上 下
58 / 63

第五十八話 十月九日(月) 死後の幸せ

しおりを挟む
「ねえ、クク」

「なんぞ?」

「最近、明るいね?」

 朝の散歩中、ククに話題を振る。

「そりゃまあ、今、恋してるしな!」

 ふんすと、胸を反らす彼女。

「その、さ。ユーフラジー作るの、もう辛くないの?」

「辛いよ。でも、その上で突っ切ることにした。やっぱ、アイちゃんは天国でかつての仲間たちと、幸せに暮らすべきなんだ。だから、アイちゃんを幸せにするんだと思って、糸を通しているよ」

 ボクと、同じ回答に至ったようだ。

「だよね。いつごろ完成しそう?」

「水曜には間に合わせる。だから、次の部活でお披露目だな」

「そか」

 しばし、無言で歩を進める。

「アイちゃんも、誕生日に呼びたかったな」

「そーすっと、誕生会の間、あたしの記憶がなくなるからな。それは切ねえ」

 ままならないものだね。

 なんだかしんみりしたムードのまま、出口に着いてしまった。

「じゃあ、また学校で! ホリンも、明日またね!」

「おう! 帰るぞー、ホリン」

 ボクも、帰路につく。

 ある意味、ユーフラジー再現計画が失敗に終わることを、願っている自分がいる。でも、それはよくない考えだと、頭を振る。

 お別れしたくないよ、アイちゃん……。

 いけない、いけないな。肝心のククが、吹っ切ろうとしてるのに。ここに来て、決心が揺らいでいる。

 思考を行ったり来たりさせながら、気づけば家に戻ってました。


 ◆ ◆ ◆


「アユム。ついに明後日だね」

 昼休み。バーシたちが、きりりとした表情で、ボクの机にやってくる。

「うん。やっぱり、やるんだよね……」

「アユム。吹っ切ろうぜ。頼むよ。あたし、くじけちゃうじゃんかよ」

「ごめん」

 こういうとき、頼りになる大人に相談したい……。あ。

「ねえ。ネコザキ先生とも、よく話してみない?」

「……そっすね。そういえば、先生の意見は、あんまよく聞かずに、決めちゃったっすね」

「職員室、行こう」

 席を立ち、四人で先生のもとへ向かうのでした。


 ◆ ◆ ◆


「あら、みんなそろってどうしたの?」

「その、明後日のことでお話が……」

「ああ、なるほど……」

 ボクらの真剣な表情で、察してくれたらしい。

「ちょっと、場所変えましょうか。すみません、音楽室お借りします」

 キーを取る先生。ともに、ゆっくり話せる環境に向かう。


 ◆ ◆ ◆


 音楽室の机を動かし、輪になるボクら。

 それぞれの、気持ちを話していく。

 やはり、どうにも決心がつかずにいるのは、ボクだけみたいだ。

「シャロンも吹っ切ってたのは、意外だったよ」

「吹っ切ってはいないっすよ。ただ、毎日心を込めて針を通している姉さん見たら、やめようって言えないじゃないっすか」

 首を、横に振るシャロン。

「ともかく、トマルナーさんは、ここに来て、決心が鈍ってしまった、と」

「はい」

「トマルナーさん。トマルナーさんは、早世……若くして亡くなって、異世界から生まれ変わったのよね?」

 なんで突然、ボクの話?

「はい」

「今、幸せ?」

「はい、すごく!」

 力強くうなずく。

「不幸な亡くなり方をしたアイさんも、自分みたいに幸せになってほしい。そうは、思えない?」

 あっ……。

「そう、ですね。そう言われたら、返す言葉がありません」

「別に、やりこめようとか、そんなんじゃないわよ? ただ、死後の幸せを一番理解しているのは、トマルナーさんでしょうから」

 確かに。死後のことについて一番詳しいのは、転生者であるボクじゃないか。

 ボクはこの世・・・で、素敵な家族と友達、そして恋人に恵まれている。前世に未練がないといえば嘘になるけど、病気と闘うのは、とても辛かった。

 もし、アイちゃんが生まれ変わることがあるなら、今度は幸せな人生を歩めるかもしれない。

「先生、ありがとうございます。決心が固まりました。アイちゃんを、送ってあげようと思います。もう、迷いません」

 深々と頭を下げる。

「役に立てたようで、何よりです。先生、相談に乗ってあげるぐらいしかできないけど、悩んだとき、困ったときは、いつでも相談してちょうだいね?」

「はい!」

 力強く、席を立つ。先生にお礼を改めて言い、教室に戻るボクたち。

 明後日、すべてが決まる。アイちゃん、待っててね!
しおりを挟む
姉妹作⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/132755025(完結)  他長編「神奈さんとアメリちゃん」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/663488280(完結)「小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/440658351(完結)「〈社会人百合〉アキとハル」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/968690065(完結)「自称・漆黒の堕天使が異世界を改革するようです」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/635743463(完結)
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

『器のちっちゃな、ふとちょ先輩』

小川敦人
青春
大学卒業後、スポーツジムで働き始めた蓮見吾一。彼は個性豊かな同僚たちに囲まれながら、仕事の楽しさと難しさを学んでいく。特に気分屋で繊細な「器の小さい」中田先輩に振り回される日々。ジム内の人間模様や恋愛模様が交錯しながらも、吾一は仲間との絆を深めていく。やがて訪れるイベントのトラブルを通じて、中田先輩の意外な一面が明らかになり、彼の成長を目の当たりにする。笑いあり、切なさありの職場青春ストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

処理中です...