36 / 60
第三十六話 質素な晩餐会
しおりを挟む
皇帝との話も終わり、食事をすることになった。食堂に行くと、漫画でしか見ないような、白いテーブルクロスの掛かった長いテーブルの上に火の灯った燭台が幾台も乗せられ、ベルと重臣思しき人々がすでに食事を始めていた。皆、俺の姿を見ると、一斉に起立し、頭を下げ挨拶をしてきた。
俺の到着まで食事を待っていてくれないのかよとこのときは思ったが、後で知った所によると「食べられるときにすぐ食べておく」というのがラドネスでの風習らしく、戦時中であることを考えると、合理的な考え方なのかも知れない。
召使いに椅子を引かれ着席すると、ややあってパンとハムっぽい肉、それと謎の黄色い飲み物が運ばれてきた。ふむ? コース料理だろうか。それにしては、いきなり最初が肉とパンというのがよくわからないが、まあ異世界だしな。作法も違うのだろう。
さっそく食べてみるが、ハムっぽい肉は割とうまい。ただ、パンのほうがどうにも酸っぱい。確か、何かで聞きかじった所によると、ドライイーストが生まれる前のパンはパン生地を継ぎ足しながら、前のパン生地のイースト菌で発酵させるため乳酸菌なども増えて酸っぱいのだったな。この飲み物は……ほんのり甘くて微炭酸。なんというか、コーラに風味がよく似ている。ていうか何だ? 妙に気分が良くなってきた……。ひょっとして酒か、酒なのかこれ!? うーむさすがファンタジーな異世界、十四にして飲酒する羽目になってしまった。
さて、食べ終わってしまったぞ。目の前の皿が下げられる。次は何が運ばれてくるのだろうか。
しかし、いくら待っても次の料理が来る気配はない。よく見てみれば、ベルを始め皆にも次の料理が来る気配はない。
「つかぬことを聞くが……ひょっとして料理はあれで終わりか?」
「はい。本来ならルシフェル様にはもっと良いものを振る舞いたかったのですが、農民がまともに作業をするのも危うい有様ですので……」
ベルが心の底から申し訳無さそうな顔をする。そうか、そこまで困窮しているのか。なんとかしてやりたいものだ。こうして、質素な晩餐会は終わった。
◆ ◆ ◆
「ルシフェル様の世話は、彼が務めさせていただきます」
「ユコ・バックと申します。よろしくお願いいたします、ルシフェル様。精一杯お世話させていただきます」
食事が終わると、応接室でメイド長の年配女性によって、おさげのメイドが紹介された。彼女が深くお辞儀する。愛らしい容姿の少女……ん? ちょっと待て。
「今、彼と言わなかったか?」
聞き間違いだろうか。あるいは、微妙に日本語と言葉が違うのだろうか。
「はい。実はこの子は男なのでございます」
なんと。男の娘というやつか。ユコがひどく恐縮する。その表情は、深い悲しみを湛えていた。
「それとルシフェル様、お召し物を作るため、採寸させていただきます」
メイド長の言葉で、傍らに待機していた服職人が手早く体のサイズを計り、謎言語で何か言いながらお辞儀した後、去って行った。
「二日後には仕上がるとのことです」
メイド長が翻訳してくれる。いやはや、これは不便だ。現地語を憶える必要があるぞ。
◆ ◆ ◆
採寸が終わると、寝室に通された。内装は質素だが、ベッドは天蓋付きで何ともゴージャスな感じだ。食ってすぐ寝るのもどうかと思うが、他にやることがあるわけでもなし、あの質素な食事のエネルギーを少しでも多く蓄えるにはすぐに寝たほうがいいのかも知れないな。
「御用の際は、そこの呼び鈴を鳴らしていただければ、ユコがすぐに駆けつけます」
メイド長とユコはお辞儀すると、退出していった。さて、寝るか。なんだかんだで結構疲れた。それに、さっきの酒が効いているのか実に眠い。
ベッドに潜り込むと、その感触のなんと心地よいことよ! よくアニメで小さい子供が「このベッドふかふか~!」って言うシーンあるが、あの心境だ。いや、うちの安ベッドと比べもんにならん。なんとなく、皇帝の人柄というものが分かってきた。生活に必要なことにはしっかり金をかけ、それ以外は質素に済ませる。飾らない、合理的な人間のようだ。
ああ、心地よい……泥のように眠りに誘われて行く……。
俺の到着まで食事を待っていてくれないのかよとこのときは思ったが、後で知った所によると「食べられるときにすぐ食べておく」というのがラドネスでの風習らしく、戦時中であることを考えると、合理的な考え方なのかも知れない。
召使いに椅子を引かれ着席すると、ややあってパンとハムっぽい肉、それと謎の黄色い飲み物が運ばれてきた。ふむ? コース料理だろうか。それにしては、いきなり最初が肉とパンというのがよくわからないが、まあ異世界だしな。作法も違うのだろう。
さっそく食べてみるが、ハムっぽい肉は割とうまい。ただ、パンのほうがどうにも酸っぱい。確か、何かで聞きかじった所によると、ドライイーストが生まれる前のパンはパン生地を継ぎ足しながら、前のパン生地のイースト菌で発酵させるため乳酸菌なども増えて酸っぱいのだったな。この飲み物は……ほんのり甘くて微炭酸。なんというか、コーラに風味がよく似ている。ていうか何だ? 妙に気分が良くなってきた……。ひょっとして酒か、酒なのかこれ!? うーむさすがファンタジーな異世界、十四にして飲酒する羽目になってしまった。
さて、食べ終わってしまったぞ。目の前の皿が下げられる。次は何が運ばれてくるのだろうか。
しかし、いくら待っても次の料理が来る気配はない。よく見てみれば、ベルを始め皆にも次の料理が来る気配はない。
「つかぬことを聞くが……ひょっとして料理はあれで終わりか?」
「はい。本来ならルシフェル様にはもっと良いものを振る舞いたかったのですが、農民がまともに作業をするのも危うい有様ですので……」
ベルが心の底から申し訳無さそうな顔をする。そうか、そこまで困窮しているのか。なんとかしてやりたいものだ。こうして、質素な晩餐会は終わった。
◆ ◆ ◆
「ルシフェル様の世話は、彼が務めさせていただきます」
「ユコ・バックと申します。よろしくお願いいたします、ルシフェル様。精一杯お世話させていただきます」
食事が終わると、応接室でメイド長の年配女性によって、おさげのメイドが紹介された。彼女が深くお辞儀する。愛らしい容姿の少女……ん? ちょっと待て。
「今、彼と言わなかったか?」
聞き間違いだろうか。あるいは、微妙に日本語と言葉が違うのだろうか。
「はい。実はこの子は男なのでございます」
なんと。男の娘というやつか。ユコがひどく恐縮する。その表情は、深い悲しみを湛えていた。
「それとルシフェル様、お召し物を作るため、採寸させていただきます」
メイド長の言葉で、傍らに待機していた服職人が手早く体のサイズを計り、謎言語で何か言いながらお辞儀した後、去って行った。
「二日後には仕上がるとのことです」
メイド長が翻訳してくれる。いやはや、これは不便だ。現地語を憶える必要があるぞ。
◆ ◆ ◆
採寸が終わると、寝室に通された。内装は質素だが、ベッドは天蓋付きで何ともゴージャスな感じだ。食ってすぐ寝るのもどうかと思うが、他にやることがあるわけでもなし、あの質素な食事のエネルギーを少しでも多く蓄えるにはすぐに寝たほうがいいのかも知れないな。
「御用の際は、そこの呼び鈴を鳴らしていただければ、ユコがすぐに駆けつけます」
メイド長とユコはお辞儀すると、退出していった。さて、寝るか。なんだかんだで結構疲れた。それに、さっきの酒が効いているのか実に眠い。
ベッドに潜り込むと、その感触のなんと心地よいことよ! よくアニメで小さい子供が「このベッドふかふか~!」って言うシーンあるが、あの心境だ。いや、うちの安ベッドと比べもんにならん。なんとなく、皇帝の人柄というものが分かってきた。生活に必要なことにはしっかり金をかけ、それ以外は質素に済ませる。飾らない、合理的な人間のようだ。
ああ、心地よい……泥のように眠りに誘われて行く……。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる