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第五十三話 十月四日(水) アイ

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「バーシムレさん……というか、みんな。本気なのね?」

 車を運転しながら、ネコザキ先生が尋ねてくる。

「はい。よく話し合って、決めました」

 バーシが、ボクらを代表して宣言した。

「この間、出会って、友達になったばかりなのになあ……」

 泣きそうな声を出す、クク。

「だからだよ。早めにしないと、逆に辛くなるよ」

 やはり、バーシの決意は固い。

 ボクらは今日、アイちゃんを天国へ送るために教会に向かっている。

 ボクだって、ククと同じ気持ちだ。ケーキを幸せそうに食べていた、アイちゃん入りククの姿が忘れられない。

 でも、バーシの言うことも真理。こうやって、思い出を積み重ねていくほど、別れが辛くなる。

 そして、アイちゃんが現世に縛られ続けるのは、やはり幸せなことではないと思う。

「着きましたよ」

 とうとう、来てしまった。覚悟を決めて、車を降りるボクたち。

「アーイちゃん! 遊びに来たよ!」

 中に入ると、バーシが努めて明るい声で呼びかける。

「わあ、みなさん! 今週も来てくれるなんて!」

 スウッ……っと、彼女が現れる。

「じゃ、クク。お願い」

「お、おう……。アイちゃん。ちょっと、あたしん中に入ってくれるかな?」

「はい! お外で遊ぶんですね?」

 違うんだ。違うんだ、アイちゃん。でも、それは言わない。

 以前よりあっさり、ククに入り込む彼女。

「アイちゃん」

「はい! 今日は、何して遊ぶんですか!?」

「ちょっと、お絵描きしよっか」

 震える声を必死に堪えながら、バーシが提案する。

「いいですね! やりましょう、やりましょう!」

 四十八色入り色鉛筆と、画用紙を、バーシが取り出す。

 こうして、心の奥底に切ない計画を秘めながら、お絵描きが始まった。


 ◆ ◆ ◆


「う~ん。次は、何描きましょう?」

 色鉛筆を、ぺちぺちと頬に当てる、アイちゃんクク。ボクらも、適当に色々と描いている。

「ユーフラジーが見たいな! 私たち、なるべく詳しく描いた、ユーフラジーが見たい!」

 バーシが、無理して明るい口調で言う。

「いいですね! 任せてください! ユーフラジーのこと、いっときも忘れたことがありませんから!」

 辛い。ククの意識があったら、号泣してそうだ。先生とシャロンは、辛さをごまかせないのか、それを忘れるように、無言で自分のお絵描きをしている。シャロンの白猫が、ケットだろうか。

 ユーフラジーの思い出を語る、アイちゃん。それは、貴重なヒントになる。ボクらは、その言葉言葉に痛みを覚えながら、相槌を打つ。

「できました!」

 アイちゃんが、満面の笑顔でユーフラジーを見せてくる。毛糸とフェルトで作ったであろう、女の子のぬいぐるみ。

 かなり上手だ。いっときも忘れたことがないというだけはある。

 ごくりと、つばを飲み込む。

 「バーシは、上手、上手!」と、拍手している。言い出しっぺだから、一番つらいだろうに。

「あ、ごめんなさいね。もうすぐ、部活の時間が終わりなの。みんなの絵を借りていっていいかしら?」

 「はーい」と言いながら、みんなの絵を集めるネコザキ先生。

「じゃあ、ククさんの体を……」

「あ、そうですね。ありがとうございました!」

 スウッ……っと、ククから出てくるアイちゃん。

「じゃあ、また今度ね!」

 みんなで手を振りあい、外へ出ました。


 ◆ ◆ ◆


「誰が、一番裁縫上手いかな?」

 車内でバーシが、涙声で皆に尋ねる。

「う、うああ……ッ! 多分っ、あたし! あたしだよ! 辛いよォッ!」

 号泣しながら、答えるクク。

 この計画は、ユーフラジーをもう一度、作り直そうというものだ。

 それを、アイちゃんに渡せば……。

 ボクも、嗚咽をあげている。今からこんなじゃ、実際、彼女が天国に旅立ってしまったら、どうなるのだろう。

「ごめんなさい。車を出せるようになるまで、もう少しかかりそうです」

 ハンカチで涙を拭く先生の姿が、バックミラーに映る。

 こうしてあげるのが、一番アイちゃんにとって幸せなんだ。そう、心に言い聞かせ続けるボクでした。
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姉妹作⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/132755025(完結)  他長編「神奈さんとアメリちゃん」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/663488280(完結)「小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/440658351(完結)「〈社会人百合〉アキとハル」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/968690065(完結)「自称・漆黒の堕天使が異世界を改革するようです」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/635743463(完結)
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