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エピソード1 ボクたちの初恋

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「おっかま! おっかま! おっかっまー!」

 ある男子が、そうボクをからかうと、ダッシュで逃げていく。

 しかし、それを追う影が!

「オラァ!」

 ボクをからかった男子が、キツイげんこつを一発頂戴する。そして、「ちくしょー! オカマナイトー!」なんて捨てぜりふを吐いて、逃げていく。

 彼を追いかけた男子……。同級生の「タケル」くんは、意にも介さず、ゆうゆうと戻って来る。

「まったく、どいつもこいつも、おめーのことを……」

「ありがとう。ほんとに、どうしてだろうね」

 地面に、寂しい視線を落とす。

 ボクは、青いフレアスカートに、白のブラウス。そして、純白のランドセル。スニーカーは女物。ロングヘアが、風になびく。

 でも、性別は男……ということになっている。

「あんなの、気にすんな! また、あーいうのがいたら、ぶん殴ってやる」

「気持ちは嬉しいけど、暴力はやめようね」

 ちょっと、困り笑い。

 実際、タケルくんは足がとても早く、背も高いので、あっという間に追いついて、強烈なげんこつをお見舞いする。

 でも、彼が暴力を振るうのは、いじめっこに対してだけ。特に、よくボクのために戦ってくれる。

 たびたび指導室に呼び出されるけど、動機を堂々と話すと、相手の保護者も、教師も、それ以上強く追求できなくなるらしい。

「いけね、授業始まるぞ! いこーぜ!」

 ふたりで、ばたばたと昇降口に向かうのでした。


 ◆ ◆ ◆


 お昼休み後。

 ボクの哀しみのひとつは、女子トイレを使わせてもらえないこと。

 お医者さんが言うには、ほんとにボクの心が女なのか、それとも、ただの女装愛好なのかが、まだはっきりしないらしい。

 たしかにそう言われると、ボク自身、どっちの道を生きたいのか、まだよくわからない。

 だから、今は男性化を止める薬だけで、様子を見ているところ。

 ただ、トイレは男子トイレでも必ず個室を使って、座って小をする。立ってなんか、絶対ヤダ。

 水を流して洗面台に向かうと、タケルくんが、水だけで手洗いを、済まそうとしてるとこだった。

「石鹸、使ったほうがいーよ? ほら、例の病気とか、あれだし」

 実のところ、ボク自身が、男子特有の、手を洗わなかったり、水だけで済まそうとするムーブが、どうにも苦手なんだけど。

「あー、わかったよ」

 石鹸で、手を洗い直す彼。ボクも、石鹸で手洗い。

 そして、ハンカチで手を拭いていると、タケルくんは、手を振って、水気を払うだけ。

「貸してあげる」

 ハンカチを差し出すと、「おう、サンキュ」と言い、受け取る。そして、広げると……。

「お! マリルリじゃん! お前も、マリルリ好きなの!?」

「え! タケルくんも!? マリルリ、かわいいよね!」

「ん? いや、そーゆーんじゃなくて、『あついしぼう』とかさ……」

 「強さ」を基準に、マリルリ熱を語る彼。

 同じ「好き」でも、随分方向性が違う。ボクは、逆に強さとか、どうでもいいんだけどなあ……。

 手を拭き終わると、「サンキュ」ともう一度言って返してくれ、予鈴が鳴ったので、二人で教室に向かうのでした。


 ◆ ◆ ◆


 そんな日々が過ぎていき、まもなく夏休み。

「あのさ、ちょっといいか?」

 放課後、タケルくんに、ついてくるよう促される。

 やってきたのは、体育館の裏。

「あのさ、オレさ。その、えーとさ……」

 なんだか、話を切り出しにくそうにして、もじもじしている。

「あ~! 男は度胸! オレさ、前々からお前のこと、いいなって思っててさ! でさ、その、付き合いたいって言ったら変か!? ……初恋、しちまった」

 間。蝉の声が、響き渡る。

「変じゃないよ。ボクをずっと守ってくれたタケルくんが、なんでそんな事言うの。ボクも、タケルくんのこと、ずっと好きでさ、これが初恋。初恋同士で、相思相愛だったんだー」

 くすっと微笑む。

「なあ……抱きしめていいか?」

「うん」

 ぎゅっと、抱きしめ合う。この暑さの中、ちょっときついけど、ドキドキのほうが勝っている。

「お前、体細いな」

「薬のおかげかな」

 逆に、たくましいタケルくん。

「あのさ」

「ねえ」

 同時に声を出す。少し溜めて。

「……キスしていい?」

 ハモった。

「恥ずかしいから、目、つぶるね」

 ドキドキして待っていると、唇に、柔らかいものが触れた。

 タケルくんみたいな、男の子男の子した男子でも、唇って、こんな柔らかいんだな。

 ちょっと、これ以上先に進むのはためらわれたのか、唇を離す彼。ボクも、まぶたを開ける。

「お前の唇って、すげえ柔らかいんだな」

「タケルくんのも、柔らかかったよ」

 互いに、微笑み合う。

「ねえ、今日ボクんち来ない?」

「いいのか!?」

「もちろん。タケルくんなら、大歓迎!」

 夏休み前は、持ち帰るものが多くて、手を繋いで帰れなかったのが残念だけど、これから、素敵な毎日になりそう!
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