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第五十四話 十月五日(木) 起伏の激しい、ここ最近

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「トマルナーさん!」

「……? はい!」

 給食時間中、ぼーっとしていたボクは、クラスメイトの言葉で現実に引き戻される。

「フォーク、止まってるよ? どしたの、ぼーっとして」

 時計を見れば、五分ごふん以上も固まってたようだ。

「うわ、教えてくれてありがと!」

 大急ぎで、食事を再開する。どうしたものかと、ため息を吐くクラスメイトたち。幸せ逃げさせちゃって、ゴメン。


 ◆ ◆ ◆


「アユムも、そんなだったか。あたしも、食欲全然出なくてさ。でも、残すのはわりぃから、頑張ってかっこんだけど」

 昼休み。ボクら四人、みんなあんな調子だったらしい。

「辛いっすね……。いや、姉さんを差し置いて、言う台詞じゃないっすけど」

 シャロンが、首を横に振る。この計画で一番辛いのは、人形を縫っているククだろう。お別れのための作業を、一人進める。なんと、孤独で辛い作業だろうか。

「今度は、自分が姉さんを助ける番っす! 辛いときは、いつでも言ってくださいっす! 辛さを、分かち合うことぐらいしか、できないっすけど……」

「いや、それで十分じゅうぷん嬉しいよ。辛くなったら、呼ぶから来てくれよな」

「うす!」

 ご近所の、幼馴染みの強みだなー。

 幼馴染みといえば、もう一人、辛い思いをしてる子がいた。

「バーシも、いつでもボクに言ってよね」

「うん……」

 うつむいたまま言う、思案顔の計画発案者。辛くないわけがない。

「せめてさ!」

 パン! と手を打つ。

「バーシの誕生日は、楽しくやろう? そっちも、大事なイベントだよ?」

「そだな。何かスマン、バーシ」

「いや、別に謝るほどのことでも」

 わたわた手を振る、マイラバー。

「そういや、ケーキの好みとかあるか?」

「うーん、割と何でも好きだよ?」

「そっか。じゃあ、お任せってことでいいな」

 ケーキの内容は、クク……というか、ククのお母さんの考えに、任されたようだ。

「今日は、お年寄りの話し相手っすね」

「ジェネレーションギャップ、すごく感じそうだなー」

「ボクとバーシは、おじいちゃんたちと歳が近ければ、話合わせやすいかなあ?」

 などと、凸凹コンビとわちゃわちゃ相談。

「バーシ」

「ん?」

「バーシのやってることは、正しいって! 自信、持と?」

 会話に参加してこない恋人の肩を、ぺーんと叩く。

「おおう。うん、ありがと」

 ちょっと元気ないけれど、ふふと微笑む彼女。

「誕生日、楽しみだね!」

「うん。アイちゃんにも食べさせてあげたかったな、ケーキ……」

「暗いほうに行くの、ナーシ! 今日会うみなさんにも、失礼だよ」

 ちっちっと指を振る。

「だね。こんな顔していったら、ダメだよね!」

 両頬を叩き、気合を入れるバーシ。

「おっと、予鈴だ。じゃあ、かいさーん!」

 散っていく三人。楽しいことと、ちょっと辛いことが両方待ち構えているけれど、ボクたちは前に進む。それしか、できないから。


 ◆ ◆ ◆


「戦車のねえ。キュラキュラっていう、あの独特の音が怖くってね。戦車砲が、ドカーン! ドカーンって!」

 部活時間。公民館で、ご年配のみなさんの話を聞く。おじいちゃんとおばあちゃんより、更にひとまわり、ふたまわり年上のようだ。

 この世界でも、大きな戦争が昔あったらしく、ここ、ラドネスブルグも戦場になったらしい。

 当事者の語る話は生々しく、背筋が寒くなってくる。

 飛来する爆撃機。銃撃戦。女性は特に、酷いことをされた人も多いらしい。ボクらが中学生だからか、その酷いことというのは詳細には語られなかったけど、なんとなく想像はついてしまう。

 ひときわ繊細なシャロンなど、えずきにトイレに駆け込んでしまった。

「ごめんなさいね。ぼかしたつもりだったんだけど」

「いえ。そうした犠牲の上に、ボクらの平和があるんですね……」

 申し訳無さそうに頭を下げるおばあさんを、フォローする。

 みんな、顔が真剣だ。ほのぼのした話から始まったこの談話会だけど、こんな方向に発展してしまった。

「どうかね、私たちがいなくなっても、語り継いでほしいの。もう、あんなことしちゃダメよ、人類は」

「はい!」

 声を合わせるボクら。

「あの、きつい話、終わったっすか?」

 戻ってきたシャロンが、おずおずと声を声をかけてくる。

「うん。今、まとめが終わったとこ」

「ごめんなさいね、気分悪くさせちゃって。楽しいお話に戻りましょう」

 往年のファッションブームについて語る、おばあちゃんたち。それを、必死にメモするバーシ。

 ファッションのブームはループするって、いつだかバーシが言ってたっけ。

 ご年配のみなさんのお話を聞くのも、色々ためになるなあ。

 「若い子と話せて、あと十年は長生きできるエネルギーもらったわ」なんて感謝されて、本日も充実した部活動となったのでした。
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姉妹作⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/132755025(完結)  他長編「神奈さんとアメリちゃん」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/663488280(完結)「小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/440658351(完結)「〈社会人百合〉アキとハル」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/968690065(完結)「自称・漆黒の堕天使が異世界を改革するようです」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/635743463(完結)
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