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10 【百合短編】ゆりくんに
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<1>
「ゆりくん、もっとこう、肘の角度を締めたほうがいいよ。こんな感じに」
そう言って、文字通り手とり状態でアタックの仕方を教えてくれるのは、三年生にして、ここ○×高校・女子バレー部部長の生綿先輩。
「は……はいっ!」
思わず、頬が熱くなってしまう。
先輩は、わたし・大野ゆりだけではなく、多くの女子にとって、あこがれの的だ。
背が高くて、マニッシュで、イケメンで。中性的な声を聞くと、腰が砕けそうになる。
そんな先輩をひと目見て、入学早々バレー部に入ったのが、このわたし。
極めて不純な動機だけど、なんとか音を上げずに、練習についていってる。
「で、こう、インパクトで一気に振り抜くんだ。トスを上げるから、やってごらん」
「はい!」
先輩に言われた通り、インパクト直前まで肘を締めておき……インパクトで一気に振り抜ける!
ズバシィン! といういい音ともに、スパイクがコートを打つ。
「上手い、上手い! その調子!」
もーう。上手いのは、先輩の教え方ですよぉ~。
スパイクがきれいに決まり、上機嫌。一層、練習に身が入るのでした。
<2>
お昼。
今日も、親友の友田愛ちゃんと、中庭のベンチに一緒に座り、お昼をいただいています。
わたしは、購買のチキンカツサンド。愛ちゃんは、自作のお弁当。
朝練で、お弁当なんて作ってる時間ないんだもん。お母さんも仕事で忙しいし。学食もあるけど、お弁当勢の愛ちゃんと、一緒に食べられないからねえ。
「でね、先輩がね――」
生綿先輩の魅力について、マシンガントークを繰り広げるわたし。
「ほんとに、生綿先輩のこと好きなんだね」
「そりゃもう! 先輩LOVEだよー!」
お弁当……というか、足に少し視線を落とした後、「その恋、応援してるからね!」と、ぎこちない笑顔でこっちを見る愛ちゃん。
「うん……ありがとう!」
言葉は嬉しいけれど。先輩の話をすると、しょっちゅう空くこの意味深な間と表情は、何なんだろう?
気になって尋ねたことがあるけれど、「なんでもないよ」と明らかな作り笑顔で返されたことがあった。
うーん?
<3>
ある日のお昼休み、愛ちゃんといつものようにお昼を食べようと声をかけると、「悪いけど、今日は一人でお願い!」と言って、そのまま教室からどこかに行ってしまいました。はて?
まあいいやと、いつものを買ってきて、今日は気分を変えて屋上で。
屋上のドアを開けると……愛ちゃんと生綿先輩!? あの二人がどうして……。
二人とも、こっちには気づいてないみたいだ。
「……好きなんです。付き合ってもらえませんか?」
「そうだったんだ……。わかった。そうさせてもらうよ」
え……愛ちゃん、先輩に告白してる……?
そんな、わたしの気持ち知ってて、酷いよ!!
脱兎のように、その場から逃げ出す。
あんまりだよ……愛ちゃん……!
<4>
「ゆりちゃん、お昼……」
さらに翌お昼。何ごともなかったように話しかけてくる愛ちゃんを無視して席を立ち、購買に向かう。今日は、まだ一度も口を聞いていない。
今日は一人で、いつものベンチでチキンカツサンド。
……寂しいな。でも、失恋女にはお似合いの光景か……。はは。
もそもそと、味のしないサンドイッチを食べ終わる。いつもは、あんなに美味しいのに。
「ゆりくん!」
ゴミを捨てに行こうとベンチを立ったとき、不意に声がかけられる。
声の主は、生綿先輩だった。
「探したよ。教室に探しに行ったら、ここなんじゃないかって、君のお友達に言われてね」
「その、どうしたご用でしょうか?」
気まずくて、ついよそよそしい態度をとってしまう。
「ええと……君のお友達から、君が私のことを好いていると聞かされてね。その、私も君のことが嫌いではない……いや、好きなものだから、ゆりくんに告白させてもらうよ。恋人として、付き合ってもらえないかな?」
え? えええ!?
まさか愛ちゃんのあれ、わたしに告白することを勧めてたの!?
「どう、かな?」
「……すみません。そのお話、お受けできません。わたしには、資格がないみたいです。そして、本当に一番失ってはいけないものを、失くすところでした」
深々とお辞儀する。
「そうか……彼女、寂しそうにしてたよ。はは、振られちゃったな」
頭を掻く先輩。
「すみません」
本当に、二人には申し訳ないことをした。
「大切にしてあげなよ」
「はい!」
意を決して、教室にダッシュ!
<5>
「愛ちゃん見なかった!?」
教室に戻ると、彼女がいないので、クラスメイトに尋ねる。スマホ、つながらないし! 待ってれば教室に帰ってくるだろうけど、気が急いて、待ってるなんて出来ない!
「友田さん? さあ……あなたの少し後に、どっかに行っちゃったけど」
愛ちゃんが、他に行きそうなところ……!
手当たり次第に、道行く生徒に彼女の容姿を伝え、探し回る。
そして、たどり着いたのが屋上。
「愛ちゃん!」
いた! ちゃんといた!
鳩が豆鉄砲食らったような顔をして、こっちを見る彼女。
「ごめんなさい! 先輩から、事情聞いた! で、告白断った! 愛ちゃんの本当の気持ちが、やっとわかったよ。先輩のこと話すと、寂しそうだったわけ」
息を切らしながら、話しかける。
「あの、ムードもへったくれもないし、資格ないかもだけど! わたしの恋人になってください!」
腰を九十度曲げてお辞儀し、手を差し出す。
間。
だめか。だめだよね。こんな鈍感女。サイテーなムーブして、身勝手で。
しかし、手をぎゅっと握られた。
「ありがとう。あたし、ゆりちゃんに幸せになってほしくてさ。自分の気持ち殺して。でも、本当にあたしでいいんだね?」
「うん! 一番失っちゃいけない人が、誰かわかったから」
彼女が立ち上がろうとするので、力を貸して引っ張り上げる。
「抱きしめていい?」
潤んだ瞳で見つめながら、尋ねてくる愛ちゃん。
「うん」
二人で抱擁を交わす。
彼女を愛し抜くことで、行いを償おう。この世の誰よりも、大切にしよう。そう、心に誓うのでした。
「ゆりくん、もっとこう、肘の角度を締めたほうがいいよ。こんな感じに」
そう言って、文字通り手とり状態でアタックの仕方を教えてくれるのは、三年生にして、ここ○×高校・女子バレー部部長の生綿先輩。
「は……はいっ!」
思わず、頬が熱くなってしまう。
先輩は、わたし・大野ゆりだけではなく、多くの女子にとって、あこがれの的だ。
背が高くて、マニッシュで、イケメンで。中性的な声を聞くと、腰が砕けそうになる。
そんな先輩をひと目見て、入学早々バレー部に入ったのが、このわたし。
極めて不純な動機だけど、なんとか音を上げずに、練習についていってる。
「で、こう、インパクトで一気に振り抜くんだ。トスを上げるから、やってごらん」
「はい!」
先輩に言われた通り、インパクト直前まで肘を締めておき……インパクトで一気に振り抜ける!
ズバシィン! といういい音ともに、スパイクがコートを打つ。
「上手い、上手い! その調子!」
もーう。上手いのは、先輩の教え方ですよぉ~。
スパイクがきれいに決まり、上機嫌。一層、練習に身が入るのでした。
<2>
お昼。
今日も、親友の友田愛ちゃんと、中庭のベンチに一緒に座り、お昼をいただいています。
わたしは、購買のチキンカツサンド。愛ちゃんは、自作のお弁当。
朝練で、お弁当なんて作ってる時間ないんだもん。お母さんも仕事で忙しいし。学食もあるけど、お弁当勢の愛ちゃんと、一緒に食べられないからねえ。
「でね、先輩がね――」
生綿先輩の魅力について、マシンガントークを繰り広げるわたし。
「ほんとに、生綿先輩のこと好きなんだね」
「そりゃもう! 先輩LOVEだよー!」
お弁当……というか、足に少し視線を落とした後、「その恋、応援してるからね!」と、ぎこちない笑顔でこっちを見る愛ちゃん。
「うん……ありがとう!」
言葉は嬉しいけれど。先輩の話をすると、しょっちゅう空くこの意味深な間と表情は、何なんだろう?
気になって尋ねたことがあるけれど、「なんでもないよ」と明らかな作り笑顔で返されたことがあった。
うーん?
<3>
ある日のお昼休み、愛ちゃんといつものようにお昼を食べようと声をかけると、「悪いけど、今日は一人でお願い!」と言って、そのまま教室からどこかに行ってしまいました。はて?
まあいいやと、いつものを買ってきて、今日は気分を変えて屋上で。
屋上のドアを開けると……愛ちゃんと生綿先輩!? あの二人がどうして……。
二人とも、こっちには気づいてないみたいだ。
「……好きなんです。付き合ってもらえませんか?」
「そうだったんだ……。わかった。そうさせてもらうよ」
え……愛ちゃん、先輩に告白してる……?
そんな、わたしの気持ち知ってて、酷いよ!!
脱兎のように、その場から逃げ出す。
あんまりだよ……愛ちゃん……!
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「ゆりちゃん、お昼……」
さらに翌お昼。何ごともなかったように話しかけてくる愛ちゃんを無視して席を立ち、購買に向かう。今日は、まだ一度も口を聞いていない。
今日は一人で、いつものベンチでチキンカツサンド。
……寂しいな。でも、失恋女にはお似合いの光景か……。はは。
もそもそと、味のしないサンドイッチを食べ終わる。いつもは、あんなに美味しいのに。
「ゆりくん!」
ゴミを捨てに行こうとベンチを立ったとき、不意に声がかけられる。
声の主は、生綿先輩だった。
「探したよ。教室に探しに行ったら、ここなんじゃないかって、君のお友達に言われてね」
「その、どうしたご用でしょうか?」
気まずくて、ついよそよそしい態度をとってしまう。
「ええと……君のお友達から、君が私のことを好いていると聞かされてね。その、私も君のことが嫌いではない……いや、好きなものだから、ゆりくんに告白させてもらうよ。恋人として、付き合ってもらえないかな?」
え? えええ!?
まさか愛ちゃんのあれ、わたしに告白することを勧めてたの!?
「どう、かな?」
「……すみません。そのお話、お受けできません。わたしには、資格がないみたいです。そして、本当に一番失ってはいけないものを、失くすところでした」
深々とお辞儀する。
「そうか……彼女、寂しそうにしてたよ。はは、振られちゃったな」
頭を掻く先輩。
「すみません」
本当に、二人には申し訳ないことをした。
「大切にしてあげなよ」
「はい!」
意を決して、教室にダッシュ!
<5>
「愛ちゃん見なかった!?」
教室に戻ると、彼女がいないので、クラスメイトに尋ねる。スマホ、つながらないし! 待ってれば教室に帰ってくるだろうけど、気が急いて、待ってるなんて出来ない!
「友田さん? さあ……あなたの少し後に、どっかに行っちゃったけど」
愛ちゃんが、他に行きそうなところ……!
手当たり次第に、道行く生徒に彼女の容姿を伝え、探し回る。
そして、たどり着いたのが屋上。
「愛ちゃん!」
いた! ちゃんといた!
鳩が豆鉄砲食らったような顔をして、こっちを見る彼女。
「ごめんなさい! 先輩から、事情聞いた! で、告白断った! 愛ちゃんの本当の気持ちが、やっとわかったよ。先輩のこと話すと、寂しそうだったわけ」
息を切らしながら、話しかける。
「あの、ムードもへったくれもないし、資格ないかもだけど! わたしの恋人になってください!」
腰を九十度曲げてお辞儀し、手を差し出す。
間。
だめか。だめだよね。こんな鈍感女。サイテーなムーブして、身勝手で。
しかし、手をぎゅっと握られた。
「ありがとう。あたし、ゆりちゃんに幸せになってほしくてさ。自分の気持ち殺して。でも、本当にあたしでいいんだね?」
「うん! 一番失っちゃいけない人が、誰かわかったから」
彼女が立ち上がろうとするので、力を貸して引っ張り上げる。
「抱きしめていい?」
潤んだ瞳で見つめながら、尋ねてくる愛ちゃん。
「うん」
二人で抱擁を交わす。
彼女を愛し抜くことで、行いを償おう。この世の誰よりも、大切にしよう。そう、心に誓うのでした。
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