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第二十八話 九月二十一日(水) アユムの学校生活
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「バン!」
先生の掛け声とともに、トラックを猛走する。元気に動ける! 走れる! こんなに嬉しいことってない!
ゴール!
ボクが一番のようだ。
「相変わらず速いねー。アユムは」
バーシが、すれ違いざまに、褒めてくれる。
「ありがと」
手を叩き合い、今度は見学に回る。
「がんばれー!」と、離れから、他の女子に混じって、ククとシャロンの声援が聞こえる。
「……バン!」
ダッシュするバーシ。あまり速くないけど、スポーツは参加することに意義があるからね。
それにしても、こっち側で体育するようになって、早六年以上かー。
前世では、見学ばっかりしてたけど、男子の体育も体験してみたかったな。
男子は今日、体育館でバスケ。あっちも楽しそうだな。
でも、ボクは走るのが好きだ。シンプルで、いい。ただ道があって、そこを全力で駆けていく。ひたすら、スピードだけの世界。
そういう意味では、水泳も好き。プール、行きたいな。
もちろん、バスケやサッカーも好きだけどね。……この世界、前世に似た競技、多いね。
バーシ、ゴール!
「お疲れー! 頑張ったねー!」
健闘を称えると、手を挙げて応える。肩が激しく上下していて、喋るのもしんどいようだ。
ククとシャロンも走り、それぞれを称える。
こんなのを何セットかして、今日の体育はお開きになった。
そして、給食。
「いただきます!」
班を作り、六人で机を合わせ、囲む。
「おー! チキン! 運動の後は、タンパク質だよねー」
嬉々として、フォークをつける。
「トマルナーさん、大活躍だったよねー」
「いやー、それほどでも。やっぱり、運動部の子には負けるよ」
いつも、バーシやククたちとばっかり絡んでるようで、クラスメイトとも仲良くやっている。
「わたしゃ、運動より物理やりたい。工業系進むと、姫になれるらしいし」
「そーなん?」
「うん。工業高校、むっちゃ女子少ないから、モテるらしい」
わちゃわちゃ雑談を愉しむ友達たちを見ながら、チキンをごっくんと飲み込む。牛乳も飲んで、ダブル・タンパク質だ!
「理系も楽しいよねー。ボク、全部の教科好きだよ」
「羨ましいなー。私、数学と理科ダメだわ」
楽しいな。給食を食べながら、クラスメイトとの雑談。
前世のボクが、ろくに楽しめなかったことだ。
ボクは今、前世の取りこぼしを、たくさん、たくさん回収している。
性別こそ変わってしまったけど、素晴らしい家族と友人たちに囲まれて、なんと幸せなのだろう。
そして、放課後になり、部活。今日も、セント・ミマモル教会をきれいにしていく。
「ありがとうございます。本当に、荒れ果てていたのが、見違えるぐらいきれいになって……」
感涙するアイちゃん。
「なーに、友達のためだかんな! お安い御用よ!」
ククが、サムズアップする。
「あとは、ユーフラジーが見つかるといいんですけどね」
遠い目をするアイちゃんに、一同、俯く。
アイちゃんと過ごす時間は楽しいけれど、本当は彼女を昇天させてあげるのが、一番いいはずだ。
ユーフラジーは、もう存在しない。どうしてあげればいいのだろう。
「一息ついたところで、お茶にしましょう!」
先生が、パンと手を打つ。
魔法瓶から、紙コップにお茶を注がれていく。
「ありがとうございます……いただきます!」
ああ、おいしい。緑茶にハマっちゃったなあ。おじいちゃんも、おばあちゃんも、すっかり緑茶党になってしまったし。
「ヤマト街、もっとうちから近かったら、いいんですけどねー」
「そうね。トマルナーさんたちの家とは、学校挟んで反対側ですものね。距離もあるし」
先生も、おいしそうにお茶をすする。
「学校行事で、ヤマト街行くって、どうっすかね?」
「学校行事で行って、面白いかしらね? あそこ、買い物が楽しいところだから」
確かに。
「わたしも、お外行ってみたいですね……」
アイちゃんの言葉に、再び空気が重くなってしまう。
「せめて、写真を持ってくるからね」
バーシがフォロー。
「楽しみにしてます」
微笑むアイちゃんに、ほっと内心胸をなでおろす。ずっと、ここに縛られ続けられるなんて、ボクだったらたまらないな。
「それじゃ、みんな飲み終わったようだし、お暇しましょうか。アイさん、また明日」
空カップを集め、帰り支度を始めるネコザキ先生。ボクらも、それに続く。
明日も、いい日でありますように!
先生の掛け声とともに、トラックを猛走する。元気に動ける! 走れる! こんなに嬉しいことってない!
ゴール!
ボクが一番のようだ。
「相変わらず速いねー。アユムは」
バーシが、すれ違いざまに、褒めてくれる。
「ありがと」
手を叩き合い、今度は見学に回る。
「がんばれー!」と、離れから、他の女子に混じって、ククとシャロンの声援が聞こえる。
「……バン!」
ダッシュするバーシ。あまり速くないけど、スポーツは参加することに意義があるからね。
それにしても、こっち側で体育するようになって、早六年以上かー。
前世では、見学ばっかりしてたけど、男子の体育も体験してみたかったな。
男子は今日、体育館でバスケ。あっちも楽しそうだな。
でも、ボクは走るのが好きだ。シンプルで、いい。ただ道があって、そこを全力で駆けていく。ひたすら、スピードだけの世界。
そういう意味では、水泳も好き。プール、行きたいな。
もちろん、バスケやサッカーも好きだけどね。……この世界、前世に似た競技、多いね。
バーシ、ゴール!
「お疲れー! 頑張ったねー!」
健闘を称えると、手を挙げて応える。肩が激しく上下していて、喋るのもしんどいようだ。
ククとシャロンも走り、それぞれを称える。
こんなのを何セットかして、今日の体育はお開きになった。
そして、給食。
「いただきます!」
班を作り、六人で机を合わせ、囲む。
「おー! チキン! 運動の後は、タンパク質だよねー」
嬉々として、フォークをつける。
「トマルナーさん、大活躍だったよねー」
「いやー、それほどでも。やっぱり、運動部の子には負けるよ」
いつも、バーシやククたちとばっかり絡んでるようで、クラスメイトとも仲良くやっている。
「わたしゃ、運動より物理やりたい。工業系進むと、姫になれるらしいし」
「そーなん?」
「うん。工業高校、むっちゃ女子少ないから、モテるらしい」
わちゃわちゃ雑談を愉しむ友達たちを見ながら、チキンをごっくんと飲み込む。牛乳も飲んで、ダブル・タンパク質だ!
「理系も楽しいよねー。ボク、全部の教科好きだよ」
「羨ましいなー。私、数学と理科ダメだわ」
楽しいな。給食を食べながら、クラスメイトとの雑談。
前世のボクが、ろくに楽しめなかったことだ。
ボクは今、前世の取りこぼしを、たくさん、たくさん回収している。
性別こそ変わってしまったけど、素晴らしい家族と友人たちに囲まれて、なんと幸せなのだろう。
そして、放課後になり、部活。今日も、セント・ミマモル教会をきれいにしていく。
「ありがとうございます。本当に、荒れ果てていたのが、見違えるぐらいきれいになって……」
感涙するアイちゃん。
「なーに、友達のためだかんな! お安い御用よ!」
ククが、サムズアップする。
「あとは、ユーフラジーが見つかるといいんですけどね」
遠い目をするアイちゃんに、一同、俯く。
アイちゃんと過ごす時間は楽しいけれど、本当は彼女を昇天させてあげるのが、一番いいはずだ。
ユーフラジーは、もう存在しない。どうしてあげればいいのだろう。
「一息ついたところで、お茶にしましょう!」
先生が、パンと手を打つ。
魔法瓶から、紙コップにお茶を注がれていく。
「ありがとうございます……いただきます!」
ああ、おいしい。緑茶にハマっちゃったなあ。おじいちゃんも、おばあちゃんも、すっかり緑茶党になってしまったし。
「ヤマト街、もっとうちから近かったら、いいんですけどねー」
「そうね。トマルナーさんたちの家とは、学校挟んで反対側ですものね。距離もあるし」
先生も、おいしそうにお茶をすする。
「学校行事で、ヤマト街行くって、どうっすかね?」
「学校行事で行って、面白いかしらね? あそこ、買い物が楽しいところだから」
確かに。
「わたしも、お外行ってみたいですね……」
アイちゃんの言葉に、再び空気が重くなってしまう。
「せめて、写真を持ってくるからね」
バーシがフォロー。
「楽しみにしてます」
微笑むアイちゃんに、ほっと内心胸をなでおろす。ずっと、ここに縛られ続けられるなんて、ボクだったらたまらないな。
「それじゃ、みんな飲み終わったようだし、お暇しましょうか。アイさん、また明日」
空カップを集め、帰り支度を始めるネコザキ先生。ボクらも、それに続く。
明日も、いい日でありますように!
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