上 下
5 / 33

第五話 妹

しおりを挟む
「あちゃー……」

 きのこスパを食べ終わり、食休み中。スマホをいじってたハルちゃんが、何とも言えない声を出す。

「どしたの?」

 同じくスマホでブラウジングしていたので、声をかける。

「止められちゃいました」

 がっくり、項垂れる彼女。

「それも、親の管理かー」

 ほんと、籠の鳥だったんだね。

「はい。就活しなきゃいけないのに、どうしましょう」

「新しいの、作りに行く?」

「いいんですか? 私、ないないづくしですよ?」

 不安そうな彼女。

「まー、全部奢ってあげるとかは無理だけど、そこは出世払いでいーよ」

「ありがとうございます!」

 ぱあっと、顔を輝かせる。

 我ながら、お人好しがすぎるかなとも思うけど、なーんかほっとけないのよね、彼女。

「本人確認書類はある?」

「はい、保険証とマイナが」

 なら、大丈夫かな。

「じゃー、今度はF駅に行きますかー。ハルちゃんも着の身着のままじゃね。服、買ってあげる!」

 さっき、私たちが買い出しにでかけたのは東F駅。文字通り、F駅から東に一駅行ったところにある。

「何から何まで、すみません」

「気にしなさんな。それでも気にするなら、後から返してくれればいいから。なんだかね、妹ができたみたいで嬉しいのよ」

 立ち上がり、腰を伸ばしながら言う。

「妹、ですか。ふふ、なんだか照れくさいですね」

 はにかむ彼女。かわいいなあ。

「じゃ、行こうか」

 さーて、本日二度目のお出かけですよー。


 ◆ ◆ ◆


 バスで移動し、F駅前へ。ここの駅舎は、美しいと評判なのです。

 ちょっと、地元民として誇らしい。

「ハルちゃんは、やっぱりそういうおとなしい服が好み?」

「好みというか、こういう服しか買ってもらったことがないもので」

 ふーむ。

「ハルちゃんが、どういう仕事に就けるかわかんないから、そういう感じのと、アクティブなの、両方買っていこうか」

「ありがとうございます! ほんと、すみません」

「ほっほっほっ。情けは人のためならずじゃよ」

 とか言いつつ、まずは駅そばのショッピングモール、「るるる」へ。そこのブティック、「ハーネスト」に案内する。

「ここの服ね、値段の割にはすごくいいのよ」

 と言いつつ、店内を物色。

「たしかに、いいですねー」

 ハルちゃん、ショッピング楽しそうだな。

 彼女が嬉しいと、私まで嬉しくなってくる。

 三着ほど買い、次は隣のビルのファッション店、「ユアクロ」へ。

「こう言う感じのお店、初めてです」

「とりあえず、長袖とデニム見ていこうか」

 ハルちゃん、こちらでも楽しそうに物色。

 活動的なデニムなんかに、興味津々。

「遠慮せず、好きなの選んでいいからねー」

 ふふ。ほんとに、妹と買い物してるみたい。

 私は一人っ子だけど、ほんとに妹がいたら、こんな感じだったのかな。

 彼女は、清潔感のある白い長袖とネイビーブルーのデニムを選びました。

 そして、本命である電気店に。

 そこで、スマホを買い替える。遠慮して、格安シムを選ぶ彼女。でも、安物買いの何とやらなので、もうちょっといいのを勧める。

「悪いですよ!」

「いーの、いーの。かわいい妹のためだもん」

 結局、私の熱意に押され、ちょっといいのを選んでくれました。

 そのあとは、更に隣のショッピングモールで、シュークリームを買い食い。

「ほんと、何から何まですみません」

「あんまり恐縮しないの。たまには、人の善意をまるっと受けるって大事よ」

「善意、ですか。おねーさんは、わたしを葵家の娘ではなく、一人の葵ハルとして見てくれるんですね」

 ちょっと照れくさそうに、はにかむ彼女。

 そうか、打算的な人間関係に囲まれてたんだな、きっと。

「そうだよ。私は、ハルちゃんという人間に、惚れちゃいました! かわいくて、いい子なんだもん。好きにならない理由がないよ」

 ほほえみを投げかけると、恥ずかしそうにうつむいてしまう。かーわいーいなー!

「あとは、百均で細々としたもの買っていこう」

 そういえば、布団も新しくしないとなー。これは、重いしかさばるから、通販だね。

 諭吉先生がひらひら飛んでいくけど、かわいいハルちゃんのためだ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

日韓百合 ―わたしのオンニ―

みなはらつかさ
恋愛
 乗らなきゃだよ、このビッグウェーブに!

凶器は透明な優しさ

恋愛
入社5年目の岩倉紗希は、新卒の女の子である姫野香代の教育担当に選ばれる。 初めての後輩に戸惑いつつも、姫野さんとは良好な先輩後輩の関係を築いていけている ・・・そう思っていたのは岩倉紗希だけであった。 姫野の思いは岩倉の思いとは全く異なり 2人の思いの違いが徐々に大きくなり・・・ そして心を殺された

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

わたしと彼女の●●●●●●な関係

悠生ゆう
恋愛
とある会社のとある社員旅行。 恋人(女性)との仲がうまくいていない後輩(女性)と、恋人(男性)からプロポーズされた先輩(女性)のお話。 そして、その旅行の後……

処理中です...