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第九話 九月六日(火) 幽霊少女・アイ
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「わたしは、アイ・ロマネストっていいます。いわゆる、地縛霊……っていうんでしょうか。昇天することもできず、ここに縛られ続けています」
なんというか……いきなり重い自己紹介をされてしまった。ボクたちも、それぞれ自己紹介をしていく。さすがのバーシも、興奮より、厳粛さのほうが勝ったようだ。
「新しい司教様が、鎮魂の儀式を執り行っても昇天できないのは、わたしが悪い子だからですよね……」
手で顔を覆い、さめざめと泣き出してしまった。
今気づいたのだけど、この子、見た目の割に、むしろボクたちよりしっかりした喋り方だ。
バーシの話によると、ここが焼け落ちたのは、十数年前だっけ。そのときの被害者だとすると、こうした喋り方は、永い幽霊生活で身についたのかも。
そういうことなら、ボクたちより、よっぽどお姉さんなのか。
「えーと、聞きにくいことですけど、昔の火事で死んでしまったんですよね?」
「はい。あれから、何年経ったのでしょうか……」
顔を上げ、天井を仰ぎ見る彼女。
「バーシ、何年前?」
「んーと……テレビの内容だと、十四年? だったかなあ?」
「じゃあ、ボクたちよりずっと年上ですね! アイさんって呼んだほうがいいですか?」
「いいえ、アイちゃんとかでいいですよ。大人になった自覚なんて、全然ないですから」
ほみゅ。
「じゃあ、アイちゃん。こんな喋り方でいいかな?」
「はい」
それじゃ、話を先に進めよう。
「こういうこと、訊いていいのかわかんないんだけど、アイちゃんはなにか強い未練を残しているの?」
「ユーフラジーが、どこを探しても見当たらないんです……わたし、あの子とずっと一緒だったから、あの子がいないと……」
「ユーフラジー」という新ワードに、首を傾げるボクら。
「お人形なんです。片時も離さなくて、シスター・ノナに作っていただいた、大事なお友達なのに……。わたし、悪い子だ……」
再度、顔を見合わせる。どう考えても、火事で焼けてしまったに違いない。それを探し続けてたら、そりゃ、いつまでも昇天できないわけで。
「えーっとね、言いにくいんだけど、ユーフラジーは火事で焼け……」
「違うもん! ユーフラジーは、わたしを置いてったりしないもん!」
それまで大人っぽい話し方だった彼女が、突然、見た目にふさわしい、子供っぽい癇癪を起こす。そうだよね。十四年さまよってるのに、こんな言葉じゃ届かないか。
「ねえ、みんな。一つ提案があるんだけど」
バーシが話を切り出したので、注目する。
「せめてみんなで、アイちゃんと友達にならない? なんか、このままじゃ可哀想だよ」
ごもっとも。さっき、アハアハ笑いながら、シャッター切ってた人の言葉とは思えないね。
「ボクはOKだよ。二人は?」
「悪い幽霊じゃないみたいだし、あたしもいいよ。でも、脅かすのはナシな」
「うちも、モチロンおっけーっす~」
すると、アイちゃんの顔が、ぱあっと明るくなる。
「いいんですか!?」
「うん!」と、頷くボクたち。
「ありがとうございます……!」
今度は、嬉し泣き。触れないけど、形だけでも頭を撫でてあげる。
「そういえば、なんでテレビのロケのときは姿現さなかったの?」
バーシが、素朴な疑問を投げる。そういえば、あの番組では、怪現象の「か」の字も起きなくて、拍子抜けしたっけ。
「わたし、霊感の強い人が近くにいないと、現世に対して何も出来ないんです」
三人で、バーシを見る。
「私!? いやー、オカルト好きですからね! そりゃーもう」
「いえ、バーシムレさんではなく、ククさんです」
変なポーズを取って、「あたしぃ!?」と絶叫する当人。反対に、ガッカリする我が幼馴染み。
「はい。ここまで波長が合う人は、初めてです!」
「ええー……」と、あからさまに嫌そうなクク。
「嫌、ですよね。幽霊と波長ピッタリとか言われても……」
しゅんとするアイちゃん。
「あ、違う! 嫌じゃないよ! ホント! うんうん!」
慌てて取り繕うけど、無理してるのが、わかってしまうのがねー。
「ボク、ククとは昨日知り合ったばかりだけど、それだけでも幽霊とかニガテなのわかっちゃうぐらいだからね。許してあげて」
同時に肩を落とす、波長ピッタリコンビ。
「でも、友達になるのはホンキだから! これは、信じてくれよな!」
ビッとサムズアップで宣言する。
「ありがとうございます」
深々とお辞儀するアイちゃん。
「でも、あれっすね。夜しか会えないとなると、ちと問題あるっすねえ」
確かに。この後、帰ったらみんな叱られることでしょう。
「いえ、ククさんほど波長の合う方がいれば、昼間でも出てこれるはずです」
「おお~。なら、問題ないっすねー」
昇天こそさせてあげられなかったけど、一件落着、かな?
それにしても、幽霊のお友達が出来てしまいました。まさかの展開だね!
アイちゃんに別れを告げ、帰りのバスを待つことに。
「これは、なかったことにしておいたほうがいいね!」
バーシが、フィルムをカメラから取り出し、ビーッと広げて、懐中電灯の光でダメにする。フィルムは、光が当たると、使い物にならなくなってしまう。
帰宅すると、お母さんからこっぴどく叱られ、そして抱きしめられる。こうして、今日はもう、ゆっくり眠るのでした。
なんというか……いきなり重い自己紹介をされてしまった。ボクたちも、それぞれ自己紹介をしていく。さすがのバーシも、興奮より、厳粛さのほうが勝ったようだ。
「新しい司教様が、鎮魂の儀式を執り行っても昇天できないのは、わたしが悪い子だからですよね……」
手で顔を覆い、さめざめと泣き出してしまった。
今気づいたのだけど、この子、見た目の割に、むしろボクたちよりしっかりした喋り方だ。
バーシの話によると、ここが焼け落ちたのは、十数年前だっけ。そのときの被害者だとすると、こうした喋り方は、永い幽霊生活で身についたのかも。
そういうことなら、ボクたちより、よっぽどお姉さんなのか。
「えーと、聞きにくいことですけど、昔の火事で死んでしまったんですよね?」
「はい。あれから、何年経ったのでしょうか……」
顔を上げ、天井を仰ぎ見る彼女。
「バーシ、何年前?」
「んーと……テレビの内容だと、十四年? だったかなあ?」
「じゃあ、ボクたちよりずっと年上ですね! アイさんって呼んだほうがいいですか?」
「いいえ、アイちゃんとかでいいですよ。大人になった自覚なんて、全然ないですから」
ほみゅ。
「じゃあ、アイちゃん。こんな喋り方でいいかな?」
「はい」
それじゃ、話を先に進めよう。
「こういうこと、訊いていいのかわかんないんだけど、アイちゃんはなにか強い未練を残しているの?」
「ユーフラジーが、どこを探しても見当たらないんです……わたし、あの子とずっと一緒だったから、あの子がいないと……」
「ユーフラジー」という新ワードに、首を傾げるボクら。
「お人形なんです。片時も離さなくて、シスター・ノナに作っていただいた、大事なお友達なのに……。わたし、悪い子だ……」
再度、顔を見合わせる。どう考えても、火事で焼けてしまったに違いない。それを探し続けてたら、そりゃ、いつまでも昇天できないわけで。
「えーっとね、言いにくいんだけど、ユーフラジーは火事で焼け……」
「違うもん! ユーフラジーは、わたしを置いてったりしないもん!」
それまで大人っぽい話し方だった彼女が、突然、見た目にふさわしい、子供っぽい癇癪を起こす。そうだよね。十四年さまよってるのに、こんな言葉じゃ届かないか。
「ねえ、みんな。一つ提案があるんだけど」
バーシが話を切り出したので、注目する。
「せめてみんなで、アイちゃんと友達にならない? なんか、このままじゃ可哀想だよ」
ごもっとも。さっき、アハアハ笑いながら、シャッター切ってた人の言葉とは思えないね。
「ボクはOKだよ。二人は?」
「悪い幽霊じゃないみたいだし、あたしもいいよ。でも、脅かすのはナシな」
「うちも、モチロンおっけーっす~」
すると、アイちゃんの顔が、ぱあっと明るくなる。
「いいんですか!?」
「うん!」と、頷くボクたち。
「ありがとうございます……!」
今度は、嬉し泣き。触れないけど、形だけでも頭を撫でてあげる。
「そういえば、なんでテレビのロケのときは姿現さなかったの?」
バーシが、素朴な疑問を投げる。そういえば、あの番組では、怪現象の「か」の字も起きなくて、拍子抜けしたっけ。
「わたし、霊感の強い人が近くにいないと、現世に対して何も出来ないんです」
三人で、バーシを見る。
「私!? いやー、オカルト好きですからね! そりゃーもう」
「いえ、バーシムレさんではなく、ククさんです」
変なポーズを取って、「あたしぃ!?」と絶叫する当人。反対に、ガッカリする我が幼馴染み。
「はい。ここまで波長が合う人は、初めてです!」
「ええー……」と、あからさまに嫌そうなクク。
「嫌、ですよね。幽霊と波長ピッタリとか言われても……」
しゅんとするアイちゃん。
「あ、違う! 嫌じゃないよ! ホント! うんうん!」
慌てて取り繕うけど、無理してるのが、わかってしまうのがねー。
「ボク、ククとは昨日知り合ったばかりだけど、それだけでも幽霊とかニガテなのわかっちゃうぐらいだからね。許してあげて」
同時に肩を落とす、波長ピッタリコンビ。
「でも、友達になるのはホンキだから! これは、信じてくれよな!」
ビッとサムズアップで宣言する。
「ありがとうございます」
深々とお辞儀するアイちゃん。
「でも、あれっすね。夜しか会えないとなると、ちと問題あるっすねえ」
確かに。この後、帰ったらみんな叱られることでしょう。
「いえ、ククさんほど波長の合う方がいれば、昼間でも出てこれるはずです」
「おお~。なら、問題ないっすねー」
昇天こそさせてあげられなかったけど、一件落着、かな?
それにしても、幽霊のお友達が出来てしまいました。まさかの展開だね!
アイちゃんに別れを告げ、帰りのバスを待つことに。
「これは、なかったことにしておいたほうがいいね!」
バーシが、フィルムをカメラから取り出し、ビーッと広げて、懐中電灯の光でダメにする。フィルムは、光が当たると、使い物にならなくなってしまう。
帰宅すると、お母さんからこっぴどく叱られ、そして抱きしめられる。こうして、今日はもう、ゆっくり眠るのでした。
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