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7"ひと夏のあやまち

39.砂浜ストリップ

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(悠莉視点)

「ほらほら脱いで脱いで」

「は、はぃ。焦らせないでください……」

 男達に急かされて、哀香は恥ずかしそうに水着を脱ぎ始めた。

 3人の男の期待を込めた下卑た視線が哀香の身体に突き刺さる。

 面積の少ない水着はあっさりと脱げるはずだった。実際ついさっき上も下も脱げて全裸を晒したばかりだし、変態の哀香は再び全裸を見られたくて待ちきれないはず。

 でも彼女は、チラチラと男達に視線を送りモジモジジする。

 すでに乳輪がはみ出したマイクロビキニを片側づつ勿体ぶって動かしていく。右乳首、左乳首と順番に見せた後もおっぱいの前で水着をぶらぶらさせていた。

「次は下だね」

 男がわかり切ったことを吐いた。

「……うう。やっぱり、下はやめとこうかなぁ……」

「今更なにいってんの! ほら急がないと人来ちゃうよ!」

「わっわわ!」

 間抜けな声をあげて彼女はあっさりと股間の布を剥ぎ取った。

 また、哀香の全裸が男達に晒されてしまった。

「えへへ、脱いじゃいました。や、やっぱりすごく恥ずかしいですね……」

 哀香は頭の弱い女を演じて、はにかんだ。

 両手で胸と秘所を覆い隠して、チラチラと見せたり見せなかったりする。その仕草が男達の劣情を煽っていることに、彼女はもちろん気づいている。

「水着、預かるよ」

「あ、はい……ありがとうございます」

 男の一人が手を差し出して脱いだ水着を受け取ろうとして、哀香は素直に手渡した。

 胸がプルンと弾んだ。

「うっ、」

 水着を受け取った男が、突然うめき声をあげた。

「え? あっ……」

 哀香は最初何が起こったのか分からなかったみたいだけど、すぐに何かを察した。

 彼女の視線が下に落ちた。

 私もその視線を追って、気づいてしまった。

「うわ」

 だぼだぼの男用の水着を押し上げる膨らみ。

 それは下品で言いようのない不安を帯びていた。

「お前、勃起しすぎだろw」

「うるせ、お前らだって勃ってんだろ」

「そりゃ、こんなエロい身体見せられたらなぁ」

 私達を囲む男達がゲラゲラと笑った。いつの間にか3人とものアレがそそり立っていた。

「え、あっ? あの……」

 流石の哀香も言葉に詰まって目のやり場に困っているようだ。

「ああ、ごめん。いや、謝ることじゃねーか。君がそんな恰好してるせいだし」

「そうそう、君の身体エロすぎ」

 哀香は目を逸らそうとしてたけれど、引き寄せられるようにチラチラと膨らみを見てしまっていた。

「男の人ってそんなふうになるんですね……」

「まぁ、男はみんなこんなもんだよ」

「そうなんですか……えっと、私の裸を見て興奮してくれてるってことですよね?」

「うん、そうだよ」

「あの、ありがとうございます……う、うれしいです」

 彼女は頬を赤らめてお礼を言った。

「どういたしまして。こちらこそありがとう!」

「えへへ」

 男達は爽やかに微笑んだ。

(なにこれ?)

 この状況は何だろう? 

 哀香と男達の雰囲気はナンセンスギャグに意味を問うような無意味で馬鹿らしいものに感じた。

 でも哀香が全裸を晒して男達が勃起しているのは疑いようのない事実としてあるわけで……。

 ひょっとしたら、この青い空と海、照りつける太陽の眩しさの『夏休み青春成分』で私以外の人間の現実認識能力はバカになってしまったのだろうか? 熱中症でタンパク質が茹で上がってしまったに違いない。

「ねぇ、悠莉……大丈夫?」

「え!?」

 哀香の声で我に返った。そこで私は自分の気配を消して存在を薄くしていたことに気づいた。

「あ、ごめん……ちょっとぼーっとしてた」

 私はとっさに取り繕った。

「大丈夫? お水飲む?」

 私を心配する哀香は全裸だ。

 哀香こそ、頭大丈夫? って侮蔑しそうになるのを心の中に封殺した。

「悠莉も脱ごう?」

 その言葉は怪しいくらいスッと頭に流れ込んできた。

 まるでその言葉を待ち望んでいたように。当たり前のことのように。

 絶対におかしいことのはずなのに。

「そうだよ、君も脱いじゃいなよ!」

「大丈夫、俺たちしか見てないし」

「そうそう、俺たちにだけ見せてよ。友達も脱いでるんだからさ」

 男達は哀香の作り出した雰囲気にのせられて、口々にはやし立て始めた。

「は? なんで私があんたたちの前で脱がなきゃいけないの!」

 私に残された最後の羞恥心が強がった。

「ずるい。私だけ裸にさせておいて、悠莉が脱がないのは不公平だよ」

「不公平って、私は別に……」

 哀香の理屈はめちゃくちゃだった。

 だけど時には理屈を超越した勢いというものがあるのだろう。

「悠莉、お願い。私も脱いでるんだから……」

「そうだよ脱いであげなよ」

「君の裸もみたいな~」

「ほら脱いで!」

 哀香のお願いに男達は便乗した。まるで私が友達グループでノリの悪いことをしているとでも言いたげ。

 そして、

「「「「脱~げ!脱~げ! 脱~げ!脱~げ!」」」

 次第にエスカレートしていった結果、ふざけたコールが砂浜に響き渡った。

 哀香も一緒になって手を叩いていた。

 ──こ、こいつら! 誰が脱ぐか! バカ!

 言葉が責め立てられて顔が熱くなった。

 やがて、私は恥ずかしさに耐えかねて水着を脱いでしまった。思考と行動が矛盾していた。たぶん、私の頭も夏のオーラにあてられてバカになっていたんだと思う。

「「「おお!!!」」」

 男達の歓声が上がった。

 乳首と割れ目を露出した私に舐めるような男達の視線が突き刺さる。
「くっ」

 不機嫌そうな声を洩らして、男達を睨んだ。

「すげぇ、エロすぎるだろ」

「スタイルよすぎて逆にエロくないかも」

「おっぱいは小さいけど乳首が勃ってて可愛い」

「み、見るな! 見るな!」



 必死に否定するけれど、乳首もアソコも隠せなかった。

 でもこれ以上、前を見られたくなくて後ろを向ける。

「おお! ケツもかわいいね!」

 男達は口々に感想を漏らした。

 私の痴態をニヤニヤと眺める男達の下腹部は、相変わらずテントを張っている。

 自分の裸に対していやらしい性欲が向けられていると思うと、ゾッとして、きゅっと締まる。

 ──なんで私はこんな奴らの前で脱いだんだろう?

 分からなかった。催眠をかけられて常識を改変されてしまったような気分。

「預かってあげるね」

「あっ、」

 さっきまで見せてはいけない部分を覆っていた布。私の乳首と股を辛うじて隠してくれていたマイクロビキニが、手からそっと水着が奪われた。

 あれが湿っていることはバレずに済んだだろうか、おそらく大丈夫。生地はしっかりしてるから……。

 レジャー客がいつ訪れてもおかしくない木陰の砂浜で、私と哀香は全裸になった。

「あっ、そうだ忘れてました!」

 突然、哀香が何かを思い出したかのように声をあげた。

「あの、ちょっと待っててください。お願いしたいことがあって……」

 そして彼女は全裸のまま駆けだした。

 ぷりぷりと生のお尻を振りながら、砂浜を走って20mくらい先にある木陰まで向かった。

 その木陰は私たちの荷物が置いてある場所で哀香は何かを漁っているようだった。

「ありました~!」

 遠くで哀香は声を上げ、手を振っている。

 私たちの視線は彼女に釘付けになった。

 絵にかいたような『女の子走り』だった。50メートル進むのに20秒もかかりそうなくらい。運動神経が終わっている女の子の演技。

 腕を上げ、生乳を隠すこともなくゆっさゆっさと揺らしながら近づいてくる。乱暴におっぱいが弾んで、乳首がランダムに向きを変える。その乳首を捉えようと男達の視線も動く。



 あんな美人な子が全裸で走ってくる。意味のわからない光景だった。

 何よりも哀香は満面の笑みで、本当に楽しそうで……。

「お待たせしました。あのぅ、撮ってくれませんか?」

「え?」

 衝撃的な光景の余韻に囚われていた男達が、きょとんとした。

 彼女が取りに戻ったモノがスマホだと気付いた。

「こんな経験、もう二度とないかもしれないから……記念に撮ってほしいんです」

「……ああ、そういうこと。……いいよ!」

 男の一人が困惑しながらも哀香のスマホを受け取った。

「写真にする? 動画にする?」

「えっと、写真でお願いします。その方が画質がいいので……」

 哀香は恥ずかしそうに顔を赤らめて答えた。

 野外で男達に自分の裸体の撮影をお願いするなんて、絶対に異常事態のはずだった。なのに場の誰もが気づかないふりをしていた。

 違和感が夏の暑さで溶けたかのよう。どこか爽やかにさえ思えた。

「はい、ポーズとって」

 男達のカメラが私達に向けられて、シャッター音が鳴り響く。

 青空の下、私達の全裸の撮影会が始まった。
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