60 / 63
第六十話 十月十一日(水) SO LONG
しおりを挟む
「はァッ!?」
お昼休み、昨日家族に、バーシとの関係を告白したことを、当の本人と凸凹カップルに告げると、驚愕とか呆れとか、何か色々混じってそうな、変な大声が三人から上がる。
「しーっ。クラスのみんなには、内緒だよ」
「って、アユムねえ……私に、一言相談しなさいよ!」
「それは、ほんとごめん。祝福してもらえると思ったら、なんか真逆の反応でさ」
右手で顔を覆い、首を振るバーシ。
「これ、私も家族に、ハッキリ言わなきゃいけない流れじゃん……」
「ほんと、ごめんて」
恋人に、深く頭を下げる。ボク、さっそく尻に敷かれてるね。
「しっかし、ダイタンっすねえ~。パパとママに姉さんとのこと言ったら、どうなるやら、想像もつかないっす」
「だなー。うちらはまだ、内緒にしとこうな」
肩をすくめる二人。
「まあ、ボクから言うべき話は以上だけど、今日、一番大事なユーフラジーの出来栄えは?」
「ああ。こんな感じにしてみたんだが……」
ククが、巾着袋から、ぼろい人形を取り出す。
「え! 新品じゃないの?」
「新品も新品だぜ。ただ、火事から十四年だろ? で、その前もアイちゃんが愛用しててさ。だから、わざとくたびれた感じに作ったんだ」
はー……。器用なもんだ。
「シャロンは、いいお嫁さんゲットしたねえ」
「ちょ、恥ずかしいこと言わないでほしいっす!」
「お、おう! あたしまでその……照れるじゃねえか……」
もじもじする二人。
「ちょっと~。私がいいお嫁さんに、なれないみたいじゃない」
「そうは言ってないよ~」
バーシに責められてしまった。どうも、昨日から歯車がうまく回らないな。アイちゃんを送るときに、響かなきゃいいけど。
そんなこんなで、なんだか調子が狂ったまま、放課後を迎えるのでした。
◆ ◆ ◆
「着きましたよ」
車を、教会近くに停車させる先生。ついに、この時が来てしまった。
みんな、表情が険しい。
「そんなじゃ、アイちゃんにニセモノだってバレちゃうよ。スマイル、スマイ~ル」
にっと、指で口角を上げ笑顔を作る。
「なんだよ。お前だって、できてないじゃんか」
「んー……バーシ」
「何? ちょ、やめ! 私、脇腹弱いの!」
彼女の脇腹を、くすぐり回す。
「緊張、ほぐれた?」
「ふー……おかげさまで。お返し!」
「やーめー! あははは!」
逆襲されてしまった~!
「姉さん、お覚悟!」
「負けるか!」
凸凹カップルも、緊張ほぐし。
「先生にも、それお願い。笑顔で入れそうにないわ」
「よーし、みんなー、かかれー!」
「あは、あははは! くすぐったい!」
これで、全員心のマッサージが終わったね。
「じゃあ、開けるよ」
扉を開くと、アイちゃんがスゥ……ッと現れました!
「皆さん、今週も来てくださったんですね!」
「うん! アイちゃん、ボクたち、すごいものを見つけたんだ!」
努めて、明るい声を出す。
「じゃーん!」
ククが、ユーフラジーのそっくりさんを出す。
「あ……ああッ……」
ぽろぽろと泣き出すアイちゃん。これは、嘘がバレたか!?
「ユーフラジー……あんなに探したのに……どこにあったんですか!?」
「教会の外。見つかりにくいとこにあってさ。たまたま見つけられたんだ」
アイちゃん、どう!?
「あの、ククさん!」
「お、おう?」
アイちゃんの気迫に、ぎょっとするクク。
「乗り移らせてください!」
「おう! 合点だ!」
ククに乗り移るアイちゃん。そして、ユーフラジーに頬ずりする。
「ああ、ユーフラジー……。ずっと探してたんだよ……。急にいなくなっちゃ、ダメでしょ?」
なんて、安らいだ声だろう。それは、十四年間さまよっていた魂が、真の安息を得たことを意味していた。
すると、金色に輝くアイちゃんとユーフラジーが、ククの体から浮き出る。
ユーフラジーは、ククが抱いたままだ。きっとあの金色のユーフラジーは、ボクらの、なによりククの想いの結晶が、形を取ったものなんだ。
「私、これでやっと逝けます……。みなさんとお別れするのは、寂しいですけれど……」
逝かないで、という言葉をぐっと飲み込み、笑顔を作る。
「アイちゃん! ボクらが天国に行けたら、また会おうね!」
笑顔でも、涙が出てしまう。出会ってから、ほんのひと月、数回の顔合わせだったけど、どれもこれも、印象深くて、楽しかった思い出ばかりだ。
「アイちゃああん! 達者でなあああっ!!」
我に返ったククが、涙をボロボロ流しながら叫ぶ。他の三人も、口々にアイちゃんと別れの言葉をかわす。
「ありがとうございます、みなさんのおかげです。ユーフラジー、みんなの待ってるところへ行こうね……」
上昇していくアイちゃん。ボクらはただ、泣きながらそれを見守る。
そして、彼女とユーフラジーは消えた。ボクらの、優しい嘘によって。
「これで、良かったんだよな!」
ククの顔は、涙ですごいことになっている。ボクも、きっとそうだ。ボクらはただ、ひたすら泣き続けた。
どのぐらいの間、泣いていただろう。一人、また一人と泣き止んでいく。
「これで良かったんだよ、クク」
やっと、ククの問いに答えるバーシ。
「ユーフラジーは、アイちゃんだと思って、あたしが大事にするよ」
ククが、ユーフラジーをぎゅっと抱きしめる。
「先生、みなさんの優しさに応えたいと思います。帰りに、アイさんが大好きだった、ケーキを食べていきましょう」
「賛成! ありがとうございます、先生!」
涙をハンカチで拭きながら、お礼を言う。
帰りに食べたケーキは、甘くて、そしてちょっとしょっぱい。そんな気がしました。
お昼休み、昨日家族に、バーシとの関係を告白したことを、当の本人と凸凹カップルに告げると、驚愕とか呆れとか、何か色々混じってそうな、変な大声が三人から上がる。
「しーっ。クラスのみんなには、内緒だよ」
「って、アユムねえ……私に、一言相談しなさいよ!」
「それは、ほんとごめん。祝福してもらえると思ったら、なんか真逆の反応でさ」
右手で顔を覆い、首を振るバーシ。
「これ、私も家族に、ハッキリ言わなきゃいけない流れじゃん……」
「ほんと、ごめんて」
恋人に、深く頭を下げる。ボク、さっそく尻に敷かれてるね。
「しっかし、ダイタンっすねえ~。パパとママに姉さんとのこと言ったら、どうなるやら、想像もつかないっす」
「だなー。うちらはまだ、内緒にしとこうな」
肩をすくめる二人。
「まあ、ボクから言うべき話は以上だけど、今日、一番大事なユーフラジーの出来栄えは?」
「ああ。こんな感じにしてみたんだが……」
ククが、巾着袋から、ぼろい人形を取り出す。
「え! 新品じゃないの?」
「新品も新品だぜ。ただ、火事から十四年だろ? で、その前もアイちゃんが愛用しててさ。だから、わざとくたびれた感じに作ったんだ」
はー……。器用なもんだ。
「シャロンは、いいお嫁さんゲットしたねえ」
「ちょ、恥ずかしいこと言わないでほしいっす!」
「お、おう! あたしまでその……照れるじゃねえか……」
もじもじする二人。
「ちょっと~。私がいいお嫁さんに、なれないみたいじゃない」
「そうは言ってないよ~」
バーシに責められてしまった。どうも、昨日から歯車がうまく回らないな。アイちゃんを送るときに、響かなきゃいいけど。
そんなこんなで、なんだか調子が狂ったまま、放課後を迎えるのでした。
◆ ◆ ◆
「着きましたよ」
車を、教会近くに停車させる先生。ついに、この時が来てしまった。
みんな、表情が険しい。
「そんなじゃ、アイちゃんにニセモノだってバレちゃうよ。スマイル、スマイ~ル」
にっと、指で口角を上げ笑顔を作る。
「なんだよ。お前だって、できてないじゃんか」
「んー……バーシ」
「何? ちょ、やめ! 私、脇腹弱いの!」
彼女の脇腹を、くすぐり回す。
「緊張、ほぐれた?」
「ふー……おかげさまで。お返し!」
「やーめー! あははは!」
逆襲されてしまった~!
「姉さん、お覚悟!」
「負けるか!」
凸凹カップルも、緊張ほぐし。
「先生にも、それお願い。笑顔で入れそうにないわ」
「よーし、みんなー、かかれー!」
「あは、あははは! くすぐったい!」
これで、全員心のマッサージが終わったね。
「じゃあ、開けるよ」
扉を開くと、アイちゃんがスゥ……ッと現れました!
「皆さん、今週も来てくださったんですね!」
「うん! アイちゃん、ボクたち、すごいものを見つけたんだ!」
努めて、明るい声を出す。
「じゃーん!」
ククが、ユーフラジーのそっくりさんを出す。
「あ……ああッ……」
ぽろぽろと泣き出すアイちゃん。これは、嘘がバレたか!?
「ユーフラジー……あんなに探したのに……どこにあったんですか!?」
「教会の外。見つかりにくいとこにあってさ。たまたま見つけられたんだ」
アイちゃん、どう!?
「あの、ククさん!」
「お、おう?」
アイちゃんの気迫に、ぎょっとするクク。
「乗り移らせてください!」
「おう! 合点だ!」
ククに乗り移るアイちゃん。そして、ユーフラジーに頬ずりする。
「ああ、ユーフラジー……。ずっと探してたんだよ……。急にいなくなっちゃ、ダメでしょ?」
なんて、安らいだ声だろう。それは、十四年間さまよっていた魂が、真の安息を得たことを意味していた。
すると、金色に輝くアイちゃんとユーフラジーが、ククの体から浮き出る。
ユーフラジーは、ククが抱いたままだ。きっとあの金色のユーフラジーは、ボクらの、なによりククの想いの結晶が、形を取ったものなんだ。
「私、これでやっと逝けます……。みなさんとお別れするのは、寂しいですけれど……」
逝かないで、という言葉をぐっと飲み込み、笑顔を作る。
「アイちゃん! ボクらが天国に行けたら、また会おうね!」
笑顔でも、涙が出てしまう。出会ってから、ほんのひと月、数回の顔合わせだったけど、どれもこれも、印象深くて、楽しかった思い出ばかりだ。
「アイちゃああん! 達者でなあああっ!!」
我に返ったククが、涙をボロボロ流しながら叫ぶ。他の三人も、口々にアイちゃんと別れの言葉をかわす。
「ありがとうございます、みなさんのおかげです。ユーフラジー、みんなの待ってるところへ行こうね……」
上昇していくアイちゃん。ボクらはただ、泣きながらそれを見守る。
そして、彼女とユーフラジーは消えた。ボクらの、優しい嘘によって。
「これで、良かったんだよな!」
ククの顔は、涙ですごいことになっている。ボクも、きっとそうだ。ボクらはただ、ひたすら泣き続けた。
どのぐらいの間、泣いていただろう。一人、また一人と泣き止んでいく。
「これで良かったんだよ、クク」
やっと、ククの問いに答えるバーシ。
「ユーフラジーは、アイちゃんだと思って、あたしが大事にするよ」
ククが、ユーフラジーをぎゅっと抱きしめる。
「先生、みなさんの優しさに応えたいと思います。帰りに、アイさんが大好きだった、ケーキを食べていきましょう」
「賛成! ありがとうございます、先生!」
涙をハンカチで拭きながら、お礼を言う。
帰りに食べたケーキは、甘くて、そしてちょっとしょっぱい。そんな気がしました。
0
姉妹作⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/132755025(完結) 他長編「神奈さんとアメリちゃん」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/663488280(完結)「小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/440658351(完結)「〈社会人百合〉アキとハル」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/968690065(完結)「自称・漆黒の堕天使が異世界を改革するようです」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/635743463(完結)
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
『器のちっちゃな、ふとちょ先輩』
小川敦人
青春
大学卒業後、スポーツジムで働き始めた蓮見吾一。彼は個性豊かな同僚たちに囲まれながら、仕事の楽しさと難しさを学んでいく。特に気分屋で繊細な「器の小さい」中田先輩に振り回される日々。ジム内の人間模様や恋愛模様が交錯しながらも、吾一は仲間との絆を深めていく。やがて訪れるイベントのトラブルを通じて、中田先輩の意外な一面が明らかになり、彼の成長を目の当たりにする。笑いあり、切なさありの職場青春ストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる