあ寝ちゃおうかな……。

 顔を埋めて目を閉じた。

 足の付け根に近い部分までオイルが塗られ、内側に手が伸びてきわどいところを撫でられる。

「んっ……あ……」

「綾瀬さん……すごく綺麗な足ですね」

 彼が呟いた。なんだか男性の手つきが、さわさわといやらしくなってきた気がする。

 でも眠気と快楽で頭が働かなくて私は呆けてしまっていた。

 だからそれは、致命的な油断だったのだろう。

「綾瀬さん、ちょっと失礼しますね」

 彼がそう言ったかと思った瞬間、お尻がスースーした。

 履いていた紙パンツが足から引き抜かれたのだとワンテンポ遅れて理解する。

「はれぇ……?」

 カクカクとする眠気の中で何が起こったのかうまく認識できなかった。

 おそらくだけど、私の生尻が彼の前に晒されている。

 無許可で他人のパンツを脱がすのって合法なんだっけ? 生のお尻を男性に見られて恥ずかしくないのは未就学児までだよね? 

 俯瞰した自分がなぜか冷静に状況を理解しようとしていた。

 私の戸惑いなどおかまいなしに彼は私のお尻にオイルを塗り始めた。

「……あっ」



 生尻が揉み揉みされた。
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