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62 菊門攻め
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これはこれは、夜分に……。おや、あなた様でしたか。どうにも、ご縁があるようで。この、山奥で暮らす、寂しい老爺にはありがたいことですが。
ささ、魚が焼けました。一汁一菜などといいますが、人間には、このぐらいがちょうどいいのかも知れませぬなあ。……いや、せっかくの来客に対して、掛ける言葉ではありませんでしたな。
お詫びというわけではありませぬが、まずはご一献。
さて……。今宵の珍宝語りは、「亀頭軍記」より、「菊門攻め」のお話とまいりましょう。
◆ ◆ ◆
時は永禄七年。西暦に直すと、一五六四年。かの、織田上総介が、尾張を統一するより前の話にございます。
応仁の乱が終結したものの、朝廷と足利家は力を失い、朝廷に至っては、賂と引き換えに官位を乱発し、当座をしのいでいたという、荒んだ世でございました。
そのころ、京の近くに領地を持つ亀頭家は、危機に晒されておりました。
隣り合う、阿成家。そちらより、きな臭い匂いが漂ってきます。
足利の威光に守護されてきた亀頭家ですが、その恩恵は今やなく、鉄鉱山を持つ阿成に攻められるは、時間の問題。「やられる前にやれ」という状況に、追い込まれました。
亀頭家では軍議が重ねられました。阿成家の居城、波津模野城は、堅牢で知られておりました。これを、いかにして攻略するか? それがいつも議題に上がります。
そんな折、軍師・堀田雁月が、波津模野城の裏門である、通称「菊門」の地盤が緩いことを、忍により知らされます。かくして、一大作戦が決定されました。
まず、陽動部隊が、正門にちょっかいをかけます。
本来なら、攻める口実を与えるだけの行為ですが、この頃、阿成は別勢力を攻略中であり、すぐには亀頭に手を出せぬ状態。「次はお前だ」と思いつつも、陽動部隊を追い払うのが精一杯でした。
亀頭も、被害が出ぬうちに、さっさと撤退いたします。
そうしたちょっかいをかけながら、離れの森より、菊門に向かって、穴を掘っていきます。
言葉で言うは簡単ですが、軟弱地盤といえど、穴掘りは過酷な重労働。また逆に、軟弱地盤でありますから、崩れぬよう、補強しながらの作業となります。根気との戦いです。
長い時間がかかりましたが、阿成が、別勢力に勝利し、新領土の安定に腐心している頃、トンネルがぎりぎりで完成いたしました。菊門は見事に掘られ、貫通されたのでございます。
いつものように、正門にちょっかいをかける亀頭。そうして、正門に注意を引き付けておき、菊門内部より、攻略部隊を大量に送ります。
すわ、城内は大混乱。あの難攻不落の波津模野城はあっさり落ち、当主は斬首され、新領土に残存勢力が逃げて落ちますが、そこで落ち武者狩りにあい、壊滅。かくして、阿成家は滅亡しました。
この一戦と作戦は、後に「菊門攻め」と呼ばれるようになります。
しかし諸行無常。亀頭もまた、戦後の立て直しの隙を突かれ、別勢力に滅ぼされてしまいました。
戦国時代。まさに、弱肉強食の世の出来事でございます。
程なくして、織田家が尾張を統一。あとの歴史はご存知のとおりですが、その裏で、このような奇抜な作戦と、過酷な戦があったこと、覚えておきたいものです。
ささ、もうご一献。
ささ、魚が焼けました。一汁一菜などといいますが、人間には、このぐらいがちょうどいいのかも知れませぬなあ。……いや、せっかくの来客に対して、掛ける言葉ではありませんでしたな。
お詫びというわけではありませぬが、まずはご一献。
さて……。今宵の珍宝語りは、「亀頭軍記」より、「菊門攻め」のお話とまいりましょう。
◆ ◆ ◆
時は永禄七年。西暦に直すと、一五六四年。かの、織田上総介が、尾張を統一するより前の話にございます。
応仁の乱が終結したものの、朝廷と足利家は力を失い、朝廷に至っては、賂と引き換えに官位を乱発し、当座をしのいでいたという、荒んだ世でございました。
そのころ、京の近くに領地を持つ亀頭家は、危機に晒されておりました。
隣り合う、阿成家。そちらより、きな臭い匂いが漂ってきます。
足利の威光に守護されてきた亀頭家ですが、その恩恵は今やなく、鉄鉱山を持つ阿成に攻められるは、時間の問題。「やられる前にやれ」という状況に、追い込まれました。
亀頭家では軍議が重ねられました。阿成家の居城、波津模野城は、堅牢で知られておりました。これを、いかにして攻略するか? それがいつも議題に上がります。
そんな折、軍師・堀田雁月が、波津模野城の裏門である、通称「菊門」の地盤が緩いことを、忍により知らされます。かくして、一大作戦が決定されました。
まず、陽動部隊が、正門にちょっかいをかけます。
本来なら、攻める口実を与えるだけの行為ですが、この頃、阿成は別勢力を攻略中であり、すぐには亀頭に手を出せぬ状態。「次はお前だ」と思いつつも、陽動部隊を追い払うのが精一杯でした。
亀頭も、被害が出ぬうちに、さっさと撤退いたします。
そうしたちょっかいをかけながら、離れの森より、菊門に向かって、穴を掘っていきます。
言葉で言うは簡単ですが、軟弱地盤といえど、穴掘りは過酷な重労働。また逆に、軟弱地盤でありますから、崩れぬよう、補強しながらの作業となります。根気との戦いです。
長い時間がかかりましたが、阿成が、別勢力に勝利し、新領土の安定に腐心している頃、トンネルがぎりぎりで完成いたしました。菊門は見事に掘られ、貫通されたのでございます。
いつものように、正門にちょっかいをかける亀頭。そうして、正門に注意を引き付けておき、菊門内部より、攻略部隊を大量に送ります。
すわ、城内は大混乱。あの難攻不落の波津模野城はあっさり落ち、当主は斬首され、新領土に残存勢力が逃げて落ちますが、そこで落ち武者狩りにあい、壊滅。かくして、阿成家は滅亡しました。
この一戦と作戦は、後に「菊門攻め」と呼ばれるようになります。
しかし諸行無常。亀頭もまた、戦後の立て直しの隙を突かれ、別勢力に滅ぼされてしまいました。
戦国時代。まさに、弱肉強食の世の出来事でございます。
程なくして、織田家が尾張を統一。あとの歴史はご存知のとおりですが、その裏で、このような奇抜な作戦と、過酷な戦があったこと、覚えておきたいものです。
ささ、もうご一献。
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