上 下
45 / 63

第四十五話 九月三十日(土) 水の楽園! ②

しおりを挟む
「うおー! 一番、ククチェンバレン、入るぜー!」

「だーめ。準備運動が先でーす」

 プールに突撃しようとするククを、制する。

「そっすよ、姉さん。足つったら、その日一日、遊ぶどころじゃなくなるっす」

「むう、シャロンまで……。わーったよ。じゃ、アユムセンセ、お手本よろしく~」

「りょーかーい。ハーちゃんたちも、ボクの真似してね」

 いっちにーと、足伸ばしや屈伸など、準備運動を黙々と進める。

 それにしても、屋内でヤシの木育ててるんだ。ラドネスブルグで、見れるとは思わなかったな。

 ほかにも、おっきな滑り台とか、寝そべる椅子とか、いかにもレジャープールです! って感じのものが、目立つ。

 温水プールだけあって、室温は暖か。なんなら、湿気もあって暑いぐらい。

「準備運動おわりー。熱中症になるから、プールだからって油断せずに、こまめに水分補給してね」

「熱中症ってなんぞ?」

 首を傾げる、ククほか一同。しまった。こっちじゃ、一般的じゃない名前だったか。えーっと、こっちだと何だったかな……そうだ!

「ごめん。日射病の間違い。太陽なんか差してないけど、内容は同じだから、気をつけて。ボクの、前世知識を信じてほしい」

「アユムの前世知識なら、信じる! みんなも、ね!?」

 バーシの気迫に気圧されて、「は、はい……」となる一同。注意事項は、こんなもんかな?

「じゃー、泳ごうか」

「あの! アユムおねーさん!」

 フーちゃんが、おずおずと挙手。

「わたし、その、全然泳げなくて……。泳ぎ、教えていただけますか?」

「いいよー」

 と応えたはいいけど、ハーちゃんの視線が……。

「フーちゃん! 私が、教えてあげる!」

「え、あの、わたし、お姉さんが……」

 なんか、バチバチしてるぅ~! お母さんに指摘されたあとで見ると、確かにこりゃ、嫉妬劇場だ。

「えーと、二人にはボクらの誰かがついてなきゃだから、ボクが二人の面倒見るよ」

「うーん、まあ、それでいいや」

「よろしくお願いします」

 ふう。ハーちゃんが、落ち着いてくれたようで、何より。

「じゃあ、小児用プール行こうね。みんなー。ボクは二人と一緒に、小児用プール行ってるからー」

 伝言は伝わったようで、プールに入ろうとしていたバーシが、うなずきながら手を振る。


 ◆ ◆ ◆


 というわけで、小児用プール。ハーちゃんたちよりも小さな子が、お父さんやお母さんに見守られながら、パチャパチャ泳いでいる。かわいい。

「ハーちゃんは泳げるけど、おさらいのつもりでやろう。フーちゃんは、水に顔つけるのできる?」

 ふるふると、首を横に振る。

「じゃあ、そこから始めよう。ボクの手を握って。何かおかしいなって思ったら、さっと顔を上げるか、出来なければ強く握ってね」

 二人が、ぎゅっと握ってくる。子供って体温高いな。ふふ。

「じゃあ、耳を出したまま、顔を水につけて、三十まで数えてみよう」

 ばしゃっと顔をつける二人。

「いーち、にーい、さーん……」

 三十まで、数える。フーちゃん、辛そう。ガンバレ!

「さんじゅー!」

 ざばぁと顔を上げ、ぜえぜえと息をする二人。

「フーちゃん、水、怖い?」

「お姉さんと一緒だから、平気です……」

 おずおずと応える彼女。

「おねーちゃん! 私にも訊いて!」

「ええ……ハーちゃん、泳げ……」

「いいから!」

 これは、逆らわないほうが良さそうだ。

「ハーちゃん、水、怖い?」

「ううん! おねーちゃんのおかげで、全然平気!」

 お日様笑顔。なんだかなあ。

 そんな調子で、フーちゃんは少しずつステップアップ。とはいっても、急激なレベルアップというのは、無理なもので。

「フーちゃんは、もう、水、大丈夫みたいだね?」

「はい!」

「ハーちゃんも」

「うん!」

 視線に気づいて、フォロー。いやはや。ハーちゃんって、割と厄介な所あるなあ、と感じるのでした。

「アユムー」

 不意に名前を呼ばれてそちらを向けば、バーシさんじゃあ、ありませんか。

「どしたの?」

「教師役、代わろうかなって」

 ハーちゃん&フーちゃんから、「ええー」と不平が上がる。

「お二人さんや。アユム、二人につきっきりで、自分のやりたい遊び、全然出来てないんだよ。ほんとにアユムが好きなら、そろそろ自由にしてあげないと」

 入水して、ハーフーコンビにそう問いかけると、二人とも黙ってしまう。

「あの、ボクは大丈夫……」

「アユム。奴隷になるのと、愛するのは違うよ」

 むう。

「いいかな、三人とも?」

 バーシのいい笑顔に、おずおずとうなずくボクら。

「おねーちゃんが指導しないなら、私、好きに泳ぐ~」

 すいすい、平泳ぎを始めるハーちゃん。

「いいけど、私の視界からは外れないでね」

「じゃあ、二人のことよろしく。ありがとうね。ククとシャロンは?」

「流水プール」

 フーちゃんと、「どこまでできるか」質疑応答中に、こちらにも回答。

「そっか。ボクは、競泳プール行ってくる」

「いってらー」

 さーて、自由時間だ!


 ◆ ◆ ◆


 水中ゴーグルをかけ、耳栓をつける。水中ゴーグルはバンドできっちり固定されるから、ボクら猫耳でも、問題なく使える。

 水中に入り、まずは平泳ぎ。

 気持ちいい。ぬるりと体を通り過ぎていく、水の抵抗。程よい温度。何より、汗をかいても気にならないのが、ジョギングよりもいい。まあ、そのぶん、熱中症に気づきにくいリスクがあるんだけど。

 泳法を、クロールにスイッチする。速度が上がり、疲労度も上がる。でも、それが心地いい。

 まだまだ時間はあるからね。力を使い果たさないようにしないと。

 でも! とにかく泳ぐのが、気持ちいい! 前世で出来なかったことの一つ! とても、幸せだあ!!

 たっぷり四往復ぶんしてから、ククたちの様子を見に行くことに。

 はー、気持ち良かった~!
しおりを挟む

処理中です...