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第二十五話 閑話休題・二
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ちーん……と、鈴の音が鳴り響き、手を合わせる。
「お父さん、私は元気でやってるよ。だから、安心してね」
「ミドリもわたしも、大病もせず、健やかです。守ってくれているのですね」
祈念が終わり、お仏壇から後ずさる。
「お母さん、ごめんね。一人暮らし、大変でしょう」
「ミドリこそ、また葵家での暮らし、苦労してるんじゃない? ほら、七年前……」
「お母さん、お嬢様を悪く言わないで」
それは、懇願だった。私は、お嬢様を愛している。
「ごめんなさい。お母さんは、仕送りのおかげもあって、ちゃんと暮らせているからね」
母はひと息ため息を吐き、「やっぱり、大学を卒業させてあげたかったねえ……」とこぼす。
「仕方ないよ。突然だったもの」
狭いアパートを見渡す。父が生きていた頃は、もう少し羽振りの良い暮らしができていたが、せんもない。
「今ね、お父さんから教わった料理が、活きているの」
料理勝負を思い出す。私の料理を、好きだと仰ってくださったお嬢様。心の底から、嬉しい。料理人だった父。生前教わった数々のことが、私を助けてくれている。
それにしても、あのとき、アキさんに引き止めてもらってよかった。あの場から逃げ出していたら、またお嬢様を傷つけるところだった。
アキさんにはそれだけではなく、「狂言恋人」のときも助けられている。まさか、公式二股なんて解決法があったなんて。
アキさんがいなければ、私はお嬢様を、どれだけ深く傷つけていたことか。
彼女には、感謝しかない。
「今日は、どれだけゆっくりできるの?」
「終バスが早いから、あまりゆっくりできないかな。夕ご飯まで食べている時間、ないと思う」
「そう……残念ね」
項垂れる母。
「ごめんね。お昼の肉じゃが、とても美味しかったよ」
「ふふ、サンマの次に、ミドリの大好物ですもんね」
「時間まで、たくさん話しましょ」
父との、思い出話や、今後について話に花を咲かせる私たち。
大学に、行きたかった。それは、偽らざる本音。でも、進学を諦めたおかげでお嬢様に出会えたのは、運命というものだろう。
それに、私には本がある。本でも、知識を蓄えることはできる。
「あ、そろそろ行かなきゃ」
「寂しくなるわね」
「また、ちょくちょく帰ってくるから」
バス停まで、見送ってくれる母。乗車すると、互いの姿が見えなくなるまで、手を振り合うのでした。
「お父さん、私は元気でやってるよ。だから、安心してね」
「ミドリもわたしも、大病もせず、健やかです。守ってくれているのですね」
祈念が終わり、お仏壇から後ずさる。
「お母さん、ごめんね。一人暮らし、大変でしょう」
「ミドリこそ、また葵家での暮らし、苦労してるんじゃない? ほら、七年前……」
「お母さん、お嬢様を悪く言わないで」
それは、懇願だった。私は、お嬢様を愛している。
「ごめんなさい。お母さんは、仕送りのおかげもあって、ちゃんと暮らせているからね」
母はひと息ため息を吐き、「やっぱり、大学を卒業させてあげたかったねえ……」とこぼす。
「仕方ないよ。突然だったもの」
狭いアパートを見渡す。父が生きていた頃は、もう少し羽振りの良い暮らしができていたが、せんもない。
「今ね、お父さんから教わった料理が、活きているの」
料理勝負を思い出す。私の料理を、好きだと仰ってくださったお嬢様。心の底から、嬉しい。料理人だった父。生前教わった数々のことが、私を助けてくれている。
それにしても、あのとき、アキさんに引き止めてもらってよかった。あの場から逃げ出していたら、またお嬢様を傷つけるところだった。
アキさんにはそれだけではなく、「狂言恋人」のときも助けられている。まさか、公式二股なんて解決法があったなんて。
アキさんがいなければ、私はお嬢様を、どれだけ深く傷つけていたことか。
彼女には、感謝しかない。
「今日は、どれだけゆっくりできるの?」
「終バスが早いから、あまりゆっくりできないかな。夕ご飯まで食べている時間、ないと思う」
「そう……残念ね」
項垂れる母。
「ごめんね。お昼の肉じゃが、とても美味しかったよ」
「ふふ、サンマの次に、ミドリの大好物ですもんね」
「時間まで、たくさん話しましょ」
父との、思い出話や、今後について話に花を咲かせる私たち。
大学に、行きたかった。それは、偽らざる本音。でも、進学を諦めたおかげでお嬢様に出会えたのは、運命というものだろう。
それに、私には本がある。本でも、知識を蓄えることはできる。
「あ、そろそろ行かなきゃ」
「寂しくなるわね」
「また、ちょくちょく帰ってくるから」
バス停まで、見送ってくれる母。乗車すると、互いの姿が見えなくなるまで、手を振り合うのでした。
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