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第四十七話 九月三十日(土) 水の楽園! ④

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「おー! 波打ってるねえ!」

「っすねえ!」

 プールの波打ち際を見て、なんだかハイになっている凸凹コンビ。

 ボクも、前世でも今生でも、映像でしか波打ち際なんて見たことないから、作り物とはいえ、ちょっと感動。

「姉さん! 波打ち際といえば、アレやりたいっす! 『やったな、こいつぅ~』のアレっす!」

 ちょっと、興奮気味なシャロン。暖かい国への旅行とかは、映画とかでもよくあるシチュなので、シャロンたちにもおなじみのシーンだったりします。

「いいな! やるかー!」

 ククも、ノリがいい。

「アユムー! 私たちもやろ!」

 バーシも。

「まあ、かまわないけど」

「あー! ずるーい! おねーちゃん、私ともやろー!」

「わたしもいいですか!?」

 ハーフーコンビにも、お願いされてしまう。

 というわけで、ボクだけなぜか、三方向から水をばちゃばちゃかけられ、「やったな~、こいつぅ!」と、お約束の台詞とともに、順繰りにかけ返すのでした。

「ちょっとストップ! さすがに、三方向同時攻撃への対応は疲れる! 一旦、やめやめ!」

 さすがのボクも、ギブアップ。君たち、いつまでやる気なの。なんか、普通に一対一でのどかにかけあいっこしてる凸凹コンビが羨ましい。

 「えー?」と不満そうな三人だけど、フィジカル自慢なボクが、肩で息してるの見て、諦めてくれたみたいです。

「はー……」

 波打ち際に座って、一休み。心地いいな。ほんとの海も、こんな感じなのかな。

 ハーフーコンビは、二人でかけあいっこし始めました。ボクが間に入ると空気がおかしくなるけど、やっぱ親友なんだなーと思ったり。

「よっと」

 バーシが、隣に腰掛けてきた。

「いいとこに、プールが出来たよねー」

「そうだね」

 何気ない会話。なんだろう。なんだか、いいムード。押し寄せ、返す波の感触が心地良い。

「アユムってさ、恋愛対象って、男、女どっち?」

 いたずらっぽい微笑を浮かべ、問いかけてくるバーシ。なんだか色っぽくて、ドキッとしてしまう。

「わかんない。わかんないけど……ちょっと今、バーシにドキッとした」

「え、マジ? マジで言ってる?」

 頬を赤らめる彼女。

「マジ」

「そっかー。マジかー」

 なんか、照れくさそうに、指で床をくりくりする幼馴染み。

 ボクは多分、彼女に対して、友情以上のものを感じている。

 ボクの魂の奥底に、男の子が混じっているから?

 それとも、純粋に同性愛?

 多様性の時代というけれど、ボクみたいな異性の前世持ちが直面してみると、ちょっと、ぐちゃぐちゃした感じになる。

 ボクは、一体ナニモノなのか。

 性について考える場面になると、いつも頭をよぎる疑問。

「バーシ。その反応、まんざらでもないって感じだね?」

 くりっとした目をちょっと見開いて、視線をさまよわせた後、おずおずと、こくんとうなずく彼女。

「ボク、バーシにはどう映ってるのかな? ボクね、こういう前世持ちでしょ。ときどき、自分の性別に違和感までいかないけど、不思議な感じを覚えるんだ。どっち・・・のボクが好き?」

 ボクを見つめ、じっと考え込む幼馴染み。

「……結論から言うと、アユムはどこまでいってもアユムで、そんなアユムが好き。でも、やっぱり女の子だと思ってるかな。嫌?」

 ふるふると、首を横に振る。

「嫌じゃないよ。ボクは、確かに女の子だ。ただ、心の奥底を、前世の男の子が、少しだけ間借りしてるだけで」

「「あのさ」」

 言葉が重なる。

「……バーシから、どうぞ」

「うん。レンアイ、やってみる?」

「やってみようか。ふふ。変な感じだね、こんな始まり方」

 くすくす笑い合う。

 ボクたちは、恋人 (仮)になりました。

 帰りの電車で、二人でずっと手を繋いでいた。これは、今までとはちょっと意味合いが異なる、手繋ぎ。

 この関係は、まだほかのみんなにはナイショ。

 どうなるのかな、この先。

 まあ、なるようになるよね。
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