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1”恥辱のヌードモデル

05.勝気スレンダーボーイッシュ

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(悠莉視点)

 ついにこの日が来てしまった。

 雲ひとつない快晴の日曜日の午後。私は叔父さんのアトリエにやってきた。

 今日私は、『大勢の前で全裸を晒す』ためにこの場所に来ている。脱がせてほしいと叔父さんに電話してお願いしたのだ。

「おっぱいもお尻も丸出しにしてもらうけどいいの?」

 電話越しにでもわかるくらい叔父さんの声色は、にやけていた。

「脱ぐよ。哀香もやったんだから……」

 私はヌードモデルに同意した。冷静に考えるとおかしくなりそう。でも逃げられない。逃げてはいけない。

 だから今日、決死の覚悟でここに来た。

 ドキドキしながらアトリエの扉に手をかける。

「じゃあ、先に教室で待ってるから」

 緊張する私に声がかけられた。哀香だった。

 彼女は私が逃げ出さないためのお目付け役としてここにいる。

 心細くて付き添いをお願いして来てもらったけど、都合が良すぎるわがままだったかもしれない。

 先週、一人ぼっちでここに来て全裸にならなければいけない状況に追い込まれた彼女は、どれほど心細かったのだろう。

 私は最低だ。なのに哀香はそんな私にも笑顔を向けてくれる。

「頑張ってね」

「う、うん」

 ぎこちなく返事をした。

 彼女と別れて更衣室に入ると途端に心細くなってきた。ここで服を脱いでスタジオに行くようにと講師の男に指示されている。

 私は覚悟を決めて、着ていた服に手をかけた。

 泣きそうだった。

 私はよく誤解される。友達にはサバサバした性格だと言われるけど、実は恥ずかしがり屋で表情に出にくいだけ。金髪にしているのは強気に見せて舐められないためだ。周囲には強がって嘘をついているけれど、男と付き合ったこともない。

 だから裸を見られたことなんてないのに……。

 でも、責任は取らなければならないから……。

 震えながら服を脱ぐ。

 ブラジャーを外してショーツだけの姿になると、ずしりと不安がのしかかってきた。

 ──この胸も見られちゃうんだ……。



 哀香と違って小ぶりな胸だから自信がない。

 胸の大きさが昔からのコンプレックスだった。中学の時、好きだった男におっぱいの小ささをバカにされたのが忘れられないトラウマ。いつ大きくなるんだろうって思っているうちに大学生になってしまった。

 胸を揉んでみてもすぐに大きくなりはしなかった。

 もっとも仮に、今すぐ大きくなったとしても恥ずかしさは変わりはしない。

 ──乳首まで見られちゃうんだ……。

 恥ずかしさで顔が熱くなる。

 ぎっと唇をかみしめてショーツに手を掛ける。

 ──乳首だけじゃなくてここも……。

 きゅっと股間に力が入った。今日脱ぐことは事前に決まっていたから、下の毛は整えてきていた。もっとも私は毛が薄いタイプだからあまり時間はかからなかったけれど、昨日、お尻に剃刀をあてて剃っている時どうしようもない屈辱を感じた。

 くやしかった。見せるために綺麗にしている事実が。

 ぐっとショーツに力を加えた。

 考える前に一気にやってしまおうと思った。どうせこの部屋には誰もいないのだ。まだ普通の着替えと変わらない。

「え、えい!」

 掛け声をあげてショーツ膝まで下ろした。

 その時、ドアをノックする音がした。

「すみません、入ります」

 男の講師の声だった。

「え、まって!」

 私が咄嗟にあげた声を無視してドアは開かれた。

 男と目が合った。



 私はちょうどショーツを膝まで下げたところで、何も隠すことが出来なかった。

 ──え? え? うそ、見られてる!!

 心の準備も無しに乳首と生尻を男に見られてしまった。

 私はパニック状態に陥ってお尻を突き出した状態で硬直してしまった。

 ──嫌っ! 嫌っ! 見るな!

「ッ……。まだ、途中なんだけど?」

 内心の動揺を隠すように必死に強がって睨みつけた。

「ああ、すみません」

 しかし男は興味なさそうに謝る。そればかりか尻を突き出す私を横目にズケズケと部屋に入ってくる。

 私はその態度にムッとした。

「なんのよう?」

 ショーツを足から引き抜いて乱暴に籠に投げ捨て、男を見据え不機嫌な態度を示す。私は恥ずかしがってると思われたくなくて、乳首もアソコも隠せていなかった。

 腰に手をあてて精一杯、にらみを効かせた。

 男の視線が上下した。確実に私の体を見定める視線。むなしい強がりに意味はなかった。

「……ッ 」

 屈辱で歯を噛み締めた。この男に私の全裸が見られている。

「これを着てください」

 男は無表情で脇に抱えていたものを差し出した。渡されたそれは淡いグレーをしている布だった。むこう側が透けるほど薄い。

「なにこれ?」

「キャミソールです」

「えっと……?」

「下着ですよ」

「いや、知ってるけど」

「なら早く着替えてください」

「なんでこんなの着ないといけないの?」

「服のラインと身体のラインを確認するためです」

 男は要件だけを不躾に言う。その態度が気に入らない。しかも何か言いたげに私の膨らみに視線を落としていた。

「……なに? なんか文句でもあんの?」

「いえ、いいプロポーションだと思います。彫刻のモデルにしたいです」

「小さいからってバカにしてるんでしょ。ぶっとばすよ?」

「僕は小さい方が好きです。では失礼しました」

 ぶっきらぼうに言った男はあっさりと部屋から出て行った。

「なんなの、あいつ……でも、見られた……っ!」

 心臓がバクバク鳴っている。

 あの男の無表情な顔を思い出して屈辱的な気持ちになる。私の全裸を見といて眉ひとつ動かさないなんて、許せなかった。私はこんなに恥ずかしい思いをしたというのに。

 羞恥と不満が混じった意味わかんない感情を押し殺して、男が置いて行ったキャミソールを摘んでみる。

 仕方なく着てみた。

 もしかしたら、全裸よりマシかもしれないと思ったからだ。

 でも勘違いだった。

「うわぁ……恥ずかしい……」

 ピンクのスケベそうな下着を着た自分になっただけだった。

 乳首も透けて、乳輪の色まではっきり分かる。

 下半身もお尻の途中で丈が終わっていて、丸出しと何も変わらない。秘所を覆う部分も丈が足りずチラチラとめくれて何も守ってくれない。

 こんな服とも呼べない布切れ。なんのために存在しているのだろうか。

 ──こんなの裸の方がマシじゃあ?

 私がそう思った時、声がかけられた。

「よろしくお願いします」

 部屋に呼ぶ声だ。

 きゅっとキャミソールの裾を掴んだ。大事なところを何も隠してくれないコイツに頼るのは最悪の屈辱だった。

 逃げ出したかったけど、許されなかった。

 人の気配がする扉の向こうに進んで行く。女の裸をスケッチするために集まった男達がそこに居る。

 モデルは私。負けるな。

 ぎゅっと拳を握って前を見据えた。俯いてモジモジなんてしてやらない。媚びたりなんてしないって決めていた。真っ直ぐに前を見て、廊下を歩く。

 男が扉の前で待っていた。

「……くっ」

 ぎゅっと歯を噛み締め部屋に入ると、私の体に何人もの男の視線が突き刺さった。

 ──見られちゃってる……こんな大勢に……。

 私は大勢の男たちに全裸を晒してしまった。

 ヌードデッサンがこれから始まる。
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