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第五十六話 十月七日(土) ハッピーバースデー、バーシムレ!

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「楽しみだな~」

 手をつなぎながら、バスの中。バーシは、この上なく上機嫌。

「家でもパーティーするんだよね?」

「うん、夜にね。アユムくんは、なにくれるのかな~?」

「それは、向こうでのお楽しみ~」

 肩を預けてくるので、ボクも預ける。見事なバカップルぶりだと、我ながら思う。

 そんな二人の世界を作っていると、目的のバス停に着きました。

 降車すると、シャロンがちょこんと立っていた。

「待ってたっす~」

「おまたせ~。ククは?」

「姉さんなら、家で準備中っす」

 とりあえず、シャロンの先導に従って歩いて行く。

「そういえば、あれからどう・・?」

 バーシが、興味津々といった様子で尋ねる。

「もー、ごろにゃんと甘えまくったっす~! 膝枕してもらったりー、抱っこしてもらったり~」

 とろけた顔を向けてくる。ぐるぐると、猫なで声も出しそうな勢いだ。ボクら人間、もうその声出せないけど。

「それはそれで、積極的だねー」

「うふふ。姉さん、拒まないっすから。もう、幸せで、どっかに飛んでいっちゃいそうっすよ~」

 ほんとに、翼でも生えて飛んでいきそうだ。

「あ、ここっす」

 「チェンバレン」と表札に書かれた家の、インタホンを押すシャロン。

「はーい、どなたー?」

「うちっす。二人が来たっすよ!」

「おー、今行くわ」

 ややあって、ドアからククが出てくる。

「おまたー」

「はーい、こんちわー。じゃ、上がらせてもらうね」

 上がると、ホリンがしっぽを振って近づいてきた。

「おー、今朝ぶりー。上機嫌だねー」

 ボクらのしっぽ振りは不機嫌、犬のしっぽ振りは上機嫌なのだから面白い。前世のボクは、これ、知らなかったみたいだ。

「用意カンペキだぜー。ダイニングに来なよ」

 ククと一緒に、ダイニングへ。数珠つなぎになった色紙のリングで、飾り付けられている。

「おばさんとおじさんは?」

「邪魔しちゃ悪いからって、ケーキ作り終わったら、シャロンとこ行ったよ」

 へー。こっちも、家族ぐるみのお付き合いなんだね。

「ほい、ケーキ」

 ククが、小さめのホールケーキを置く。四人分だからね。て、ショートケーキ!? この世界にもあったんだ!

「ネコザキ先生がさ、ヤマト生まれのケーキのレシピ教えてくれてさ。かーちゃんに作ってもらったんよ」

 へー。そういえば、ショートケーキは日本生まれって、何かで聞いたな。こっちの世界でも、ヤマト生まれなのか。

 ククが、ろうそくを十三本立てる。

 続いて、バーシの好物であるアップルジュースがコップに注がれる。

 そして、マッチでろうそくに点火。

「さ、吹き消してくれ」

「はーい! ふー……」

 火がすべて消えると、三人で一斉に拍手を送る。

「誕生日おめでとー!」

「ありがとー!」

 さっそく、切り分けるクク。ナイフの扱い、上手いなー。

「さ、食おうぜ!」

 いただきますのお祈りをして、ぱくっ! ん! おいしい~! プロ顔負けっての、あながちウソじゃないね!

「おいしいよ、クク!」

「あんがとな。かーちゃんに伝えとくぜ」

「クク、ありがとう。一生忘れない!」

 バーシ、大感激。

「へへ。喜んでもらえて嬉しいぜ」

 こうしてケーキもおいしく食べ終わり、プレゼントを渡す運びに。

「あたしからは、これ」

「うちからは、これっす」

 いつぞやの、セキセイキーホルダーを渡す二人。

「わあ、ありがとう~! こっちも恋人かな? 大事にするね」

「ボクは、これを」

 セキセイインコのぬいぐるみを手渡す。

「わあ、かわいい! って、これ……」

「うん。子供の頃、バーシ、これにそっくりの失くしちゃったでしょ? あのとき、すごく泣いちゃってさ。だから、喜んでもらえるかなって」

「喜ぶに決まってんじゃん! このイケメーン!」

 抱きしめられて、ほっぺにキスされちゃった。ククとシャロンが、ひゅーひゅーとはやす。

「みんな、ありがとう。一生、大事にするね!」

 満面の笑顔を浮かべるバーシ。

 その後は、ククの部屋で食休み。例のガブくんを筆頭に、ぬいぐるみ御殿のかわいい空間が、広がっていました。

「あ、大事なこと言い忘れてた。来週木曜、ボクの誕生日」

 「えー!」と、声を上げる凸凹カップル。

「もっと早く言えよー! 早く、プレゼント買わないと!」

「うち、明日ピクニックっすよ!」

「そうだった! じゃあ、明後日買いに行こう! アユム、何かほしいもんあるか?」

 凸凹カップル、わたわた。ごめん。

「健康に関するものなら、なんでもー」

「おけ。じゃあ、その方向で見繕うわ」

「ありがとう。楽しみにしてるね!」

 こうして、間を置かず、念願の十三歳の誕生日が近づいてくるのでした。
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