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第七話 まりんの休日

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「もー、ほんと助かっちゃった!」

「いやあ、それほどのことは……」

 夕食の席で、まりんの一人二役を、べた褒めする師匠。今日のメニューは、メバルの煮つけ。

 まりんもまんざらではなく、でれでれである。

「今年の新人は、有望だな」

 腕組みし、うんうん頷くらいあ。

「初日に指導してらっしゃった、新人さんはどんな感じですか?」

 そんならいあに、まりんが質問を投げる。

「む? 勉強熱心で、なかなか鍛えがいがあるぞ。カンブリア生物に比べると、種類が少ないからな。より、ディープに教育できる」

 普段無表情な彼女だが、心なしか柔和な表情で、メバルに箸をつける。

「あくあちゃんからは、なにかある?」

「うん。絶滅展、夏休み初日から二週間、ブッ通しで開催することになった!」

「おお! 一大プロジェクトじゃーん!」

 あくあの背中を、べしんと叩くまりん。

「へへ。まさか三日目で、こんなでかいプロジェクト、動かすことになるとはなあ……」

 感慨深げに、シジミ汁を飲む彼女。

「その、一人でできるの? 失礼かもだけど」

 奏が、つい不安視する。

「先輩たちも同期も、一丸となって展開するプロジェクトですから、きっと大丈夫です。それより、あと一ヶ月もない、GWゴールデン・ウィークを乗り切れるかの方が、心配ですよ」

 それを聞いて、一同の瞳から光が失われる。世間では、ゆっくり骨休めする期間だが、彼女らにとっては、超繁忙期である。

「が、がんばろー!」

「おー!」

 奏が震え声で拳を突き上げると、上ずった声で、それに続く三人であった。


 ◆ ◆ ◆


 まりんは、本日オフ。あくあも奏も、出勤しているのが寂しいが、たまには一人で時間を潰すのも良いと思った。

「あのー、すみません」

 競馬番組をデバイスで見ていた料理長に、声を掛ける。ちなみに、女性だ。女子寮は、男子禁制である。

「なんだい?」

「キッチン、使わせてもらっていいですか?」

「あー、ごめんね。調理師以外は、触っちゃいけないことになってんだ」

「そうなんですか……」

 まりんの趣味は、料理である。料理をすると、いいストレス発散になるのだが。

「どうした?」

 そこに通りかかった、らいあ。彼女も、非番である。

「あ、織田先輩。実は……」

 料理趣味と、寮のキッチンが使えない事を話す。

「あたしの、アウトドア用調理器具で良かったら、使うか?」

「え! いいんですか!?」

「うむ。たまに一人キャンプするのが、趣味なんだ」

 意外な趣味だなーと思いつつも、ありがたく彼女の提案に乗る。

「よろしければ、御飯ご一緒しませんか?」

「夜が、入らなくなるぞ?」

「軽めに、抑えますので!」

「ふむ……。そういうことなら」

 らいあも承諾し、「行ってきます!」と、寮長の許可を得て、材料の買い出しに出かける、まりんであった。


 ◆ ◆ ◆


「戻りましたー」

「おかえり」

 ロビーで、ソファに座ってくつろぎながら、デバイスでエディアカラ生物の学術記事を読んでいたらいあに、迎えられる。

「室内で使うものではないからな。中庭でやろう」

 中庭にブルーシートを敷き、携帯コンロとクッカー、キッチンばさみを用意する、らいあ。

「では、お借りします。まずは、パスタを半折りにして茹でまして~」

 手際よく、調理を進めていくまりん。

「あたしも料理は得意な方だが、鮮やかなものだな」

「えへへ。子供の頃からの、趣味なもので」

 そうこうしているうちに、料理完成!

「じゃーん! パスタ・プリマヴェーラでーす!」

「おお、美味そうだな」

 パスタ・プリマヴェーラ。様々な春野菜をパスタに絡めた、春の味覚である。肉を使わないので、ベジタリアンにも人気だ。

「じゃあ、半人前ずつしましょう。……いただきます!」

「いただきます。……ん! 美味いな!」

「ありがとうございます」

 談笑しながら、パスタを食べる二人。そして、ごちそうさま。

 さすがに、流しは貸してもらえたので、調理器具と食器を洗う。

 充実したオフを堪能した、まりんであった。
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