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第五十七話 十月八日(日) チェンバレン一家

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 今日は、お店番。ウェイトレスとして、かいがいしく働いています。

 おっと、呼び鈴が。

「いらっしゃいませ! ……あ」

「よ。来たぜー」

 ククと……おばさんにおじさんかな? おばさん、恰幅がいいですねえ。ククのスタイルの良さは、おじさんに似たのかな?

「あなたがアユムちゃん? いつも、娘がお世話になって~」

「はい。ええと、ご挨拶は後ほど。三名様でよろしいでしょうか?」

 いきなり、距離感ゼロで来る人だなー、おばさん。なんか、調子狂うな。こういうとこは、ククに遺伝してるな。初日に、いきなり「友達にならないか」って、声かけられたっけ。

「そうね。お仕事の邪魔しちゃ悪いわよね。案内してくれる?」

「かしこまりました」

 というわけで、四人がけのテーブルを勧める。

「ここ、サーモンとイクラとほうれん草のスパゲッティーがうまいんだぜ! アユム、あたしそれと、コーヒーフロート」

 ククが、うちの名物をプッシュしてくれる。ありがたや。

「そう? じゃあワタシはそれと、このケーキを」

「僕も、そのスパゲッティーと白ワインを」

「かしこまりました」

 お父さんにオーダーを伝えて厨房から出ると、「今、お客さん少ないから、お友達のご家族とお話してて大丈夫よ」と、お母さんに言われる。「ありがとう!」と言って、ククのテーブルへ。

「お話しの許可が出たよ。アユム・トマルナーです。ククとは、仲良くさせていただいてます」

 ぺこりとお辞儀。

「今後も、うちの子をよろしくね。ククの話だと、なんでも健康にすごく関心があるんですって?」

「はい。長生きが夢なので」

 へー、と感心するおばさん。

「なにか、いいダイエット方法、知らないかしら?」

「そうですねえ。やはり、ジョギングがおすすめですね。なんなら、ただの散歩でもいいダイエットになりますよ」

「やっぱり、運動と食事になるのねえ。ラクして痩せる方法ないかしら」

 ため息を吐くおばさん。幸せが逃げますよー? しかし、個性の強い人だなー。

「かーちゃん。あたしも、アユムと話したいんだけど? 夫婦の会話でも、しててくれよなー」

「あら、ごめんね」

 おばさんは、おじさんとの会話に入りました。

「アユム。実はさ、あたしらも……」

 小声で言いながら、ちょんちょんと、自分の唇を指差すクク。

「わお! おめでとう!」

「やべーわ、やみつきになりそう」

 ひそひそと、乙女のヒミツの会話。

「お待たせしました。ワインです。母のユコーです。いつも、アユムがお世話になっています」

 お母さんが、ワインをサーブする。

「あら、ご丁寧に。こちらこそ、ククがいつもお世話になっています」

「ご丁寧に、ありがとうございます。同じく、ククがお世話になっておりまして」

 おばさんとおじさんが、お母さんに挨拶を返す。

「ありがとうございます。接客に回らなければいけないので、手短で失礼ですが。ごゆっくり、お愉しみください」

 一礼して、別のテーブルに行くお母さん。

「アユムは、部活ない日、いつも店出てんの?」

「基本、日曜だけかな。すっごい忙しいときは、他の曜日も呼ばれるけど」

「大変だなー。あたしゃ、気楽なもんだ」

「まあ、そのぶんお小遣い多いから」

 互いに、肩をすくめる。

「あ、そうだ。誕生日、うち来れるか?」

「また、ケーキ作ってくれるの?」

「今度は、あたしがな! 腕には、自信あるんだぜー」

 自分の二の腕を、ぺしっと叩くクク。

「楽しみにしてる」

 今度は互いに、ふふ、と微笑む。

「三番テーブルできたぞー」

「あ、お母さんほかのテーブル回ってるな。ボクが取ってくる」

 お皿を取りに行く。そして、配膳。

「お待たせしました。ご注文の品は、以上でよろしいでしょうか?」

「あ、うん。しかし、器用に何皿も持つもんだなー」

「ありがとう。慣れだよ、慣れ。あ、いらっしゃいませ! 混んできたな。ゆっくり食べてて!」

 今日も忙しくなりそうだ。


 ◆ ◆ ◆


 お会計を済ませる、チェンバレン一家。

「ほんとにおいしかったわ、あのスパゲッティー。また来るからね」

「ありがとうございます。父にも、伝えておきますね」

 ボクも、レジ打ちの練習中。なんとか、そつなくお会計を済ませられた。

「また、いらしてください」

 去っていく一家に、深々と礼をする。手をぶんぶん振っているククが、印象的だ。

 また、素晴らしいお客さんが増えた。誇らしい気持ちで、看板を見上げるボクでした。
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