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第一話 賢いバカが、あらわれた!
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F市立・第十一中学校グラウンド。
今日は部活の見学日で、勧誘に熱心な部員たちと、新入生で賑わっていた。
「あーあー、しょくーん!」
唐突に、台の上で一人の女子生徒が拡声器で声を張り上げる。
一同の視線が、そちらに集まった。
黒髪のショートカット、背は低く、胸は真っ平ら。制服のスカートが風で翻るが、黒いスパッツを履いているので、気にしていないようだ。
顔立ちは、とても愛らしい。
「我々、『卓ゲ部』は、絶賛、部員募集中でーす! どーかどーか、入ってくださーい!」
ざわつく一同。そこに、一人の女性教諭が台に駆け昇った。
「こら! 佐武さん! どこから持ってきたんですか、こんな物!」
拡声器をひったくる。
「あ、ギンコせんせー! さっき、許可もらったじゃないですかー」
佐武と呼ばれた生徒、佐武きいろが、悪びれず、にこにこと返事。
「ギンコって呼ばない! しろがねです! というか、鈴木先生と呼びなさい! そもそも、許可なんて出していません!」
一方、ギンコと呼ばれた鈴木しろがねという女教諭は、ぷんすかという擬音を絵にしたような有様だ。卓ゲ部の顧問でもある。
「えー。さっき、職員室で『新入部員勧誘してくるんで、許可くださーい』って言ったら、いいですよーって」
「それで、どうして拡声器の持ち出しOKになるんですか!?」
「ならない?」
くりっと、小首をかしげるきいろ。
「なるわけないでしょう!」
「とう!」
「ぐは!」
唐突に、いつの間にか台の上に上がっていた女生徒が、背後からきいろの首に手刀を入れる。
「すみません、鈴木先生。きーちゃんの所業は、私の監督不行き届きです」
彼女は、奥野歌留奈。きいろの幼馴染にして、卓ゲ部の部員でもある。
髪は黒のロング。背が高く清楚な顔立ちだが、ご覧のようにツッコミ気質だ。胸も清楚。
「いえ、あの。教師の目の前で暴行しないで?」
「あーもー、グダグダじゃんよー。ふつーに勧誘しよーぜ?」
台の下から三人の漫才を見上げる、黒髪ショートの女生徒。
彼女は、大須にこ。きいろと歌留奈の親友であり、卓ゲ部員でもある。胸は発展途上。
「しょーがないなー。拡声器は取られちゃったし。今行く!」
台を駆け下り、卓ゲ部の机にダッシュするきいろ。
「ふー……。佐武さん、英語と社会以外の成績はいいし、授業態度もいいのに、どうしてそれ以外だと、ああなのかしら」
「うちのきーちゃんが、ご迷惑をおかけしてすみません」
鈴木教諭に深々とお辞儀する歌留奈。
「いえ、奥野さんが謝ることは。ただ、暴行はしないでね?」
「善処します」
再度、深くお辞儀。
鈴木教諭は、やれやれといった調子で、職員室に戻っていく。
一方その頃、きいろはというと――。
「ねー、そこのギャルズ~。卓ゲしようよー。特に、TRPG面白いよ~」
ギャル風の生徒二人に、すがりついていた。
「いや、なんなん唐突に」
「うちら、そんなん知らんし」
「えっとTRPGっていうのはね! 言わばMMORPGを紙と鉛筆で遊ぶゲームで、MMOよりさらに自由度が――」
「うっざ。わけわかんねーし。いこいこ」
早口で説明するきいろに心底うんざりし、立ち去ってしまった。
「ああ~……トランプでもUNOでもいいから、やろうよ~」
「無理無理。おめー、TRPG好きなのに空気読めねーよなー。ギャルが釣れるわけねーべ」
後ろで珍問答を見ていたにこが、頭の後ろで指を組んで、苦笑する。
「そーゆー、にこちんこそ、もっと気合い入れて勧誘してよー」
「アタシなりにはやってるよ。きいろはゴーイン過ぎて不気味なんだと思うぞ」
「がーん!」
きいろ、うなだれる。
結局この日は、釣果ゼロであった。
「はー……。ボク、勧誘の才能ないのかなあ」
翌日、部室で机に突っ伏し、とろけているきいろ。
部室には、数こそ多くないが、トランプやオセロ、UNOといった一般受けするものから、ウィングスパンやソード・ワールドRPG、クトゥルフの呼び声といったマニアックなアイテムまで棚に並んでいた。
「それ言ったら、私もだけどね。多分ね、観察が足りなかったんだと思う」
自キャラのイラストを書きながら、そう言う歌留奈。
「観察とな?」
顔を上げるきいろ。にことハモる。
「うん。ちょっと、一年の教室行ってみよ?」
歌留奈に誘われ、教室を立つ三人であった。
今日は部活の見学日で、勧誘に熱心な部員たちと、新入生で賑わっていた。
「あーあー、しょくーん!」
唐突に、台の上で一人の女子生徒が拡声器で声を張り上げる。
一同の視線が、そちらに集まった。
黒髪のショートカット、背は低く、胸は真っ平ら。制服のスカートが風で翻るが、黒いスパッツを履いているので、気にしていないようだ。
顔立ちは、とても愛らしい。
「我々、『卓ゲ部』は、絶賛、部員募集中でーす! どーかどーか、入ってくださーい!」
ざわつく一同。そこに、一人の女性教諭が台に駆け昇った。
「こら! 佐武さん! どこから持ってきたんですか、こんな物!」
拡声器をひったくる。
「あ、ギンコせんせー! さっき、許可もらったじゃないですかー」
佐武と呼ばれた生徒、佐武きいろが、悪びれず、にこにこと返事。
「ギンコって呼ばない! しろがねです! というか、鈴木先生と呼びなさい! そもそも、許可なんて出していません!」
一方、ギンコと呼ばれた鈴木しろがねという女教諭は、ぷんすかという擬音を絵にしたような有様だ。卓ゲ部の顧問でもある。
「えー。さっき、職員室で『新入部員勧誘してくるんで、許可くださーい』って言ったら、いいですよーって」
「それで、どうして拡声器の持ち出しOKになるんですか!?」
「ならない?」
くりっと、小首をかしげるきいろ。
「なるわけないでしょう!」
「とう!」
「ぐは!」
唐突に、いつの間にか台の上に上がっていた女生徒が、背後からきいろの首に手刀を入れる。
「すみません、鈴木先生。きーちゃんの所業は、私の監督不行き届きです」
彼女は、奥野歌留奈。きいろの幼馴染にして、卓ゲ部の部員でもある。
髪は黒のロング。背が高く清楚な顔立ちだが、ご覧のようにツッコミ気質だ。胸も清楚。
「いえ、あの。教師の目の前で暴行しないで?」
「あーもー、グダグダじゃんよー。ふつーに勧誘しよーぜ?」
台の下から三人の漫才を見上げる、黒髪ショートの女生徒。
彼女は、大須にこ。きいろと歌留奈の親友であり、卓ゲ部員でもある。胸は発展途上。
「しょーがないなー。拡声器は取られちゃったし。今行く!」
台を駆け下り、卓ゲ部の机にダッシュするきいろ。
「ふー……。佐武さん、英語と社会以外の成績はいいし、授業態度もいいのに、どうしてそれ以外だと、ああなのかしら」
「うちのきーちゃんが、ご迷惑をおかけしてすみません」
鈴木教諭に深々とお辞儀する歌留奈。
「いえ、奥野さんが謝ることは。ただ、暴行はしないでね?」
「善処します」
再度、深くお辞儀。
鈴木教諭は、やれやれといった調子で、職員室に戻っていく。
一方その頃、きいろはというと――。
「ねー、そこのギャルズ~。卓ゲしようよー。特に、TRPG面白いよ~」
ギャル風の生徒二人に、すがりついていた。
「いや、なんなん唐突に」
「うちら、そんなん知らんし」
「えっとTRPGっていうのはね! 言わばMMORPGを紙と鉛筆で遊ぶゲームで、MMOよりさらに自由度が――」
「うっざ。わけわかんねーし。いこいこ」
早口で説明するきいろに心底うんざりし、立ち去ってしまった。
「ああ~……トランプでもUNOでもいいから、やろうよ~」
「無理無理。おめー、TRPG好きなのに空気読めねーよなー。ギャルが釣れるわけねーべ」
後ろで珍問答を見ていたにこが、頭の後ろで指を組んで、苦笑する。
「そーゆー、にこちんこそ、もっと気合い入れて勧誘してよー」
「アタシなりにはやってるよ。きいろはゴーイン過ぎて不気味なんだと思うぞ」
「がーん!」
きいろ、うなだれる。
結局この日は、釣果ゼロであった。
「はー……。ボク、勧誘の才能ないのかなあ」
翌日、部室で机に突っ伏し、とろけているきいろ。
部室には、数こそ多くないが、トランプやオセロ、UNOといった一般受けするものから、ウィングスパンやソード・ワールドRPG、クトゥルフの呼び声といったマニアックなアイテムまで棚に並んでいた。
「それ言ったら、私もだけどね。多分ね、観察が足りなかったんだと思う」
自キャラのイラストを書きながら、そう言う歌留奈。
「観察とな?」
顔を上げるきいろ。にことハモる。
「うん。ちょっと、一年の教室行ってみよ?」
歌留奈に誘われ、教室を立つ三人であった。
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