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8"ラブホテルで暴かれる秘密(伏線回収)

44.真実

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(哀香視点)

 私と女友達の藤崎悠莉はラブホテルの一室にいた。

 悠莉を連れ込むことに成功した私は、今回も彼女と甘い夜を過ごせると思っていた。

 元気がないように見えた彼女だけど、初めてのラブホテルってシチュエーションを利用してゴリ押せば情事に及べるはずだった。

 なのにその期待は拒絶された。

 何かが変わってしまったのだ。

 ぐにゃりと変形して二度と同じ形に戻らないような、そんな恐怖で私は泣き出した。

 私が悲しさと切なさで涙を堪えていると、背中から彼女の声がした。

 ──知りたい? 私の本性。

 彼女はそう言った。

 悠莉のことならなんでも知りたくて、私は答えを求めた。

 だから彼女は打ち明け始めた。

「……私ね、子どもの頃、雪が好きだったんだ」

「うん」

 私達はベッドで手を握って、向き合った。

 シーツを被って顔を近づける。

 まるで秘密基地で内緒話でもするようだった。この場所もある意味それと同じかもしれない。大人の秘密基地。

「私の子供部屋は二階にあってね、窓から近くの公園が見えたの。雪が降るとね、芝生一面に薄く積もって白一色に染まって、その光景がすごく綺麗でさ……」

 悠莉は遠い目をしてその過去の景色を懐かしんでいた。

「だからね、雪が降りそうな日は早起きして窓の外を眺めたの。雪が降って、白い絨毯が広がっていた時のわくわく感と、まだ誰も踏んでいない雪を私だけが独占しているような特別感が好きだったんだ」

 悠莉は恥ずかしそうに笑った。その表情は無邪気な子どものように無垢だった。

 私は、悠莉が何を言おうとしているのか分からず、ただ思い出話に耳を傾けるしかできなかった。

 たしかに雪は綺麗だと思うけれど……。

「でもね、もっと好きな光景があったんだよ」

 悠莉の口元がぐにゃりと歪んだ。

 ゾっとした。

 純真無垢だった少女が、急におぞましい怪物に変貌したようだった。

 成長する過程のどこかで殻に閉じ込められて、ドロドロになってやがて羽化する。

 少女は女になった。

 悠莉はうっとりとした表情で、その目は遠く、どこか違う世界を見ているような気さえした。

「しばらくたってもう一度公園の雪をみると、誰かに踏み荒らされて、泥と混ざってぐちゃぐちゃに汚されているの。……ああ、あんなに綺麗だった雪の絨毯はもう戻らないんだなぁって思ったら、変な気持ちになった」

「変な気持ち?」

 悠莉は、うんっと頷いた。

「今なら分かる。私はあの時、興奮していたんだって……。その日、生まれて初めてオナニーした。10歳のときだった」

「え?」

「最初は雪の絨毯を自分で踏み荒らして、征服感で満足していたんだ。でもね、そのうち他人にぐちゃぐちゃにされるのもいいな……って思うようになったんだ」

「悠莉、何言ってるの?」

「私は雪が好きだった。今は、哀香が好きだよ」

 彼女は、私の目を見つめて言った。

 それは嘘偽りのない真実の言葉だと彼女の瞳が語っていた。

 やさしく私の乳首が撫でられた。

 思わずビクっとして乳首を手で覆ってしまった。彼女の前でそんな行動をするのは初めてだった。

「ねぇ、哀香……私があなたと会ってから一番興奮したのっていつだと思う?」

「悠莉、怖いよ……」

 私は彼女の豹変ぶりに恐怖を感じていた。私に付き合ってくれて、振り回されてながらも一緒に露出活動していた悠莉。そんな彼女の表情は今までと違っている。

「分からない?」

「……初めてのヌードデッサンで大勢に裸を見られたとき? それとも……私と初めてセックスしたとき?」

「違うよ」

 彼女は私を見下すように即座に否定した。

「じゃあ、いつ?」

 私は恐る恐る聞いた。今まで分からなかったものが明らかになる期待よりも、開けてはいけないナニかが解き放たれてしまうような恐怖を感じていた。

 でも、彼女はあっさりと真相を話した。

「哀香がヌードデッサンに参加したって叔父さんから聞いたときだよ」

「? どういうこと? 聞いたとき?」

 私は耳を疑った。だって、それは……私が目覚めるきっかけになった事件だったから。私の認識していた時系列と違っていて混乱した。

「私ね、あれがヌードデッサンだって薄々気づいてたんだよ。だって、叔父さんが私を見る目がキモかったんだもん」

「気づいてた?」

「だから、あなたにヌードモデルをやってほしいって思ったんだ。でも……めちゃめちゃ罪悪感。でも、興奮しちゃった♡」

 てっきり悠莉も私と同じで、ヌードデッサンで裸を見られたことがきかっけとなって、露出性癖に目覚めたと思っていた。

 彼女は私がヌードデッサンをするように、仕組んでいた……。

「まさか本当に脱ぐなんて思っていなかったけどね。でも……もしかしたらって思って、出来るだけ断りにくいように直前に伝えて、ちょっと嘘ついてギリギリの集合時間を教えたんだよ?」

「そんな……」

「たぶん私、入学式で初めて会ったときからあなたのこと好きになってたんだと思う」

 悠莉は告白した。

「一緒に過ごすうちに哀香のことどんどん好きになっていった。そんな哀香の裸がキモい叔父さんたちに見られたって思うと興奮した。あんなオヤジたちに全裸を晒したんだって思うとゾクゾクした。私の哀香なのに……。それに、あんなに真面目だった哀香が私のせいで露出に目覚めちゃった。自分から裸を晒すようになってもっともっと興奮した。私の想像を超えてどんどん変態になっていくあなたは、最高だったよ♡」

「悠莉、やめて……」

 なにもかも彼女の手のひらの上で踊らされていたような気がして、私は耳を塞ぎたかった。でも彼女の告白は止まらない。

「ごめんね、哀香……私ね、ずっと前から変態だったみたい」

 彼女は私の耳元で囁いた。まるで悪魔のように甘く優しい声で私を誘惑するよう。でも私は不可解な疑問で混乱して訳がわからない。

「……でも、だったらなんで悠莉は私と一緒に露出してくれたの?」

「え? だってある程度話を合わせるのは必要でしょ? 好きな人の好みに合わせる。好きな人の趣味に興味があるフリをする。理解あるフリをする。よくあることじゃない?」

 当然のことのように悠莉は言った。

「……とは言っても私も気づいてなかったけどね。違和感はあったけど、こうやって言葉に出して説明できるようになったのは今日の経験があったからだよ。ん♡」

 悠莉は私に唇を重ねてきた。ねじ込むようにねっとりと舌を絡ませて、唾液の交換を強いてくる。

「うぁぁ」

 声にならない悲鳴。さっきは私の方から無理やりキスしたはずなのに、怖くなって彼女の身体を押し返してしまった。

 ゴクリと彼女は私の唾液を飲み込んだ。

「つまりね、『一番近くで裸を見られている哀香を見たかった』から私は自分を騙して『露出狂のフリ』をしていたの。文字通り一肌脱いで頑張ってたってところかな……?」

 彼女は自嘲気味に微笑んだ。

 私は訳が分からなくなって混乱した。

「悠莉は裸を見られても嬉しくないってこと……?」

「嬉しいって……。あなたみたいな変態がたまたま2人いるわけないじゃん」

 彼女はうげぇって表情をした。

「……じゃあなんで一緒にヌードモデルやってくれたの?」

「最初のヌードデッサンは罪悪感からやったんだけど、そのあとのオナニーはなんでやったのか自分でも分からなかったんだ。最初は哀香みたいに『自分の裸が他人に見られる』ってのが私の性癖なのかなって思ってたんだけど……違うって今日、確信した。……くっそ」

 彼女は突然、嫌悪感全開の顔で舌打ちをした。

「今日、アイツらの前で全裸を見せたのはね、確かめるためだったんだ。あんな馬鹿っぽいやつらに乳首もアソコも尻の穴まで晒して、自分がどう思うんだろうって。結果はね……嫌で嫌で仕方なかった」

 まるで苦虫を噛み潰したような、そんな苦渋に満ちた顔で彼女は言う。

「乳首を見られるたび、アソコの中身を見られるたび、尻の穴まで見られて笑われるたび、アイツらのことがどんどん嫌いになっていった……私、結構プライド高いタイプだからさ」

 私は彼女が吐露する事実に驚愕していた。

 彼女は私と同じで『裸を見られて興奮する変態』だと、同類だと仲間だと思っていた。

 あの時、悠莉は私が求めたから罰を受けた。

 ──次は悠莉の番だよ?

 あれがヌードデッサンだって悠莉は『知らなかった』から罰を受けたんじゃない。逆だった。『知っていた』から罰を受けたのだ。

 反転していた事実に混乱した。

 私は彼女のことを何も理解していなかった。

「でもね。そんな嫌いな奴らに哀香は裸を見せて喜んでた。私、それですごく興奮したの。あんな奴らに裸見せて、犬がシッポ振るみたいに媚びてた。私が吐きそうなくらい嫌いな奴らに、私の大好きな哀香の何もかもが見られてるんだと思ったら……♡」

「……」

「で、思い出したの。あの約束のこと……『男の処女は私の命令に従う』ってやつ。だから、もし哀香がコイツ等なんかにめちゃめちゃに犯されたらどうなるんだろうって考えた。そしたら怖くなって逃げちゃったんだ。……でも、今は後悔してる。めちゃめちゃになっちゃえばよかったのに……♡」

 んぐっ♡ っと喘ぎ声が聞こえた。彼女は自分の股間をまさぐって涎を垂らしていた。

 それはあの時の顔。

 アトリエのトイレで彼女がオナニーしているのを発見した時と同じ顔だった。

 そして、彼女は開示する。

「私の性癖は『好きなものが、取り返しのつかないくらい穢れてしまうこと』だよ。なんで綺麗なものってあんなに汚したくなるんだろうね?」

 彼女の告白に頭がおかしくなりそうだった。

 正直、私が彼女を引っ張っていると思っていた。

 私の方が早く目覚めたから、まだ羞恥心が残っている悠莉に吹っ切れるように促してリードしているつもりになっていた。

 でも、それは勘違いだった。

 私がどうやって裸を見てもらおうか計画を立てている横で、彼女は私を見ていたのだ。

 私がそうだったように彼女も自分の欲望のためなら手段を選ばない。

 そのためだったら自分の裸を晒してでも私の近くにいた。

 どんどん変態になっていく私を見て、興奮していた変態。

 変態は二人いた。

 でも、変態はそれぞれ違う変態だったのだ。

「ねぇ哀香……こんな変態な私のことを愛してくれる?」

 悠莉はトロけそうな顔で私の鼻を舐めた。そして私の割れ目を焦らすようになぞった。

 ぐにゅりと性器が合わさった。

 剥き出しの悠莉の心を感じた。

「あっ……悠莉、怖いよ……」

 私は恐怖で動けなかった。私が知っている彼女はもういなかった。私の知らない彼女がそこにいた。

「大丈夫……いっしょに堕ちてあげるから」

 その声色に、彼女の支配欲の強さを感じて私は震えた。

 蛇に睨まれたカエルのように動けない。獲物は私だったのだ。

 耳元に吐息が近づいて来て中を犯すような声がした。

「ねぇ、哀香さん……」

「な、なんですか……?」

 彼女の突然の敬称に私も思わず敬語で答えてしまった。

「私、もう一つ、気づいてることがあるんだけど……。貴女に教えてあげようか?」

 その言葉にゾッとした。

 ──そんなわけない。

 このままでは私の秘密が暴かれてしまうのではないか……? そんな胸騒ぎがした。

『私の秘密』は誰にも言っていない。だから、分かるはずなんてない。

 知られているはずがないのだ。

「……教えてください」

 でも私はもしかしたら……っていう誘惑に抗えなくて答えを求めてしまった。

 ニヤリと彼女は私を見下すように微笑んだ。

「四つん這いになりなさい」

「……はい」

 私は見透かされているようで、逆らえなかった。

 悠莉の命令通り、ベッドの上で、犬のような体勢でお尻を突き出した。

 これから何が起こるんだろう? と不安になって、チラチラと後ろを伺う。

 そして、彼女は手を振り上げた。

 その瞬間、私は確信した。

 ──あ、うそ! バレちゃってる!? 私の秘密!

 アソコがきゅんきゅんと締まって、お尻の穴もヒクヒクと疼いた。

 でも、悠莉の手はそのまま掲げられたまま動かない。

 焦らされているのが分かってカッと顔が熱くなる。喉の奥から必死に声を絞りだした。

「悠莉ぃ、早くぅ」



「私に命令しないで」

「あ、ごめんなさぃ。許してくださ──」

 その時、ぱぁん!!

 と、ラブホテルの部屋中に音が響いた。

「ひぅっ♡」

 お尻に強烈な痛みが走った。

 それから何度も。

 その音は何度も何度も部屋に鳴り響いた。

「あ、ひぃっ♡」

 私の本性も暴かれてしまった。

 ぱぁん!!

 ばちぃん!!

 ぱぁんっ!!!

「あぁん♡」

 私のお尻へお仕置きが始まった。
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