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第二十四話 九月十九日(月) ヘアスタイル談義

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「ねー、アユムー」

「なーにー?」

 昼休み、教会の清掃が終わったら、次は何のボランティアを提案しようかと、ぼーっと考えていると、バーシがボクの髪を手ですきながら、呼びかけてきた。

 バーシは、こうやってボクの髪を触るのが好きみたいで、しょっちゅうこんなスキンシップをされている。

「やっぱさー、髪伸ばす気ないよねえ?」

「うん」

「もったいないなー。こんなにつやつやで、手触りいいのに」

 ため息を吐く、幼馴染み。幸せが逃げますよー?

「ボクが、ギャン泣きしてまで切ったの、知ってるでしょー?」

 ボクは、前世の記憶が戻る前、長髪だった。ただ、記憶が戻ったらどうにも長髪に抵抗感が出て、「今すぐ切りたい!」と大泣きして、家族を困らせたらしい。

 で、以降ずーっとショートヘアというわけ。

「バーシこそ、伸ばしたらいいじゃない。バーシも、いい髪質なんだしさ」

「あははー。だって、楽なんだもん。アユムの真似して切ったら、頭が軽いわ、お風呂が楽だわ、『私、何のために伸ばしてたの!?』ってなっちゃってー」

「もー。そう思うなら、ボクの意思の再確認とか必要ないでしょー。ボクだって、同じだよ」

 ため息を吐く。ボクも、幸せが逃げちゃうな。

「なんか、変な空気醸し出してんね。何の話?」

 おっと、ククがシャロンと一緒にこっちにやってきた。

「まあ、他愛ない話なんだけど……」

 先程のやり取りと、過去バナを話して聞かせる。

「へー。やっぱ、男の子ってロング嫌なん? たまに、ロン毛のにーちゃんいるけど」

「前世のボクは、そうだったみたい」

「そっかー」

 どうでもいいけどバーシ、いつまで髪すいてんの?

「そういや、この四人でロングなの、あたしだけだな」

「そっすね。いっそ、姉さんもジョキンといって、うちらの仲間入りしてみるっすか?」

「えー? そりゃ、手間かかるし重いけどさ、やっぱ愛着があんのよ、愛着」

 見事に切りそろえられた、ロングの毛先を、くりくりといじり回すクク。

「まー、男子はロングのほうが好みってのが、多いらしいっすからねー」

「あたしゃ、別にモテ願望とかねーけどなー」

「そっすよね。姉さんには、うちがいるっすもんね」

 腕組みして、しなだれかかるシャロン。

「はっはっはっ。サッカーチームできるぐらい、二人で子供作るかー」

 そう言って、カラカラ笑う姉貴分。この世界、同性で子供を作る方法はないけどね。前世だと、なんとか細胞とかいうので可能らしいけど。

 ちなみに、この世界にもサッカーみたいなスポーツがあって、ボクはそれを勝手にサッカーと脳内翻訳している。

「いいっすねー。産みましょ、産みましょ」

 妹分も、笑いながら更にしなだれかかるけど……なんだろう。どこか寂しそうなのは、気のせい?

「ふーん……」

 バーシが、興味深げな声を出す。

「何?」

「ヒミツ」

 ? なんなんだろう、ほんとに。

「そういえば、シャロンがショート派になったのは?」

 一人だけ、髪型のコダワリが謎だったので、訊いてみる。

「バーシと同じ理由っす。やっぱ、楽っすから。でも、姉さんとおそろいにしたら、ほんとの姉妹みたいでいいっすかねー?」

 流し目をしながら、くりくりと毛先をいじりつつ言う。なんか、妙に色っぽいな。

「髪型姉妹かー。そしたら、私とアユムも姉妹だねー。私のほうが、少しお姉ちゃんか」

 髪をすくのをやめ、両肩に手を置いてくる。

「それもいいね。でも、それじゃ、ハーちゃんが姉妹じゃなくなっちゃうな」

 ハーちゃんは、短めのサイドテールだ。

「ふふ、冗談ですよー」

 腕を、首に絡めてくる。

 ボクとバーシが、こうして気楽にスキンシップできるのも、女の子同士だからだよね。

 もし、ボクが男に生まれていたら、バーシとはどんな関係になっていたんだろう。

 今更、考えても仕方ないことだよね。予鈴が鳴り響き、三人が各自の机に帰ると、ボクも勉強道具を、机から取り出すのでした。
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