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第十六話 九月十二日(月) ツンツンハーちゃん

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「おねーちゃん、ちょっとキモいんだけど」

 対面で、眉をしかめるハーちゃん。

 我が妹・ハーちゃんは、ごはんを食べるのが遅い。なので、先に食べ終わったボクは、にまにまと、かわいいハーちゃんが、ごはんを食べる姿を眺めていたのです。

「お気になさらず~。かわいいハーちゃんを、見てるだけだから」

「それが、キモいんだってば」

 ハーちゃんは、ちょっと反抗期。ボクには特に訪れなかったものだけど、これがもう、かわいくてかわいくて。無理して大人ぶってるのがエモ!

 ボクに何を言っても無駄と悟ったのか、両手に持ったトーストを、黙々とかじります。うーん、その姿もハムスターみたいでかわいい!

 やっとこ、ごちそうさました後は、歯を磨きに行きます。ボクもまだだったので、同行~。

「ちょっとー、ついてこないでよー」

「だって、ボクも歯磨きまだだもん」

 諦めたように、歯を磨く妹。ふふ、かわいい~。ツレないところがまた、いいんだよね~。

「終わったから、好きなだけ磨いて」

「はいはーい」

 こうして、朝の平和なひとときが過ぎていくのでした。


 ◆ ◆ ◆


「それにしても、ハーちゃんと道が別々になっちゃったのは、寂しいなー」

 バーシと、ぽてぽて通学路を歩いていると、思わず大きなため息。幸せが逃げちゃうな。

 小学生の頃は、三人で一緒に通ったものだけど。

「どしたの。一週間目で、ホームシックならぬ妹シック?」

「そうかも。かわいいハーちゃんと、一緒に歩きたい~!」

 腕をぶんぶん振る。

「私も、あんな時期があったからわかるけど、ハーちゃんも難しいお年頃でしょ? そっとしといてあげなよ」

「バーシにも反抗期ってあったの?」

「ありましたよー。すぐ治っちゃったけどね」

 へー。

「ハーちゃんの場合、いつまで続くのかなあ?」

「さー? 人それぞれとしか言いようがないねー。私の場合、かなり珍しい早さで治ったみたいよ?」

 ほむ。今の、ツンツンしてるハーちゃんもかわいいけど、やっぱり、「おねーちゃん、おねーちゃん」ってベタベタしてたころが恋しいな。

 「ふう」と、もう一度大きなため息。ああ、幸せが逃げていく……。


 ◆ ◆ ◆


「反抗期?」

 お昼休みに、せっかくだから凸凹コンビにも話を振ってみる。

「あたしは……親があんまり口出ししてこねーから、経験ねーな。せいぜい、部屋に入ってこないでくれって言ったぐらいで。で、実際入ってこないから、我が城でくつろいでるよ」

「うちは逆に、反抗期まっ盛りかもっすね」

 シャロンの意外な言葉に、バーシと一緒に変な声を出す。

「うち、自分で言うのも何だけど、フリーダムに振る舞ってるじゃないっすか。けっこー、両親ゲンカクなもんで、その反動かもしれないっす」

 「へー」と、ボクとバーシ。お気楽極楽に見えて、そんな悩みが。

「あー。確かに、あたしもおじさんとおばさん、ちょっとニガテかも。どっちかがいるとき、シャロンち遊びに行くと、なんか空気が窮屈なんだよね」

 ククが、肩をすくめる。

「じゃあ、シャロンに訊きたいんだけど、ハーちゃんにはどう接したらいいかな?」

「猫と同じっすね。構ってほしくないときは、構わない。これがうまくやってくコツっす」

 むう。

「ハーちゃん断ちかあ……」

 目をつぶり、腕を組んで悩む。自分で言うのも何だけど、このシスコンお姉ちゃんにできるかなあ?

 ま、やるだけやってみましょ。


 ◆ ◆ ◆


 夕食。先に食べ終わったボクは、先にお皿を下げ、歯を磨きに行く。

 いつもと違うボクのムーブに、ハーちゃんが拍子抜けしたような顔をするけど、「ごゆっくり」とだけ言い残して、立ち去る。

 正直つらい。でも、これも試練!

 この寂しさは、部屋で家族のアルバムを見て紛らわせる。

 ふふ、ちっちゃいハーちゃんかわいい~。手を繋いでるボクたち。最後にハーちゃんの手握ったの、いつだっけ。……ああもう! 寂しくなるから、考えない!

 とりあえず、宿題しよ。こうしてても、宿題は提出を待ってくれないのです。

 いつまで続ければいいのかな、こんな生活。

 また、ため息。ああ、幸せがどんどん逃げていく……。
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