えっちな要素はありません。本当です、信じてください？

40 ディック・コーガン

　これはこれは、こんな夜更けに……おや、あなた様はいつぞやの。

　ほほう、また道に迷われたと。なにぶん、このあたりの山道は入り組んでおりますからなあ。

　では、またしばし、この老体の珍宝披露にお付き合いくだされ。

　今宵は、映画鑑賞と洒落込みましょう。


　◆　◆　◆


　こちら、幻の映画でありまして。

　題を「ディック・コーガン」。俗にいう、マカロニ・ウェスタンでございますな。

　では、上映いたしましょう。

　ディック・コーガンは、この物語の主人公でもございます。

　早撃ちのガンマンとして知られ、「抜いたら、即発射」と恐れられたものです。

　とくに、「俺の自慢のマグナムを見せてやるよ」とうそぶいたとき、「そのそ」で、酔漢を撃ち殺しているほどです。

　本来ならば、「その粗末なデリンジャーをしまえよ」というセリフを、最後まで言わせる予定でしたが、監督の判断で即発射と相成ったとか。

　このような荒くれ者ですから、懸賞金もうなぎ上り。

　そんな彼も、あっけない最期を迎えます。ただの町人に背後から突かれ、昇天してしまうのです。

　原因は、ディックがこの町人の娘を無理やり疵物にしたからなのですが、無敵のガンマンのこの最期、諸行無常でございますな。

　ただこの映画、なにぶん残虐描写や、マカロニ・ウェスタン全盛期の当時ですら、倫理観に問題ありとされた代物で、お蔵入りしてしまったのです。

　ここにございますのは、貴重なマスターフィルムなのです。

　ささ、良い時間となりましたな。床の用意をいたしましょう。