えっちな要素はありません。本当です、信じてください？

24 百合売春

「春～。春はいりませんか～？」

　そう周りに呼びかけながら、少女は雪野原を、バスケットを手にして、歩き続けます。吐く息がまっ白。

　彼女は季節の精。季節の変わり目になると、こうやって季節を売り歩くのです。

「お嬢さん。春一つ、くださいな」

　きれいなお姉さんが、季節の精を呼び止めます。

「はい、どうぞ！」

　ピンク色に淡く輝く珠を、バスケットから取り出し手渡します。

「ありがとう」

　お姉さんは、それを地面に埋めると、雪が溶け始め、緑がぴょこぴょこと芽吹きます。きっと、美しい花園になることでしょう。

「はい、お代」

　お姉さんは、一玉の球根を手渡します。

　これは、「夏の球根」。季節の精が育てると、「夏の珠」になるのです。これが花開いたとき、ちょうど百合そっくりになります。

「ありがとうございました、花園の精さん！」

　季節の精は、ぺこりと深くお辞儀すると、雪解けの野原を、「春～。春はいりませんか～？」と、新しいお客さんを探しに歩いていくのでした。