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第六十話 十月十一日(水) SO LONG

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「はァッ!?」

 お昼休み、昨日家族に、バーシとの関係を告白したことを、当の本人と凸凹カップルに告げると、驚愕とか呆れとか、何か色々混じってそうな、変な大声が三人から上がる。

「しーっ。クラスのみんなには、内緒だよ」

「って、アユムねえ……私に、一言相談しなさいよ!」

「それは、ほんとごめん。祝福してもらえると思ったら、なんか真逆の反応でさ」

 右手で顔を覆い、首を振るバーシ。

「これ、私も家族に、ハッキリ言わなきゃいけない流れじゃん……」

「ほんと、ごめんて」

 恋人に、深く頭を下げる。ボク、さっそく尻に敷かれてるね。

「しっかし、ダイタンっすねえ~。パパとママに姉さんとのこと言ったら、どうなるやら、想像もつかないっす」

「だなー。うちらはまだ、内緒にしとこうな」

 肩をすくめる二人。

「まあ、ボクから言うべき話は以上だけど、今日、一番大事なユーフラジーの出来栄えは?」

「ああ。こんな感じにしてみたんだが……」

 ククが、巾着袋から、ぼろい人形を取り出す。

「え! 新品じゃないの?」

「新品も新品だぜ。ただ、火事から十四年だろ? で、その前もアイちゃんが愛用しててさ。だから、わざとくたびれた感じに作ったんだ」

 はー……。器用なもんだ。

「シャロンは、いいお嫁さんゲットしたねえ」

「ちょ、恥ずかしいこと言わないでほしいっす!」

「お、おう! あたしまでその……照れるじゃねえか……」

 もじもじする二人。

「ちょっと~。私がいいお嫁さんに、なれないみたいじゃない」

「そうは言ってないよ~」

 バーシに責められてしまった。どうも、昨日から歯車がうまく回らないな。アイちゃんを送るときに、響かなきゃいいけど。

 そんなこんなで、なんだか調子が狂ったまま、放課後を迎えるのでした。


 ◆ ◆ ◆


「着きましたよ」

 車を、教会近くに停車させる先生。ついに、この時が来てしまった。

 みんな、表情が険しい。

「そんなじゃ、アイちゃんにニセモノだってバレちゃうよ。スマイル、スマイ~ル」

 にっと、指で口角を上げ笑顔を作る。

「なんだよ。お前だって、できてないじゃんか」

「んー……バーシ」

「何? ちょ、やめ! 私、脇腹弱いの!」

 彼女の脇腹を、くすぐり回す。

「緊張、ほぐれた?」

「ふー……おかげさまで。お返し!」

「やーめー! あははは!」

 逆襲されてしまった~!

「姉さん、お覚悟!」

「負けるか!」

 凸凹カップルも、緊張ほぐし。

「先生にも、それお願い。笑顔で入れそうにないわ」

「よーし、みんなー、かかれー!」

「あは、あははは! くすぐったい!」

 これで、全員心のマッサージが終わったね。

「じゃあ、開けるよ」

 扉を開くと、アイちゃんがスゥ……ッと現れました!

「皆さん、今週も来てくださったんですね!」

「うん! アイちゃん、ボクたち、すごいものを見つけたんだ!」

 努めて、明るい声を出す。

「じゃーん!」

 ククが、ユーフラジーのそっくりさんを出す。

「あ……ああッ……」

 ぽろぽろと泣き出すアイちゃん。これは、嘘がバレたか!?

「ユーフラジー……あんなに探したのに……どこにあったんですか!?」

「教会の外。見つかりにくいとこにあってさ。たまたま見つけられたんだ」

 アイちゃん、どう!?

「あの、ククさん!」

「お、おう?」

 アイちゃんの気迫に、ぎょっとするクク。

「乗り移らせてください!」

「おう! 合点だ!」

 ククに乗り移るアイちゃん。そして、ユーフラジーに頬ずりする。

「ああ、ユーフラジー……。ずっと探してたんだよ……。急にいなくなっちゃ、ダメでしょ?」

 なんて、安らいだ声だろう。それは、十四年間さまよっていた魂が、真の安息を得たことを意味していた。

 すると、金色に輝くアイちゃんとユーフラジーが、ククの体から浮き出る。

 ユーフラジーは、ククが抱いたままだ。きっとあの金色のユーフラジーは、ボクらの、なによりククの想いの結晶が、形を取ったものなんだ。

「私、これでやっと逝けます……。みなさんとお別れするのは、寂しいですけれど……」

 逝かないで、という言葉をぐっと飲み込み、笑顔を作る。

「アイちゃん! ボクらが天国に行けたら、また会おうね!」

 笑顔でも、涙が出てしまう。出会ってから、ほんのひと月、数回の顔合わせだったけど、どれもこれも、印象深くて、楽しかった思い出ばかりだ。

「アイちゃああん! 達者でなあああっ!!」

 我に返ったククが、涙をボロボロ流しながら叫ぶ。他の三人も、口々にアイちゃんと別れの言葉をかわす。

「ありがとうございます、みなさんのおかげです。ユーフラジー、みんなの待ってるところへ行こうね……」

 上昇していくアイちゃん。ボクらはただ、泣きながらそれを見守る。

 そして、彼女とユーフラジーは消えた。ボクらの、優しい嘘によって。

「これで、良かったんだよな!」

 ククの顔は、涙ですごいことになっている。ボクも、きっとそうだ。ボクらはただ、ひたすら泣き続けた。

 どのぐらいの間、泣いていただろう。一人、また一人と泣き止んでいく。

「これで良かったんだよ、クク」

 やっと、ククの問いに答えるバーシ。

「ユーフラジーは、アイちゃんだと思って、あたしが大事にするよ」

 ククが、ユーフラジーをぎゅっと抱きしめる。

「先生、みなさんの優しさに応えたいと思います。帰りに、アイさんが大好きだった、ケーキを食べていきましょう」

「賛成! ありがとうございます、先生!」

 涙をハンカチで拭きながら、お礼を言う。

 帰りに食べたケーキは、甘くて、そしてちょっとしょっぱい。そんな気がしました。
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姉妹作⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/132755025(完結)  他長編「神奈さんとアメリちゃん」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/663488280(完結)「小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/440658351(完結)「〈社会人百合〉アキとハル」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/968690065(完結)「自称・漆黒の堕天使が異世界を改革するようです」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/635743463(完結)
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