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第十八話 九月十四日(水) ボランティア部、始動!

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「ごめんなさいね。ここしか取れなくて」

 放課後、もらいたてホヤホヤの部室で、ネコザキ先生が恐縮する。

 部室といっても、小狭い用具室。まあ、ボクら五人ならそんなに狭苦しいってほどでもないかな。だいたいボクらは、部の性質上、校外活動が多くなるし。

「いえいえ。ありがとうございます。ところで、ここの用具はボクらが使っても?」

 モップを手に、尋ねてみる。

「それが、ダメなのよ。これはこれで、学校で使うからって」

 肩をすくめる先生。

「やっぱ、持ってきて良かったな!」

 ビニール袋から、雑巾を取り出すクク。

「だね!」

 バーシはバケツ。

「これ、かさばったっすー」

 シャロンは、ほうきとちりとり。

「あら、準備がいいわねえ」

 目を丸くする、ネコザキ先生。

「昨日、校長先生とばったり会って、部費とかのこと、訊いてみたんです。そしたら、まだ先になるって。なんで、持参しました」

 「なるほど」と、うなずく彼女。

「じゃあ先生。目的地に行きましょうか」

「ああ、もうボランティア先決めてるのね? そういうことは、早く言ってくれないと」

「すみません。今後、気をつけます」

 一同お辞儀。

「とりあえず、バスで行くようなところなんで、バスに乗りましょう」

「わかりました。行き先はどこですか?」

 先生のしっぽが、ぴこぴこ動く。先生なのに、かわいいなって思ってしまったり。

「セント・ミマモル教会です」

「あら? あそこって……」

「はい。廃教会です」

 再び、目を丸くする先生。

「そんなとこ掃除して、どうするの?」

「そんなところだから、なんです。どうしても、ダメですか?」

「いえ。街の美化にはなりますから、構いませんけど……。わかりました。行き先を職員室に残してくるので、みなさんは準備を進めててください」

 「はーい」と、先生が出ていったのを確認して、ジャージに着替えるのでした。


 ◆ ◆ ◆


 教会までは、バスで三十分ほど。地味に遠い。まあ、バスだから回り道もするからね。

「そういえば、先生ってお父さんがヤマトの方ですよね?」

「ええ」

「じゃあ、お豆腐を手に入れる方法、ご存じないですか?」

 ダメ元で訊いてみる。

「入手方法なら、あるわよ。家の近くにヤマト人街があってね。いつも飲んでるお茶も、そこで手に入れてるの。あまり、規模は大きくないんだけどね。お豆腐もよく買ってるわよ」

「おお~!」

 多分、ボクの瞳はめっちゃ輝いてる。

「お醤油なんかも?」

「もちろん。というか、トマルナーさん、やけにヤマトの食材詳しいわね」

「へへー。それには理由があってですね……」

 先生に、前世のことを話して聞かせると、半信半疑というか、ヤマトの文化に詳しすぎるので、頭から疑えないといった様子。

「転生ねえ……」

 理科教師のネコザキ先生、首を傾げつつうなずくという、何ともいえないポーズを取っていました。


 ◆ ◆ ◆


 到着~! 昼間見ると、十数年の汚れがあちこちに出てるけど、夜ほどの不気味さはないね。

「アイちゃーん。こんにちは~」

 そう言いながら入ると、「アイちゃん?」と、先生が不思議そうな声を出す。

「アイちゃん、約束通り、会いに来たぜ! 今日は、ここをきれいにすっかんな!」

 ククが腕まくりすると、アイちゃんが現れ、「ありがとうございます」と微笑む。ネコザキ先生、絶句。

「え、ええ……幽霊……? ウソでしょ……?」

 理科教師には信じがたい現象が起きてしまい、大層ショックを受けてるようです。

「アイちゃん。ここって水出る?」

「はい。手押しポンプのが、裏庭に」

「せんせー」

 ククが、呼びかけるも、茫然自失。

「せんせ!!」

 再度強く呼びかけると、こっちの世界に帰ってきたようです。

「あ、うん。何、チェンバレンさん?」

「とりあえず、先生の指示で動くんで、指示ください」

「そうね……とりあえず、掃き掃除かな。窓を開けて、ホコリを掃いちゃいましょう」

 「りょーかーい!」と、四方に散る一同。先生も、現実・・に少し対応してきたようだ。


 ◆ ◆ ◆


「はーい、そこまでー! 学校に戻りますよー」

 ピカピカとはいえないけれど、見違えるほどにはきれいになった。

「ふいー、疲れたー。帰ったら、さっそく寝たいっすー」

 シャロンが、腰をぐいーんと伸ばす。

「みなさん、お疲れ様でした」

 ボクらを労う、先生。

「すごい……。こんなにきれいに……」

 アイちゃん、感動で目がうるうるしてる。

「明日は、もーっときれいにすっかんな!」

 サムズアップで応えるククに、「ありがとうございます!」と抱きつくアイちゃん。幽霊だから、通り抜けちゃうけど。

「アイさん、ではまた明日」

 先生もすっかり順応し、ペコリとお辞儀。

 ボクらもお辞儀し、別れを告げるのでした。

 バス待ち中、十四年前の悲劇と、アイちゃんについて、先生に詳しく話す。

 するとネコザキ先生、「可哀想、可哀想……」と、ぐすぐす泣き出してしまいました。意外に涙もろいんですね。

「みなさんは、善い行いをしていますね。先生、感動しました」

 照れる一同。

「先生にだけ話しましたけど、アイちゃんのことは、ボクらだけの秘密にしてくださいね」

「わかりました」

 そうこうしてると、向こうからバスが。ゆらり揺られて学校に着き、本日は解散と相成りました。
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