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3”ラッキースケベ?

19.大きくないから恥ずかしくないもん

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(悠莉視点) 

 私は股間を押さえながら玄関先に戻ってきた。

「……いくら?」

「え? ああ、せ、1200円……えっと、だけど……いや、あの……ち、その……」

 男は値段を言ったけれど、ボソボソとした様子で何かを言い淀んでいた。

「なに?」

 煮え切らないその態度が気持ち悪くて、睨んでしまう。

「いや君、裸だし……それに、隠さないの? 僕、見ちゃってるけど」

 ついに聞かれてしまった。股間に置いた左手にキュッと力が加わる。



「……なんのこと? 隠してるじゃん」

「え?」

 自分自身でも「何言ってんだコイツ」って気分だった。

 それでも私は、股間だけを隠していた。そこだけはどうしても見せたくないように、しっかり覆って。

「え? いや、お、おっぱいとか……」

 男は、私の丸出しの乳房を見ながら聞いた。もう痛いくらいビンビンの突起は、男を見上げるように勃っている。

「別に、隠すの面倒だから」

 嘘だった。

「 そ、そうなんだ……」

 男は「え? 間違ってるの俺なの?」とでも言いたげ。まるで現実認識の違う世界に迷い込んだように呆気にとられている。

 男が困惑しようが私には関係なかったから、汚物を見るような怒気を込めて睨んだ。

「キモい。見ないでくれる?」

「ご、ごめん!」

 男は謝ったけれど依然としてチラチラと私の乳首に鼻息を荒くしながら視線を向け続けた。

 それがキモすぎて限界だったから、私は目を伏せて用意していたセリフを告げることにした。

「それに……私……小さいし……こんなの見ても興奮なんかしないでしょ?」

 感情の高低差を作るような態度で、恥ずかしそうに男に言った。

 当初の予定では可愛こぶって首を傾けるつもりだったのだけど、この男がキモいからやめた。

「……は? いや、え?」

 男がマヌケ面で固まって、目を丸くした。

 そう、これは……

『胸の小ささを気にするあまり、ボーイッシュの意味を履き違えて、乳首を見られても気にしない女の子』の演技だったのだ。

 このシチュエーションを考えた哀香の顔が浮かんで、顔面にパンチをしたくなる。

 彼女は貧乳とボーイッシュに謝るべきなのだ。

「なに? 私……変なこと言った?」

「あ、いや、大丈夫……なるほど、そういうこともあるのか……」

 男は私の乳首をまじまじと見つめながら、納得したようにうんうんと頷いた。

 こんな変なことに騙されるなっ! と中年オヤジにイライラする。

「じゃあお金払うから……っ」

 私は長財布で片手で開けるのが難しかったから戸惑ってしまって、開けるためには両手を使わなければならないことに気づいた。

 男は私の漏らした声を察したように、視線を落とした。その奥にあるものを思い出されているようで、ギュッと力が加わる。

「あ、そこは、恥ずかしいんだ……」

 男がつぶやいた。こんなオヤジにバレたのが屈辱だった。

「べ、別に! 」

「大丈夫、おじさん見ないようにするから……。それにもう一回見ちゃってるし」

 それはそうだった。もう既に私は出会い頭にすべて晒しているのだ。

 でもそれはこんなキモいオヤジだなんて思ってなかったからで……。

「み、見るなよ!」

 私はそう強気に言って左手を離した。

 さっきよりも男との距離が近い、開けっぱなしのドアから外の風が吹き込んできて、私のアソコにあたる。

 両手を使って財布を開けて中身を見る。

「……ごめん。一万円札しかない」

 すこしバツが悪くなりながら、お札を差し出して男の顔を見ようとした。

 きゅん♡

 と、ナニかが反応して締まった。

 ──えっ。

 ハッとして見上げると男が見ていた。

 見ないなんて嘘だった。

 男の視線は私の股間に釘付けになっていた。それは、とても意地汚くて、目に焼き付けて、一生忘れないつもりかのように卑しかった。

 舐めるように堪能されているようで鳥肌が立つ。

「み、見るなっていったでしょ!」

「あっ! ごめん。つい。あ、お釣りね」

 わざとらしく言ってショルダーバッグから札と小銭を取り出して私に返した。それを受け取って、財布にしまう。

 その間も男は当然のように私の割れ目を見続けた。

 私を濡らしていた水が身体を伝って、スジからポタポタ垂れていたて、それが猛烈に羞恥心を駆り立てた。

「見るなっていってるでしょ! このハゲデブオヤジっ! キモいだよ! 死ね!」

 感情が昂った私は思わず男のことを罵倒しすぎてしまった。

「うう……無理だよ。君、美人だしぃぃ!  生でなんて初めて見たんだよぉぉ。うぇぇん」

 私は驚愕した。

 目の前の中年の配達員は、親に叱られた子どものように突然泣き出したのだ。

「は? え? な、なんで泣いてるの!?」

 予想外すぎる出来事にわけがわからなくなる。

 ──私が叱ったから!?

 意味が分からなかった。

 でも、それはもしかしたら私の主観的で独りよがりな現実の見え方なのかもしれない。

 なぜなら「私と哀香がやろうとしていること」と「中年オヤジが突然泣き出したこと」それは同じくらい異常な出来事のはずなのだ。

 この男だって私に裸を見せられるなんて考えてもいなかったはず。

 現実を歪めた私に、神様がバランスを取るために罰を与えたのかもしれない。

 そして、中年の配達員は聞いてもいないのに語り出した。

「おじさんねぇ、最近いいことなくってぇ。10年以上実家に引きこもってたんだけど、ママに泣かれて家を追い出されそうになって、働くハメに……! やっとこの仕事につけたんだけど、年下ばっかりで、物覚え悪くて馬鹿にされるし、仕事はきついし、気持ち悪がられるし、中年童貞だし……もう何もいいことなんて起こらないと思って生きるのが辛かったんだぁ……でもまさか今日、君みたいな美少女が裸で飛び出してくるなんて思わなくて、しかも全部、見えちゃった。たしかに、おっぱいは小さいけど……形はいいし、綺麗なピンク色で可愛い乳首だと思う。十分魅力的だし興奮する! 柔らかそうで、しゃぶりつきたいくらいだよ!……ご、ごめんね気持ち悪くて……」

 突然、早口でぺちゃくちゃと私に関係ない自分語りを始めたかと思ったら、聞いてもいない感想を語り出した。それから勝手に自己嫌悪に陥ったらしく「ごめんね、ごめんね」とペコペコ禿げた頭を上下させて謝る。

「え、うん。気持ち悪い」

 素直な感想がこぼれ落ちた。ドン引きだった。

「だよね……ごめぇん 」

 露骨にショックを受ける中年の男は、二回りくらい歳の離れた私の前で泣きべそをかいている。その姿は無様で可哀想で、哀れな気持ちになった。

 だから、追い打ちをかけたくなった。二度とコイツが私に逆らわないように、痛みを与えて躾をしなくちゃいけない。

 だから私は……。

「……でも、ありがとう。私の乳首、可愛いって思ってくれて……うれしい」

 そして、左の突起にそっと指をあてた。大切なものを安全な場所にしまい込むように優しく、ゆっくり。私は初めてこの男の前で乳首を隠した。

 それはまるで『乳首を褒められて、初めて女の子扱いされたようで嬉しくて照れてしまった女の子』の演技だった……はず。

 私の顔は沸騰しそうなくらい熱くて、たぶん真っ赤になっている。

「……っ!!」

 隠したことで、こんなになるなんて思わなかった。全ては哀香が事前に考えた台本通りの展開のはずなのに。

 ──なんでこんな中年の前で照れなきゃいけないの!

 そんな思いとは裏腹に、恥部が反応する。

 まるで散歩に連れてもらえることがわかった飼い犬が、嬉しくてたまらないかのようにキュンキュンと締まる。

 ──そんなわけない!

 この中年オヤジは本当に、気持ち悪くて、卑しくて、救いようがなくて、気持ち悪くて……気持ち悪い。だから、それがほんのちょっぴり可愛く見えただなんて……そんなことあるわけがないのだ。

「じゃあ、おじさんもう帰るから……」

 私の状態に1ミリも気づいていない態度で、男は半べそをかきながら帰ろうとする。

 ──は? 帰るの? 私の全裸を見たくせにっ……。

 予想外の怒りが湧き上がった。

 私達が計画した『裸を見てもらう計画』は、多少の予想外があったけれど十分筋書き通りのものだった。

 この後、哀香と今日起こった『異常事態(計画通り)』について感想を言い合う女子会を開くことになっている。

 だから本当に……自分の言葉が信じられなかった。

「待って!」

 なぜか私は、中年オヤジの背中を呼び止めていた。

「え?」

 男が意外そうな顔をして振り向いた。

 私の全裸がまた見られた。

 ──こんな中年に……。

 恥ずかしくてモジモジとする。

 そして私は、まるで『少女漫画のヒロインが些細なことで恋に落ちてわ顔を赤らめてこれから告白する』みたいな態度をした。

 誘うように小ぶりの胸に触れた。

「おっぱいが可愛いなんて……初めて言われた。ずっと自信がなかったから……。ありがとう」

 そして、私は現時点で考えうる限り最悪のセリフを口にした。

「お礼に……触ってみる?」

 この男よりも私自身こそが異常の原因だった。

 情緒と現実がぐにゃぐにゃ歪んでいた。

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