49 / 63
第四十九話 十月一日(日) ね、デートしよ?
しおりを挟む
今日もお店の手伝いを終え、湯上がりにくつろいでいると、裏口のインタホンが鳴りました。
「はーい、どちら様……おや、バーシ」
彼女が相変わらずオシャレな格好で、ドアの向こうに立ってました。
「どしたの?」
「アユム、外着に着替えて、うち来れない?」
と言った後に、「少し、お金持って」と、小声で付け加えてくる。
はて、お金? 霊感グッズでも、売りつけようってんじゃないだろうね?
まさかね。
そんなわけで、ストルバック家にお邪魔することになりました。
◆ ◆ ◆
で、バーシの部屋。相変わらず、変な人形とか、よくわからないお札とか、オカルト雑誌なんかが、無駄にきれいに並べられている。変な夢とか見ないのかな、これ。
「とりあえず、お金持ってきたけど、何するの? 霊能儀式?」
「違う違う! 抜け出してさ、デートしよ!」
「ええっ!? もう夜になっちゃうよ!?」
唐突な提案に、びっくり。ボク、これでもヒンコーホーセーですよ?
「それがいいんじゃない! 夜の抜け出し……青春してると思わない!?」
バーシが、身を乗り出してくる。見えそで見えない胸元に、ドキドキ。
「でも、家族にはアイちゃんのとき、さんざん心配かけたし……」
照れくさくて、胸元から視線を外す。
「なーに、後ろめたい?」
それを、別の気まずさと受け取ったようだ。
「私がお金出すからさ、映画見に行こうよ! アユムが出すのは、ポップコーン代ぐらいでいいから」
ああ。だから、お金持ってきてって話だったんだ。
どうしよう。バーシとは、デートしたい。でも、家族に心配もかけたくない。
「どうしても、今じゃなきゃダメ? 明日とかさ……」
「上映遅いのよ、あの映画。ねえ、ダメ?」
身を乗り出した姿勢のまま、上目遣いで見つめてくる。吸い込まれそうな瞳だ。
「わかった……行くよ」
そんな瞳に、ヤラれました。
◆ ◆ ◆
というわけで、映画館。
宣言通り、チケット代はバーシが出してくれました。外は日がもうすぐ完全に沈む。いいのかなあ……。
今更か。
中に入っていく。ちなみに、何見るかというと、恋愛映画。それも、女同士の。
実はバーシ、これでホラー映画のたぐいは、一切見ない。「作り物なのがわかってるから、面白くもなんともない」んだそうで。マニアだねえ。
ポップコーンとドリンクを買い、座席へ。ボクら、家の手伝いしてるから、お小遣い多めにもらってるんだよね。
クラスメイトには羨ましがられるけど、これはこれで、大変だよ。
三……二……一……始まった!
「好きになんて、ならなければ良かった」
そんな、印象的な独白から、物語は始まる。
どうやら、同性愛の葛藤がテーマらしい。多様性の時代とはいうけれど、未だ世間に偏見がないといえば、嘘になる。こちらもそんな、前世にも似たご時世。
物語は進んでいき、主人公が自分の恋愛感情に向き合っていく。
物語の盛り上がりとともに、バーシが手を差し出してくるのが見えたので、握り返す。ああ、ドキドキするよう!
最後は主人公が、自分の恋愛感情を受け入れて、キスでハッピーエンド。
普通に、名作だなあ。葛藤から受け入れるまでの、心の変化の描き方が上手い。
「はー、面白かったー!」
バーシも満足そうだ。指を絡めあって手を握り、家路をたどるのでした。
バスを降りると、バーシが、壁際に誘ってくる。
「何? 内緒話?」
きょとんとしてると、バーシがいわゆる「両手壁ドン」をしてくる。彼女のほうが小さいから、ちょっとしまらないけど。
「ね……私たちも、キスしてみない?」
人影はない。ボクたちだけだ。上目遣いと、口紅を塗った色っぽい唇に、心臓がものすごく早く脈打つ。
「まずいよ、バーシ。ボクら、まだ十二だし……」
「キスぐらい、年齢、関係なくない?」
どうしよう……。これは断れない。
そのとき、不意に物音が鳴る。
そちらを見ると、男が立っていた。
街灯が壊れていて、顔はよく見えない。
『不審者』。
月初めにニュースになった存在が、頭をよぎる。
位置を入れ替え、バーシをかばうように立ちはだかった。
ボクにも、こんなオトコノコしてる部分が残ってるんだな。
本当は、カッコなんかつけずに、一緒に逃げ出すべきなんだけど。
男が、一歩一歩近づいてきて、その顔が、次の街灯に照らされる。
……よぼよぼの、おじいちゃんだった。
「お嬢ちゃんたち、東ルンドンべア駅に行くには、どう行ったらいいかねえ?」
一気に脱力。思わず、へたり込みそうになってしまう。
道を教えると、おじいちゃんは頭を下げ、お礼して駅に向かいました。
「はー、怖かった……」
バーシが、震えている。
「ボクもだよ。ボク、やっぱり女の子なんだね。いや、大の男でも怖いのかな」
彼女の肩を抱き、家へ向かう。ちょっと、あったかい。
もちろん、帰宅後こってり叱られたけれど、今日は、忘れられない一夜となりました。
「はーい、どちら様……おや、バーシ」
彼女が相変わらずオシャレな格好で、ドアの向こうに立ってました。
「どしたの?」
「アユム、外着に着替えて、うち来れない?」
と言った後に、「少し、お金持って」と、小声で付け加えてくる。
はて、お金? 霊感グッズでも、売りつけようってんじゃないだろうね?
まさかね。
そんなわけで、ストルバック家にお邪魔することになりました。
◆ ◆ ◆
で、バーシの部屋。相変わらず、変な人形とか、よくわからないお札とか、オカルト雑誌なんかが、無駄にきれいに並べられている。変な夢とか見ないのかな、これ。
「とりあえず、お金持ってきたけど、何するの? 霊能儀式?」
「違う違う! 抜け出してさ、デートしよ!」
「ええっ!? もう夜になっちゃうよ!?」
唐突な提案に、びっくり。ボク、これでもヒンコーホーセーですよ?
「それがいいんじゃない! 夜の抜け出し……青春してると思わない!?」
バーシが、身を乗り出してくる。見えそで見えない胸元に、ドキドキ。
「でも、家族にはアイちゃんのとき、さんざん心配かけたし……」
照れくさくて、胸元から視線を外す。
「なーに、後ろめたい?」
それを、別の気まずさと受け取ったようだ。
「私がお金出すからさ、映画見に行こうよ! アユムが出すのは、ポップコーン代ぐらいでいいから」
ああ。だから、お金持ってきてって話だったんだ。
どうしよう。バーシとは、デートしたい。でも、家族に心配もかけたくない。
「どうしても、今じゃなきゃダメ? 明日とかさ……」
「上映遅いのよ、あの映画。ねえ、ダメ?」
身を乗り出した姿勢のまま、上目遣いで見つめてくる。吸い込まれそうな瞳だ。
「わかった……行くよ」
そんな瞳に、ヤラれました。
◆ ◆ ◆
というわけで、映画館。
宣言通り、チケット代はバーシが出してくれました。外は日がもうすぐ完全に沈む。いいのかなあ……。
今更か。
中に入っていく。ちなみに、何見るかというと、恋愛映画。それも、女同士の。
実はバーシ、これでホラー映画のたぐいは、一切見ない。「作り物なのがわかってるから、面白くもなんともない」んだそうで。マニアだねえ。
ポップコーンとドリンクを買い、座席へ。ボクら、家の手伝いしてるから、お小遣い多めにもらってるんだよね。
クラスメイトには羨ましがられるけど、これはこれで、大変だよ。
三……二……一……始まった!
「好きになんて、ならなければ良かった」
そんな、印象的な独白から、物語は始まる。
どうやら、同性愛の葛藤がテーマらしい。多様性の時代とはいうけれど、未だ世間に偏見がないといえば、嘘になる。こちらもそんな、前世にも似たご時世。
物語は進んでいき、主人公が自分の恋愛感情に向き合っていく。
物語の盛り上がりとともに、バーシが手を差し出してくるのが見えたので、握り返す。ああ、ドキドキするよう!
最後は主人公が、自分の恋愛感情を受け入れて、キスでハッピーエンド。
普通に、名作だなあ。葛藤から受け入れるまでの、心の変化の描き方が上手い。
「はー、面白かったー!」
バーシも満足そうだ。指を絡めあって手を握り、家路をたどるのでした。
バスを降りると、バーシが、壁際に誘ってくる。
「何? 内緒話?」
きょとんとしてると、バーシがいわゆる「両手壁ドン」をしてくる。彼女のほうが小さいから、ちょっとしまらないけど。
「ね……私たちも、キスしてみない?」
人影はない。ボクたちだけだ。上目遣いと、口紅を塗った色っぽい唇に、心臓がものすごく早く脈打つ。
「まずいよ、バーシ。ボクら、まだ十二だし……」
「キスぐらい、年齢、関係なくない?」
どうしよう……。これは断れない。
そのとき、不意に物音が鳴る。
そちらを見ると、男が立っていた。
街灯が壊れていて、顔はよく見えない。
『不審者』。
月初めにニュースになった存在が、頭をよぎる。
位置を入れ替え、バーシをかばうように立ちはだかった。
ボクにも、こんなオトコノコしてる部分が残ってるんだな。
本当は、カッコなんかつけずに、一緒に逃げ出すべきなんだけど。
男が、一歩一歩近づいてきて、その顔が、次の街灯に照らされる。
……よぼよぼの、おじいちゃんだった。
「お嬢ちゃんたち、東ルンドンべア駅に行くには、どう行ったらいいかねえ?」
一気に脱力。思わず、へたり込みそうになってしまう。
道を教えると、おじいちゃんは頭を下げ、お礼して駅に向かいました。
「はー、怖かった……」
バーシが、震えている。
「ボクもだよ。ボク、やっぱり女の子なんだね。いや、大の男でも怖いのかな」
彼女の肩を抱き、家へ向かう。ちょっと、あったかい。
もちろん、帰宅後こってり叱られたけれど、今日は、忘れられない一夜となりました。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる