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第十五話 九月十一日(日) ナイススタイリスト、バーシムレ先生!

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 さてさて。歯も磨き終わったし、お隣さんに行きまっしょー。

「こんにちは~」

「こんにちは。いらっしゃい、アユムちゃん」

 おばさんにご挨拶。

 三人は……と。いたいた。

「ククは、今のラフスタイル似合ってるよ。うちには置いてないけど、ミリタリーっぽいのとかも似合うと思うな」

「おお。そういう、かっこいい系の、好きだぜ」

「やあ、やってますねえ、皆さん」

 輪にひょっこり入ると、みんなから「待ってたよー」と嬉しい言葉をもらう。

「クク、確かにミリタリー似合いそうだよね」

「うんうん。良ければ、取り寄せようか?」

「そうだなー。かーちゃんと相談してみる」

 まあ、服もボクら中学生には、高い買い物だからね。

「うちは、どんなのが合うっすかね?」

「シャロンのお母さんは、ああいうフェミニンなのばかり選ぶの?」

「っす」

 「うーん」と唸り、考え込むバーシ。

「フェミニン、似合ってないわけじゃないけど、シャロンってもっと、自由人なイメージあるのよね。とりあえず、カジュアルから試してみようか」

 ハンガーをかき分け、品定めしていく我らが先生。

「とりあえず、これどう?」

 黒い文字がプリントされた黄の長袖に、薄青のショートパンツと黒のニーソックスを当てる。

「どう? 二人の意見も聞きたい」

「うーん。悪くないと思うよ?」

 悪くはない。でも、なーんか一味足りない。

「あたし的には、ちょっとシャロンのイメージとは違う気もするな。フェミニンを見慣れすぎたせいかもしんねーけど」

「っすね。選んでもらって悪いっすけど、なんか違う感がするっす」

 再び考え込む、バーシ先生。

「いっそ、これで攻めてみる?」

 先生が選んだのは、パンクルック。チョーカーの棘が、実にシゲキ的!

「ぶははは! いや、これはこれで、ぶっ飛び過ぎだって!」

 大爆笑する凸凹コンビ。ボクも、つられて笑いそうだよ。

「あー、すまないっす。選んでもらったのに」

「大丈夫。私も、半分冗談で当ててみただけだから」

「ていうか、この店、こんな派手なのもあったんだね」

 バーシも冗談だったとわかり、我慢をやめて、くすくす笑う。

「まーね。お母さんが、気まぐれで仕入れちゃったのよ」

 というわけで、次の品定めにいくバーシ先生だけれども。

「あ、そうだ。シャロン猫飼ってたよね」

 と言って、黒い猫のシルエットが描かれた、左肩の出るピンクの長袖に、黒のタンクトップ、薄青のアンクルスキニーデニムを合わせる。

「ボトムに、ケミカルとダメージ入れたら、かなりイケてると思うんだけど、どうかな?」

「へー。その組み合わせ、面白いっすねえ」

「面白いね。ダメージってあたりに、シャロンの自由さが出てるわ」

「ボクも、それいいと思う」

 満場一致で好感触!

「じゃあ、これも姉さんと同じく、ママに相談っすね」

 シャロンのお母さんって、ちょっとおカタそうな印象だけど、娘の好みを尊重してくれるかな?

「さーて、ラストは、アユムちゃんですよ~」

 手をわきわきさせて、にじり寄ってくるバーシ。

「何、その構えー。普通にやってー」

「ほいほい。で、例によって、ユニセクシャル一点張り?」

「だね」

 どうもガーリーなのは、ボクの脳にあたっちゃった、「男の子パッチ」が拒むんだよね。かといって、ククみたいなのは似合わないと思うし。

 というわけで、バーシ先生が取り出したのは、パーカー付きの赤い長袖に、黄の半袖。ボトムは、薄青の膝丈ハーフパンツ。

「おお、さすが付き合いが長いと、好みを当てるのも一発だね!」

「ふふん。ダテにアユムちゃんの親友、十年以上やってませんもの」

 ふんぞり返り、エッヘンと鼻の下をこする先生。調子乗りすぎ。内心苦笑する。

「じゃあ、アユムのとシャロンのは取り置いておくから、買えるようなら買いに来て。ダメそうなら連絡ちょうだい。ククは……陸海空軍だったら、どれがいい?」

「やっぱ空軍かな? 戦闘機乗りってカッケーし」

了解ラジャー! じゃあ、仕入れたら電話なり、学校なりで話すからね」

 というわけで、ボクらの新しい服をバーシムレ先生が見事に見立て、あとは我が家で雑談。

 あ、そうそう。ボクの服は、さっそく買ってもらえることになりました。ありがとー、お父さん、お母さん!
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