たくげぶ!

みなはらつかさ

文字の大きさ
上 下
4 / 49

第四話 賢いバカ、本領発揮する

しおりを挟む
 初セッションから一週間。るうもだいぶ部活と卓上ゲームに慣れてきた頃。

「んー、みんな! ボクたちでTRPG作らない?」

 部室で、きいろが唐突にそんな事を言った。

「どうした急に」

 ツッコむ、にこ。

「うん。ボクたち……るーこはまだだけど、来年受験勉強じゃない?」

「うん」

 うなずく歌留奈。

「でさ、うんと遊べる今年度のうちに、TRPGを一本作りたいなって」

「あー。きいろ、前からゲーム作ってみたいって言ってたしな」

「だね」

 顔を見合わせる、にこと歌留奈。

「ゲーム作りですか。初心者のわたしにできるでしょうか?」

「むしろ、初心者視点ってありがたいよ。慣れてると気づきにくい欠点って、逆にあると思うから」

 心配げなるうに、きいろが返す。

「ゲーム作るって、私たちは何すればいいの?」

「世界観を作って欲しい。ボク、システムしか作れないからさ。あと、テストプレイ」

「世界観かー。大変そうだな」

 腕組みし、天井を仰ぐにこ。

「で、方向性は決まってるの? ファンタジーとか」

「ボク、考えたんだよね。ネクロニカの作者さんの発言の深みを。平凡な世界観じゃ、埋もれるって話思い出してさ」

 永い後日談のネクロニカ。きいろの発言の通り、ゾンビ少女が戦うゲームという、特異な作品である。

 きいろの発言は正確ではなく、「部位破壊ルールを思いついたが、ロボはもうあるから」という動機で作られた。

「でさ、何かないか、何かないかってぐるぐる考えて、あ、探検ゲームって無いねって気づいて」

「冒険とは違うんか」

「んにゃ、探検。探検隊がチーム組んでさ、秘境を探検するの」

 「あー」と、得心が行く、歌留奈とにこ。

「探検ゲームって、ないんですか?」

「私が知る限り、ないねー」

 るうの質問に、歌留奈が答える。

「でね、ボクらの世界とはちょっと違う世界線の、ムー大陸みたいな場所があるようにしてさ。変な生物とか、いっぱい出そうよ!」

「おもしろそーだな!」

「その世界を作るのか~。やりがいありそうだね」

 にこと歌留奈も、乗り気だ。

「わたしにも、お手伝いできるでしょうか……?」

「無理しない範囲でいーよ。二人がきっと、アシストしてくれるから」

「任せて」

 不安げなるうに、きいろと歌留奈がフォローの言葉をかける。

 こうして、部活の新方針が固まった。しばらく、遊びと並行しながら、ゲーム作りをすることになった次第。


 ◆ ◆ ◆


「あれから、色々考えたんだけど。人間工学を志そうと思う」

「なんぞ、それ?」

 翌日。部室にて、きいろの謎発言に、にこが首を傾げる。

「ゲームのコントローラーって、持ち手が下の方にあるじゃん? あれがあると、持ってて疲れにくいんだよね。そういう、人間に優しい科学が、人間工学」

「ムズカシイこと、知ってんな~」

 舌を巻く、にこ。

「まーね。でさ、計算の手間と、ダイス振りの回数を減らそうと思って」

「そりゃまた、なんでさ?」

「プレイ時間の短縮。あと、ダメージが二桁とかになると、計算めんどいし。あとは、ソード・ワールドRPGやったじゃん?」

「ああ」

 ソード・ワールドRPG。かつて、一斉を風靡したシステムである。きいろが言っているのは、無印……何十年も前に出たもので、父から借りてプレイした。現在は、世界観やルールを一新した、「ソード・ワールドRPG2.5」というシステムが展開されている。

「あれ、敵の攻撃と防御を何回も振るの、めんどくさくてさ」

 ソード・ワールドRPGは、攻撃とダメージ、回避と防御で二回ダイスを振る。そして、レーティング表と呼ばれるものを参照して、打撃点 (ダメージ)と防御点を出す。

「固定値の敵出せば、良かったのに」

 ツッコむ歌留奈。モンスターの打撃点と防御点は、固定値を使う。

「思いついたシナリオが、敵兵の集団と戦うんだもん。あれは、ちょっと手間だった」

「だったら、固定値にするルール使えばよかったじゃん」

 そういうことが、できるようになるサプリがあり、きいろは父から、それも借りていた。にこは、それを言っている。

「う~ん。ドラマが欲しいのが人情じゃん。つい、ね」

「それは、きーちゃんの問題じゃない?」

「そうでもあるけど。ボクは、PLもGMもラクできるシステムを作りたいんだ」

 「ふ~む」と唸る、歌留奈とにこ。るうは、ちょっと蚊帳の外で、きょとんとしていたが。

「まあ、面白ければ、何でもいいんじゃないでしょうか?」

「そそ! るーこ、いいこと言うねえ!」

 きいろが、るうの支持を得て、ぱちんと指を鳴らす。

「システム周りは、ボクを信頼してくれると、ありがたいかな」

「まあ、きーちゃんがそこまで言うなら。システム作るの、きーちゃんだし」

「だな」

 こうして、話はまとまった。新作ゲーム、いよいよ制作着手だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由

棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。 (2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。 女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。 彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。 高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。 「一人で走るのは寂しいな」 「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」 孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。 そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。 陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。 待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。 彼女達にもまた『駆ける理由』がある。 想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。 陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。 それなのに何故! どうして! 陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか! というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。 嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。 ということで、書き始めました。 陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。 表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。

執事👨一人声劇台本

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
執事台本を今まで書いた事がなかったのですが、機会があって書いてみました。 一作だけではなく、これから色々書いてみようと思います。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

パラメーターゲーム

篠崎流
青春
父子家庭で育った俺、風間悠斗。全国を親父に付いて転勤引越し生活してたが、高校の途中で再び転勤の話が出た「インドだと!?冗談じゃない」という事で俺は拒否した 東京で遠い親戚に預けられる事に成ったが、とてもいい家族だった。暫く平凡なバイト三昧の高校生活を楽しんだが、ある日、変なガキと絡んだ事から、俺の人生が大反転した。「何だこれ?!俺のスマホギャルゲがいきなり仕様変更!?」 だが、それは「相手のパラメーターが見れる」という正に神ゲーだった

息絶える瞬間の詩のように

有沢真尋
青春
 海辺の田舎町で、若手アーティストを招聘した芸術祭が開催されることに。  ある絵を見て以来、うまく「自分の絵」がかけなくなっていた女子高生・香雅里(かがり)は、招聘アーティストの名前に「あの絵のひと」を見つけ、どうしても会いたいと思い詰める。  だけど、現れた日本画家・有島はとてつもなくガラの悪い青年で…… ※喫煙描写があります。苦手な方はご注意ください。 表紙イラスト:あっきコタロウさま (https://note.com/and_dance_waltz/m/mb4b5e1433059)

処理中です...