35 / 63
第三十五話 九月二十四日(日) 新聞配達の、エリアお姉さん
しおりを挟む
「あっはっはっ。そっかー。そこまでシスコンかー」
昨日の話を聞いて、愉快愉快といった感じに、笑うクク。今日も、いつもの公園ロードワークです。
「だってー。ハーちゃんかわいいんだよ? 今度会わせてあげるね」
「そりゃ楽しみだね。ところで、今日はかなりペースゆっくりめだけど、いいん?」
「うん。ペース上げると、ククがバテるでしょ? でも、ゆっくりだとあまり運動にならないから、何かないかなーって思って、いい方法考えた」
手首に着けたバンドを見せる。
「なんぞ?」
「持ってみて」
バンドは両手に巻いてるんだけど、片方だけ外して手渡す。
「重っ! こんなん着けて、歩いてたんか!」
「足にもあるよ」
ジャージのボトムを少し上げて、足首を見せると、そこにもバンド。
「はえー。ゴリラにでも、進化する気か」
「それ、進化なの?」
そうそう。この世界のお猿さんは、猫耳です。
「さあ? でも、あたしの体力がねーのが悪ぃんだよな。ごめんな、工夫茶化しちゃって」
「いいよ。別に気にするほどのことじゃ」
貸したバンドを、再び手首に巻き付ける。
「でも、あたしもホリンの散歩が、今まで以上に楽しいわ。やっぱ、一緒に歩いてくれる仲間がいるって、いいな」
「ボクも!」
互いに、にっこり微笑む。
「そういえばさ、シャロン、どう?」
散歩を再開しながら、気になってたことを問う。
「昨日の今日だからな。でも、あのあと、三人で自宅で飯食ったらしいよ。嬉しかったって、電話あってさ」
「そか。シャロンの家、いい方向に進むといいね」
「んだな」
少し、しんみりした空気が流れる。
「そういや、バーシにはこの話、したん?」
「してない。デリケートな問題だし、言いたくなったら、シャロンから言うと思う」
「そだな」
一層、空気がしんみりする。
「そうだ。今日、ボク店に出るんだ。良かったら、家族で食べに来てよ。サービスしてくれると思うよ」
「んー、行けたら行く。逆に、バーシ連れて、今度うちに遊びにきてほしーな」
「ふふ、ガブに会えるの楽しみにしとくね」
今度はくすくす笑い合う。女の子って、ころころ感情が変わるね。
こうして、朝の楽しい日課も終わり、それぞれの家に戻るのでした。
◆ ◆ ◆
「三番、ビール・二、グリルドソーセージ・二、入りましたー」
伝票をお父さんに渡し、次の仕事探し。……といっても、お昼どきと夕食どきの、ちょうど真ん中ぐらいの時間で、割と暇。
結局、クク来なかったな。まあ、急に誘ったから仕方ないけど。
夕食には来るかもだけど、その頃にはボク、上がってるしなあ。
からんからん。
ドアの呼び鈴が鳴ると、見慣れた人物。
「いらっしゃいませ! お一人様でしょうか?」
新聞配達の、エリア・ネルハイントお姉さん。きれいな、ブロンドのポニーテールの持ち主。お給料が入ると、「チートデー」と称して、いつも呑みに来てくれるのです。
「おねーさんが、一人飲み派なの知ってるじゃん~」
からから笑う彼女。
「一応、訊いとかないとですから。ご案内しますね」
エリアさんの大好きな、一番見晴らしのいい席を案内する。窓辺で、道行く人を眺めて、あれこれ想像しながら呑むのが、最高なんだって。
「ビールとフライドポテトをご一緒に、ですよね?」
「ん。慣れた店って、これだからいいね」
「かしこまりました」
お父さんに、注文を伝えると、入れ替わりに、さっき注文を伝えた料理を手渡されたので、三番テーブルに運ぶ。
「ユコーさーん、アユムちゃん、しばらく借りていいですかー?」
ユコーというのは、ボクのお母さんだ。
「そうですね。今空いてますから、その間なら」
「やった! 話そ話そ!」
というわけで、エリアお姉さんと、おしゃべりタイム。
「大学って、どんなことするんですか? 楽しいって、噂ですけど」
「あー、中学生の頃ってそう思うよねー。実際は、レポート地獄よ」
「はあ」
どうも、キャンパスライフというのは、噂とはずいぶんと違うらしい。
「教授がねー。ほんとよく気づくなってレベルで、ミス見つけて、ダメ出ししてくるんだわ」
「ええと、もっと中学生にも、わかりやすくお願いします」
「あ、ごめんごめん。えっとね」
大学は、高校までと違って自発的に学ぶ場所であるところ。それをレポートにまとめて出さないといけないこと。それがOKもらえないと、卒業に響くこと、などを教わった。
「やっぱり、学校は学校なんですね」
「そりゃそーよ。アタシとか、バイトで学費と生活費稼いでるじゃん? 留年したら、一大事よ」
大変だなあ。そりゃ、月に一度、気晴らししたくなるよね。
「お待たせしました。ビールとフライドポテトです」
お母さんが、そっとエリアさんの品を置く。
「きたー!」
さっそく、ぐびっといくエリアさん。そして、プハー。
「アユム。三番さんは、お母さんが接客するから、エリアさんとお話し続けてていいわよ」
「ありがとうございます!」
「ありがとう」
そういえば。
「お酒って、おいしいんですか?」
「まずかったら、わざわざ飲みにこないよ」
そりゃそーだ。
「おじいちゃんは、どんなものか訊くと、『やめとけやめとけ』って、言うんですけどね」
「まー、健康に良かないからね」
ぐいいっと呷り切り、満足そうにプッハー。
「でも、うまいんだなあ、これが!」
そう言いながら、ポテトを頬張る。
確かに、おいしそうだ。
大人になったら、試しに四人で飲んでみようかな。
その頃まで、ずっと仲良くいられたらいいな。
おっと。
「おかわりですよね」
「うん」
お父さんにオーダーを伝えると、ビールがすぐ注がれるので、おかわりを持っていく。
こうして、エリアさんはビールとおつまみを愉しみ尽くし、お勘定。
「じゃー、また来月~」
「ありがとうございました!」
お辞儀して、お見送り。ちょっとふらふらしながら、バス停に向かう彼女でした。
少しでも、お姉さんの気持ちが楽しくなるお手伝いができたなら、嬉しいな。
三番テーブルのお客さんたちも、とっくに帰って、今お店は空だけど、暇なら暇なりに、やることがあるのだ。テーブル拭こーっと。
ボクは、「トマラン」と、ここに来るお客さんたちが好きだ。このお店を、きちんと継いでいきたい。
そう、改めて心に誓うのでした。
昨日の話を聞いて、愉快愉快といった感じに、笑うクク。今日も、いつもの公園ロードワークです。
「だってー。ハーちゃんかわいいんだよ? 今度会わせてあげるね」
「そりゃ楽しみだね。ところで、今日はかなりペースゆっくりめだけど、いいん?」
「うん。ペース上げると、ククがバテるでしょ? でも、ゆっくりだとあまり運動にならないから、何かないかなーって思って、いい方法考えた」
手首に着けたバンドを見せる。
「なんぞ?」
「持ってみて」
バンドは両手に巻いてるんだけど、片方だけ外して手渡す。
「重っ! こんなん着けて、歩いてたんか!」
「足にもあるよ」
ジャージのボトムを少し上げて、足首を見せると、そこにもバンド。
「はえー。ゴリラにでも、進化する気か」
「それ、進化なの?」
そうそう。この世界のお猿さんは、猫耳です。
「さあ? でも、あたしの体力がねーのが悪ぃんだよな。ごめんな、工夫茶化しちゃって」
「いいよ。別に気にするほどのことじゃ」
貸したバンドを、再び手首に巻き付ける。
「でも、あたしもホリンの散歩が、今まで以上に楽しいわ。やっぱ、一緒に歩いてくれる仲間がいるって、いいな」
「ボクも!」
互いに、にっこり微笑む。
「そういえばさ、シャロン、どう?」
散歩を再開しながら、気になってたことを問う。
「昨日の今日だからな。でも、あのあと、三人で自宅で飯食ったらしいよ。嬉しかったって、電話あってさ」
「そか。シャロンの家、いい方向に進むといいね」
「んだな」
少し、しんみりした空気が流れる。
「そういや、バーシにはこの話、したん?」
「してない。デリケートな問題だし、言いたくなったら、シャロンから言うと思う」
「そだな」
一層、空気がしんみりする。
「そうだ。今日、ボク店に出るんだ。良かったら、家族で食べに来てよ。サービスしてくれると思うよ」
「んー、行けたら行く。逆に、バーシ連れて、今度うちに遊びにきてほしーな」
「ふふ、ガブに会えるの楽しみにしとくね」
今度はくすくす笑い合う。女の子って、ころころ感情が変わるね。
こうして、朝の楽しい日課も終わり、それぞれの家に戻るのでした。
◆ ◆ ◆
「三番、ビール・二、グリルドソーセージ・二、入りましたー」
伝票をお父さんに渡し、次の仕事探し。……といっても、お昼どきと夕食どきの、ちょうど真ん中ぐらいの時間で、割と暇。
結局、クク来なかったな。まあ、急に誘ったから仕方ないけど。
夕食には来るかもだけど、その頃にはボク、上がってるしなあ。
からんからん。
ドアの呼び鈴が鳴ると、見慣れた人物。
「いらっしゃいませ! お一人様でしょうか?」
新聞配達の、エリア・ネルハイントお姉さん。きれいな、ブロンドのポニーテールの持ち主。お給料が入ると、「チートデー」と称して、いつも呑みに来てくれるのです。
「おねーさんが、一人飲み派なの知ってるじゃん~」
からから笑う彼女。
「一応、訊いとかないとですから。ご案内しますね」
エリアさんの大好きな、一番見晴らしのいい席を案内する。窓辺で、道行く人を眺めて、あれこれ想像しながら呑むのが、最高なんだって。
「ビールとフライドポテトをご一緒に、ですよね?」
「ん。慣れた店って、これだからいいね」
「かしこまりました」
お父さんに、注文を伝えると、入れ替わりに、さっき注文を伝えた料理を手渡されたので、三番テーブルに運ぶ。
「ユコーさーん、アユムちゃん、しばらく借りていいですかー?」
ユコーというのは、ボクのお母さんだ。
「そうですね。今空いてますから、その間なら」
「やった! 話そ話そ!」
というわけで、エリアお姉さんと、おしゃべりタイム。
「大学って、どんなことするんですか? 楽しいって、噂ですけど」
「あー、中学生の頃ってそう思うよねー。実際は、レポート地獄よ」
「はあ」
どうも、キャンパスライフというのは、噂とはずいぶんと違うらしい。
「教授がねー。ほんとよく気づくなってレベルで、ミス見つけて、ダメ出ししてくるんだわ」
「ええと、もっと中学生にも、わかりやすくお願いします」
「あ、ごめんごめん。えっとね」
大学は、高校までと違って自発的に学ぶ場所であるところ。それをレポートにまとめて出さないといけないこと。それがOKもらえないと、卒業に響くこと、などを教わった。
「やっぱり、学校は学校なんですね」
「そりゃそーよ。アタシとか、バイトで学費と生活費稼いでるじゃん? 留年したら、一大事よ」
大変だなあ。そりゃ、月に一度、気晴らししたくなるよね。
「お待たせしました。ビールとフライドポテトです」
お母さんが、そっとエリアさんの品を置く。
「きたー!」
さっそく、ぐびっといくエリアさん。そして、プハー。
「アユム。三番さんは、お母さんが接客するから、エリアさんとお話し続けてていいわよ」
「ありがとうございます!」
「ありがとう」
そういえば。
「お酒って、おいしいんですか?」
「まずかったら、わざわざ飲みにこないよ」
そりゃそーだ。
「おじいちゃんは、どんなものか訊くと、『やめとけやめとけ』って、言うんですけどね」
「まー、健康に良かないからね」
ぐいいっと呷り切り、満足そうにプッハー。
「でも、うまいんだなあ、これが!」
そう言いながら、ポテトを頬張る。
確かに、おいしそうだ。
大人になったら、試しに四人で飲んでみようかな。
その頃まで、ずっと仲良くいられたらいいな。
おっと。
「おかわりですよね」
「うん」
お父さんにオーダーを伝えると、ビールがすぐ注がれるので、おかわりを持っていく。
こうして、エリアさんはビールとおつまみを愉しみ尽くし、お勘定。
「じゃー、また来月~」
「ありがとうございました!」
お辞儀して、お見送り。ちょっとふらふらしながら、バス停に向かう彼女でした。
少しでも、お姉さんの気持ちが楽しくなるお手伝いができたなら、嬉しいな。
三番テーブルのお客さんたちも、とっくに帰って、今お店は空だけど、暇なら暇なりに、やることがあるのだ。テーブル拭こーっと。
ボクは、「トマラン」と、ここに来るお客さんたちが好きだ。このお店を、きちんと継いでいきたい。
そう、改めて心に誓うのでした。
0
姉妹作⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/132755025(完結) 他長編「神奈さんとアメリちゃん」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/663488280(完結)「小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/440658351(完結)「〈社会人百合〉アキとハル」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/968690065(完結)「自称・漆黒の堕天使が異世界を改革するようです」https://www.alphapolis.co.jp/novel/334326892/635743463(完結)
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
『器のちっちゃな、ふとちょ先輩』
小川敦人
青春
大学卒業後、スポーツジムで働き始めた蓮見吾一。彼は個性豊かな同僚たちに囲まれながら、仕事の楽しさと難しさを学んでいく。特に気分屋で繊細な「器の小さい」中田先輩に振り回される日々。ジム内の人間模様や恋愛模様が交錯しながらも、吾一は仲間との絆を深めていく。やがて訪れるイベントのトラブルを通じて、中田先輩の意外な一面が明らかになり、彼の成長を目の当たりにする。笑いあり、切なさありの職場青春ストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる